久しぶりにオーブ本国へと戻ってきたキラは、アークエンジェルクルーにオーブ本国での制限された場所への立ち入り許可証を発行し、トール達には家族の元での待機を命じ、全ての仕事を終わらせて自宅でダラダラとしていた。
「あー。うー。あー」
「だらしがないぞ! キラ!」
「そうは言ってもさぁ。ながーい旅からようやく帰ってきたんだよ。僕は」
「よしよし。お疲れ様です」
「せぇーなぁー。お姉ちゃん、つかれたよー!」
「今日はゆっくりと休んでくださいね」
「うん。セナもゆっくりとするんだよぉー」
「はい」
ソファーの上で横になりながら、セナに甘えるキラを見て、カガリは「まったくしょうがない奴だ」と呟きながらセナの隣に座って、いくつかの書類に目を通すのだった。
真剣な眼差しで書類を見る姿は、血が繋がっていない義理の親子だというのに、ウズミとよく似ていて、キラは柔らかい笑みを浮かべ、目を伏せた。
守りたかったものは、ここにある。
「小娘! 小娘は居るか!? キラ・ユラ・アスハ! ここに居るのは分かっているんだぞ! 大人しく出てこい!」
「うわっ!」
「きゃっ」
穏やかな気持ちで寝ていたキラは、入り口から聞こえてきた声にソファーから転げ落ちた。
まったく人の事情など考慮していない声に、キラは頭を押さえながら文句を言う。
「もう、何なのさ……!」
「貴様。やはりここに居たか」
「ギナさん? 何騒いでるのさ」
「何を騒いでいるだと!? 貴様が! いつまで経っても! モルゲンレーテに来ないから! こうして我自ら来てやったのだ!!」
「ふぇ?」
「チッ! さっさと行くぞ! 小娘!」
「わ、わぁー! たすけてー! セナー」
「お、お姉ちゃーん!」
そして、キラはアスハ家の前に止められていた車に放り込まれ、セナとカガリもその車に飛び込み。
三人でギナと共にモルゲンレーテへと向かう事になったのである。
車の中でもぎゃいぎゃいと騒ぎながら元気な様子であったキラも、モルゲンレーテについてからは大人しくなり、姫らしい姿で中を歩く。
「しかし、私に何か御用ですか? ギナ様」
「その話し方は止めろ。寒気がする」
「えー、もう、文句ばっかりだなぁ。それでー? 僕に何か用事?」
「暇をしているのならば、開発を手伝え」
「たまの休暇くらい取っても良いと思うんですけどねぇ」
「戦争が終わったら好きなだけ休めばいい。どの道、貴様の様な存在が平時の政治で役に立つとは思えん」
「それはごもっともで」
バカにされたというのに、キラはケラケラと笑いながらギナの言葉を流した。
代表首長の娘であり、オーブ国内でも、世界的にも人気と知名度の高いキラは、次期代表首長になる可能性が高いのだが、本人はまるでその気が無いのだ。
カガリが継ぐか、もしくは別の誰かが継げばいいと軽く笑って言う。
その座を追い求めている人間がどれだけ居るか、知りもしないままで。
「まったく先が思いやられるな」
「まったくだ。キラはもっとシッカリしないと駄目だぞ」
「なになに? 二人ともどうしたの」
頭を抱えるギナとカガリに、キラは目を丸くしながら問うた。
「どうしたも何もない。今のままいけばお前がお父様の後を継ぐんだ。しっかりしろ」
「え? えぇぇえええ!? なんで!?」
「なんでじゃない! 普通に考えればそうだろう! 地球連合各国との関係を築き!」
「う」
「プラントとも強い繋がりを持っていて!」
「うぅ」
「ニュートロンジャマーキャンセラーで世界を救い!」
「う、うぅ!」
「非公式ではあるが、ヘリオポリスの避難民をオーブ本国まで導いた!」
「貴様以外に誰がオーブをまとめるというのだ」
「いやいや! だって、ギナさんはオーブの代表になりたかったんでしょう!? カガリだって! お父様の後を継ぐんだ! って頑張っていたじゃない!」
「昔の話だ」
「そうだな。昔の話だ」
「いやいや! ギナさんが良くてもミナさんは!? カガリが良くてもお父様はどうなのさ!」
「お父様は特に何も言っていない」
「そんな……」
「我の意見にミナも既に納得している。表立ってオーブを支配するのではなく、キラを立たせ裏から操った方が良いだろう、とな」
「ちょっと!? 今とんでもない事口走らなかった!?」
「気のせいだ」
「安心しろ! キラは私が守るからな! その為のモビルスーツ訓練もしている!」
「貴様は間抜け面をしたままオーブの代表をやっていればいい」
どうしてこうなったんだとキラは頭を抱えながら大きなため息を吐いた。
そして、救いを求める様にセナへと視線を移す。
だが……。
「キラお姉ちゃんが代表ですか。それは素晴らしいですね」
「だろう?」
「セナ。お前には別の役割がある。そちらを頼むぞ」
「はい!」
既にセナはキラが代表となる未来に全乗りしており、キラの味方にはならない様だった。
悲しい話だが、これは現実なのだ。
「もう、ほんと……どうしてこうなったんだろう」
なんてキラは嘆きながら肩を落としたが、そんなキラの肩を掴み、ギナはモルゲンレーテの奥へと連れて行くのだった。
