海を進むアークエンジェルが敵と遭遇しない為に、セナが提案したストライクセイバーを中心とした偵察作戦が採用される事となった。
ストライクセイバーがアークエンジェルの進行方向先に先行し、その周囲をスカイグラスパーが円を描く様に周回しつつ海中探索用の発信機件ソナーを海に落とすのだ。
これにより海中を進むZAFTの潜水艦を敵よりも早く補足できるという話である。
もし、万が一アークエンジェルの後方から接近する艦があっても、広範囲に落とした発信機からの信号により、素早く敵をキャッチして先制攻撃を仕掛ける。
そういう作戦であった。
この広域警戒網作戦を実施する為には常に機体を飛ばしている必要がある為、スカイグラスパーは3機を使って交代で先行索敵を行い。
スカイグラスパーのカバーと信号解析にストライクセイバーがキラ、セナ、オルフェの三人で交代しながらストライクセイバーを飛ばし続ける。
それなりに忙しい偵察にはなるが、戦闘するよりはマシという事で、キラも積極的であった。
そして、実施された偵察作戦であったが、かなり効果があった様で、何度かZAFTの潜水艦を発見し、戦闘を回避しながら航行を続ける事が出来たのである。
そんなこんなで、穏やかで平穏な時間を過ごしていたアークエンジェルであったが、一部人間達の間は平穏とはほど遠い状態になっていた。
主に、フレイ・アルスターとオルフェ・ラム・タオである。
「チッ」
全身で不機嫌ですよという様なアピールをしながらフレイは甲板の外に居る子達を見て、舌打ちをする。
フレイの視線の先には、キラとセナの間で二人を抱き寄せながら笑う少女が一人。
言うまでもなく、カガリ・ユラ・アスハであった。
カガリはアークエンジェルの中に居るのは退屈だからとキラやセナを見つけては、構え構えと抱き着いているのだ。
疲れる偵察任務を終えて帰ってきたフレイが、癒しを求めて二人を探す度にこれである。
フレイの苛立ちは、カガリと遭遇するたびに。
キラとセナが独占されているのを見る度に増えていった。
そして、そんなフレイと似たような状況になっていたのがオルフェ・ラム・タオである。
彼もまた、久しぶりに感じた地球の重力に機体を引っ張られながらも、一定の距離を保って、機体を飛ばすという繊細な作業に神経をすり減らして疲れていた。
アークエンジェルの位置と、スカイグラスパーの位置を常に確認するのはかなり困難な作業で、回を重ねるごとに、疲れが酷く溜まっていくのだ。
だから、帰還してからはキラか、セナを見つけて癒しを貰おうとしていたのだが……二人は常にカガリに拘束されている。
オルフェの苛立ちは少しずつ溜まってきていた。
「旧人類め……」
そんなオルフェとフレイが偶然アークエンジェルの廊下で出会い、遠方でセナに甘えているカガリを目撃した瞬間。
二人は言葉にしない思いが繋がったのを感じた。
無論フレイはアコードでも、感覚が拡張されて、人の意識に触れられる様になった訳でもない。
ただ、偶然二人の考えが重なっただけだ。
「フレイ・アルスター」
「オルフェ」
「私に良い考えがある」
「奇遇ね。私も同じだわ」
二人は邪悪な笑みを浮かべると、セナに膝枕をされながら寝転んでいるカガリへと視線を送った。
地獄に叩き落してやるぞ……カガリ・ユラ・アスハ。
そんな声が、二人の近くから聞こえてくる様であった。
しかし、そんな思いが交わされている事を知らないカガリは呑気にセナの膝枕で青空の下の航海を堪能していた。
「まったく。お父様も酷いと思わないか? お前は世界を知らなすぎる! なんて言われてな。それでついカッとなって、家を出ていったんだ」
「それでレジスタンスに入ったんですか?」
「あぁ。そうすれば分かると思ったからな。それに、北アフリカはセナがよく行っていた場所だろ? だから、セナの事を知っている奴も居るかもな。なんて思ったんだ」
「もう、カガリお姉様は……危ないですよ? その様な」
「そんなこと! セナに言われたくない! お前だって一人で戦場を巡っていたじゃないか。力もないくせに!」
「それはまぁ……その通りなのですが」
「だからこそ! 私は少しだが、キラの気持ちも分かった様な気がする」
「キラお姉ちゃんの気持ち、ですか?」
「あぁ。キラはな。ヘリオポリスでな。連合軍のモビルスーツの開発に協力していた。最初はそれを知った時に、オーブを裏切ったのか! 中立の理念を忘れたのか! なんて思ったんだが……ヘリオポリスではオーブのモビルスーツも開発してた。なんて聞いてな。私はキラが良く分からなくなった」
「……」
「連合軍に付いたワケじゃなくて、キラは連合軍に協力しながらオーブの防衛戦力を高めていたのさ……それが正しいって事はないと思うんだけど、でも……キラはキラなりにオーブの事を考えているんだって分かってな。私はどうなんだろうって思ったんだよ」
カガリはセナの足の上に頭を乗せながら空を仰ぐ。
どこまでも突き抜ける様な青空と白い雲を見つめながら拳を強く握りしめた。
「砂漠でさ。戦いの中で、本当に多くの人が死んでいったんだよ。その中にはさ。アフメドっていう私達とそれほど変わらない子供もいた。けど、戦争の中で、殺されたんだ。ZAFTの連中に!」
