モビルスーツ、ストライクセイバーに乗り込んだセナは、オルフェがビームサーベルを持ちながらジンと交戦するのを見つつ、周囲の状況を確認する。
最初に現れたモビルスーツはジンが二機。
一機は現在、オルフェとセナが相手をしており、もう一機はストライクが相手をしている様だった。
「くっ! この! 機体が重い! こんなものか!?」
「大丈夫ですか? オルフェさん」
「あぁ、フェイズシフト装甲もあるし、問題は無いが……僕の記憶よりも、ジンの動きが早い! どうなっているんだ!」
「……」
『僕の記憶』という言葉に引っかかりを感じつつも、セナは冷静にオルフェの戦闘をサポートし、機体を柔軟に動かせる様に機体データを調整してゆく。
どうやらオルフェは並のコーディネーターよりも反応速度が速いようで、反応が悪いストライクセイバーに苛立ちを感じている様だった。
そして、動きを調整してゆくと、だんだんオルフェの動きに機体が追いついてきた様で、オルフェはビームサーベルでジンの左腕を斬り落とす事に成功した。
「っ! よし! このまま!」
大粒の汗を流しながら、オルフェは距離を取ろうとするジンに接近し、斜めにビームサーベルを振り下ろした。
ジンはその攻撃を見て、急加速させると両足を斬られて数秒後に爆散する。
セナは爆破したジンから、パイロットが無事脱出した事に安堵しながら、もう一つの戦場。
そして、こちらをジッと見つめる上空のZAFT機をレーダーでとらえた。
「お疲れ様です」
「あ、あぁ……! このくらいなんて事は、ない!」
せき込みながら強がるオルフェに、セナはクスっと笑ってから、動き始めた連合のもう一機『ストライク』の状況を確認した。
ストライクは最初のジンを容易く撃破すると、次に現れたオレンジ色のジンに対して戦闘を仕掛け、いくつかの攻防を重ねた後に、片腕を破壊し、撤退させたようだ。
そして、上空でセナ達をジッと観察していたモビルスーツも、そのタイミングに合わせてヘリオポリスの外へと脱出してゆく。
「どうやら、戦いは終わった様です」
「そう、か……! それは、良かった、な……しかし、酷い物だな」
「そうですね。本当に」
セナは 周囲をレーダーで確認しながら、深くため息を吐いた。
多くの人々はシェルターに逃げる事が出来ただろうが、逃げ遅れた人もいたはずだ。
どれほどの被害が出たか。
考えるだけで、申し訳ない気持ちが溢れて来てしまう。
地球連合と手を組んだのは、間違いだったのかもしれない……と。
「しかし、これからどうする? 撤退したと言っても、ZAFTが見逃してくれるという事は無いのだろう?」
「そうですね。まずはアークエンジェルと合流する方が良いでしょう。フレイさんも居ますし。それに、お姉ちゃんの安否も気になります」
「お姉ちゃん? セナには姉が居るのか」
「はい。大切なお姉ちゃんです。きっと、この状況に心を痛めていると思います」
「そうか……ではまずはセナの姉を探そう。アークエンジェルと合流するのはそれからでも良いだろう」
「……ありがとうございます」
セナに柔らかく微笑んで、そんな提案をしてくるオルフェにセナは目を伏せながら礼を言い、歩き出そうとしたのだが……その前にレーダーが異常な熱源を感知した。
「っ! 高エネルギー反応!」
「攻撃か!?」
「いえ、これは……! ローエングリン! アークエンジェルです!」
セナ達が立っていた場所から少し離れた場所で、赤い閃光が地面から外へ向けて放たれ、白亜の戦艦が山の奥から現れた。
ZAFTの攻撃により船体が完全に埋没していたが、アークエンジェル最大の攻撃手段である『陽電子破城砲:ローエングリン』を使い脱出してきたのだろう。
セナは急いでアークエンジェルに通信を繋げる。
「アークエンジェル! 聞こえますか!? こちら、ストライクセイバー! 応答を願います!」
