アークエンジェルの食堂でキラたちの事情を聞いたトール達は腕を組みながらうーんと考えていた。
「そうか。キラとセナちゃんはこの艦と一緒に月か地球に行かないといけないのか」
「はい。でも、心配は要りませんよ。皆さんはちゃんとオーブ本国に送り届けますから」
「それは……嬉しいけどさ」
「そういう問題じゃないわよね」
「そういう問題じゃ、ない?」
トールとミリアリアの言葉にセナが首を傾げるが、彼らの言いたいことを理解したフレイは、フンと鼻を鳴らしながら彼らの考えを否定する。
「止めておいた方が良いわよ。私は立場上キラとセナを守らなきゃいけないから戦艦に乗る必要があるし。人手不足だからってんで、こうして手伝ってるけど。ただの民間人が戦争になんて関わるべきじゃないわ。友情ごっこなら平和な国でやりなさい」
「っ! なんだよ! その言い方は!」
「なんだも何も無いわよ。ヘリオポリスじゃあ、都合も良かったし。アンタらと友達やってたけど、結局キラの事情もセナの事情もなーんにも知らなかったじゃないの」
「それは、そうかもしれないけどさ」
「それにね。中途半端に首を突っ込まれても逆に迷惑だわ。イザとなったらこの艦を囮にしてでもキラとセナを逃がさなきゃいけないってんのに、足手まとい増やしてどうすんのよ」
フレイの放つ言葉はイチイチもっともで。トール達は誰も何も反論する事ができず黙り込んでしまった。
そんな光景が不思議で、セナは首を傾げながらフレイに問いかける。
「えと? フレイさん? 何の話を」
「アンタも大概鈍いわね。この子達はこの艦でアンタ達の手伝いをしよう。なんて考えてんのよ」
「……! そんな、危ないですよ!」
「だって。さ。分かったらアンタらは大人しくしてなさい。運が良ければまたオーブで会えるわよ」
「……いやだ」
「はぁ?」
「俺は! 嫌だ! このまま、何も出来ないまま、なんて!」
「トール……」
「そ。意気込みは良いけれど。それで、アンタに何が出来るの?」
「俺は、大型艦船の操縦資格を持ってる。宙域空域水上! 全部! ある!」
「……へぇ。ソレは驚いたわね。少なくとも私が調べた時には持ってなかったと思うけど」
「キラと会ってから、取った」
「そんなに簡単に取れる資格じゃなかったと思うけど、ね」
「何か、力になりたかったんだよ! 友達だから! 俺達の事を友達だって言ってくれたから! 俺達の為に戦ってる姫様が! そう言ってくれたから! 俺だって、何かしたいと思ったんだ!」
「それで?」
「俺はもう、決めてたんだ。本国に戻ってから国防軍に志願するつもりだった。オーブの外でドンパチやってるのは知ってたし。キラとセナちゃんがそれを止めようとしてるのも! 知ってた!! だから、遅いか早いかの違いでしかない! ここで力になれるのなら、同じ事だ」
「勢いで進む道を決めると後悔するわよ」
「勢いじゃない。ずっと決めてたことだ」
強く視線をぶつけ合うフレイとトールであったが、その意思の強さに、フレイは笑みを零すとセナに顔を向ける。
「だ、そうよ? セナ姫様。どうする?」
「えと。私は……」
「お願いだ。セナちゃん。こんな所で悪いけど! 俺を国防軍に入れてくれ!」
「どうする? 多分断っても地球連合の方に行くわよ? この子。そうなったら逃げられなくなるわ」
「……そうですね。分かりました。トール・ケーニヒさん。貴方の入隊を許可します」
「なら、私も!」
「ミリアリア。アンタ。私の話聞いてた?」
「聞いてたわよ。でも、私は一人でトールの帰りを待ってるのなんて嫌だから。死ぬなら同じ場所が良い!」
「ミリィ……」
「そういう事だから。トール」
「はぁ。じゃあ。俺も志願しておこうかな」
「サイ。アンタまで」
