ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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この話と、次にもう一話あります。


第74話『PHASE-23『二人だけの戦争』』

 カガリの乗ったスカイグラスパーが行方不明になったという連絡はすぐにアークエンジェルへと送られる事となった。

 キラと交代し、飛び出したセナのストライクセイバーがスカイグラスパーの反応が無い事に驚き、すぐにブリッジへと連絡をしたのだ。

 

「ロストしたのはどこなの? 無線は?」

「駄目です! 応答ありません」

「レーダーもニュートロンジャマーの影響酷く、何も見えません」

 

「艦長。スカイグラスパーから最後に受信したデータには戦闘の痕跡が見られます。MIAと認定されますか?」

 

 ナタルがマリューへ告げた言葉に、サイが疑問を感じて近くに座っていたトノムラに問う。

 

「何です? それ」

「ミッシング イン アクション。戦闘中行方不明……まぁ確認してないけど……戦死でしょ、ってことだな」

「「え!?」」

 

「それは早計ねバジルール中尉。撃墜されたとは限らないのよ? 日没までの時間は?」

「えっと、約一時間です」

「捜索されるおつもりですか!? ここはザフトの勢力圏で!」

「ストライクとセイバーの二機で周辺海域の調査は出来るかしら。スカイグラスパーはもう厳しいわね」

「艦長!」

「報告にでも記録にでも、好きに書きなさい! あの子はキラちゃんとセナちゃんの姉妹なのよ。放っておけないでしょ!」

「それは……そうですが。アークエンジェルが沈められてしまえば元も子もありません」

「ここで無視しても、キラちゃん達から見捨てられるわ。そうなったら同じ事でしょう!」

 

 その正論に、ナタルは言葉を飲み込み、アークエンジェルはカガリが行方不明となった周辺の海域へ移動しつつ、捜索を行う事となった。

 

 

 そして、当のカガリは、小さな無人島で、ZAFTの兵士と銃を向け合いながら、ジリジリと距離を詰めていた。

 しかし、ZAFTの兵士はカガリの死角へと移動すると高速で近づき、カガリの銃を蹴り上げてしまう。

 

 そのままカガリを押し倒して、ナイフを真っすぐにカガリへと振り下ろそうとして……!

 

「きゃあぁあぁああ!」

「っ! 女……?」

「何だと思ってたんだよ!」

 

 カガリは涙目になりながら少年を見上げるが、少年は困惑した表情を浮かべるばかりであった。

 

 そして、カガリはそのまま後ろ手で拘束され、荷物を少年に奪われてしまう。

 

「お前、本当に地球軍の兵士か? 認識票もないようだし、俺は戦場でああいう悲鳴は聞いたことがないぞ」

「わ、悪かったな」

「俺達の輸送機を落としたのはお前だな。向こうの浜に機体があった」

「私を落としたのはそっちだろうが!」

 

 藍色の髪の少年に呆れた様な目を向けられながらカガリは必死に少年へと吠える。

 そんな姿に、今まで体験してきた戦争とは違う物を感じて、少年はため息を吐いてしまうのだった。

 

「所属部隊は? 何故あんなところを単機で飛んでいた!」

「私は軍人じゃない! 所属部隊なんかないさ! こんなところ来たくて、来たんじゃない……!」

「なら、なんでこんな所に居たんだ」

「それは……色々あったんだ! 色々!」

「話にならないな」

 

 少年はカガリから情報を引き出すのを諦めて、輸送機から一緒に降りてきたモビルスーツへと向かった。

 そして、通信が繋がらないか試し、救難信号を発信する装置を海に向かって射出する。

 

「どのチャンネルも拾わないなぁ。ん? スコールか」

 

「っ! わぁ! っぷ! このっ!」

「おいお前、何をやっている」

「見て分かんないかよ!」

「はぁ?」

「動けないんだよ。突っ立ってないで早く助けろよ!」

「威張って言える立場か?」

「いいから早くしろってば!」

 

 後ろ手で拘束されている為、岩の間で雨水と増水している水に溺れながらバタバタとしているカガリに少年はため息を吐きながら手を差し伸べた。

 

 そして、助け起こしてからぴょんぴょんとカガリが跳ねながら雨の当たる場所で体を洗っている光景を目を丸くして見る。

 

「おい! どこへ行く?」

「ちょうどいいから洗うんだよ! 砂だらけなんだから!」

「……」

「ふわぁあ……! 気持ちいぃー!」

 

「はぁ」

 

 何故か。

 少年はカガリが無邪気に雨で喜んでいる姿を見て、昔ずっと一緒だった少女を思い出し、懐かしさに微かに笑みを落とした。

 

