アークエンジェルと交戦したヴェサリウスからアークエンジェルの位置情報を貰い、『ローラシア級MS搭載艦:ガモフ』は遂にアークエンジェルの姿をレーダーで捉え、戦闘を仕掛けようとしていた。
しかし、既に予測航路上では、戦闘を仕掛けてからおよそ十分程で第八艦隊と合流してしまうという事が判明していた。
「確かに、合流前に追いつくことは出来ますが…これではこちらが月艦隊の射程に入るまで、10分程しかありませんよ?」
「10分あるってことだろ?」
「それは確かにそうですが、10分でキラさんをフェイズシフトダウンまで持っていくのは至難の業ですが」
「しかし、最大のチャンスである事は間違いない。間抜けなナチュラル共は油断しているだろうからな」
「……」
「10分しかないのか、10分はあるのか、それは考え方ってことだ。少なくともキラを落とせなくても、足つきを落とせば戦局は変わる」
「まぁ、母艦を失えば流石のキラもどうしようもないだろうしな」
「そういう訳だ。二コル。お前はどうなんだ。無理だというのなら、このまま見送るというのも手だが……それはキラをナチュラル共の巣に送ると言っている様な物だぞ」
「……はぁ。分かりました。ではやりましょう。しかしやるからには作戦を立てる必要があります。ただ真っすぐに攻めて勝てる相手じゃない」
「それは同感」
「フン! それについては問題ない」
「と、言いますと?」
「ストライクセイバーを俺と二コルで追い詰め、ディアッカは足つきを狙う。これで良い」
「キラさんはどうするんですか?」
「その様なもの。上手くかわしながら落とせばいいだろう」
「おいおい。モビルアーマーはどうすんだよ」
「そんなモノ! 母艦と一緒に落とせ!」
「無茶言ってくれるぜ」
「それなら、単純にイザークがキラさんの相手をすれば良いでしょう。そして僕がストライクセイバーとモビルアーマー。ディアッカが母艦。これで良いじゃないですか」
「何ィ!?」
「お、良いね。じゃあそれで決まりだな」
「では、出撃準備をしますか」
「お、おい! 待て! お前たち!」
「何ですか? 自称エースのイザークさん。まさか敵のエースから逃げるんですか?」
「逃げる訳が無いだろう! しかしな。バランスがあるだろう。バランスが」
「ディアッカは母艦。僕はモビルスーツ一機とモビルアーマー。イザークはモビルスーツ一機。むしろ数も大きさも、イザークが一番少ないですし、小さいんですけど」
「ふざけるなよ! 二コル! ならば貴様がキラと戦えば良いだろう!」
「しょうがないですねぇ。そこまで言うのなら、怖がりで臆病者で腰抜けのイザークの代わりに僕がキラさんと相手をしてあげますよ」
「な、な、なな、なにィ!? 誰が腰抜けだとォ!?」
「イザークの事ですけど」
「貴様ァ! 良い度胸だ! そこになおれ!」
「何をどう吠えても、逃げたという事実がある限り変わりませんよ」
「くっ! 良いだろう! そこまで言うのなら、俺が相手をしてやる! ただし! 貴様らが何も出来んかったら覚えてろよ!」
それから。
イザークは怒りのままにデュエルへと乗り込み、アークエンジェルを射程に捉えた瞬間、宇宙の闇へと出撃していった。
そして、まずは先制攻撃と、デュエル、バスター、ブリッツの三機で背中合わせに飛び、ガモフの主砲を隠しながら接近し、まずは初撃をアークエンジェルに与えるのだった。
『散開!』
『では作戦通りに行きましょう! 僕はあちらのモビルスーツへ』
『おう。俺は足つきに行くぜ』
『行くぞ……! キラァァァアア!』
イザークは雄たけびを上げながらデュエルを真っすぐにストライクへと向かわせて、いきなりビームサーベルで切りかかる。
しかし、ストライクは冷静にそのビームサーベルをシールドで受け止めると、デュエルの腹部を蹴りつけて距離を取り、異常なまでの正確な射撃で、デュエルの武装やメインカメラを狙うのだった。
