カリダの家にヴィア達が住まう様になってから半月ほどの時間が過ぎた。
今日はハルマとキラが家に来る日という事で、セナ達はパーティーの準備をしていた。
リビングには豪華な食事と、色とりどりの飾りが用意されてゆく。
壁にパーティー用の飾りを付けるセナとラウは、本当の兄妹の様であり、ヴィアはキッチンから二人の姿を見て安心した様に微笑んでいた。
そんなヴィアを見て、カリダも微笑むが、キラたちが来る時間も迫っている為、心を鬼にしてヴィアに「手を動かして」と言うのだった。
そんなこんなで慌ただしく過ぎていく時間の中、遂にキラとハルマが家にやってきた。
ハルマは事前にカリダから連絡を受けていた為、ヴィア達に軽く挨拶をしてから大荷物をリビングの奥に置いてゆく。
そして、ハルマと同じ様にカリダの姉とその家族が居ると聞いていたキラは……緊張しながらも、リビングに入る扉の影に隠れて部屋の中を伺っていた。
「……っ」
キラはリビングの中で、先ほどまで一緒だった父ハルマと、キッチンの奥で料理を作っている母カリダを見つけ、少し安心した様な顔をしたが、金髪の少年と共にいる自分そっくりな少女を見つけ、目を見開いた。
更に、父ハルマが少女と笑顔で言葉を交わしている姿を見て、焦り、勢いのまま部屋の中に飛び込んだ。
「お、お父さん! キラは僕だよ!?」
「ん? あぁ、分かっているよ。この子はキラによく似ているけど、キラじゃない」
「はい。私はセナです! キラお姉ちゃん!」
「お、姉ちゃん?」
「えと、セナのママの妹さんの娘さんなので、姉妹では無いと聞いたのですが、ママが姉妹みたいな物だと言っていました! なので、キラお姉ちゃんです!」
「僕が……お姉ちゃん」
キラはセナの言葉を何度か繰り返して、その言葉の意味を飲み込んだ瞬間、輝く様な笑顔になった。
そして、セナの手を握って、上下に振った後、頭を撫でてみたり、抱きしめてみたりする。
セナはやや激しいキラのスキンシップを笑顔で受け入れ、キラを喜ばせてから、お兄ちゃんを紹介しますとキラの意識をラウに向けた。
「ラウ兄さんです」
「おぉー。お兄さん」
「何でも知っていますし。何でも出来る凄いお兄さんです」
「凄い! ラウ兄さん!」
「あー。期待の目が痛いが……なるべくその期待に応えられる様に努力するよ。キラ。よろしく。ラウだ」
「うん! よろしくお願いします!」
キラは元気よくラウに頭を下げ、そして、残るよく分からない人へと視線を向けた。
そう。キラやセナによく似た栗色の長い髪と紫色の瞳を持った、カリダによく似た顔立ちの美人……ヴィアである。
「えと……?」
「あー。えっとね」
「……」
「その……なんていうか」
キラはヴィアの言葉を待っていたが、ヴィアは上手く言葉が紡げずオタオタとしてしまう。
そんなヴィアにカリダはしょうがないな。とエプロンで両手を拭きながら、キラの前で戸惑っている姉の元へ向かった。
「キラ」
「っ! お母さん!」
「この人はね。ヴィア。私のお姉さんなの。セナちゃんにとってのキラと同じね」
「お姉さん……?」
「そ、そうよ? 偶然姉妹で同じ様な見た目の子が生まれるなんてビックリね!」
キラはカリダの言葉を受け止めてから、慌てた様に喋るヴィアをジッと見つめた。
それから次にセナを見てから、近くにあった鏡で自分を見る。
そこに映る姿はあまりにも似すぎていた。
キラは同年代の子よりも引っ込み事案であり、のんびり屋で気分屋だ。
しかし、『父親の願い』により人よりも……並のコーディネーターよりも優秀にコーディネートされた彼女は、その優秀な頭脳で一つの仮説を導き出す。
そう。自分とヴィアが本当は親子なのではないかという仮説だ。
しかし、キラの思考はさらに踏み込んだ場所へと進んでゆく。
それは、何故ヴィアやカリダ達が本当の自分の親を隠すのかという点だ。
キラの中で一つ思いついたのは、キラやカガリを狙って行われた幾度かのテロ事件である。
ウズミや、周囲の人間たちはキラたちは関係ないと言っていたが、テロを行った人間たちの目は間違いなくキラを捉えていた。
彼らの目的は、キラである。
だからこそ、キラはオーブを離れ月面都市コペルニクスに来たという事も理解していた。
そして、ここに来る途中のシャトルで父であるハルマが、五年ぶりにヴィアと会うのだと言っていた事を思い出して、理解した。
もしかしたら、自分とカガリの本当の両親は自分と同じテロ事件に遭い、長い間行方不明だったのではないかと。
自分達では育てられない状況になり、ウズミの後継者としてアスハ家に預けられたのではないかと。
カリダとハルマもまた、ヴィアや本当の父親に頼まれて、自分達を見守っていたのではないか。
その仮説に思い至った時、カガリよりも幾分か冷静なキラは、育ての両親やウズミから覚えた他者への思いやりで、『何も気づかなかった』という選択肢を選ぶ事にした。