『……あぁ! 聞こえます! ご無事でしたか! セナ様! 本当に良かった!』
『だから言ったじゃない! セナが簡単に死ぬはずないって!』
『耳元で騒ぐな! フレイ・アルスター!』
「フレイさんもご無事だったんですね! 良かった……!」
『まぁね! 私がこの程度で死ぬわけないでしょ! 散々、ワシントンでテロリスト相手にカーチェイスやったんだから!』
「ふふ。そうですね」
セナは懐かしい話を聞いたと喜びながら、安堵の息を漏らしナタルへと状況を伝えた。
『セナ様。地上の状態は!?』
「はい。モルゲンレーテの工場地区は壊滅状態です。シェルターに入る事が出来た人以外の生存は絶望的でしょう」
『では……Gは』
「おそらくZAFTに奪われたか、破壊されました。ヘリオポリス内部に残っているのは私の乗っているストライクセイバーと、ストライクのみですが……ストライクのパイロットは不明です。ジンと交戦していた所から、味方であると思われますが……」
『分かりました。ひとまず補給と整備の必要もありますので、アークエンジェルを下ろします。セナ様も合流を』
「はい」
セナは通信を切り、ふぅと一息ついてから、こちらの様子を伺っていたオルフェに話しかけた。
「申し訳ございません。ヘリオポリスの警報レベルが9に上がってしまった為、オルフェさんに避難してもらう事が難しくなってしまいました」
「……まぁ、この状態では、そうだろうな。しかし、大丈夫だ。セナのお姉さんを見つけなきゃいけないしな。付き合うよ」
「ありがとうございます……本当に」
「気にしなくても良い。僕も、助かるから」
オルフェはモニターでアークエンジェルが降りるのを確認してから、開かれたカタパルトへ向かい、ストライクセイバーを立たせた状態で着地させた。
そして、セナを抱えながら、器用に降下用ロープでアークエンジェルの格納庫へと降りる。
ストライクセイバーの大きさは、ストライクと同じ17.72mあり、コックピットが腹部にあるとはいえ、その高さは非常に高い。
飛び降りれば怪我をしてしまうため、降下用のローブを下ろしてゆっくりと地面に向かったのだが……。
格納庫に集まっていた人々の視線がこれでもか、というくらい向けられており、オルフェはどことなく居心地の悪さを感じてしまったのである。
「セナ様!」
「ナタルさん!」
「先ほどストライクとも連絡が取れまして、パイロットはキラ様でした。そして、今無事であったラミアス大尉と共にこちらへ向かっております」
「……それは良かったです」
「それで……そちらの方は」
ナタルはセナの横に立つ少年、オルフェを見据えながら、やや厳しい視線と言葉で問う。
周囲に居た地球連合軍の兵士たちも同様に、鋭い目線をオルフェに向けていた。
「オルフェさんという民間人の方です。危機的状況の中、色々と助けてもらいました」
「なるほど」
ナタルがその正体を探る様に上から下までオルフェという少年を見ている時、ナタルの後ろから冷静な男性の声が響いた。
「なるほど。君はコーディネーターか」
「っ!」
「やはり……!」
その男、ムウ・ラ・フラガは何でもない話をする様に少年の正体を看破し、それを白日の下にさらす。
そして、その言葉を耳にした瞬間、周囲にいた地球連合軍の兵士たちが持っている自動小銃をオルフェに向けた。
しかし、そんな兵士とオルフェの間にセナが立ち、腕を横に広げた。
「だとして。それが何か?」
「別に。大した意味はないさ。ただ、後々トラブルになるよりは、今ここでハッキリさせた方が良いかなって思っただけでさ」
「ムウさん……!」
「あーっと! わりぃわりぃ! 嬢ちゃんのお客さんか! すまなかったな。場を荒立てちまってよ」
「本当に、困ります」
セナはムウに仕方がないなぁとでもいう様に、はぁとため息を吐いてから、未だ銃口を向けている地球連合軍の兵士たちを静かな瞳で見据えた。
