ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第47話『PHASE-3『崩壊の大地3』』

 オーブ連合首長国という国へのアスランの不信感は非常に高い状態にあった。

 その原因は、オーブの氏族を名乗る者がプラントでキラとセナを売り渡す様な事をしようとしたこと。

 それと、今回連合と秘密裏に手を組んで、連合のモビルスーツを開発していた事だ。

 

 キラとセナが何の為に世界各国を巡り、戦争を止めようと訴え、戦争被害者を救ってきたか。

 その想いを理解しようともせず、踏みにじったオーブをアスランは許せなかった。

 

 だから、中立国であっても攻撃を仕掛ける事に何のためらいもなかったし。

 どれだけ被害が出ようとも、仕方のない事だと割り切る事が出来たのだ。

 

 しかし……。

 

 ソレはアスランにとって、衝撃などという言葉で言い表せる物では無かった。

 

 ヘリオポリスに侵入して、クルーゼの読み通り戦艦を発見し、爆破して。

 慌てて巣穴から出てきたモビルスーツに襲い掛かり、その内の一機を奪おうとして……。

 

 彼女に出会った。

 

「キラ……?」

「あす、らん……?」

 

 最後に別れた時から、女性らしく美しく成長した彼女は、テレビで何度も見ていた姿なのに、まるで初めて会った時の様な驚きをアスランに与えた。

 童話の世界の様に、木の上から落ちてきた天使と……今度は地球連合軍のモビルスーツの上で出会ってしまった。

 

 風に煽られて乱れる長い栗色の髪の向こうから、驚愕に満ちた瞳でアスランを見つめている。

 その瞳を見ていると、アスランの中で、荒ぶる感情が動き出すのを感じた。

 プラントでも、月のコペルニクスでも、キラはアスランの手から逃れてふわふわと消えてしまった。

 まるで初めから存在していなかったかの様に。

 幻の様に。アスランの胸に微かな痛みだけを残して、キラは消えてしまった。

 

 その苦しさをラクスに相談しても、不愉快そうな顔をされるばかりで正確な答えを得る事の出来なかったアスランであったが。

 キラが傍に居れば、分かると思った。

 

 だから、キラに向かって無意識のまま手を伸ばしていたが……地球連合軍の士官によって阻まれてしまう。

 しかもキラはそのままモビルスーツのコックピットに入ってしまった為、アスランは仕方なく、キラが乗ったモビルスーツと一緒に出てきたモビルスーツに乗り込んで、ヘリオポリスを脱出するのだった。

 

 本当はキラと話をしたかった。

 しかし、自分たちが脱出する為の時間稼ぎをしているミゲルの邪魔は出来ず、アスランは悔しい想いを噛みしめたまま、ヴェサリウスへと戻る事になったのである。

 

 それから。

 アスランはヴェサリウスで機体のシステム調節をしながら、データを抽出して貰い、ため息を吐きながらモニターを見つめていた。

 

 考えるのはキラの事ばかりだ。

 

 このままでは駄目だという想いはあるが、それが分かった所で、意味はない。

 結局アスランは軍人で、命令が無ければ戦う事も出撃する事も出来ないのだから。

 

 それに。

 軍人としてのアスランの意識が、キラの乗っている機体をそのままにする事は出来ないと叫んでいた。

 大きな力を地球連合に与えてしまえば、また血のバレンタインの様な悲劇を起こすだろう。

 そうなれば、また多くの被害者が出る。

 

 アスランの母であるレノアだって、命だけは助かったが、それだけだ。

 体を覆い隠す様な数多の医療器具に、ただ生かされているだけの状態だ。

 かつての温和な母の姿は既になく、ギリギリ生きながらえているだけという様な姿に、アスランは胸がかき回されてしまう様な吐き気を覚えた。

 

 この様な事をした地球連合に対して、激しい怒りを覚えた。

 憎しみすら抱いていたと言っても良い。

 

