ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第72話『PHASE-21『紅に燃える海』』

 砂漠の虎と、アークエンジェル・明けの砂漠との戦いが終わった。

 勝ったのはアークエンジェルたちである。

 

「明けの砂漠に!」

「勝ち取った、未来に!」

「じゃあそういうことで!」

 

 満面の笑みで酒が注がれたグラスをぶつけ合い乾杯するサイーブとマリューとムウ。

 そして、彼らとは少し外れた場所で同じ様に酒を一口飲んで、せき込むナタル。

 

 場は混沌としていたが、彼らは皆笑顔にあふれていた。

 苦しい戦いであったが、戦いに勝利したのだ、これが嬉しくない訳が無いだろう。

 

 だから、そんな彼らの……勝利に喜んでいる人たちの気持ちを邪魔しない様にキラは離れた場所で一人夜空を見上げながらジュースを飲んでいた。

 

「はぁ……」

「バルトフェルドさんの事ですか?」

「っ! セナ……!」

「はい。セナです。隣、座っても良いですか?」

「うん。勿論。座ってよ」

 

 キラは少しだけ座っている場所を横にずらし、セナに場所を譲る。

 そしてセナは譲られた場所でゆっくりと座って空を仰いだ。

 

「まだ亡くなったと決まった訳ではありませんよ。私たちがモビルスーツのOSに仕込んだ緊急脱出システムはカナードさんのジンでも確かに起動しました。生きている可能性は高いです」

「でも……あの機体は爆発してた。巻き込まれたかもしれない」

「それでも。まだ分からないです」

 

「……!」

 

 キラはセナの言葉を聞きながら足を抱えて、顔を埋めた。

 泣き出したいのを必死に我慢しているのかもしれない。

 

「セナ」

「はい」

「どうやったら平和になるんだろうね」

「……」

「ハルバートン提督も亡くなっちゃって、バルトフェルドさんもきっと、僕らを憎んでる。憎しみは消えない。止まらないよ」

「……私は、希望を示し続けることが大切だと思います」

「きぼう……?」

「はい。平和な未来は確かにあるのだという希望です。希望さえ見失わなければ、人は光差す方へ歩いてゆけます」

「でも……今は、誰もそんなの見ようとしてないよ」

「大丈夫。今はみんな、少し冷静さを失くしているだけです。一度立ち止まる事ができれば、希望を探そうとすると思いますよ」

「そうかな……?」

「はい。私はそう、信じています」

 

 ニッコリと微笑みながら、優しい希望をキラに授けたセナに、キラは少し体を預けながらホッと息を吐いた。

 辛い世界をいくつも見てきた。

 多くの絶望に触れてきた。

 

 だが、それでも。

 それでもと立ち上がることが出来たのは、隣でキラと共に暗闇の世界を歩く子が居たからだ。

 どんな悲しみを前にしても、希望を示してくれた子が、居たからだ。

 

「セナ……」

「はい」

「もうちょっとだけ、頑張ろう」

「そうですね。私も……『もう少しだけ』」

 

 そして、二人の夜は静かに過ぎてゆき、夜が明けて……アークエンジェルは紅海に向けて進む事となった。

 遥かな海の先、アラスカを目指して……。

 

 しかし、そんな彼らの前に一つのトラブルが降りかかっていた。

 無論、それは砂漠の虎と戦う事に比べれば些細な事であるが。

 

「だから私を連れて行けと言っている! あんた達よりは情勢に詳しいし、妹たちをこのままにする事も出来ないからな!」

「僕は反対だよ」

「なんでだ!」

「君までアラスカに行ってどうするの。お父様だって心配してるでしょ?」

「うっ! お、お父様は関係ないだろう! それを言うのなら、お前たちがいつまでもオーブに帰ってこない方が問題だ!」

「全部終わったら帰るからさ。カガリは大人しくオーブに帰ってよ」

「いーやーだ! 私は乗る! 乗ると言ったら乗るからな!」

「もう……勝手なんだから」

 

 キラはため息と共にマリュー達へ確認するが、マリュー達もキラとセナに負い目がある為、断りきる事が出来ず、カガリと護衛のキサカを受け入れる事しか出来なかったのである。

 そして、カガリは明けの砂漠の人々と別れ、アークエンジェルへと乗り込み……アークエンジェルは紅海へ向けて出発した。

 

 

 それから。

 砂漠を出て、しばらく航行を続けたアークエンジェルは緩やかに海へと出た。

 

「海へ出ます。紅海です」

「おぉー!」

「ふぅー。では第二戦闘配備解除。半舷休息とします。少しの時間なら交代でデッキに出ることを許可します。艦内にもそう伝えて」

「やったぁー!」

 

 マリューは無事砂漠を抜けて紅海へ出た事でクルー達へ半舷休息を告げながら艦長席で大きく息を吐いた。

 ここまで随分と長い旅であったが、海へ出た以上アラスカへの道はそれなりに近く思える。

 

 そんなマリューにブリッジへと呼ばれていたキサカが話しかけた。

 

「しかし呆れたものだな、地球軍も。アラスカまで自力で来いと言っておいて、補給も寄こさないとはな。水や食料ならどうにかなるだろうが、戦闘は極力避けるのが賢明だろうな」

