キラとセナという爆弾を抱えて出航したアークエンジェルであったが、デブリ帯でラクスという新しい爆弾を手に入れてしまった事で更なる火薬庫となり、マリューは頭を抱えていた。
「しっかしまぁ、補給の問題が解決したと思ったら、今度はピンクの髪のお姫様か。悩みの種が尽きませんなぁ。艦長殿!」
「……あの子もこのまま、月本部へ連れて行くしかないでしょうね」
「もう、寄港予定はないだろ?」
「でも、軍本部へ連れて行けば彼女は、いくら民間人と言っても……」
「そりゃー大歓迎されるだろう。なんたって、クラインの娘だ。いろいろと利用価値はある」
「できれば、そんな目には遭わせたくないんです。民間人の、まだあんな少女を……」
「そうおっしゃるなら。彼らは?こうして操艦に協力し、戦場で戦ってきた彼らだって、まだ子供の民間人ですよ。まさか地球軍ではなく、オーブ軍だから問題ない。等と言うつもりは無いでしょう」
ブリッジで話をしていたムウとマリューに、ナタルが少し苛立った様子で問い詰めた。
何事も平等であろうとする彼女にはラクスだけを優遇しようとする発言に怒りを覚えたのだ。
「そもそも我らは、民間人であり、他国の姫君を利用し、兵器を開発していた。その事実を忘れたワケではありますまい」
「バジルール少尉……それは……」
「本来であれば、和平に繋ぐためのGを、兵器として使用している事に、艦長は何も感じては居ないのですか?」
「それは、申し訳なく思っているわ。でも、私たちが生き残る為にはこれしか手がないでしょう?」
「無論私もそれは理解しております。だからこそ、『生き残る為に』使える物は全て使うべきだと言っているのです。それに、彼女はクラインの娘です。と言うことは、その時点で既に、ただの民間人ではない、と言うことです」
ナタルの言葉に、マリューは息を飲みながら、何かを言い返そうとしたが、結局彼女の理屈を崩す言葉が思いつかず、そのまま黙り込んでしまった。
その代わりという訳では無いだろうが、ムウがナタルに問いを投げる。
「その、利用するっていうのは……彼女を人質にする。みたいな事も含んでたりするのか?」
「『生き残る為に』必要だと判断すれば、私はそうするべきだと考えます。こんな所で、キラさんとセナさんを失う訳にはいかないのですから。アークエンジェルもGも、同様に」
「でも、その方法はきっと嬢ちゃん達を傷つけるぜ? あの子。キラの嬢ちゃんの友達なんだろう?」
「だとしても、生き残る事が出来たのならそれが全てです。私はそれでお二人に憎まれても、恨まれても構いません。それが最も正しいやり方であると考えます。無論、フラガ大尉が、正しさを抱えながら世界の命運と共に沈むつもりだという事であれば、それも一つの意見だと思いますが」
「まぁ……そうね」
「はい」
「ひとまず。俺らで出来る事はするからさ。その手段は最後まで取っておいて欲しいね」
「無論それは承知しています。私だって好き好んでお二人に嫌われたいワケではありません」
俯きながらも最後まで言葉を続けたナタルに、ムウは小さなため息と共に、不器用だなぁと呟いてブリッジから出て行った。
祈るのは、その様な事態にならない事である。
ならば、メビウス・ゼロの整備でもするかと、ムウは格納庫へと向かうのだった。
そしてラクスをデブリ帯で拾ってから三日ほどの時間が経った。
アークエンジェルのブリッジは何も変わらず何の反応もない宇宙空間を見つめていたが、CICのロメロ・パルが通信をキャッチした事でアークエンジェル艦内で騒ぎになった。
「間違いないの!?」
「間違いありません! これは地球軍第8艦隊の、暗号パルスです!」
「追えるのか?」
「やってますよ! 解析します!」
『……ザザ……こちら……第8艦隊先遣……モントゴメリー……アー……エンジェル……応答……』
「ハルバートン准将旗下の部隊だわ!」
マリューが上げた喜びの声に、ブリッジ全体が歓喜の声を上げる。
「探してるのか!? 俺達を!」
「コープマン大佐の隊か!?」
「位置は!?」
「待って下さい!」
「まだかなりの距離があるものと思われますが……」
「だが、合流できれば……!」
「ああ! やっと少しは安心できるぜ!」
そしてアークエンジェルは真っすぐに通信があった方へと向かい、直接通信が出来る距離を目指して進み続けるのだった。
それから、一日程経過し、アークエンジェルは遂に第8艦隊の先遣隊と直接通信を繋ぐ事が出来る様になるのだった。
『本艦隊のランデブーポイントへの到達時間は予定通り。合流後、アークエンジェルは本艦隊指揮下に入り、本体への合流地点へ向かう。後わずかだ。無事の到達を祈る!』
『大西洋連邦事務次官、ジョージ・アルスターだ。まずは民間人の救助に尽力を尽くしてくれたことに礼を言いたい』
「ハッ!」
『あーそれとそのー……救助した民間人名簿の中に我が娘、フレイ・アルスターの名があったことに驚き、喜んでいる。キラ嬢やセナ嬢と共に居るという事だが……顔を見せて貰う事は可能だろうか?』
『事務次官殿、合流すればすぐに会えます』