『ほらー! アスランもー! こっちに来なよー! 気持ちいいよー!』

 

 などと、本人とは会話する事すら難しい状況だというのに、記憶の中では元気いっぱいで少女は少年に微笑みかける。

 その姿が固まっていた少年の心を溶かしてゆく様で……少年は軍人としての自分よりも、ただのアスランとしての行動を優先させるのだった。

 

「……? なに?」

「武器のないお前が暴れたところで、大したことはない」

「なんだと!」

「あまり暴れるなよ。俺は別にお前と殺し合いたい訳じゃないんだ」

 

 だから、アスランはカガリを縛っていたロープをナイフで切ると、カガリを開放し、カガリに背を向けて自らの機体であるイージスへと向かう。

 そんな無防備な姿にカガリもすっかり毒気を抜かれてしまい、大人しく服を洗ってから近くの探索を始めるのだった。

 

 

 それから少しして、カガリは良い場所を見つけたと大声でアスランを呼んだ。

 

「おい! お前ー!」

「……今度はなんだ」

「洞窟を見つけたぞ! 雨が止むまでここで休もう!」

「休もうって……俺たちは敵同士じゃないのか?」

「関係ないだろ。そんな事。ここで殺し合ったって何も生まれない」

「……まぁ、そうだな」

 

 アスランはカガリの言葉に頷きながら、カガリが見つけたという洞窟へ入り、ちょうど洞窟の中に落ちていた木の枝に火をつけてたき火をするのだった。

 そしてたき火を挟んで正面に座るカガリを見ながら、アスランは小さく息を吐いた。

 

「おい」

「うん?」

「あんまりこっち見るなよ。服、乾かすんだから」

「好きにすれば良いだろう」

「だから! 好きにするからこっちを見るなって言ってるんだよ!」

「あぁ、そういえばお前は女だったな」

「女だった、なぁ!? バカにすんなよ!」

「分かった、分かった。向こうを見ているから好きにしろ」

 

 アスランはまるで戦場とは思えない様な空気の中、カガリから視線を外し、洞窟の入り口へと顔を向けた。

 ザァザァと振り続ける雨は、外へ出る事を拒絶している様であり、アスラン達の時間がまだまだ終わらない事を示している様でもあった。

 

「良いぞ。悪かったな」

「あぁ」

 

 アスランがカガリの方へ向くと、カガリは全身をすっぽりタオルで包んでおり、チラチラと見える手足は何も付けていない様に見える。

 その様子にアスランはまさかと思いながらカガリに問いかけた。

 

「まさか、裸になっているんじゃないだろうな」

「ばっ! 急に何を言い出すんだよ! お前は!」

「気になっただけだ」

「気になったって、お前!」

 

 アカデミーでサバイバルについての講習を受けた際に、毒蛇等の地球に住まう危険生物についての知識を得ていたアスランはその危険性をカガリに説いたのだが、カガリは顔を真っ赤にして怒鳴るだけだった。

 コミュニケーションの難しさに振れたアスランはため息を一つ吐いて、自分が持ってきた緊急用のバッグを漁る。

 そして、食料を一つカガリに投げ渡した。

 

「ほら」

「ん?」

「電波状態が酷い。今夜はここで夜明かしになる可能性が高いぞ?」

「電波の状態が悪いのは、お前達のせいじゃないか!」

「……先に核攻撃を仕掛けたのは地球軍だ」

「でも地球に住む全員がお前たちに攻撃した訳じゃない」

「誰も止めなかったのなら、同じことだ」

「っ! なら、地球で戦争を止めようとした奴を巻き込んだ事も、何とも思ってないって事か!?」

「それは……!」

「必死に戦争を止めようとしてた奴が居たんだ! それでも、結局止められなかったから、同じことだって、核を撃った奴と同じだって! お前はそう言うのかよ!」

 

 アスランはカガリの言葉に、キラやセナを思い返して唇を噛みしめた。

 同じな訳が無い。

 

 でも、ならどうすれば良かったというのだ。

 あの痛みを、苦しみを飲み込めば良かったとでもいうのか?

 母であるレノアの苦しみを、無視して、虐殺者を受け入れろとでもいうのか?

