プラント本国からの呼び出しにより、本国へと報告に戻ったクルーゼ達であったが。
彼らの状況報告を聞いて、評議会が下した命令は『キラ・ユラ・アスハ』の保護であった。
彼女がオーブ並びに連合のナチュラルによってモビルスーツの開発をさせられていた事は明白であり、キラとその妹セナは同胞であるコーディネーターで保護するべき。
という理屈である。
アスランはこの決定に心の奥で僅かな苛立ちを感じたが、このままナチュラルに利用されて生きるよりはマシだと、自分の心を殺す。
任務に忠実な戦士として、個人的な感情を飲み込んだ。
例えプラントが彼女たちを逃がさない為の鳥籠であろうとも、ここにいれば彼女を傷つける者は居ないのだから……と。
そして、キラを『保護』するべく準備を進めていたヴェサリウスであったが、突如として舞い込んだニュースにより急遽戦場へと舞い戻る事となった。
そう。
追悼一年式典の慰霊団派遣準備の為にユニウスセブンへ向かっていた視察船、シルバーウインドが行方不明となったのだ。
乗組員の多くは『偶然』近くを航行していたZAFTの宇宙艦により保護されたが、肝心の『ラクス・クライン』が行方不明となった事で、プラントも評議会も大騒ぎであった。
そして、ラクスの父であるシーゲル・クラインの盟友であるパトリック・ザラの息子であるアスラン・ザラも、政治的な関係から休暇を変更し、捜索任務へと向かう事となった。
ヴェサリウスへと向かう通路で、アスランは父であるパトリックに呼び止められ足を止める。
「アスラン。ラクス嬢のことは聞いておろうな」
「はい。聞いております」
「公表はされていないが、事態は切迫している状態だ。既に捜索に向かった、ユン・ロー隊の偵察型ジンが戻らん」
「な……! まさか」
「そのまさかだ。今回の事件。地球軍が関与している可能性が高い。心して当たれ」
「は、はい……!」
「それとキラ嬢の事であるが、もはやオーブを気にする必要はない」
「……それは」
「多少手荒な事をしても構わんという事だ。今までお前には言ってなかったがな。彼女にはコーディネーター全ての未来がかかっているのだ。オーブとの敵対も容認する。必ず彼女を連れ戻せ。お前の手で。それがレノアの願いでもある。頼んだぞ。アスラン」
「は、ハッ! 承知いたしました!」
アスランは『あの日』から狂気を瞳に宿したパトリックに、何とも言えない感情を抱えながら静かに頷いた。
アスランの母、レノアはまだ生きている。
しかし、目を開けている時間は僅かであるし、言葉も殆ど交わせない。
それでも……生きているのだ。
だが、この微妙な状態がパトリックを狂気に向かわせている様な気がして、アスランは無意識の内にため息を吐いてしまうのだった。
そして、アスランを乗せたヴェサリウスは時刻となり宇宙へと出撃してゆく。
それから数日後。
ヴェサリウスはある宙域で地球軍の反応をレーダーで捉えた。
「どうした?」
「地球軍の艦艇と思われますが……こんなところでなにを?」
「足つきがアルテミスから月の地球軍本部へ向かおうとすれば、どうするかな?」
クルーゼはアークエンジェルの仮称である『足つき』の名を出しながら、地図に宙域を映す。
それを見ながら、アデスはハッとなり言葉を返した。
「では、やはり補給。いや、もしくは、出迎えの艦艇、ということも」
「こちらの位置はまだ気づかれてはいないな。ロストするなよ。慎重に追うんだ」
「我々がですか? しかし……」
「ラクス・クラインの捜索も無論続けるさ。だが、たかが少女一人と、キラ嬢では比べる事も出来んだろう? せっかく尻尾を捕まえたのだ。まずは火種を押さえてからでも遅くはない
