キラはマリューとアークエンジェルの艦内を歩きながら、『明けの砂漠』なる組織について話していた。
「でも、なんでレジスタンスが、キラちゃんの事を知ってたのかしら」
「まぁ一応、この辺りは何度か来た事があるので、知り合いの方が参加しているのかもしれませんね」
「うーん。確かにストライクからキラちゃんを運び出す時に見られた可能性はある……か」
「何か気になりますか?」
「そうね。キラちゃん達を狙う組織は多いし。キラちゃんとセナちゃんを預かっている身としては、気を付けておきたいわ」
「ふふ。マリューさん。お母さんみたいですね」
「そこはお姉さん。にして欲しいわね。私、まだ26歳だから」
「これは失礼しましたー。マリューお姉さん」
「よろしい」
二人はクスクスと笑い合いながら、アークエンジェルの外へと繋がる出入口へとやってきた。
そして、自動小銃を構えながら敬礼をしてきた兵士たちに敬礼を返す。
「ラミアス少佐。我々は」
「護衛を連れて来るな。とは言われてないし。一緒に来てもらえる?」
「ハッ!」
普段は外している帽子を被り、マリューは引き締めた顔でハンドガンの状態を確かめて、懐に入れる。
キラはそんなマリューを見ながら周囲をキョロキョロと伺った。
「ん? どうしたの? キラちゃん」
「あ、いえ。僕の武器はどうしようかなと思いまして」
キラの言葉にマリューは、はぁとため息を吐くとキラの背中を勢いよく叩いた。
そして、キラに笑いかける。
「キラちゃんの仕事は、イザと言う時に逃げる事。良いわね?」
「……マリューさん達は?」
「キラちゃんを逃がすお仕事です」
「むー」
「はいはい。不満そうな顔をしないの」
マリューはキラの背中を叩き、近くにあった通信機でブリッジに繋げる。
「バジルール中尉。セイバーはどう?」
『ハッ! 既に発進準備は完了しております。いけるな? オルフェ少年』
『えぇ。いけますよ』
「じゃあ、先に出してもらえる? 私たちはその後に出るわ」
『『了解』』
マリューの指示でオルフェがストライクセイバーで出撃し、入り口からそれを確認したマリューは数人の兵士と共にキラを囲みながら、アークエンジェルのすぐ近くで集まっていたジープの元へと向かう。
ジープに乗った者たちは、アークエンジェルから白亜の機体が飛び出してきた事で、大騒ぎであった。
しかし、マリューは何ら気にした様子を見せないまま、彼らに近づき話しかけた。
「私たちに何か御用との事でしたが……お話を聞かせていただきましょうか? レジスタンスの皆さん?」
「あぁ。そのつもりだったんだがな。まずは銃を下ろしちゃくれねぇか? これじゃ落ち着いて話をする事も出来やしねぇ」
「そう言われましても、こちらもあなた方がどういう方々なのか分からないままですからね。お話をするにも、それなりに準備は必要でしょう? そちらも武装している様ですし」
「なら、まずは……キラ・ユラ・アスハと話をさせて貰おうか。そうすりゃ武器を向け合う意味がねぇってのはすぐに分かる」
「残念ですけど。あなた方の目的が分からない以上、キラちゃんを前に出す事は出来ませんわ」
「俺たちの目的だと? そんなモンずっと変わらねぇ! 砂漠の虎を倒して俺たちの土地を取り戻す! それだけだ!」
マリュー達はキラを隠しながらジッと恰幅の良い男を見据えていたのだが、マリューの背に隠れていたキラは、その懐かしい声に思わず声を上げて、前に飛び出してしまった。
「その声! もしかしてサイーブさんですか!?」
「っ! キラちゃん!」
「おぉ、キラ! 久しいな! っと……!」
「キラァァアア!!!」
「え? なんで、ここに!? ……っ!」