 

 あり得ない。

 

「撃たなきゃいけない理由があった」

「関係ない人間を巻き込んでもか? ヘリオポリスだって、お前らの攻撃で崩壊したんだろ!」

「それは……オーブが地球軍と手を組んでモビルスーツを開発していたからで」

「なら軍事基地だけを狙えば良かっただろ!?」

「っ」

「ヘリオポリスでどれだけの人間が死んだと思う!? お前らの言う撃つ理由って奴はな! ヘリオポリスで家族を亡くした奴にだってあるんだ!」

「っ!」

「どんな言い訳をしたって、お前らは、核を撃った連中と同じことをしたんだ! 多くの民間人を殺した! その事実から目を逸らすなよ!」

 

 震える手を握りしめて、アスランは目の前に居るカガリを見据えた。

 燃え滾る様な瞳。

 彼女も誰か大切な人をヘリオポリスで亡くしたのだろうか。

 

 もしくはレノアの様に、生きながら死んでいる様な状態になってしまったのだろうか。

 

『虐殺者』

 

 その言葉が、アスランの頭の中でグルグルと回り続ける。

 自覚が無かったワケじゃない。

 でも、目は逸らしていた。

 キラが、キラを助けたいと願って、それだけを想って行動していたから。

 

 中立などと言いながら、プラントを欺いて、キラを利用した連中がどうなろうと知った事じゃないと思っていた。

 だが……。

 だがもしも……。

 

 あのコロニーに、キラの大切な人が居たとして……。そんな人を殺した自分をキラは赦してくれるだろうか?

 

 問いかけた言葉は『否』で帰ってきた。

 当然だ。アスランはレノアを傷つけた事を一切許していないのだから。

 カナードを殺し、イザークに傷をつけたストライクセイバーを、決して許す事は無いのだから。

 

 だから……キラもきっとアスランを赦さないだろうと考えて、目を伏せた。

 自らが犯した罪に向き合って……潰されそうになる。

 

「すまなかった……なんて言葉に意味は無いかもしれないが。謝罪だけはさせて欲しい」

「あ、いや! 別に謝って欲しかったわけじゃなくて」

「分かっている。自分の行動から目を逸らすなって言いたかったんだろう?」

「そ、そうなんだ」

 

 わたわたと慌てているカガリに、アスランは心にあたたかな物を感じて、微笑みを落とす。

 見ていて飽きない。

 キラやセナと月で過ごしていた時の様な気持ちになっていた。

 

 カガリはキラでもセナでも無いというのに。

 

「私も、悪かったな。お前も、きっとユニウスセブンで大切な人を亡くしたかもしれないのにな。酷い事を言った」

「いや……良いよ。お互い様だ」

 

 それからアスランとカガリは少しだけ打ち解けて、取り留めのない話をした。

 アスランは月で過ごした幼馴染の話を。

 カガリは世話の掛かる妹たちの話を。

 

 愛おしい思い出を語り……僅かだが荒んだ心を癒してゆく。

 

 そして、夜が明けて……雨も止み、アスランはイージスで昨晩海に投げた発信機からの信号を追う。

 

『ア……ラン……アスラン……こえますか……応答……がいます』

「二コルか!?」

『アスラン! よか……た……今電波から位置を……』

『おい! 貴様! 生きて……だな!? 帰ってきたら……じゃお……ぞ!』

『怒鳴ら……で……さいイザーク!』

『良いんじゃ……の? 早めの休暇っ……でさ』

『バカを……なよ! ディ……カ!』

 

 まったく変わらないな。

 なんて笑いながらアスランはカガリにも通信が繋がったことを教えようとコックピットから外に顔を出した。

 

「無線が回復した!」

「本当か!?」

「っ!? 何か来るな? 海か」

「なんだ!?」

「こっちは救援が来る。他にも、海から何か来るぞ。お前の機体がある方角だ」

「……!」

 

「俺はこいつを隠さなきゃならない」

「え!?」

「出来れば、こんなところで戦闘になりたくないからな」

「ぁ! ……うん。私も機体のところへ戻るよ。どっか隠れて様子を見る」

「そうか」

 

 アスランは少しだけ名残惜しそうにカガリの背中を目で追う。

 そして、崖を登ってゆくカガリに、堪えられなくなり、声をかけた。

 

「お前! 地球軍じゃないんだな!?」

「ちがうー!」

「……」

 

 どうして地球軍でも無いのに、誰も彼も戦おうとするのか。

 悔しさを噛みしめながらアスランが唇を噛みしめていると、崖の上に立ったカガリがアスランに声をかける。

 

「私は、カガリだ! お前は!?」

「……アスラン!」

「そうか。じゃあな! アスラン」

「あぁ……」

 

 アスランは遠く向こうへ消えてゆくカガリを見送りながらイージスのコックピットへと戻るのだった。

 また再び戦場へ戻る為に。

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