「は、はぁ……」
「連中の予想航路を出せ。話はそれからだ」
そして、クルーゼの指示に従い、ヴェサリウスは地球軍の宇宙艦に見つからぬ様、潜航しながら彼らの行く先を調べる。
「地球軍艦艇の、予想航路出ました」
「ふむ。ラコーニとポルトの隊の合流が予定より遅れている。だが、このまま見逃すという事も出来ん。出撃だ。仕掛けるぞ」
「了解! コンディションレッド発令! パイロットは出撃準備!」
「さて。もし足つきが近くに居るのなら、上手く釣り出せると良いのだがね」
「しかし、そう素直に出て来るでしょうか」
「出て来るさ。キラ嬢が目の前にあるまだ救える命を見捨てるとは思えん」
クルーゼの独り言の様な言葉に、アデスは頷きながらも艦長として、ヴェサリウスへと指示を飛ばしてゆくのだった。
そして、その指示に従い、機体が次々と宇宙へ飛び出してゆく。
『アスラン! そいつの性能、見せてもらうぜ?』
『あぁ。だが、ラスティも気を付けろよ。もしストライクが出てくるのなら』
『無理はするなってんだろ? 分かってるよ。キラちゃん、テレビで見た感じだと線の細い子って感じだったけど。ホントにモビルスーツ戦なんて出来るのかねぇ』
『俺とカナードとアスラン、イザークの四人で掛かって勝てなかったんだ。油断はするなよ』
『俺は負けてねぇ!』
『いや、負けてただろ』
『機体の性能差だ!』
『ま、そう言うんなら証明すれば良いさ。こいつ等を片付けた後で、出てくる本命でよ』
軽口を叩き合いながら宇宙へ出撃したアスランたちは、三隻の宇宙艦から出てくるモビルアーマーを一機ずつ撃墜しながら、宇宙艦にも攻撃を重ねてゆく。
あまりにも圧倒的なそれは……戦闘と呼ぶ事すら出来ない様な一方的な戦いであったが、真っ白な一筋の光が戦場に舞い降りた為、戦局は一気に変わる事となった。
『あれは!?』
『アレがストライクって奴か!?』
『違う! アレは……!』
その白亜の機体は地球連合軍の宇宙艦である『モントゴメリ』の前に現れると両手を広げ、背部に格納されていた機能の一つを解放する。
『なんだ、アレは……?』
『何をしようってんだ!?』
『何か起きるのなら、その前に落とす!』
『待て! ラスティ! 不用意に近づいては!』
まるで天使の輪の様な金色の円環を機体の上部に展開した地球連合軍のモビルスーツ『ストライクセイバー』は両腕を広げ、その脅威を世界に見せつけた。
ストライクセイバーに近づこうとしていたジンが二機、ストライクセイバーの目の前で突然動きを止めてしまったのだ。
『な、なんだ!? 機体が動かない!』
『操作を受け付けない! こんな! うわぁぁあああ!!』
『ラスティ!!』
そして完全に動きを止めたジンを近くに居たモビルアーマーが集中砲火を向けて撃墜してしまう。
それは、戦闘というにはあまりにも一方的で、残酷な攻撃であった。
無抵抗の相手を撃ち落とす。
やっている事はユニウスセブンと同じではないかと、怒りに震えたアスランは『ストライクセイバー』に向けて、遠距離から出来る最大の攻撃手段である『580mm複列位相エネルギー砲:スキュラ』を放った。
ジンの機体操作を奪う目的で静止している『ストライクセイバー』は動かず、そのまま直撃するかと思われた。
しかし、宇宙の闇を切り裂いて飛び込んできたストライクによって、その攻撃はシールドで受け止められてしまう。
『キラ……!』
アスランの頭には怒りだけがあった。
無抵抗な市民へ放たれた核ミサイル!
キラを利用し、欲望のままに動くオーブ! 地球連合!
同僚である仲間への惨い行いをするストライクセイバー!
そして、そんな連中の中でいつまでも自分を拒絶するキラ!
