意識を失ってしまったオルフェを抱きとめながら、キラはフラフラと移動し、連合軍の兵士が急いで持ってきた長椅子に座った。
そして、オルフェを椅子の上に寝かせると、頭が痛くない様にと膝枕をして、微笑む。
その姿に、地球連合軍の中でもブルーコスモスとは違った意味で過激な者たちは、オルフェへの視線を鋭くした。
殺気とでも言うのだろうか。
独特の雰囲気を纏った連合軍兵士たちに、ナタルはハァ……とため息を吐きながら、天を仰いだ。
しかし、このまま放置という訳にもいかない所が、ナタルのツライ所である。
だが、そんな彼女の悩みを解決する人物が、何人かの整備員たちと共に現れた。
「じゃ、搬入作業はよろしくね!」
地面に降りたアークエンジェルのカタパルトから搬入用の通路を下ろし、トラックを中に入れたマリューは助手席から降りると、ナタル達を見つけて駆け寄って来た。
「ラミアス大尉!」
「バジルール少尉!」
「御無事で何よりでありました!」
「あなた達こそ、よくアークエンジェルを……おかげで助かったわ。これでヘリオポリスを脱出する為の手段も考えられそう」
マリューはナタルと手を握り合いながら笑う。
互いにG兵器と戦艦を守る為に動いていた二人は、ひとまずの戦果に笑うのだった。
あの襲撃で生き残り、そして、まだ生き残る為の手段は多く残されている。
希望は繋がったのだ。
「あー。話の最中に悪いね。乗艦許可を貰いたいんだがねぇ。この艦の責任者は?」
「貴方は……?」
「地球軍、第7機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉、よろしく」
「あ、はい。第2宙域、第5特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」
「同じく、ナタル・バジルール少尉であります。責任者についてですが、艦長以下、艦の主立った士官は皆、戦死されました。よって今は、ラミアス大尉がその任にあると思いますが」
「そんな……本当に?」
「はい。無事だったのは艦にいた下士官と、十数名のみです」
「艦長が……そんな……」
「やれやれ、なんてこった。あー、ともかく許可をくれよ、ラミアス大尉。俺の乗ってきた船も落とされちまってねー」
「あ……はい、許可致します」
ムウはようやく落ち着いたとでもいう様な顔で頷き、軽く息を吐きながら二機のモビルスーツを順に見上げた。
そして、マリューとナタルへ視線を向ける。
「それで? これからどうする? ZAFTだって大人しく退いてはくれないだろ? 特に、あれはクルーゼ隊だしさ」
「クルーゼ隊、ですか?」
ムウの言葉に、マリューとナタルが頷くのを見て、キラがオルフェの頭を撫でながら、ムウに問う。
「ZAFTのエース部隊さ。世界樹攻防戦で『白き鬼神』なんて呼ばれてた奴が隊を作って、その隊も戦果を上げ続けてる。まぁ、要するにヤバイ連中に目をつけられたって事だな」
「……話し合いは難しいのでしょうか」
「そりゃセナやキラが出て行けば可能性はあるが、どうかな……向こうも中立コロニーだって分かってて戦闘を仕掛けて来てるからな。最悪は証拠隠滅って事で、皆殺しもあり得る」
「そうですか……」
「では、戦いしかないと?」
「あぁ。お前さん達には悪いが。それ以外に俺たちが生き残る手段はない」
ムウがハッキリと告げた言葉に、セナは酷く暗い顔をしながら沈むが、キラは「そうですねぇ」と言いながら軽く息を吐いた。
分かっていた事であるという様に。
「では、何とかするしかないですね」
「なんだ? キラはやる気なのか」
「別に戦争がしたい訳じゃないです。ですが、やらなければ突破出来ないのであれば、やるだけです。そうでしょう?」
「えぇ」
「どちらにせよ。アークエンジェルとストライク、ストライクセイバーはハルバートン准将の元へ運ぶ必要があります。それからどうするかはまた考えましょう。まだ平和への道も。僕たちが生き残る事が出来る道も、残されてはいますから。諦めずに戦いましょう」
「そうね。……じゃあキラちゃんには申し訳ないけれど」
キラの言葉にマリューは伺う様にキラへ視線を向け、キラは今までと何も変わらない柔らかい笑みで頷いた。
「はい。ストライクは僕に任せて下さい。後はムウさんに頑張ってもらいましょう」
「おいおい。期待が重いな?」
「でも、ムウさんはあの『クルーゼ隊』相手に生き残っているんでしょう? なら、出来ますよ」
「ちぇー、ったく。年上はもっと労わるもんだぜ」
「戦争が終わったら何かお礼しますから。それまで頑張ってください」
「へいへい。とびっきりの礼を期待してますよっと」
キラは軽く笑いながらムウに言葉を投げ、ムウもまた周囲の緊張をほぐす様に笑いながら応える。
種類こそ違うが、様々な修羅場をくぐってきた二人だからこそ出来た場の和ませ方であったが、それがある人の怒りに火をつける。
「……あの。先ほどから聞いていれば。失礼ではありませんか? キラ様に」
「え。あ、いや……えと?」
「呼び捨てなど言語道断でしょう。国際問題になったらどう責任を取るおつもりですか? フラガ大尉」
「いや、それは、ほら……キラがそう呼べって言ってたから。セナの嬢ちゃんも……なぁ?」
「はい。私がムウさんにお願いした事なので」
「……しかし! 我々はこれから戦闘に入るのです。規律は正しく保たねば! 我々はこの苦難に立ち向かえません!」