「そうですわね。言葉もありませんわ」

「それで? 私に話とは何かな」

「カガリさんの事について……貴方に確認をしておきたかったの」

「あのお転婆姫についてか? 既にご存じの事と思うが……アレはオーブの代表ウズミ・ナラ・アスハの子。カガリ・ユラ・アスハだ」

「まぁ……そうね。それで、そのカガリさんをオーブはどうするつもりなの?」

「どうもしないさ。元よりカガリの下にはお転婆な姫が二人いるからな。カガリ一人が家出をした所で、そこまで騒ぐ様な話ではない」

「……そう言われると妙な説得力がありますわね」

「あぁ、だから……まぁ、私が護衛として付いている内は何もない。知見を広げる為の旅の様な物だ……カガリは、カガリに甘い妹君のお陰で世界を知らないのでね」

「妹って……キラさんの事?」

「あぁ。その通りだ。幼いころからな。キラは多くの地獄を見てきたのさ。だから、そんな世界を見せたくないとカガリに隠してきていたのだが、ヘリオポリスでの事がキッカケで、外へと飛び出してしまった。もはやキラにも止められないだろう」

「……」

 

 キサカの話す事情に、マリューは何とも言えない気持ちで頷いた。

 聞いても良かった話なのか。

 聞いた以上、オーブに狙われるのではないか。

 みたいな不安も胸の中にあるが、この艦に乗って、今更不安も何もない。

 

 今までの旅が全てトラブルばかりだったのだから……。

 

「だが、別に我らは、あの子達を一人として連合軍に渡す気はないのだという事は、よくよく理解して貰いたいな」

「っ!」

 

 マリューがキサカの話でこれまでの事を思い出している時、キサカからの圧がマリューにぶつかり、ハッとなって顔を上げる。

 そこには何も変わらない顔をしているが、確かにオーブの軍人としてここにいる男の姿があった。

 

「あくまで我らはあの子達の意思を尊重しているに過ぎん。連合軍が利用しようとするならば、我らは最後の一人になるまで戦うだろう」

「わ、分かっておりますわ」

「なら、良いがね……。よく心に留めておいてくれると嬉しいな」

「はい……!」

「まぁ、我らはアラスカでオーブの避難民と共にオーブへ戻るよ。その時、キラとセナをどうするかは……まぁ交渉次第だろうな」

「そうですわね」

 

 交渉か。と未来の事を考えてマリューは胃が重くなるのを感じた。

 おそらく連合軍はキラとセナを手放さないだろう。

 しかし、オーブがそれを見逃すとも思えない。

 

 最悪は戦争かとマリューは起こって欲しくない未来を想って、再び深いため息を吐くのだった。

 

 

 アークエンジェルのブリッジでマリューが異を痛めている事を知らないキラたちは、格納庫でナタル達と共に新装備の調整を行っていた。

 

「それで、セイバーがソナーの代わりになるというのは……!」

「はい。セイバーには広域への索敵機能が付いていますから。アークエンジェルの周囲を飛ばす事で、アークエンジェルでも感知できない範囲の索敵が出来るんです。後はスカイグラスパーから海中散策用の発信機を広範囲に置いていただければ、セイバーで補足可能です」

「なるほど……」

「セイバーに乗るのはセナの嬢ちゃんじゃないと駄目なのか?」

「いえ。プログラムは作りましたので、後は飛ばしているだけで大丈夫です」

「って事は、セイバーはキラの嬢ちゃん、セナの嬢ちゃん、オルフェの坊主で回して、スカイグラスパーは俺とフレイの嬢ちゃんで回す感じか」

「それだとフレイの負担が大きくないですか?」

「別にこのくらい大丈夫よ。戦闘する訳じゃないんだし」

「いや、でもさ。長時間飛ぶのって大変だよ?」

 

 ワイワイと格納庫で集まりながら、いかに戦闘を避けるかと話す面々に、少し離れた場所から自信満々という様な顔で一人の少女が近づいてきた。

 そう。カガリ・ユラ・アスハである。

 

「ふふん。困っているみたいだな」

「うん。まぁ、困ってはいるけど……」

「なら、この私を頼れば良いだろう! このカガリお姉様をな!」

「……悪いけど。カガリは二度とスカイグラスパーに乗らないでね。危ないから」

「何だと!? 私の完璧な操縦を見てなかったのか!?」

「見てないです。なので、そんなものは存在しません」

「おい! キラ!」

「誰か、他にスカイグラスパーに乗れそうな人を探しましょう。軍人のムウさんは良いですけど、フレイにはやっぱり負担が大きいと思います」

「だから私が!」

 

「そういう話が来ると思って! 練習してたぜ!」

 

 キラがカガリの言葉を流しながら格納庫で、誰か居ないかなと呟いた言葉に、一人の少年が大きく手を上げた。

 副総舵手としてブリッジに居たが、半舷休息でミリアリアと共に格納庫へ来ていたトール・ケーニッヒである。

 

「え!? トールって戦闘機乗れたの!?」

「あぁ。一応資格もある。それに、ちょくちょく時間を見つけてスカイグラスパーのシミュレーションもしてたぜ」

「そう。トールってばフレイに負けてられないって。毎日シミュレーションやってたのよ?」

「ま、これでもオーブ軍に入隊する為の訓練を続けてたからな! このくらいは当然だよ」

 

「そうなんだ! ムウさん、どうでしょうか?」

「んー。まぁ、戦闘も基本的には無いしな。良いんじゃないか。軍人希望ってんならこっちも遠慮は無いしな」

「そ、そこはお手柔らかにお願いしますっ!」

「おーおー。そう怯えんなって。ま、最初は偵察訓練からだ! 気合を入れろ! トール・ケーニッヒ少年!」

「はい! フラガ少佐!」

 

 ムウの言葉にトールは敬礼で応え、流れるままにトールもスカイグラスパーの偵察部隊に加わる事となったのである。

 非情に不満そうな顔をしているカガリを置き去りにして。

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