地球軌道上に存在するオーブ連合首長国が所有する宇宙ステーション『アメノミハシラ』
当初の予定では軌道エレベーターとして建造が進められたが、地球プラント間での戦争が始まり、その計画は一時中断され、現在では兵器生産を行う軍事用宇宙ステーションとして機能している。
特にモビルスーツの製造においては、アメノミハシラの様に無重力空間に存在する特殊ファクトリーでなければ製造不可能な素材も数多く、モビルスーツの大量生産を進めるオーブとしては必要不可欠な拠点であった。
そんな拠点であるからこそ、管理はオーブの五大氏族の一つであるサハク家が行っており、アメノミハシラでは常時、サハク家の『ロンド・ミナ・サハク』が拠点の中で生活しながら、アメノミハシラを守っているのだった。
そんなアメノミハシラにオーブより一つの大型シャトルが到着し、サハク家の『ロンド・ギナ・サハク』が舞い降りた。
「久しいな。ギナよ」
「あぁ。久しいな。ミナよ。こちらは変わらぬ様だな」
「そうだな。実に静かな物だよ。つい先日は第八艦隊とZAFTがぶつかり合っていた様だが、こちらへの影響はない」
「第八艦隊? デュエイン・ハルバートンか」
「そう。お前の大嫌いな地球軍の将校さ」
「……人間を判断する上で好みで選ぶような愚かな真似を我はしない」
「クックック。そう言う割には、キラやセナを特別扱いしているではないか。野心はどうした? オーブを、世界を支配するのでは無かったのか?」
「我の意思は何も変わっていない。目的も、な」
「ほぅ」
「だが、まぁ。無能な民を操るのであれば、奴らを担ぐ方が効率が良いと考えただけだ」
「物は言い様だな。まぁ、我は嫌いじゃないがな。キラもセナも、愚かなまでに真っすぐで、ここまで届く程に眩しい」
「やかましい。無駄口はそれくらいにしろ」
ギナの苛立った様な声にミナは肩をすくめ、依頼されていた事項をモニターに映し出した。
ヘリオポリス崩壊以来、観測し続けてきた事項をギナに伝える。
「レッドフレームとブルーフレームの行動だが、まぁ。それほど面白い動きはしていない。人助けをしたり、ジャンク屋や傭兵としても活動をしたりと、特に目立った行動はしていないな」
「……フン」
「特に面白味も無い様な連中であるが、ならばこそ。何故セナがこやつらにアストレイを託したのかが分からん」
「そうだな。あの小娘の事だ。ただの思いつきという事も無いだろうが」
「そうだろうな。セナの行動には全て意味があった。開戦から今日に至るまで。姉であるキラやカガリにも隠れ、コソコソと準備をしてきたコレが無意味であった。等と言う事はあり得ないだろう」
「あぁ」
そう。
ナチュラルのジャンク屋に渡ったレッドフレームに仕込まれたナチュラル用のOSと。
コーディネーターの傭兵に渡ったブルーフレームに搭載された、あらゆる装備を十全に扱う為の、拡張性が高い調整の要らないシステム。
全てが、まるで二人の為に用意された物であるかの様だった。
この機体が二人に渡った事には必ず意味がある。
そう思わせるだけの状況が、ここにはあった。
「やはり、試してみるか。……例の連中は?」
「変わらず。準備を進めている様だ。今すぐ襲撃すれば作戦を止める事も出来るが?」
「いや、連中を試したい。連絡を取ってくれ」
「了解した」
かくして双子の密談は終わり、ロウ・ギュール率いるジャンク屋と、叢雲劾率いる傭兵部隊サーペントテールに『デブリ排除依頼』が送られる事となったのである。
依頼の話を聞いたロウは急ぎ母艦をデブリ帯の近くへと向かわせた。
「でも良いの? どう考えても怪しい依頼だけど」
「そうだよぉ。オーブからの依頼なんて! やっぱりアストレイを取っちゃったのを怒ってるんじゃないの!?」
「んー。それならそう言うんじゃねぇか? わざわざデブリ帯から地球に向かってる大型デブリを何とかしてくれ。なんて言わねぇよ」
「いや! だから! その依頼がそもそも罠なんじゃないの! って話で!」
「どうだろうな。まぁ、行ってみれば分かるんじゃねぇか? それによ! レッドフレームは姫様がくれるって言ってたんだから、問題ねぇよ!」
「それは、そうだけどぉー!」