 しかし、それでもナチュラル全てを憎む事が出来なかったのは、キラの両親であったカリダやハルマとの交流があったからだ。

 それが無ければ、アスランはきっと父の様にナチュラルを滅ぼすべきだと叫んでいただろう。

 そんなギリギリの所で、何とか理性を保っていたアスランはキラの行動に深い絶望を覚えた。

 

 何故、ナチュラルの味方をするんだ、と。

 どうして、プラントではなく、キラやセナを利用しているオーブや地球連合に居るのかと。

 アスランの心は叫んでいた。

 

 そして、行き場を失った激しい感情の渦は、答えを求めて、動き出そうとしていた。

 

「……キラ」

 

 アスランは、キラに会ってちゃんと話をしようと心に決めて、クルーゼに出撃を願う事にした。

 

 直接話をすれば、きっとキラなら分かってくれる。

 そんな根拠のない希望を持ちながら、アスランは何とかクルーゼから許可を貰い……ミゲル達と共に、出撃する事となった。

 任務としては、ヘリオポリス内に現れた戦艦の撃破と、モビルスーツの撃破または鹵獲である。

 アスランは撃破など出来ないと、鹵獲する為に動く事に決め、まずはキラと話をしようと考える。

 

 オーブも、地球連合もキラを利用する事しか考えて居ない。

 キラだって、利用されているだけだと分かれば、こちらに来るはずだと。

 そう信じて、アスランはキラの駆る『ストライク』に接触してから通信を繋げた。

 

 地球連合がキラを惑わす様な事を言わない様に直接通信を繋げて。

 

「キラ!」

『その声は、やっぱりアスランなんだね』

 

 どれだけ長い時間離れていようとも、声を聞けばすぐに分かる。

 アスランはキラの声を久しぶりに聞く事が出来た喜びと、これならすぐに話し合いも終わると舞い上がる様な気持ちで語り掛けた。

 

「キラ! そんなモビルスーツは降りて! 一緒にプラントへ帰ろう!」

『そんな事、出来る訳無いだろ?』

 

 しかし、キラの反応は冷たく、アスランを突き放す様な言葉を吐く。

 アスランは一瞬、自分が話している相手が誰か分からなくなってしまった。

 

 アスランの中で、キラという少女は、幼い頃の姿のまま変わっていない。

 甘えん坊で、でも妹想いで、たまにイタズラもするけれど、それも全て楽しい事ばかりで。

 無茶をしても、決して誰かを傷つける様な事はしなくて。

 いつも、誰かを見ていて……悲しんでいる子の為に寄り添う事の出来る女の子だった。

 

 幼年学校に居る時は、みんなキラが好きで、キラも『みんな』が好きだった。

 無論、それがキラの本質ではないとアスランは分かっていたし。

 キラが無理して、みんなに好かれようと明るく振舞っている事も知っていた。

 

 でも、キラがそうする事で、幼年学校では誰も争う事なく楽しい日々を送っていた。

 だから、アスランはキラが無理をしてでも、この時間を大切にしているのだと分かっていたし。

 そうする事で、キラの望む世界がここに出来るのならと見守るだけで何もしなかったのだ。

 

 プラントでジンを開発している間だって、キラはずっと笑いながら無理をしていた。

 でも、父の苦悩を思えば止める事も出来なくて、支える事も難しくて、歯がゆく思っていたけれど。

 それでも、キラはやはり誰かの為にと笑っている女の子だったのだ。

 

 キラはいつでも誰かの為に、『みんな』の為に笑っていた。

 

 しかし、通信から聞こえるキラに、その優しさは見えない。

 無理をしている事は分かるのに、その理由が分からない。

 

「どうしたんだ、キラ……!」

『どうしたも何もないでしょう? 急に戦争を仕掛けてきたのは、君達じゃないか!』

「それは! オーブが、地球連合と一緒にモビルスーツを開発していたからだ!」

『っ!』

「このモビルスーツで、どれだけの人が死ぬと思う!? どれだけの人が苦しむと思う!」

『……分かってたさ。僕だって、でも……! これで平和になるって! 信じたかったんだ!』

「兵器が、平和なんて作れるわけが無いだろう!!」

 

