ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第57話『PHASE-10『分かたれた道』』

 ナタルの放送により、戦闘は終わった。

 しかし、ブリッジの中には重苦しい空気が満ちていた。

 唇を噛みしめたマリューとナタルが互いに睨み合っているのだ。

 

「ストライクセイバーの回収急げ! モントゴメリの救命ポッドもだ! アレにはジョージ・アルスター氏が乗っている! 戦闘が止まったと言ってもZAFTの動きには注視しろよ!」

「……取り敢えずの聞きは回避したものの……状況になんの変わりもないわね」

「それでも、セナ様が失われる様な事態は避けられました。これ以上の最良は無いかと思いますが」

「でも、彼女たちの信頼は失ったわ」

「命が失われたワケではない。それに、セナ様に出撃許可を出したのは艦長と記憶していますが」

「……わかってるわ」

 

 ため息と共にナタルの言葉を受け流したマリューは頭を抱えながら、ため息を吐いた。

 最悪の中の最良は選んだが、最悪には違いない。

 マリューは何故自分が艦長なのだろうかと深く思いため息を吐きながらモニターに映るストライクセイバーを見つめた。

 

 爆発はしていないが、機体は相当に酷い状態である。

 先ほどから通信が繋がっていないという事もあるし。不安は胸の奥で蠢いていた。

 

「ヘリオポリスからの避難民の中に医者がいたでしょう? もしもの時の為に医務室へ。それと、誰かラクスさんの様子を見に行って。人質とした以上、監視は必要だわ」

 

 それから、ストライクセイバーを連れてアークエンジェルへと戻ってきたストライクは、着艦してすぐにキラがコックピットから飛び出し、ストライクセイバーのコックピットへと向かう。

 そして、すぐに緊急解放レバーを引き、コックピットハッチを開いて、キラは息を飲んだ。

 

「セナ!」

 

 内部でも爆発が起こったのだろう。

 腹部から大量の血を流しながらコックピットの中で意識を失っているセナに、キラは飛びつき、外へ連れ出すと、急いで医務室へと向かうのだった。

 

 マリューの指示で医務室へと向かっていた医者はキラの腕に抱えられているセナを見て、目を見開き、急いで手術をするべく医務室へと急ぐ。

 そして、セナの姿を見て発狂しているフレイを医務室から追い出して、緊急手術を行うのだった。

 

 

 キラとフレイは医務室の外で、祈る様な気持ちのまま開かれない扉の向こうを見ていた。

 自分達には見ている事しか出来ないから。

 

 だが……それで、フレイの気持ちが抑えられるという事もない。

 

「……なんでよ」

「……」

「アンタ。言ったじゃない! 大丈夫だって言ったじゃない!」

「フレイ……」

「ねぇ! セナはコーディネーターなんでしょ!? なのに、なんであの子がコーディネーターに傷つけられてんのよ! ずっと、ずっと! ずっと!! あの子が何をしたって言うのよ!」

「分からないよ……僕にも」

「……」

「僕だって、分からないよ! セナが、セナばっかり、なんでいつも、こんな目に、あうのか! なんて!」

「キラ……ごめん。アンタだって辛いモンね。何もしてない私が、言っちゃいけなかったわ」

 

 気持ちが溢れて止まらないキラの涙と叫びを聞いて、フレイは冷静さを取り戻すと、キラを抱きしめてその背を撫でる。

 そんなフレイのぬくもりに、キラは泣いて、泣いて……やがて戦闘の疲れもあって、そのまま深い眠りの中に落ちてしまった。

 

 傷ついて、泣いて、それでも平和を作りたいと戦っているキラ。

 そして、キラと共に危ない戦場でも、傷つきながら飛び込んで行って、平和を手に入れたいと願うセナ。

 

 そんな二人をフレイは隣でずっと見てきた。

 最初はバカだと思ったけど、二人はどんな時も真剣で。

 どんな危険な目にあっても、苦しい想いをしても、ただ、世界の為にと歩いていた。

 それをずっと見ていたら、フレイも二人と一緒に平和を求めてみたくなったのだ。

 だが、彼女たちの歩みは、常に邪魔されてきた。

 

 その歩みを邪魔してきたのは……誰だ。

 フレイは燃える様な瞳で、フレイに膝枕されながら泣いているキラ。

 そして、命が失われるかどうかの瀬戸際にいるセナ。

 二人を見つめた後、その先……宇宙の向こうに居る者達を睨みつけた。

 

「……私はもう、許さないわ」

 

 

 それから半日程経って、セナが意識を取り戻した。

 キラとフレイは、ベッドの上で荒い呼吸を繰り返すセナの手を握り、泣きながら笑う。

 

「……ご心配を、お掛けしました」

「良いんだよ! セナが無事なら!」

「でも今度同じ真似したら酷いからね!」

「はい……」

 

 セナは二人を見上げながら柔らかく微笑む。

 そして、スッと目を細めた後、キラに一つのお願いをした。

 