「いやー、ほら。成り行きとはいえ、キラとセナちゃんの事情を広めちゃったし。その責任っていうの?」
「別にそんなの。放っておいても、キラと事だからすぐに広まったわよ」
「でも、ほら。それに。俺、フレイの婚約者だから。ここで婚約者をおいて逃げる事は出来ないでしょ」
「サイ……アンタは本当にお人よしというか。苦労人というか……バカね」
サイが眼鏡を拭きながら苦笑しつつ語った言葉に、フレイは呆れた様な顔をしながら頷いた。
しかし、そんなフレイにサイもまた、まぁね。なんて言いながら笑うのだった。
「じゃ、じゃあ、俺も! 志願する!」
「……カズイ。今までの話、聞いてたか? 勢いで志願するもんじゃないんだって」
「トールが言うと説得力が無いわね」
「えぇー!? そんなぁ!」
「そうそう。カズイはさ。戦争とか向いてないって」
「それだとまるで俺が向いてるみたいじゃないか?」
「何もなくても軍に志願してたトールはどっちかっていうと向いてるんじゃない?」
「なにー!?」
わははと場を和ませながら笑い合う三人に、カズイは珍しくいつもよりも大きな声で訴えた。
「俺も! 別に、勢いじゃない! あ、いや、勢いかもしれないけど……」
「どっちよ」
「自分でも分かんないんだよぉ! でも、このまま俺一人で逃げるのも嫌なんだ」
「めんどくさいわね。アンタ」
呆れた様な顔でカズイに言葉の刃を突き刺すフレイに、セナがまぁまぁと言いながらフレイの代わりに言葉をかける。
混乱し、自分の感情をどう扱えば良いか分からず困っているカズイの手を握り、セナは微笑んだ。
いつもと何も変わらない笑みで。
「戦いへ向かう怖さと、一人で友を見送る怖さは別種の物です。どちらがより怖いかを競っても意味はありません。恐怖は確かに恐怖なのですから」
「……」
「だからこそ、選べない、選びたくないと感じるのは当然の事かと思います」
「……うん」
「カズイさん。一つだけ聞かせて下さい」
「なに、かな……」
「もしも、私たちにも想定出来ない不測の事態が起きた時、お姉ちゃんを連れて、オーブまで逃げる事は出来ますか?」
「キラ、を?」
「はい。私たちはきっと、限界まで戦ってしまいますから。そうなる前に、お姉ちゃんを連れて」
「それは、出来るけど……でも、トール達は」
カズイは不安に揺れる瞳で、周囲を見渡した。
その瞳に、友人たちは当たり前の様に応えてゆく。
「俺は無理。多分死ぬまで止まれないタイプ」
「私ははじめからトールと心中覚悟でいるから」
「あー。そう言われると俺もそうかも。周り見たらもう駄目だったとかありそう」
「私? 無理に決まってんでしょ? 死んでから反省するタイプよ。私は」
「あー、わかるー。喧嘩しても素直になれなくて死んでから謝るタイプだよな。フレイって」
「ウッサイわね!」
「どうでしょうか。おそらくカズイさんにしか任せられない仕事かと思うのですが」
「……でも、良いのかな」
「良いも何も無いだろ? キラ様まで死なせてどうすんだよ」
「そうそう。末代までの恥って奴だろ」
「何? サイ。それ」
「テレビでやってた。サムライがどうのって。多分西暦の映画じゃない?」
カズイは暖かい友たちの言葉に小さく頷いて、セナの願いを引き受けた。
それはきっと、臆病なカズイに与えられた優しい選択肢だとカズイ自身も気づいていたが、その優しさに甘えたのだ。
情けないと思いつつも、変えられないのは自分という存在の根幹だ。
それから。
トール達は無事、オーブ軍に志願し、オーブ軍としてキラと共に地球軍と一時的な協力をする事になった。
非常に面倒な話ではあるが、少年たちの想いを受け取り、人材不足という事もあって、マリューたちは彼らを受け入れた。
ブリッジのクルーとして。