通信の向こうで行われている会話に、マリューを含む士官たちは皆呆れた様な顔になったが、ヘリオポリスの学生たちはジョージ・アルスターの言葉を聞きながらクスクスと笑う。
彼はヘリオポリスにフレイが来た時から、通信を何度も繋げるし、公務の最中だというのに、無理やり予定を入れてヘリオポリスのフレイに会いに来たりしていたのだ。
まぁ、そんな様子であるから大西洋連邦を監視している者達も、いつも通りの親バカかとフレイが彼を通じて大西洋連邦に送っていた情報に気づかなかった訳だが。
それはそれとして、この様な状況でも変わらないジョージ・アルスターにアークエンジェルクルーは呆れたり、笑ったりしていたという事であった。
しかし、そんな通信の最中……事件が起きる。
『っ! 艦長! レーダーに感! ナスカ級です!』
『何!?』
「え!?」
『モビルアーマー、発進急がせ! ミサイル及びアンチビーム爆雷、全門装填!』
『熱源接近! モビルスーツ6!』
『くぅ……』
『一体どういうことだね! 何故今まで敵艦に気づかなかったのだ!』
『艦首下げ! ピッチ角30、左回頭仰角20!』
アークエンジェルに届くのは慌てた様に、戦闘準備に入る第8艦隊先遣隊の姿であった。
マリューはすぐにでも救援に向かうと口を開こうとしたが、通信の向こうから聞こえてきたのはそれを拒絶する言葉だった。
『アークエンジェル! 反転離脱しろ!』
『 なんだと……それでは……!』
『この状況で、何が出来るって言うんです!』
『合流しなくてはここまで来た意味がないではないか!』
『あの艦が落とされるようなことになったら、もっと意味がないでしょう! あの艦に誰が乗っているか! 事務次官殿にもよくお分かりのはずだ! 皆! 何としても持たせろ! アークエンジェルへは一機も通すな! 通信を切れ! 敵にアークエンジェルが見つかる!』
「コープマン大佐!」
『ラミアス大尉! 大局を見誤るな!』
「っ!」
コープマンの、その言葉を最後に通信が切れ、先遣隊の状況は分からなくなった。
だが、かなり接近していた為、情報は報告される。
「前方にて、戦闘と思しき熱分布を検出! 先遣隊と思われます!」
「敵の戦力は!?」
「イエロー257、マーク40にナスカ級! 熱紋照合、ジン5、それと、待って下さい…これは…イージス!? X-303、イージスです!」
「……では!あの……ナスカ級だと言うの!?」
「艦長!」
「でも……あの船には……」
「離脱しなければ、こちらまでやられます!!」
『いえ……進んでください。艦長。大西洋連邦事務次官。ジョージ・アルスターさんは失えない人材です。ここで彼を失えば、また大西洋連邦で過激派が力を増やしてしまう』
ナタルの言葉を遮る様にブリッジに静かな声が響いた。
ストライクセイバーと思われる機体から聞こえるその声は……医務室で寝ている筈の人の声で。
「セナさん!?」
『問題ありません。ストライクセイバーなら、戦闘を止める事が出来ます』
「駄目だ! ここで貴女を失ってしまえば、我々は!」
「分かったわ」
「艦長!?」
「どの道、今から反転しても、逃げ切れるという保証もないわ……総員第一戦闘配備!アークエンジェルは、先遣隊援護に向かいます!」
「バカな……!」
苛立ちを示すナタルの気持ちはそのままに、アークエンジェルは先遣隊が戦闘している宙域へと突撃した。
『総員、第一戦闘配備! 繰り返す! 総員、第一戦闘配備!』
そして、ラクスと共に居たキラは艦内に鳴り響いているアラートを聞いて、ラクスに部屋に居る様に言って外に飛び出した。
一応格納庫に行く前に、セナの様子だけ見て行こうと、医務室に寄りながら。
しかし。
「キラ! 良かった!」
「フレイ!? どうしたの?」
「セナが居ないの! 水を取ってきて欲しいって言われて、それで、戻ってきたら」
「……まさか!?」
「ねぇ。まさか、セナ、戦闘に行ったわけじゃないわよね!? それに、戦闘って、まさかパパの船が巻き込まれてるなんて事、無いよね!?」
「分からない。けど、僕も行くから」
「お願い! キラは強いんでしょ!? パパとセナを……お願い」
「分かってる。大丈夫だから。フレイは部屋に居て」
キラはふるえるフレイを軽く抱きしめて、格納庫へと向かった。
ラクスに弱音を吐いて、また戦える様になった戦士の顔で。
そして、ストライクに乗り込んで、通信を開くとすぐにブリッジから悲鳴の様な声が聞こえてきた。
『キラ!? キラ! 聞こえる!? セナちゃんが!』
「落ち着いてミリアリア。セナがどうしたの」
『私、知らなくて、だから……! きゃあ!』
『すまない。情報を報告する。セナさんが一人で出撃した。彼女を連れ戻して貰いたい』
「一人でって……まさかストライクセイバーで!?」
『あぁ。オルフェ少年は乗っていなかった』
「もう! 勝手な事して!!」
キラは怒りながら、すぐにストライクをカタパルトに乗せる。
そして、エール装備を付け、幾多の光が瞬いては消えてゆく戦場へと飛び出してゆくのだった。
「キラ・ユラ・アスハ! エールストライク! 行きます!!」
必ずセナとフレイのお父さんを助けると心に誓いながら。