「お姉ちゃん。一つ……お願いが、あります」

「何!? 何でも聞くよ! 言って!」

「ラクスさんを……ZAFTへ」

「っ!」

「お姉ちゃんも、おなじ、ことを……考えて、いましたよね?」

「それは、そうだけど」

「では、お姉ちゃんの心のままに」

「でも、ラクスを返したら、きっとまた戦争になる。そしたら……セナは」

「私は、大丈夫です。ここには私の事を想って下さる方しか居ませんから」

「……」

 

 セナの縋る様な目を見て、キラは小さく頷いて覚悟を決めた。

 もし、ラクスを返してからZAFTが攻めてきた場合、その全てを殺す覚悟だ。

 

「分かったよ」

「キラ……!」

「フレイ。悪いけど。こればっかりは譲れないよ。セナの願いだし。僕の願いでもある」

「なら、オーブまで連れていけば良いじゃない」

「残念だけど。オーブはアークエンジェルが近づいても沈めるだけだよ。正式に同盟を組んだワケじゃないからね」

「……」

「それに、宇宙にはラクスの家族もいる。家族は同じ場所で過ごすべきだ。それはフレイもよく分かってるでしょ?」

「……わかったわよ」

「ありがとうございます。フレイさん」

「良いわ。でも条件が一つあるわ」

「条件?」

「そう。私がキラの手伝いをするから、セナはベッドから一切動かない事。トイレに行きたくなっても、ここで流しなさい」

「そ、それは、少々恥ずかしいですが」

「ウッサイわね! それが条件よ。出来ないって言うんなら、私があの子を撃ち殺すから」

「ちょっ! あんまり過激な発言はしないでよ。ラクスもビックリしちゃうから」

「知らないわよ」

 

 そして、キラとフレイはコッソリとアークエンジェル艦内を動き、キラの部屋の前に立っていた見張りを命令でどかしてから、ラクスを連れ出して、ノーマルスーツを着せる。

 それから深夜で人の少ない艦内をコソコソと歩き、格納庫までたどり着いた……のだが。

 

「どこへ行くつもりだ? キラ」

「っ! オルフェ君」

「彼女は人質としたのだろう? 連れていけばまた戦闘になるぞ」

「うん。分かってる。それでも、こんな事は間違いだって思うから」

 

 ストライクの前に立っていたオルフェはジッとキラを見据え、その心を読んだ。

 真っすぐな、何の打算もない行動。その理由を。

 そして、キラだけでなくセナも同じ様にラクスを開放したいと願っている事を知った。

 

「分かった」

「オルフェ君?」

「キラだけではもしもの時に危ないだろう。僕も行く」

「……良いの?」

「あぁ。元より僕はこんな作戦など好んでは居ないからな。何も問題はないさ。この時代のモビルスーツにも十分に慣れた。何も問題はないさ」

「そっか。ありがとう。じゃあ一緒にラクスを返しに行こうか」

 

 キラの言葉にオルフェは頷き、キラはラクスと共にストライクへ。

 オルフェは単独でストライクセイバーへと乗り込んだ。

 フレイは、格納庫にある管制室からカタパルトを操作し、キラ達を送り出す。

 

 カタパルトハッチを開いた瞬間、アークエンジェル艦内にアラートが鳴り響いたが、フレイは気にせずストライクを誘導する。

 

『キラ。発進位置へ。無茶すんじゃないわよ。必ず生きて帰ってきなさい』

『うん。ありがとう。フレイ』

『フレイさん。出来ればお話もしたかったですが、またの機会に』

『ハッ! コーディネーターとなんてごめんよ。二度と私たちに関わらないで、宇宙の向こうで引きこもってなさい』

 

 フレイの返事に、ラクスは曖昧に笑ったままであったが、そのままキラと共に宇宙へと飛び出し、続いてストライクセイバーも出撃して行った。

 その騒動に、休んでいたマリューもブリッジへと飛び込んできて状況を確認する。

 

「どうしたの!?」

「ストライク、及びセイバーが出撃しました」

「何ですって!?」

 

 驚くマリューに応える様に、格納庫から通信が繋がりムウがマリューへと状況の報告をする。

 

『キラの嬢ちゃんが、お姫さんを連れ出したんだよ!! ……駄目だ! もうエアロック開けられちまった』

「なんだと!? セイバーには誰が乗っている! セナ様は!」

『坊主だけだ!』

「くそっ、どういうつもりなのだ。キラ様は」

 

 

 そして、アークエンジェルに攻撃は出来ずとも追撃はしていたヴェサリウスが、アークエンジェルからストライクとセイバーが出撃した事で、緊急警報を鳴らす。

 

『コンディションレッド発令! コンディションレッド発令! モビルスーツ搭乗員は、直ちに発進準備!繰り返す!モビルスーツ搭乗員は……』

 

