ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第8話『では(わたくし)もコペルニクスへ?』

 C.E.(コズミック・イラ)63年。

 プラントのエネルギー生産部門が『ブルー・コスモス』のテロにより破壊された。

 この事件に対して、評議会は理事会に一時的な輸出停止を申し入れるが、理事国側はこれを拒否。

 プラントは深刻なエネルギー危機に陥る事となった。

 

 理事国の決定に対し、プラント技術者は怒りを何とか抑えたまま、理性的に抗議活動を行う為、サボタージュを決行する。

 だが、そんなプラント技術者の抗議に対して理事国が行ったのは、多数のモビルアーマーを搭載した艦隊での威嚇行動であった。

 モビルアーマーというのは、重装甲と単機で任務を遂行する火力、戦闘機並みの空戦能力を並立させた重戦闘機の名称であり、理事国の様な力を持つ国家が持つ強大な戦力であった。

 そして、そういった戦力を持たないプラントにとって、威嚇行動への対処はほぼ存在していないと言っても良い状況であった。

 

 だからこそ。

 プラント内部で独立論が声高に叫ばれ始めるは必然であった。

 このまま、踏みにじられて、ただ利用されて生きていく事など出来ないと。

 

 プラントに住む多くのコーディネーター達は、独立へ向けて歩み始めたのである。

 

 とは言っても、大々的に動く事など出来るワケもなく、彼らは地下に潜り、暗闇の中でまずは力を得る所から始める事にした。

 今回のサボタージュに対する理事国の回答はモビルアーマーによる恫喝。

 ならば、モビルアーマーを超える戦力がいると……クライン、パトリック両評議会議員を中心としたプラント独立を目指す『黄道同盟』は『モビルスーツ』の軍事転用研究を始めるのであった。

 

 

 そんな情勢の中、黄道同盟を率いる評議会議員の一人であるシーゲル・クラインには一つの不安があった。

 それは、愛する妻と愛娘の存在である。

 

「我が身がどうなろうとも、子供達の未来に繋がるのなら構わないが……難しいな、パトリック」

「誰よりも危険な場所に立っているのはお前だ。妻や子供を危険な場所から遠ざけたいと言って、誰が笑う。当たり前の感情だ」

「そう言ってくれると心強いが。プラント以上に安全な場所などある物か? ラクスは月のコペルニクスが良いと言っていたが。いくら中立とはいえ、コーディネーターであるあの子には危険な場所だ」

「いや、コペルニクスならば、良いかもしれん」

「そうなのか?」

「あぁ。私もアスランをコペルニクスに避難させている。無論身分は隠してな」

「しかし、いくら身分を隠しても……」

「確かに危険はある、が……コペルニクスには今、オーブの姫が居る様でな。ナチュラルの護衛が目立たぬ様に護衛しているらしい。オーブの姫の友人であるアスランも、な」

「……なるほど」

「ナチュラルの護衛ならば目立たぬだろうし。オーブの姫という隠れ蓑もある。逃がすなら良い場所かもしれんな」

「少し調べてみよう」

「あぁ。それが良い。我らの目指す自由も、正義も、全ては未来の為だ。大切な物を見誤るなよ」

「すまない。君の言葉にはいつも勇気を貰える」

「お互い様だ。私もお前を笑える立場では無いからな」

「そうだな……。プラントと」

「コーディネーターの未来の為に」

 

 シーゲルはパトリックに相談して良かったと、聞いた話を胸に自宅へ戻る事にした。

 いつも不機嫌そうな顔をして、眉間に皺を寄せているパトリックであるが、強面な顔に似合わず愛妻家であり、不器用ながらも息子への愛情も忘れない家族想いの人間である。

 そんなパトリックが同志であるシーゲルに提案したのは、やはり家族を一番に考えた物で、シーゲルは穏やかな顔に笑みを作りながら、暗い夜のプラントを走るエレカの後部座席で、流れていく風景を眺めるのだった。

 

 高速で走るエレカの中で、シーゲルが考えているのはパトリックから聞いた話であった。

 パトリックの話では月面都市コペルニクスにはオーブの姫君が居るらしい。

 そして、オーブの姫君はアスランの友人であると。

 

 シーゲルから見てアスランという少年は成熟し過ぎていて、子供達の中にいるのは難しい子であった。

 無論、アスランが色々と気を遣えば友人としても成り立つだろうが、それではアスランが苦しいだろうし。

 アスラン自身。そこまで無理をするくらいなら一人を選ぶ様な子供であるとシーゲルは見抜いていた。

 

 無論それは、アスランとパトリックがよく似た親子であり、パトリックも似たようなところを持っているから、なのだが。

 そんなアスランと友人になったオーブの姫君という存在が、シーゲルは気になったのだ。

 

 アスランと同様に、早熟すぎて友人を作る事が難しいシーゲルの愛娘ラクスもその少女が相手なら友人になれるのでは無いかと、シーゲルは考える。

 男親であるからか、姫君という所も気に入った要素の一つである。

 同性婚が無いとは言わないが、異性婚よりも、はるかに数は少ないし、ラクスがもしその子と結ばれる様な事になっても、ラクスの様に可愛らしい娘がもう一人増えるだけだ。

 喜ばしい。という以上の感情は無いだろうと、シーゲルは自らの考えに頷いた。

 