 アスランの放った言葉に、キラが息を飲んだのが分かった。

 その反応で、アスランはキラがモビルスーツを開発する事を強要されていたんじゃないかと考えた。

 オーブにはセナも居るから。キラは逆らう事が出来なかったのだと。

 

 そう考えて、アスランの中でオーブと地球連合に対する怒りと憎しみが増してゆく。

 あの日から。胸の中でずっと煮えたぎっていた想いが、激しい炎となって爆発する。

 

 医者の許可を貰い、触れた母の手の冷たさ。

 祈る様にレノアの手を握りながら目を瞑るパトリックの背中の弱弱しさ。

 そして、何も出来ず、ただ立ち尽くす事しか出来ない自分。

 

 どうして、という想いがアスランの中で蠢き叫んだ。

 もはやアスラン自身でも止められない感情の奔流となって、外へあふれ出す。

 

「血のバレンタインの時、母はユニウスセブンに居た……!」

『……ま、まさか。そんな』

「あれ以来。母はただ生きているだけの状態だ。目を覚ます事もなく、ただ、生かされているだけの……! 母が何をしたというんだ!」

『……っ、アス』

「これが正義か!? こんなものが正義だというのなら! 地球連合こそが俺の敵だ!!」

『アスっ……違うんだ。全員じゃないんだよ。核ミサイルは……一部の人が、撃っただけなんだ。だから』

「止められなければ、同じ事だろう!」

 

 嗚呼。

 それはおそらく、普段の冷静なアスランであれば口にしなかった言葉だろう。

 しかし、アスランは今、正常な状態では無かった。

 

 アスランの中で、何よりも大切な思い出だった、月の日々が、汚らわしい者たちによって、一つ、一つと塗りつぶされてゆく。

 それがアスランには酷く耐え難い苦痛であり、何とかあの日の世界にいたキラを繋ぎとめようと必死だった。

 

 だから……アスランは、引き金を引いてしまったのだ。

 おそらくは、最も引いてはいけない相手に。

 

 残酷な運命という物があるのならば、おそらく、月で二人が出会った事でも、プラントで別れた事でも、桜並木で悲痛な別離をした事でも、モビルスーツの上で望まぬ再会をしてしまった事でもない。

 間違いなく、この瞬間であった。

 

『……そうだね。アスランの言う通りだと思うよ』

 

 アスランは、キラの事情など何も知らないのだから。

 

「キラ……?」

 

 キラの様子がおかしい事にアスランが気づいた時には既に全てが遅かった。

 ゆっくりとキラの駆るストライクがアスランの駆るイージスから離れると、スラスターを一気に吹かしてアークエンジェルを襲おうとしていたジンの武器とメインカメラをビームライフルで正確に撃ち抜いた。

 

「なっ!? 何をやってるんだ! キラ!」

『何をって、決まってるだろ? 僕と君は敵なんだから。敵なら……戦うだけだ!』

「な、何故だ!」

 

 アスランの声はもはやキラには届かず、キラは襲い来るモビルスーツの武装を全て破壊してゆく。

 その強さは既に人のそれを遥かに凌駕していた。

 

 ZAFTでエースと呼ばれるミゲルですら、専用機ではなく一般用のジンであったとはいえ接近した瞬間、いつの間にか抜かれていたビームサーベルで武器と四肢を破壊され、ヘリオポリスの大地へと蹴り飛ばされた。

 生きてはいるだろうが、ただそれだけだ。

 

 アスランは、何故。どうして。という想いを抱えながらもキラに向かって飛び、キラを止めようとした。

 しかし、その瞬間にヘリオポリスは、メインシャフトが千切れ、轟音を立てながら崩壊してしまう。

 

 宇宙空間へと流れ出る大気にイージスが巻き込まれ、アスランは必死にキラへと手を伸ばすが、ストライクはイージスから離れ、どこかへ飛び去るだけであった。

 

「キラァァアアア!!」

 

 かくして、ヘリオポリスは崩壊し、アスランはキラの手を掴めないまま、作戦は失敗した。

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