『こちら地球連合軍、アークエンジェル所属のモビルスーツ、ストライク! ラクス・クラインを同行、引き渡す! ただし! ナスカ級は艦を停止! イージスのパイロットが、単独で来ることが条件だ。この条件が破られた場合、彼女の命は……保証しない!』

 

「なにぃ!? どういうつもりなのだ!」

「放送は聞いたな。ヴェサリウスを止めろ」

「しかし隊長!」

「そう騒ぐなアデス。キラ姫とラクス嬢は友人であったそうだからな。地球軍の非道が許せなくなったのさ」

「それは、理解出来ますが……しかし、それならば一緒に投降すれば」

「そう出来ない事情があるのだろう。しかし、何にせよ。これはチャンスだ。まずはアスランを出撃させろ! それから私が出る。シグーを用意させろ!」

「ハッ!」

 

 そして、クルーゼの指示通りに出撃したアスランはキラのストライクへと無防備に近づき、キラと通信を繋げる。

 

『キラ……! 俺だけだ。顔を見せてくれ』

『……アスラン。ラクスを返す! 受け取って欲しい!』

 

 キラはアスランの声に応え、ストライクのコックピットを開き、抱き上げているラクスを見せた。

 ラクスはアスランに軽く手を振って、声をかける。

 

『アスラン。お久しぶりですわ』

『確認した。引き受ける!』

 

 そして、アスランはイージスのコックピットを開き、外へ出ると、ストライクからイージスへと移動するラクスを受け止めて、イージスのコックピットへと飛び込んだ。

 これで全て終わったと、キラはイージスの傍を離れようとしたのだが、アスランはキラへと言葉を重ねた。

 

『キラ……! 一緒に来い!』

『……!』

『お前が地球軍と共に居る理由がどこにある! 平和なら! プラントでラクスと一緒に訴えれば良いだろう! 俺も協力する! だから』

『アスラン。僕は……』

『キラ。これ以上話をしていても無駄だ。彼女も返したんだ。アークエンジェルへ戻るぞ』

『オルフェ君……』

 

『オルフェ……?』

 

 キラが呟いた、ストライクセイバーのパイロットの名前を、父に似た厳しい表情でアスランは呟いた。

 その声に込められた感情を正確に受け取ったオルフェはフッと笑いながら、前世からの因縁の一人に嘲る様な言葉を向ける。

 

『そうか。イージスのパイロットはお前か。アスラン・ザラ。運命という物は分からない物だな』

『……!?』

『お前の正義など、ただ人を傷つけるばかりだ』

『なに!?』

『お前の元へキラは戻らない。まぁ、初めからお前の物ではない訳だがな。もう諦めろ』

 

 前世の恨みから、アスランを煽る様な言葉を繰り返すオルフェであったが、その言葉にそれほどの意味はない。

 オルフェが何を言おうが、キラはアークエンジェルを離れる事は無いし。アスランもZAFTを離れる事は無いのだ。

 これからどんな運命があり、二人が交わるのか。それは分からないが、オルフェはアスランという人間を完全に敵として認識していた。

 格納庫で、血まみれのセナが運ばれた時から。

 

 だからこれは、まぁ宣戦布告の様な物だが、やはりその行為に意味は無かった。

 だから、キラはオルフェに早く帰ろうと言葉を向け、オルフェはアスランを嘲笑うかの様な笑みを向けてから、何も出来ない男に背を向けて、アークエンジェルへと向かう。

 

 だが、その瞬間に、ヴェサリウスのエンジンに火が入った。

 

『アスランはラクス嬢を連れて帰投しろ!』

『隊長!?』

 

『こうなると思ったぜ!』

『ムウさん!』

『何もしてこないと思ったか!? 戦闘が始まるぞ!』

 

 そして高速で飛び出してきたシグーは、キラ達ストライクを通り過ぎ、迎撃で出撃してきたメビウス・ゼロの射撃もかわして、アークエンジェルへと銃口を向けた。

 

『母艦を落とせば、戻る場所は一つしかない……! もう戦う必要はなくなるのだ。キラ!』

 

 しかし。

 

『ラウ・ル・クウーゼ隊長!』

『っ!』

『止めて下さい。追悼慰霊団代表の私の居る場所を、戦場にするおつもりですか?』

『チィ!』

 

 その銃口が放たれるよりも前に、ラクスが周辺宙域へと響くような声で戦闘の停止を訴えた。

 

『そんなことは許しません! すぐに戦闘行動を中止して下さい!』

『くっ……!』

『聞こえませんか?』

『チッ! 困ったお嬢様だ! 了解しました! ラクス・クライン』

 

 クルーゼはラクスの声に舌打ちをしながらも頷き、母艦へと帰投する。

 そして、ラクスとアスランもまた、ヴェサリウスへと帰還し、プラント本国へ向けて戻ってゆくのであった。

 

『行ったか』

『そうだね。僕らも帰ろう』

『あぁ』

 

 それから。

 アークエンジェルはキラとオルフェ、ムウを収容し、地球へ向けて加速していくのだった。

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