もし、真実があるのだとしても、まだ話す事は出来ないのだろうというヴィア達への気遣いと。
もし本当に自分とカガリがヴィアの娘である場合、セナも混乱してしまうとセナへと気を遣って。
何も知らない子供らしい顔で笑顔を作った。
「そうなんだ。ビックリだね!」
何も分からぬ子供であれば、強い違和感に泣いていたかもしれない。
何も考えない子供であれば、感情のままに問い詰めたかもしれない。
しかし、キラは非常に優秀な人間であり、またウズミの近くで為政者としての正しい姿を学んでいた。
ゆえに、この場は何も知らない子供として振舞ったのであった。
そんなキラの内心は知らず、ヴィアとカリダは上手く誤魔化せたと小さく安堵の息を吐いた。
当のキラは、純粋無垢な少女の顔をしたままヴィアとカリダの様子を伺い、自分の選択は間違っていなかったと胸を撫でおろすのだった。
「じゃあ、自己紹介も終わったし。新築祝いと、キラの歓迎会をやりましょうか」
そして、一つの波乱を終えた一行は、カリダの言葉を合図として、パーティーを始めるのだった。
床に敷かれたカーペットの上にはやや大きなテーブルがあり、そこには子供用に取り分けられた子供向けの食事があり、キラはセナやラウと話しながらご飯を食べる。
「そうか。キラはオーブに居たのか」
「おーぶ?」
「南太平洋のソロモン諸島にある島国だな。建国した時から中立の立場を表明していて、コーディネーター、ナチュラル共に受け入れる国として有名だ」
「そうなんですねぇ」
「ラウ兄さん詳しいね!」
「まぁ、これくらいはな」
キラの輝く様な憧れの瞳を受け止めてラウは柔らかく笑う。
セナはなるほどーと頷きながら、ピザの一切れを口に入れ、もぐもぐと食べるのだった。
しかし、セナの口に対してピザはだいぶ大きかったらしく、口の端がトマトソースで汚れてしまう。
それを目ざとく見つけたキラはナプキンに手を伸ばそうとしたラウを制して、自分がやるとセナの口元を綺麗に拭くのだった。
「むぐむぐ」
「はい。綺麗になったよ」
「ありがとうございます。キラお姉ちゃん」
「んーん! 良いんだよ! 僕はお姉ちゃんだからね!」
満面の笑みでセナに姉という立場をアピールするキラを見て、ラウは苦笑しながらキラに語り掛ける。
「キラはすっかりセナのお姉ちゃんだな」
「当然! セナは良い子だし。カガリと違ってちゃんと妹だからね!」
「カガリ?」
「うん。僕の双子の妹。カガリは自分が姉だって言ってるけど、いつもマーナさんを困らせてるし。ウズミ様にも怒られてるし。絶対僕の方がお姉ちゃんだと思うんだよね!」
「かなりのお転婆な様だな」
「そうなの! お父さんとお母さんの事も困らせてさ。まぁ、僕も本当はウズミ様の事をお父様って呼ばないといけないんだけど……出来てないから、駄目なんだけどね」
「良いんじゃないか? 今はまだ両親に甘えていても良い年齢の筈だ。キラならいずれ出来るようになるだろう」
「っ! うん!」
ラウの言葉に、キラはこみ上げる様な喜びを感じて震えながら大きく頷いた。
言葉を重ねる度に、ラウへの信頼は高まってゆき、兄さん、ラウ兄さんとニコニコ楽しそうに笑いながら話しかけるのだった。
そんなキラやラウ。そして、二人を楽しそうに見つめるセナを見て、子供達から少し離れた場所にあるテーブルに座っていた大人たちは改めてホッと安心した様に笑う。
そして、グラスに入ったワインで乾杯しながら、ひとまず落ち着いたとため息を漏らすのだった。
「しかし、何事もなく終わって良かったよ」
「そうね。ここまで来れば落ち着いて過ごせそう」
「キラは幼年学校に通わせるんでしょう? セナも同じ所に通わせようかしら」
「良いと思うわ。セキュリティもしっかりしてるし」
「ラウ君はどうするんだい? 14歳だろう? まだ学校に通う事は出来ると思うけど」
「どうかしら。ラウ自身はあまり興味ないみたい。どちらかというと、もう働きたいって感じだったわ」
「就職か。この辺りに何かあったかな」
「まぁ、何も無ければ私の手伝いでもして貰うつもり」
「そうね。ヴィアと一緒に居てくれるなら安心だわ。放っておくと何をするか分からないのがヴィアだしね」
「随分と失礼な事を言ってくれるじゃない? カリダ」
「自分の胸に手を当てて思い出して貰いたいわ」
「言っておきますけど。私はユーレンに比べたらだいぶ常識的なんだからね?」
「ヴィア。あなた自分でユーレンさんはいつも非常識だって言ってたじゃない。忘れたの?」
「うぐ」
「結局夫婦で似た物同士なのよね。キラとカガリは普通の子に育って欲しいわ」
「大丈夫でしょ。常識的なカリダとハルマさんが見てるんだから」
へッと投げやりにヴィアは答え、グラスに入ったワインを一気に飲み干すのだった。
そんなヴィアの仕草にカリダは頬に手を当てながら、困った人ねと笑い。
子供達を見守る大人たちも静かに、穏やかに、夜を過ごしてゆくのだった。