だが。既にキラの癖を読み切っているイザークはその攻撃を全てかわし再度キラに接近戦を仕掛ける。
そして、通信を無理矢理繋いで怒鳴りつけるのだった。
『どういうつもりだ! キラ!』
『うぇ!? イザーク!? 君まで!?』
『何故、戦場に出てきた!』
『何故って……! 君たちが!』
『何故お前はそんなにもオーブの為に戦うのだ! 俺が本当にお前と戦いたくて、こうして戦闘を仕掛けてきているとでも思っているのか!?』
『……イザーク』
『貴様とのシミュレーションは楽しかった! 勝っても、負けても! それ以上、そこに何も生まれなかったからだ! しかし、これは戦争だ! 一歩間違えれば、お前は死ぬ! 俺が、お前を撃ってしまうかもしれないんだ……!』
苦しみを吐き出すイザークに、キラはズキっと胸が痛む様な感覚があった。
悲しい別れはあったが、どうして戦場で再会などしなければいけなかったのか。
それはキラも同じ思いだ。
叫びだしたい気持ちを抱えている。
しかし、それでも守らなければいけない物があるから、心を殺して戦っているのだ。
だが、それはイザークも同じであったのだ。
『今すぐモビルスーツから降りろ!』
『出来ないよ』
『お前が母艦を守ろうとしているのは知っている! だが、戦闘を続ければやがて沈む! お前がどれだけ強くてもだ! だから……!』
『キラ!』
『オルフェ君!?』
キラの駆るストライクと激しい攻防戦を繰り広げていたイザークのデュエルであったが、ストライクセイバーがビームライフルを放ちながら乱入したことで、距離を離してしまう。
それを悔しく思いながらも、二コルと通信を繋げた。
『二コル! 状況はどうなっている!』
『すみません! イザーク! あの機体! 先日までとは別物です!』
『何!?』
『まるでこちらの攻撃が全て読まれているかの様で……思考を読まれているかの様な……』
『思考を読む、だと? バカバカしい。そんな事が出来る物か!』
『ですが!』
『何かしらの機能がある事は分かる! だが、そうであるならば、その様に対処すれば良いだけだ! 二コル。二機で奴を落とすぞ!』
『は、はい!』
イザークは先ほどと同じ様にストライクセイバーへと急接近しながら、ビームサーベルで切りかかる。
どれだけ心が読めようと、機体の性能が変わらないのであれば、接近戦で出来る事は少ない。
ただ、ビームサーベルをシールドで受け止めるだけだ。
しかし、それは一対一であるならば、の話だ。
『二コル!』
二機を相手にする場合は、足を止めた時点で致命傷となる!!
ストライクセイバーの背後から、ビームサーベルを構えて突っ込んできたブリッツに成す術もなく、ストライクセイバーは貫かれる……かと思われたが。
二機いるのはイザーク達だけでは無いのだ。
組み合っていたストライクセイバーとデュエルの間にキラが割り込んで、デュエルを蹴り飛ばしながらストライクセイバーを押しのけて、ブリッツのビームサーベルをビームシールドで受け止める。
『ぐあっ! キ、キラ!』
『やはりキラさんを抑えない事には!』
『えぇい! ディアッカはどうなっている! ガモフは!?』
『足つきをかなり追い込んでいます! でも、まだ!』
『くそっ! ならばこのまま時間を稼ぐぞ! 二コル!』
『はい!』
イザークは二コルと共に、再び接近戦を仕掛けようとした。
同程度の性能であれば、同じく接近戦をするしかない。
足止めとしては最良の選択肢であった。
しかし、キラはストライクをふわりと動かすと、大振りで迫ってきたデュエルのビームサーベルを軽やかにかわし、スラスターを吹かせて全力で離脱しながら体勢を整えたデュエルに追撃のビームライフルを放った。