「カガリお姉様は、コーディネーターが憎いですか?」
「それは! 違う……だって、キラやセナは、大好きだ。誰かを虐げたりもしない」
「では、ZAFTがお嫌いですか?」
「……嫌いだ。アイツらは地球に攻め込んできて、いっぱい人を殺した。ニュートロンジャマーも、モビルスーツも……。多くの人を今も傷つけてる。私はそれが許せないんだ」
「では、カガリお姉様はZAFTと戦いますか? 彼らを全て、滅ぼすまで」
「それは! それは……何かが違うと、思う。上手く言えないけど! そういう事じゃないんだ。そうじゃない」
カガリは目を右手で覆いながら呟いた。
心の中にくすぶっている想いは、様々な人との出会いの中で揺れている。
カガリの中にある正しさが、形を持たないまま燃えていた。
「憎しみは、憎しみを生み出す事しか出来ません」
「……? セナ?」
「例えば、カガリお姉様が誰かの夫を撃てば、その妻はカガリお姉様を憎むでしょう。カガリお姉様が誰かの息子を撃てば、その母はカガリお姉様を憎むでしょう。そしてカガリお姉様が誰かに撃たれれば、私も、その撃った人を憎むでしょう」
「セナ……」
「昔、私とキラお姉ちゃんがお父様に聞いた言葉です。戦争を止める為には、憎しみを持って戦ってはいけないのです。どこかで、誰かが憎しみの連鎖を断ち切る必要があります」
「憎しみの……連鎖」
「これ以上の悲劇を生み出さない為に、銃を捨てる覚悟が必要なんです」
セナは優しく微笑みながら、カガリの髪を撫でて語り掛ける。
この憎しみに満ちた世界でも、平和を見つける為の方法を。
「私にも、出来るかな」
「出来ますよ。カガリお姉様なら。キラお姉ちゃんもきっと。カガリお姉様と一緒に未来を見たい筈ですから」
「そうか……そうだよな」
カガリは青空を見上げたまま、目を伏せた。
今、確かに渡された『願い』を胸に秘めながら。
「もっと学ばなくてはいけないな。私は……キラとセナに誇れる姉になれるように」
「はい。私も期待しています」
「んー! そうと決まったら、なんか走りたくなってきたな! ちょっと走ってくる!」
「え?」
「話に付き合ってくれてありがとうな! セナ!」
「あっ! アークエンジェルの中は走ったら危ない……ですよ。って行ってしまいました」
遠ざかってゆくカガリの背中を見ながらセナはしょうがないなぁと息を漏らした。
そして、ゆっくりと立ち上がると仮眠をする為に部屋へ向かうのだった。
そして、アークエンジェルの中で人が居ない道を選びながら走っていたカガリは、不意に廊下で一人の少女と出会う。
燃える様な赤髪に、やや敵意のある目を向けてきた少女……フレイ・アルスターだ。
「ちょっと。危ないわね」
「おっと、すまないな!」
「まったくオーブのお姫様ってのは呑気で良いわよね!」
「何?」
「あー。ごめんなさい。キラやセナは関係なかったわね。姉だ、姉だって騒いでいる子が、ただ、守られて、何もしないでアークエンジェルに乗っているだけだものね!」
「おい! それはどういう意味だ!」
「どうもこうも無いわよ。私はさっき偵察任務から帰ってきて疲れてるの。通してくれる? ずっと暇している人には分からないでしょうけど」
「くっ!」
「悔しかったら、貴女も哨戒任務をやれば? ま、出来ないでしょうけど!」
「っ! そこまで言うならやってやろうじゃないか!」
売り言葉に買い言葉。
フレイの挑発にアッサリと乗ったカガリは、ドカドカと足音を鳴らしながら格納庫へと向かい、トールが乗ろうとしていたスカイグラスパー3号機を奪い取ると、そのまま偵察任務へと飛び出してしまうのであった。
カガリが出撃した事でブリッジでは大騒ぎであったが、カガリが来る場所を予測し誘導したオルフェとカガリを挑発したフレイはようやく時間が出来たとセナの元へ向かっていった。
しかし、不運というのは誰も予測していないタイミングに起こるもので。
カガリが出撃している事を知らないキラが、定期時刻になりアークエンジェルへと戻るタイミングに、カガリがZAFTの輸送機を発見してしまう。
それはジブラルタルからカーペンタリア基地に移動中の機体で、カガリは咄嗟にスカイグラスパーの主砲で輸送機を攻撃するが、輸送機からの反撃を受けて被弾してしまう。
そのまま操縦不能となったスカイグラスパーは海へと落ちて……近くにあった小島へと流れ着いてしまうのであった。
「こちらカガリ、アークエンジェルどうぞ。アークエンジェル……! えぇい! あぁもう! くそぅ!」
スカイグラスパーの通信機は繋がらず、緊急用にと取り出した食料や資材も海に流されてしまった。
そんな踏んだり蹴ったりな状況に、カガリはため息を吐きながら、島に上陸して何か食料を探そうと、独り言を呟きながら砂浜を歩く。
「小さい島なんだな。無人島か? ん? あっ!」
そして、カガリはふと顔を上にあげて……見つけてしまった。
高い岩の上からカガリを見下ろしている赤いパイロットスーツを着た少年を。
「動くな!」
「っ!」
カガリは咄嗟に銃を構えて少年を発砲し、叫ぶ。
が、少年に弾は当たらず、少年は岩陰に隠れてしまうのだった。
突如として訪れた、少女と少年の邂逅。
この出会いは何をもたらすのか……!
今はまだ誰もしらない。