キラとサイーブが旧友に出会った時の様な笑顔で言葉と視線を交わし合った瞬間、サイーブの影に隠れていた金髪の少女が飛び出してきて、拳を強く握りしめたままキラを砂の上に押し倒した。
そして勢いよく拳を振り下ろす。
「っ! キラちゃんから離れなさい!」
「だ、大丈夫、ですから! マリューさん! っ!」
「殴られる! 覚悟はあるって! 言ってたよな! なら! 遠慮なく! やらせて貰うぞ!」
「分かったから、落ち着いて、カガリ!」
「これが! 落ち着いて! いられるか!! 死んだかと思ったんだぞ!! このっ! バカ野郎!!」
ポロポロと涙を流しながら、弱弱しい力でキラの胸に拳を落とすカガリに、キラはしょうがないなぁとでもいう様な微笑みを浮かべたままカガリの頭を撫でて、抱き寄せた。
カガリはキラの胸に抱き着いたまま大粒の涙を流す。
「ごめんね。カガリ」
「バカ! バカ!! 私は絶対に許さないからな!」
「うん。それでいいよ。だから、ごめんね」
「えと……」
「姉妹の感動的な再会は置いておいて、俺たちは俺たちの話をしようじゃないか。えぇ? 地球軍の新型特装艦。アークエンジェルの艦長さんよ」
「姉妹って、えぇ!? ま、まさか! オーブの……!」
「おっとそれ以上は言えねぇ話だ。そうだろ? アンタらも、よ」
「え、えぇ……そうね」
「改めて自己紹介といこうか。俺たちは『明けの砂漠』。砂漠に自由を取り戻す為に戦っている。戦士だ!」
サイーブ達に案内されるまま『明けの砂漠』のアジトへと向かったアークエンジェルは、深い渓谷の間に、その巨大な艦体を隠し、ゆっくりと着陸した。
そして、マリュー、ムウ、ナタルの三人が、未だカガリに泣きつかれているキラと共に『明けの砂漠』のアジトの奥へと向かう。
「ひゃー、こんなとこで暮らしてるのかぁ……」
「ここは、前線基地だ。皆家は街にある。……まだ焼かれてなけりゃな」
「街?」
「タッシル、ムーラン、バナディーヤから来てる奴も居る。俺達は、そんな街の有志の一団だ。コーヒーは?」
「ありがとう」
「好きなの使いな」
マリューは、サイーブに淹れて貰えると勘違いしていた為、何も無かったとでもいう様に咳払いをしてから、話を変える。
視線は目の前にある地図へと向かっていた。
「私たちはアラスカを目指しています」
「オーブ。じゃなくてか?」
「おいおい俺たちは地球軍だぜ? オーブは中立だろ?」
「だが……X-105。ストライク。だったか。あの機体を動かしてるのは、お姫様なんだろ? 返さなくても良いのか?」
「それは……」
「私は戻りませんよ。オーブには」
「キラ!」
「良いから。カガリは少し黙ってて」
「嫌だ! 私は黙らないぞ!」
「カガリ……」
『明けの砂漠』はサイーブとカガリ、そしてカガリの護衛として立っている男が一人。
地球軍はムウとマリューとナタル、そしてキラしか居ないこの場所では、カガリは何の遠慮もなく吠える。
この場所に居る人間は全員事情を把握しているのだから当然だ。
「お前が地球軍に協力する理由がどこにある! 兵器を作って、人を殺して! お前がやることはそんな事じゃないだろう!?」
「分かってるよ。でも、約束があるんだから」
「何が約束だ! オーブは中立だぞ! それを忘れたのか!」
「忘れてないよ。でも、世界を平和にしたいって気持ちも捨てられないの。だからマリューさん達と一緒に行くし、兵器だって作るよ。それが必要ならね」
「だが! 分かっているのか! お前がそうやってフラフラしている間にも!」
「間にも……?」
「セナが行方不明になっているんだぞ!! どこへ行ったか、誰も分からないと言っているんだ!」
「あ、あー」
「なんだ、その反応は! まさかお前! 知っているのか! セナがどこに行ったか!」
「うーん。まぁ。そうだね」