イザークはギリギリでそのビームをかわしたが、キラはその隙にストライクでバスターへと迫っており、アークエンジェルから遠ざける為に蹴りつけ、ビームライフルを放って武装の一部を破壊しているのだった。
このままでは駄目だとイザークはストライクへと迫り、再び襲い掛かった。
今度は大振りで振らず、突き刺す様に迫る。
ストライクが真っすぐにデュエルへビームサーベルを伸ばせば、デュエルはコックピットを貫かれてしまっただろうが、キラにイザークを殺す様な事は出来ず、素直にデュエルの攻撃を受け取んる事しか出来ないのだった。
『投降しろォ! キラ!』
『出来ないよ! 君たちが、僕たちを放っておいてよ!』
『そんな事、出来る訳が無いだろう! お前はコーディネーターだ!』
『それでも、僕はオーブの人間なんだよ!』
『だからなんだ!』
『君たちとは一緒に居られない! 前も言っただろう!?』
『それでも! 傍に居ろと言っている! キラ!』
『っ!』
イザークとぶつかり合い、動けないキラ。
ブリッツとぶつかり合っている、オルフェ。
ムウの攻撃をフェイズシフトで無視してでも、アークエンジェルを狙うディアッカ。
そしてディアッカの駆るバスターがメビウス・ゼロの攻撃を振り切って、全ての火力をアークエンジェルへ向けた瞬間……それは起こった。
『……! アークエンジェルは……やらせない!』
『っ!? な、なに!?』
先ほどまでデュエルに抑え込まれていたストライクが、後方にスッと動いたかと思うとそのまま流れる様に前に迫ってきたデュエルを蹴りつけ、アークエンジェルとバスターの間に五発のビームライフルをほぼ同時に放った。
放たれた緑色の光は、いくつかのミサイルを正確に打ち抜き、その爆発によって周囲のミサイルも誘爆させてゆく。
そして、バスターへと急速に迫ると五発同時撃ちの影響で使えなくなったビームライフルを捨て、ビームサーベルでバスターが両手に持っている武装を両断してしまうのだった。
『こんなのアリかよ!? クソっ! 撤退する!』
極限まで集中したキラの意識は、背後から迫るデュエルにも気づいており。
横薙ぎに振り払われたビームサーベルを腕ごと受け止めて、そのままバスターが逃げた方へと蹴り飛ばすのだった。
『うわぁぁああ!』
元々圧倒的な強さは持っていたが、それ以上の鋭さを見せるキラに、イザークはまだ負けてないとさらにスラスターを吹かせてキラへと向かおうとした。
だが……。
完全にキラだけに意識が向いていたイザークは近づいてくる純白の機体に気づいていなかった。
『イザーク!!!』
『何!?』
フェイズシフト装甲に阻まれたが、ストライクセイバーのビームサーベルはデュエルの腹部へと向けられ、激しい火花を散らしながら装甲と内部の機械を焼く。
その衝撃で、イザークの前にあったメインモニターは吹き飛び、その破片がヘルメットのガラスを突き破って、イザークの顔に突き刺さってしまうのだった。
『うっ! うわぁ!』
『この! どけぇ!』
二コルはストライクセイバーへとビームライフルを放ちながら近づき、デュエルからストライクセイバーが離れた隙に、イザークの乗るデュエルを掴んで離脱するのだった。
『イザーク! 大丈夫ですか!? イザーク!』
『痛い……痛い……痛い!』
『イザーク……!』
『二コル! イザークは!?』
『危険な状態です! 撤退しましょう!』
『クソォ!』
そして、離れてゆく三機のモビルスーツを見ながら、キラは荒い呼吸を繰り返して、先ほどの感覚は何だったのかと自分の手を見つめるのだった。
『すまないな。キラ』
『ううん。大丈夫だよ』
『最低でも一機は落としたかったんだが……どうにも手ごわいな。連中は』
『うん……そうだね。でも、無理はしないで。オルフェ君』
『分かっているさ』
それから。
キラとオルフェはアークエンジェルへ向けて帰還し、その向こうに見える第八艦隊へと視線を向けるのだった。