キサトの言葉もロウには届かず、ロウはただ、地球に向かって落ちているというデブリについて考えていた。
そんなロウに、ロウと共に行動する男、リーアムが問いかける。
「何か不安な事でもあるのですか?」
「いや、そうじゃねぇんだけどよ。デブリ帯から大型のデブリが離れて地球に向かってる。なんてな。何かおかしな事でも起きてるんじゃねぇかって思ってよ」
「まぁ……確かに。デブリ帯のデブリは現在の位置で安定していますからね。小型のデブリならまだしも、大型となると……」
「誰かが、狙ってんのかもしれねぇな」
と、ロウは暗い宇宙の向こうを見ながら考えるが……まだ明確な答えは出ない。
しかし、自身の愛機を思い出しながら考えれば……あの様な機体を生み出せるオーブがデブリを処理する方法が無いとは思えず、やはり何者かの介入を疑ってしまうのだった。
そして、そんなロウの予測は正しく。
ロウたちが地球へ移動する大型デブリの元にたどり着いた時、そこには所属不明のモビルスーツが多数存在していた。
「っ! やっぱりか!」
『ろ、ロウ! どうしよう! モビルスーツがいっぱいいるんだけど!』
『ZAFTかしら?』
「さて。どうかな。でも、友好的な連中じゃないみたいだぜ!」
ロウがレッドフレームの中からそう呟いた言葉に反応したワケでは無いだろうが、ジンと呼ばれるモビルスーツのモノアイがロウの駆るレッドフレームを捉える。
「キサトは母艦に戻れ! 母艦はここから離脱してくれ!」
『ロウはどうするの!?』
「あのまま放置ってワケにはいかねぇだろうが!」
ロウはジンの注意を引きながらホームと同程度の大きさである大型デブリへと向かい、数発のビームライフルをデブリに向かって放つ。
が、それでは表面が焼けるばかりで、デブリ全体を破壊する事は出来ない。
「チッ! やっぱり分解するしかねぇか!」
ロウがどうにかしてデブリを分解しようと考え、意識をデブリに向けた瞬間、ジンから突進され、デブリの表面に叩きつけられてしまう。
「くそっ! 何すんだ!」
『何者かは知らんが! 我らの計画を邪魔する者は生かしてはいけん! ナチュラル共に鉄槌を!』
複数の機体に銃口を向けられ、流石にやばいか! とロウが汗を流しながら8に支援を頼んだ時。
アラートが鳴り響き、上部からビームライフルがジンに向かって降り注いだ。
「なんだ!? 新手か!?」
『無事か? ロウ』
「お前は! 劾! なんでここに!?」
『依頼を受けた。このデブリを地球に落とさぬように防いで欲しいという依頼をな』
「お前もか! って事は、同じ依頼か!?」
『どうやらその様だな。ロウ。俺は外の敵を叩く。お前はそいつを解体出来るか!?』
「おうよ!」
レッドフレームとブルーフレームは共に自分がやるべき事を行いながら地球へ向かうデブリを何とか止めようと奮闘していた。
依頼を受けたから。という事もあるだろうが、それでも真摯に地球の危機に立ち向かう姿に、ゴールドフレームの中から戦場を見つめていたギナは二人の評価を少しだけ上方させる。
「……少なくともただの盗人では無い様だな。どの程度役に立つかは分からんが」
『ギナ! マズいぞ』
「なんだ? ミナ」
『例のデブリだが、推進装置が取り付けられている! アレを点火されたら!』
「まさか……!」
開戦から何度かあったデブリが地上へ向かう事件。
それはその殆どが、ZAFTによる攻撃であった訳だが、非人道的な無差別攻撃である為、ZAFTが行ったとバレない様に、自然とデブリ帯から外れた様に工作されてきたのだ。
だから、今回も同じような物だと思い、ジャンク屋たちを試すという意味で送り込んだ。
デブリ帯からそれほど離れていない場所であれば、交戦も予想されると思いながら。
しかし、今回は今までの事件とは大きく違い、大型のデブリを使い、さらには推進装置まで付けているという。
こうなってはジャンク屋と傭兵だけに任せるのは戦力不足だ。
ギナはそう判断し、急ぎデブリへ向かおうとした。
だが、その瞬間にデブリに取り付けられていた推進装置が火を点けられてしまうのだった。
「遅かったか!」
ギナは舌打ちをしながらデブリへと向かい、取りつきながらアメノミハシラに居るミナへと通信を送る。