「どこだ! どこに居る! まさかプラントなんて言うんじゃないだろうな! ただでさえセナは無茶をする所があるんだから……って、待てよ? まさか」
「実はそのまさかで、僕と一緒にアークエンジェルに乗ってるんだ」
「なーんーだーとー!?」
「わ、わ、落ち着いて。カガリ」
「どうしてそんな危険な事をさせているんだ! お前は!! だから言ったんだ! 姉である私に全て任せていれば良いと! それで? セナもアークエンジェルに乗っているというのなら、何故ここにいない!」
「その、大怪我をして、今は医務室に寝てるから……」
「なんだと!!? こうしちゃいられない! すぐに医務室へ行くぞ! キラ!! 案内しろ!」
「はいはい。分かったよ。マリューさん。申し訳ないんですが、後はお願いします」
「え、えぇ。分かったわ」
嵐の様にキラを連れて飛び出して行ったカガリを見送りつつ、マリュー達は再び話し合いに戻る。
気持ちをパッと切り替えて、真剣な眼差しで言葉を向けた。
「えー、という訳だから、私たちはアラスカへ向かう必要があるのよ」
「そうか。まぁ、カガリが許すかは知らんが、目的は分かった。だが、それは少々面倒な旅だな」
「だとしても必要なの」
「まぁ、そうだな。なら、まずは、ここか。ザフトの勢力圏と言ったって、こんな土地だ。砂漠中に軍隊が居るわけじゃぁねぇがな。だが、3日前にビクトリア宇宙港が落とされちまってからこっち、奴等の勢いは強い」
「ビクトリアが?」
「3日前?」
「あ~らら」
「 ここ、アフリカ共同体は元々、プラント寄りだ。頑張ってた南部の、南アフリカ統一機構も、遂に地球軍に見捨てられちまったんだ。ラインは日に日に変わっていくぜ?」
「そんな中で頑張るねぇ、あんたらは」
ムウの軽口にサイーブは三人を見据えながらコーヒーを一口飲んだ。
そして、重々しい空気の中で口を開く。
「俺達から見りゃぁ、ザフトも、地球軍も、同じだ。どっちも支配し、奪いにやって来るだけだ」
「……」
「だから、本来は手なんざ貸す気は無かったんだがな……キラとセナには返しきれないくらいの恩があるんだよ。俺たちは」
「ニュートロンジャマーキャンセラーの件、とか?」
「それだけじゃねぇさ。地球軍がさっさと見捨てたこんな場所でもな。あの子達は体を張って一人でも多くの民を救おうってんで、走り回ってたのさ。ここじゃ天使だなんだと崇めている奴も多い。だからあの子達が望むのなら、いくらでも手伝うってワケだ」
「……ありがたいわ」
「へっ」
サイーブはマリューの感謝を鼻で笑い、関係ないと捨てた後、再び話を地図に戻す。
この周辺の地図を見ながら、アークエンジェルがアラスカへ抜ける為の道を考えるのだ。
「あの船は、大気圏内ではどうなんだ?」
「そう高度は取れない」
「山脈が越えられねぇってんなら、あとはジブラルタルを突破するか……」
「この戦力で?無茶言うなよ」
「んー。なら、頑張って紅海へ抜けて、インド洋から太平洋へ出るっきゃねぇな」
「太平洋……!」
「補給路の確保無しに、一気にいける距離ではありませんね」
「大洋州連合は完全にザフトの勢力圏だろ? 赤道連合はまだ中立か?」
「オーブに補給を願うという手段も……」
海に出てからの航路について話していたマリュー達にサイーブはハッと笑いながら最も重要な点を改めて説明した。
「おいおい、気が早ぇな。もうそんなとこに心配か?」
「ん?」
「ここ! バナディーヤにはレセップスが居るんだぜ?」
「あ……頑張って抜けてって、そういうこと?」
「はぁ……」
サイーブがコーヒーカップを置きながら示した場所にマリュー達は深いため息を吐いた。
レセップスという砂漠の虎と呼ばれるZAFTの英雄が乗る艦の名を聞いて、砂漠の虎に勝てなければ先に行く事は出来ないという現実を理解したからだ。