そして、たどり着いたモルゲンレーテの最奥で、キラは久しぶりに忠犬と出会った。
「あ! キラさん! キラさん!」
「あら。シン君じゃない。遊びに来たの?」
「違うって! 今俺さ! モビルスーツのテストパイロットしてるんだよ!」
「そうなの!? 凄いね!」
「へへへ。だろー!?」
シンと呼ばれた少年は、嬉しそうにキラの近くで動き回りながら喜びを示していた。
その姿はまさに犬とでもいう様な物であったが、キラは特に気にせず頭を撫でて微笑む。
「あ、そうだ! キラさん! キラさんに紹介したい奴が居てさ!」
「僕に紹介したい子?」
「うん! レイ! レーイ!」
「……どうした? シン」
「ほら! キラさんが来たからさ! 紹介しようと思って!」
シミュレーターの近くで、モルゲンレーテの社員と話をしていた金髪の少年は、シンに呼ばれ無表情のまま歩いて来た。
そして、シンの隣に立って、ジッとキラを見据える。
コロコロと表情の変わるシンに対して、レイは年に似合わない落ち着いた姿をしていたが、動かない表情の奥にシンへの友好的な感情を見つけ、キラは小さく微笑んだ。
「初めまして、かな? 僕はキラ。一応この国でお姫様って奴をやってるよ。似合わないけどね!」
「いえ。その様な事は無いと思います。キラ姫の噂は色々と聞いていますから」
「ウワサー? 恥ずかしいなぁ」
「どれも素晴らしいものばかりでしたよ。キラ様。……私は、レイ・ザ・バレルと言います。兄が一人……いや、二人いるのですが、今は離れて暮らしています」
「あら。お兄さんとは別々に暮らしてるの?」
「はい。兄はZAFTで軍人をしていますから。キラ様の事は兄からも聞いています」
「僕の事を?」
「兄の名前はラウ。月に避難していたキラ様と共に暮らしていたと言っていました」
「えっ! えぇぇええええ!? レイってラウ兄さんの弟なのぉ!? 確かに、そう言われると似てるね! 格好いい所も兄さんそっくり!」
「キラさん! キラさん! レイは格好いいだけじゃないんだぜ!? モビルスーツも凄くてさ!」
「そうなんだ。レイは凄い子なんだねぇ」
キラはニコニコと微笑みながらレイの頭を撫でて、言葉をかける。
そんなキラの当たり前の様な仕草に、レイは僅かに頬を染めながらコクリと頷くのだった。
「ん? なんだ? レイ? 照れてるのか?」
「……そんな事はない」
「いや、でもさ」
「そういえば、ラウ兄さんと離れて暮らしてるって事は、オーブでは一人なの? お父さんとかお母さんは?」
「父と母は居ません。オーブでは一人で暮らしています」
「あらー。それは心配だねぇ」
「だからさ! だからさ! 最近はウチに居候してさ! 一緒に暮らしてるんだ!」
「そうなの? 大丈夫? シン君って結構元気な子だけど。疲れない?」
「えぇー!?」
「いえ。問題ありません。シンも、アスカ家の人たちも、とても良い人たちばかりです」
「そっか」
小さく微笑みを浮かべながら呟いたレイの言葉にキラは頷いて、楽しくしているなら良いかとレイとシンの頭を撫でて、仲良くやるんだよ。と声をかけた。
そして、少し離れた所からこちらをチラチラと見ていたシンの母を見つけ、キラは二人の背を押しながら用事があるみたいだよ。と送り出した。
「いやぁ。元気だねぇ」
「かなり生意気だけどな」
「そう? 二人とも凄い素直な子だけど」
「お前にはな! 私には酷いモンだったぞ。『キラさんのお姉さん? 見えないよな!』なんて言ってな!」
「その通りなんだから仕方ないでしょ」
「なんだと!?」
憤慨するカガリに背を向けて、キラは先ほどまでレイがテストパイロットをしていたであろう機体を見上げた。
キラやセナがオーブを離れるまでは存在していなかった機体。
「……完成したんですね」
「まだだ。OSが完璧ではない。アストレイとは異なる部分も多くてな。調整が難航している」
「なるほど。それで僕とセナを呼んだんですね?」
「そうだ。戦争は広がっている。オーブもいつ巻き込まれるか分かった物では無いからな」
「まぁ……そうですね」
キラは腰に手を当てながら、その巨大な人型兵器を見据えた。
連合に居ても、オーブに居ても、やることは人殺しの機械を作るばかりだなと心の中で呟きながら。
「全ては民と国を守る為だ。理解しろ。不満は飲み込め」
「分かってますよ。戦争が終わるまで……僕も頑張ります」
「あぁ」
小さく頷いたギナの言葉にため息を吐きながら、キラはそういえばとギナに振り返った。
「この機体。もう名前は決まっているんですか?」
「あぁ。先日な、正式に決定した。『MVF-M11C ムラサメ』 アストレイに継ぐ、オーブの次期主力モビルスーツだ」
「ムラサメ、ですか……なるほど」
キラはその名前を呟き、何とか愛着を持って飲み込むのだった。
「じゃあちゃっちゃと調整を始めちゃいますか。セナ」
「はい! 私も協力します!」
「うん。頑張ろうか」
そして、キラはムラサメ用のOS開発をセナと共に始め、文句を言いながらもよりよいOSを開発してゆくのだった。