「そ、それはごもっともで……」
「ですので、キラ様には、その身分に相応しい態度を取っていただきたい!」
「えー、えっと?」
困ったキラは、マリューへと視線を流すが、マリューは黙って首を横に振るだけだった。
諦めろという意味だろう。
「えと、私……一応、連合の軍人さんではなく、オーブの人間なんですけど」
「しかし、協力関係にはあります。その上でお立場を考えれば、キラ様は姫君の立場。王族です。この中で誰が最も立場が上か。考えるまでも無いでしょう」
「ハ、ハイ」
キラはナタルに何も言い返す事が出来ず、ひとまずこの場で一番偉いという立場を受け入れた。
だが、それだけだ。
どちらにせよ。戦い方などキラは何も知らないのだ。
「分かりました。そこまで言うのなら。私も皆さんに命令をさせていただきます」
「はい! よろしくお願いいたします」
「えー、では、命令です。これから私の事はキラと気軽に呼んでください。モビルスーツには乗りますが、作戦はよく分からないので、お任せします。ただのお飾りですので。あまり気にせず、しかし、気を抜くことなく、頑張りましょう」
「ハッ!」
「お嬢ちゃんの……あー、いや。キラ様のご命令と、あらば!」
「ありがとね。キラちゃん」
「キラ様!」
キラの放った言葉が納得できず、ナタルは抗議しようとしたが、キラが、自分ではキリっとしている顔を作り、再度言葉を繰り返す。
「命令。ですよ。ナタルさん」
「~~! まったく!」
「えへへ。ごめんなさい。ナタルさん」
「別に謝罪する必要はありませんよ。ナタルさんにはナタルさんの大事な物があるという事はよく分かります。なので、私もしっかりする所はしっかりする必要があると思います」
「……はい」
「では、話がまとまった所で私からもお話が二つあります!」
「はい! セナさん! ご意見をどうぞ!」
何となく落ち着き始めた場で、セナが不意に手を上げた為、キラがセナに手を降りながら話を渡す。
セナは律儀にありがとうございます。とお礼を言ってから口を開いた。
「私もキラお姉ちゃんと同じ様に、セナと呼んでください。とお願いしたい件が一つ」
「はい! 皆さん! 命令ですよ! 命令!」
「ふふ。ありがとうございます。それともう一つ。アークエンジェルの艦長さんはどなたになるのでしょうか。というのをお聞きしたくて」
「あー。そうねー。大事だもんね。艦長さん。何せこれからアークエンジェルは僕らが生活する場所になるワケだし。まぁーその前には脱出やら何やらをしないといけないんだけど」
「はい。なので、艦長さんは決めなくてはいけないのではないかと」
セナは純粋無垢な瞳で連合軍の士官を見つめた。
おそらく艦長になるのなら、三人の内の誰かだろうと思ったからだ。
「わ、私はまだ少尉ですので……ラミアス大尉にお任せします」
「えぇ!? わ、私ぃ!? でも、私、艦長なんてやった事ないんだけど!? ふ、フラガ大尉?」
「わりぃけど。俺はアークエンジェルの事を何も知らんからな。それに、俺はゼロでキラと一緒に戦わなきゃならんし」
「えぇー。えっと、えっと……キラちゃんは」
「僕はストライクに乗るんですよ。マリューさん」
「ぐ、ぐぅー。じゃ、じゃあ! セナちゃん! セナちゃんにお願いできないかしら!? サポートはするし! 何かあったら対処はするから!」
「残念ですが。私はセイバーに乗るので」
「そうそう。って、えぇ!? セイバー!? なんで!?」
「何故。と言われても。先ほどもオルフェさんと一緒に乗りましたし。既に最適化も終わらせています。戦う事は十分に可能です」
「そんな危険な事を……っていうか。セナを助けたってそういう事かぁ……。うーん。お姉ちゃんとしてはセナがセイバーに乗るのは反対なんだけど」
「ですが、戦力が足りません」
「そうだよね。セナはそう言うと思ったよ。それならどっちに居ても結局危険度は変わらない……か。なら、分かった」
キラはうんと頷いてからセナをしっかりと見つめて、言葉を重ねる。
「じゃあ危ない事はしちゃだめだよ?」
「はい」
「もう、本当に駄目だーってなったら僕を呼んで。必ず助けるから。それでもダメだったら投降して」
「分かりました」
「本当は嫌なんだよ? 嫌なんだからね」
「分かってます。無茶はしませんよ」
「ホントにね。頼むよ?」
キラは何度もセナに言葉を重ね。話を終わらせた。
そして、役職の押し付け合いは無事、マリューで終了し。マリューはアークエンジェルの艦長となるのであった。
そんなこんなで全ての話し合いも終わり、キラたちはひとまずオルフェを医務室へ運ぼうとしたのだが……そこで、セナがアッと気づいた事があり声を上げた。
「あの。ナタルさん。フレイさんは……?」
「あぁ。彼女なら、ヘリオポリスに降りてすぐに物資を集めて来るとジープで飛び出して行きました。ヘリオポリスから集めてくるそうです」
「……なるほど」
「緊急事態だし。何も聞かなかった事にしよう」
「そうですね」
「僕はたまに、フレイが本当にお嬢様かどうか分からない時があるよ」
「半分以上は私たちの問題に巻き込み過ぎて、トラブル慣れしてしまったせいだと思うので……」
「まぁ、そうだね。そう考えると、余計な事は言わない方が良いか」
「はい……」
キラとセナはおそらくヘリオポリスで行われている犯罪行為に目を瞑り、緊急事態だからと全てを飲み込む異にするのだった。
そして、彼女たちは次なる戦いに向けて準備を進めてゆく。