「いつまで銃を向けているのでしょうか? 彼は私を助けてくれたオーブ国民であり、私達が守らねばならぬ人。その人に銃を向けるという意味が……理解出来ているんですよね?」
「っ!」
「お前たち。銃を下げろ。オーブと敵対するつもりか」
「しかし!」
「状況を冷静に考えろ。現在、我が方にはモビルスーツが2機しかなく、セナ様方しか動かすことが出来んのだぞ。まさかモビルスーツなしでZAFTから逃げられると思っているワケじゃないだろう?」
「……っ!」
ナタルの言葉で兵士たちは渋々といった様子で銃を下ろした。
その様子に、セナはもはやコーディネーターというだけで敵対される様な状況になってしまったのかと、心の中でため息を吐く。
そして、カタパルトの上で言い争いをしている間に、ストライクもカタパルトに着艦し、中からキラが飛び出してきた。
「セナ! セナー!」
「お姉ちゃん!」
「無事でよかった! 本当に! 怪我はない!?」
「はい。オルフェさんが助けてくれましたから」
「オルフェさん?」
「はい。この方です」
オルフェは先ほど向けられた悪意を思い出し、少しだけ身構えたが、キラはそんな事気にもせず、正面からオルフェに抱き着いて感謝を告げる。
「ありがとう! セナの事、助けてくれて!」
「なっ!? なぁー!?」
「何でもお礼するからね! 本国に戻ったら、オーブ行政府に行って! いっぱいお礼しちゃうから!」
キラの勢いに押され、オルフェは倒れそうになったが、何とか体を維持して、キラを押し返す。
はじめて感じた甘い匂いや、柔らかい感触に意識がどこかへ飛び出しそうになっていたが、呼吸を落ち着けて、冷静に話を始めた。
「ん、んん。初めまして。オルフェです。別に大した事はしてません。セナさんが困っていたので、少し、手を貸しただけです」
「それでも本当にありがたいよ。何かすぐにでも欲しいお礼があれば、用意するけど。とは言っても今はお金くらいしか出ないけどさ」
「なら……」
「うん?」
オルフェはこれを良いチャンスと考えて、ヘリオポリスに来た目的を果たす事にした。
この混乱している状況では良い答えは得られないかもしれない。
しかし、それでも。
周囲の様子を見る限り、かなり偉い地位にいるらしいセナの姉なら、何か知っているかもしれないと思ったのだ。
「キラ・ヤマトという人を知っていますか? その人について教えて欲しいです」
「え?」
「このヘリオポリスに居るのは知っているんです。工業カレッジに通う学生だと……それで!」
ストライクという名前のモビルスーツに乗り、遥かな未来に、自由という名の剣で、自分を貫いた。
という言葉を飲み込んで、オルフェは真剣な眼差しでキラに問う。
しかし、その問いにキラはすっかり困ってしまった。
それは、そうだろう。
「えと。キラ・ヤマトは、僕だけど、何か用かな?」
「え?」
「うん」
「キラ・ヤマト? 貴女が?」
「うん。そう。ヘリオポリスで使ってた偽名。一応住民登録は全部確認してるから、同姓同名もいないよ。ヘリオポリスにいるキラ・ヤマトは僕だけ」
「な……?」
オルフェはあまりにも大きすぎる衝撃に視線を激しく動かしながらキラを見る。
確かに、かつて見た姿と似ていると言えば、似ている。
しかし、女性らしい見た目も、先ほど受けた柔らかい体の感覚も、違う。明らかに。全てが、違う!
「ま、まさか……! そんな!」
「えと、そんなに驚かれちゃうと困っちゃうけどさ。キラ・ヤマトって名前は偽名なんだよね。本当の名前はキラ・ユラ・アスハっていって……って、オルフェ君!?」
オルフェは理解出来ない世界の真実に、動揺し、戦闘の疲れもあってか体をふらつかせた。
咄嗟にキラがオルフェを支え、オルフェは頭に酷く柔らかい感触を感じながら、激しい混乱の中で意識を失ってしまうのだった。