「イズモを出せ! ローエングリンで破壊する!」
『しばし待て!』
「それほどは待てんぞ」
ギナは既に視界の中で存在感を増している地球を見ながら文句を言い、レッドフレームとブルーフレームに通信を繋げた。
「このデブリから撤退しろ。ジャンク屋。傭兵」
『アンタは!?』
『ロンド・ギナ・サハクか』
「そうだ。今から解体しても間に合わん。このデブリはローエングリンで破壊する」
『ローエングリン……?』
「そうだ。既に我が国の宇宙艦が……」
『駄目だ! ローエングリンでもコレは壊せねぇ! 分解するしかない! 俺はここに残るぜ!』
ロウはギナに言い返すとさっさと解体作業に戻ってしまった。
そして、劾もまた、「どうやらそういう事の様だな」と言いながらロウの解体を手伝い始めるのだった。
「まさか! 既に地球はすぐそこだ。解体など間に合わんぞ!」
『完全解体は無理でも、被害は減らせるはずだ。すまん! 劾! 向こうのブロックは外したから、ぶっ壊してくれるか!?』
『了解した!』
淡々と、ギナの言う言葉など聞こえていないとでもいう様に、ロウも、劾も解体作業を進める。
このまま地球へと突入すれば大気圏との摩擦で燃え尽きるかもしれないというのに。
彼らは当然の様に、デブリへと向かい続けるのだった。
その姿に、ギナは幾度となく自分の常識を焼き続けてきた姉妹を思い出す。
「……バカな連中だ」
『そういう事だ! アンタはもう離脱しな!』
「フン。この我が、逃げるだと? バカを言うな!」
ギナは右腕を振り上げて、ロウが破壊してくれと言ったデブリに向かってビームライフルを連射する。
正確性は必要ない。
キラに勝てるようにと最高の状態に仕上げたこの機体は、あらゆる障害を破壊する力を持っているのだ。
『……アンタ』
「コレが地球に落ちれば、オーブとて無傷とはいかん。我はただ、立ちはだかる障害を破壊するのみだ!」
何とも素直でないギナに苦笑しつつ、ロウは今まで以上の速さで解体を続ける。
一枚、また一枚と外装を外し、内部の骨組みを崩し、デブリを破壊できる状態に変えていった。
劾とギナもロウの言葉を待たずとも、破壊出来ると判断した場所へと攻撃を続けるのだった。
そして……。
遂に大気圏に突入し始めたデブリの上で、ギナは二人に通信で怒鳴りつけた。
「これで十分だ! 離脱しろ! ローエングリンで焼かれるぞ!」
『やべぇ!』
『了解した!』
三機はそれぞれにデブリから離れ、地球へと落ちようとしていた大型のデブリはその中心部を晒したままイズモ級宇宙艦一番艦イズモの主砲であるローエングリンによって貫かれ、いくつもの流星となって地上に流れてゆくのだった。
ここまで小さくなれば後は大気圏で燃え尽きるだろう。
そう、ギナは考えて、地球を見下ろしながら一息吐く。
しかし、どうやらまだ事件は終わっていない様だった。
『うおぉー! 駄目だ! 戻れねぇ! 落ちる!』
「ジャンク屋!」
重力に引かれ、赤い表面をさらに赤く染めながらレッドフレームが地球に向かって落ちていたのだ。
ギナは特に深く考える事も無いまま、レッドフレームの元へと向かい、その腕を掴んで引っ張り上げようとするが、重く、宇宙へ戻る事が出来ない。
「……駄目だな。このまま地球へおりるぞ」
『えぇ!? いけるのか!?』
「スペック上はな。試したことはない。後は……祈れ」
『うぉぉおお!! くっそー!!』
レッドフレームとゴールドフレームは、大気に焼かれながら地上へと向かい。
蒸し焼きにされながらも、何とか地上に降りる事が出来たのだった。
広大な砂漠で、レッドフレームと共に舞い降りたゴールドフレームはコックピットハッチを開きながら目を細める。
灼熱の砂漠と、揺らいで見える太陽が眼前に輝いていた。
「ふむ。ちょうどよく北アフリカに落ちたか。まだオーブの部隊が残っていた筈だな」
「うぇー。きちぃ」
「生きているか? ジャンク屋」
「おぉー。なんとか」
「そうか。ならば今からオーブに向かうぞ。貴様の機体も直してやる」
「そりゃありがたい……でも、まずは……水をくれ」
ロウはレッドフレームのコックピットハッチに仰向けで倒れながら手を空に伸ばすのだった。