 無論、そこまで先の未来は考えすぎであるが、友人になれそうだという点だけでもラクスをコペルニクスに避難させる案は良いと思える。

 

 シーゲルはひとまず家に帰ったらラクスに聞いてみようと、疲れを少しでも癒す為、深くエレカのシートに座り、深く息を吐くのだった。

 

 

 夜の闇の中を走り、自宅へと戻ったシーゲルは玄関を開き、帰宅を知って、満面の笑みで飛び込んできたラクスを受け止める。

 

「お父様! お疲れ様です!」

「おぉ、ラクス。今、帰ったよ」

「おかえりなさい。あなた。夕食はどうされますか?」

「パトリックと食べてきたから大丈夫だよ。すまないな」

「いえ。こんな情勢ですからね。通信は控えるべきだと思います」

「そうだな……早く、落ち着いて欲しいものだ」

 

 シーゲルは家の中に入り、上着を脱ぎながら妻やラクスと言葉を交わす。

 それは、いつもシーゲルの家で行われている光景であり、シーゲルが何をしてでも守りたい世界の全てであった。

 

「それで……今日パトリックから聞いたのだが、どうやらアスラン君は月のコペルニクスで楽しく生活しているそうでな。ラクスもコペルニクスに避難するのはどうか。と勧められたよ」

「まぁ! では(わたくし)もコペルニクスへ?」

「無論ラクスが良いのなら……と思ったが、特に問題は無さそうだね」

「はい!」

 

 ラクスの輝く様な笑顔を見ながら、シーゲルは自分の選択が間違えていなかったと心の中で頷く。

 そして、もう一つパトリックから聞いていたニュースを伝えるのだった。

 

「それは良かった。どうやらコペルニクスにはオーブの姫君が居る様でな。もしかしたらラクスとも友達になれるかもしれないよ」

「オーブのお姫様……ですか?」

「あぁ。アスラン君は既に友人となっている様だ」

「……」

 

 シーゲルの予想では、いつもの花が咲いた様な笑みで「それは素敵ですね」と言いながら喜ぶと思っていた。

 しかし、ラクスはそんなシーゲルの予想を裏切って訝しげな顔をしたまま考え込んでしまう。

 それはラクスがたまに見せる酷く大人びた顔であり、親であるシーゲルですら何を考えて居るのか分からない姿でもあった。

 

「ラクス? 何か不安があるのかい? 私としては無理に避難しなくても良いのだが……家に居れば滅多な事は起こらないだろうし」

「あ、いえ! そうでは無くて……少し、驚いてしまって」

「そうか。まぁ、確かに驚く様な話だな」

 

 ラクスはいつもと変わらない笑みを浮かべて、シーゲルに頭を下げてから月へ行く準備をすると自室へ戻って行った。

 そんなラクスを見送りながらシーゲルも自室へと戻っていくのだった。

 

 

 シーゲルと別れ、自室へ戻ったラクスは扉をしっかりと閉めて、周囲を見渡して何の音もしない事を確認してから小さく息を吐いた。

 

「……まさか、月にカガリさんがいらっしゃるとは思いませんでしたわ。カガリさんは、()()()()()んでしょうか」

 

 ラクスは一人、誰に聞かせるでもなく呟いた後、自室に置かれたPCに向かいオーブについて調べ始めた。

 しかし、ラクスが居る場所はプラントであり、地球にある国家の一つであるオーブの情報は分からない。

 

 それが酷くもどかしく、ラクスは深いため息を吐いてからテーブルを離れ、ベッドに仰向けで倒れ込んだ。

 

「お父様も、お母様も、アスランも、誰も(わたくし)の事は覚えていませんでしたわ。そして、世界も前と同じ、何も変わらないまま……」

 

 ラクスはゴロンとベッドの上で横になり、暇な時間を使って作ったある少年をデフォルメした姿のぬいぐるみを抱きしめる。

 それは栗色の髪と紫色の瞳を持った優しい顔の少年だ。

 

 七年間の孤独を埋める様に、ラクスは強く、強く抱きしめた。

 

「キラ……(わたくし)の中にあなたはいます。あなたの中に(わたくし)はいますか?」

 

 キュッと布で出来たぬいぐるみを抱きしめたラクスは、桃色の長い髪をベッドの上に広げたまま、透き通る湖の様な水色の瞳を伏せて、ぬいぐるみに言葉を向ける。

 

「でも、もし。キラが何も覚えていなければ、覚えていないのならば……(わたくし)はあなたを悲しみから遠ざけるべきなのかもしれません」

「あなたが傷ついて、戦って……悲しむ姿は見たくない。それに、あなたは最後に……」

「その為なら……(わたくし)は独りでも戦います」

 

 再び開かれたラクスの瞳は強い決意に満ちており、ぬいぐるみをベッドの上に置いたまま立ち上がって、バルコニーへと向かった。

 そして、プラントの夜空を見上げながら、ラクスは小さく呟くのだった。

 

「コペルニクスで、確かめさせて下さい。キラ。(わたくし)と貴方の進むべき道を」

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