全てが、アスランにとって怒りの対象であった。
どうしてという想いが募る。
そして怒りという熱を胸の内に秘めながら、真っすぐにアスランの駆るイージスへと突っ込んできたキラを迎え撃った。
ストライクのビームサーベルを左腕のシールドで受け止めて、右腕のビームサーベルでストライクへと刃を向ける。
『アスラン!』
『キラ!』
『君はどうして! 争いを広げようとするんだ!』
『お前こそなんだ! どうしてそんな奴を庇う!』
『……そんな奴!?』
『無抵抗の人間を撃つ! そんなものは戦争でも何でもない! 虐殺だ! そんな卑劣な人間達の仲間になって、何がしたいんだ! お前は!』
『僕は……!』
『そのままストライクを抑えてろ! アスラン! アイツはヴェサリウスの艦砲で落とす! 避けても次に同じ事をする前に俺たちで囲んで落とす!』
『了解した!』
『や、止めてアスラン! そんな事をしたら!』
『邪魔をするな! キラ! アイツはここで落とす! ここで死ぬべきなんだ! そういう人間だ!』
『そ、んな……こと! なんで、君が!』
アスランが放った言葉でキラに強い動揺が走り、キラは胸を締め付けられる様な苦しみで動けなくなった。
かつて幼い頃に、あの子が撃たれた痛みを思い出して……。
しかし、その一瞬の隙をアスランが見逃すはずもなく、キラの駆るストライクを抑え込んだままスラスターを全開にし、戦場から遠ざける。
そして……ヴェサリウスから放たれた一撃が、『ストライクセイバー』を捉えた。
ギリギリの所ではあるが、ストライクセイバーは何とかシールドを構えて攻撃を防ぐが、その程度で戦艦の主砲が防げる筈もない。
シールドを構えた右腕は吹き飛び、ストライクセイバーは失った右腕から激しい火花を散らしながらモントゴメリの宇宙艦に叩きつけられた。
その光景を見た瞬間、キラは声にならない悲鳴を上げ、イージスから離れようとするが、アスランがそれを許さない。
いかにキラが強かろうと、ほぼ同性能の機体に抑え込まれてしまえば動く事も難しい。
そしてストライクを完全に抑え込んだまま、アスランはキラに語り掛けるのだった。
『アスラン! 離して!』
『このままヴェサリウスへ来い! キラ!』
『僕は! 君たちとなんか行かない!』
『キラ!』
子供の喧嘩の様な言い争いになってしまった二人であるが、キラはそんな中でも焦り、ストライクをストライクセイバーの元へ向かわせようとしていた。
しかし、やはり動けず、先遣隊のモビルアーマーやムウの駆るメビウス・ゼロが必死にストライクセイバーを守ろうとしている姿を見ている事しか出来なかった。
そして……モントゴメリを除く2艦が撃沈し、モビルアーマーも全滅。
旗艦であるモントゴメリも救命ポッドを一つ吐きだした後で轟沈した。
もはやこれまでかと思われた時、その声が宙域に響き渡った。
『ザフト軍に告ぐ! こちらは地球連合軍所属艦、アークエンジェル!』
『っ!?』
『ナタル、さん……?』
『当艦は現在、プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している!』
『なに!?』
『……え?』
『偶発的に救命ポッドを発見し、人道的立場から保護したものであるが、以降、当艦へ攻撃が加えられた場合、それは貴官のラクス・クライン嬢に対する責任放棄と判断し、当方は自由意志でこの件を処理するつもりであることを、お伝えする!』
『卑怯な!』
『そん、な……』
先の放送が流れてから、イージスはストライクの拘束を外し、緩やかに離れていったが、通信はキラと繋いだままであった。
『お前たちは……どこまで……!』
『あす、らん……』
『救助した民間人を人質に取る……! そんな卑怯者と共に戦うのが! お前の正義かっ!? キラ!』
『僕は……』
『……彼女は助け出す! 必ずな!』
その怒りの声と共にイージスはストライクから離れ、一人宇宙の中に取り残されたキラは、誰にも届かない叫び声を上げるのだった。