そして、そんなアークエンジェルからやや離れたヴェサリウスでは、アスランがブリッジでヴェサリウスとガモフのクルーに対して衝撃の情報を伝えていた。
話を聞いていたヴェサリウスの艦長であるアデスの顔はやや青ざめている。
「まさか、その話は本当なのか。アスラン・ザラ。間違いでした。では済まされんぞ!?」
「はい。間違いありません。連合に残された二機の内、一機。ストライクと呼ばれる機体に乗っているのは、オーブ連合首長国。代表首長の娘『キラ・ユラ・アスハ』です」
再度繰り返し宣言された言葉に、ヴェサリウスもガモフもざわざわと騒がしくなった。
そして、そんな騒がしさの中でも、とびきり声の大きな男が通信の向こうからアスランに向かって吠える。
『貴様ァ! アスラン! それを知っていながら何故黙っていたぁ!』
「俺だって知ったのはついさっきの事だ。結局ヘリオポリスの崩壊に巻き込まれて、話は途中で終わってしまったが、アレは間違いなくキラだった」
『しかし、分からないのは、何故キラさんがストライクに乗っているのかという事でしょう』
「それは……分からない」
『ハァー。つかえな』
『キラの事だ。ヘリオポリスに視察か何かで来てて、戦闘が始まったから近くにあったモビルスーツに乗って迎撃しようとしたとか、そんな所じゃないのか?』
『相変わらずやる事が無茶苦茶だな』
『ディアッカ。まだ可能性の話ですから』
『でも、キラちゃんならやるんじゃない? 容易に想像出来るぜ? 俺は』
『それはそうですけど』
「理由はどうであれ、このままには出来ません。ヘリオポリスが崩壊した以上、キラの帰る場所はあの母艦しか無いんです。そうなれば、母艦を守る為にキラは戦うと思います」
『あのバカ……!』
『どうにか説得しないといけませんね』
『説得出来るか? あのキラちゃんだぜ? 思い込んだら一直線。オーブに着くまで放置した方が良いんじゃね?』
「いや。それは止めた方が良いだろう」
赤服を着たエースパイロット、アスラン、二コル、イザーク、ディアッカの言い合いに割り込んで、場を落ち着かせたのは白い服を纏った、クルーゼ隊の隊長ラウ・ル・クルーゼであった。
ラウは表情の読めない仮面を付けたまま宙域図を展開し言葉の根拠を語る。
「まず、このままあの戦艦を放置した場合、月へ行くにしても地球へ行くにしても、障害が無ければ月基地かアラスカへ行く事になる。その場合、彼女がブルーコスモスに襲われる可能性は高い。そうなる前に説得にせよ、捕獲にせよ、実行できなければ作戦は失敗だ」
「……」
「しかし、そうなりますと、我々は月と地球へそれぞれ分かれて行動しますか?」
「いや……連中がそう素直に動くとは思えん。あの状況では補給も出来なかっただろうからな」
クルーゼは宙域図を見ながらふむと呟き、ヘリオポリスからやや離れた拠点を示した。
「ヴェサリウスは先行し、ここで敵艦を待つ。ガモフには、軌道面交差のコースを、索敵を密にしながら追尾させる」
「アルテミスへでありますか?しかしそれでは、月方向へ離脱された場合……」
クルーゼの言葉にアデスが声を上げた瞬間、オペレーターが二人に報告をする。
「大型の熱量感知! 解析予想コース、地球スイングバイにて月面、地球軍大西洋連邦本部!」
「隊長!」
アデスは、自分の意見を裏付ける証拠が現れたとクルーゼを見るが、クルーゼはあくまで冷静だった。
そして、笑みを浮かべたまま言葉を返す。
「そいつは囮だな」
「しかし、念のため確認を」
「いや、奴らはアルテミスに向かうよ。今ので私はいっそう確信した。ヴェサリウス、ガモフ発進だ! このまま仕留めるぞ」
それから、クルーゼによって作戦が伝えられ、ZAFTの兵士たちはそれぞれの想いを胸に秘めたまま、連合軍の新造戦艦へと向かうのだった。
新たなる戦いが始まろうとしていた。