ギナによってモルゲンレーテに連れ去られた日から、キラはセナと共に新型モビルスーツ『ムラサメ』のOS開発をしていた。
可変機自体はイージスの開発で経験があるものの、ムラサメは戦闘機としても活用できるという事で、調整が難しいのである。
「んー! あー! 肩こった!」
「お疲れ様です。お姉ちゃん」
「うん。セナもね。無理しないでね」
「はい!」
「んじゃまー。なんか気分転換でもするかぁー」
「そうか。気分転換か。ならば我が貴様の気分転換に付き合ってやろう」
「遠慮させていただきますぅー!」
「貴様に拒否権はない」
「そんなぁー」
キラが休憩に入ろうかななんて呟いた所に、偶然通りかかったモルゲンレーテの支配者ロンド・ギナ・サハクは、これ幸いとキラを捕まえて模擬戦用の地下施設へとキラを連れてゆく。
軌道上からでもオーブの機密が漏れない様にと作られた地下の模擬専用のフィールドは、モビルスーツをある程度自由に動かせる場所である。
「ちょうど貴様の機体がオーブに来ているのだ。この様な機会を逃す手はない」
「僕の機体ぃ~? 言っておきますけど、ストライクは連合の機体ですからね?」
「ストライクでは貴様の動きに追いつけない。それでは貴様を完全に倒したとは言えんだろう」
「こだわりますねぇ。僕は別にギナさんの方が強いって事で終わりでも良いんですけど」
「舐めるなよ! その様な、与えられた勝利に意味などあるか!」
「イザークとかアスランもそうだけど、みんな負けず嫌いだなぁ」
僕は静かに暮らしたいのにさ。なんてぼやきながらキラがギナに連れられて、少し懐かしい機体の前に向かった。
それはヘリオポリスで連合から隠れながら開発していたオーブのモビルスーツ。
「レッドフレーム! 無事だったんですね!」
「まぁ……な」
「うん? どうしたんですか? ギナさんにしては歯切れの悪い」
「お姉ちゃん。今、レッドフレームはオーブの機体では無いんですよ」
「えぇぇええええ!? どういう事!? ここにあるのに!?」
「今、ここにある理由は分かりませんが、レッドフレームとブルーフレームはオーブの人ではない人にあげちゃいまして」
「あげちゃった!!? 誰が!?」
「私が」
「セナ! 駄目だよ! そんな! お菓子を上げるみたいな勢いであげちゃあ! すっごい高いんだよ! この機体!」
キラはセナのとんでも発言に驚き、目を見開きながら叫ぶ。
その様子にギナは、キラにも常識があったのだな。と少しずれた所で関心しているのだった。
「しかし、世界の今後を考えれば必要な事です」
「……そんなに言うなら、まぁ良いけどさ。アストレイの代金くらいなら、連合から貰えるGの開発協力費で十分賄えるし」
「それを言うのなら、ナチュラル用OSのパテント料もあるだろう」
「いや、でも連合のG兵器奪われちゃったし。プラントは使わないし。微妙じゃないですか?」
「何を言っているんだ貴様は。Gが奪われた以上、連合が貴様の策に乗り続ける理由はない。モビルスーツの量産を始めるに決まっているだろう」
「あー……まぁ、そうか。そうでしょうね」
キラははぁとため息を吐いてから、お金なんか要らないんだけどなぁとぼやきつつ、ひとまず話を切り替える事にした。
ウジウジ考えて居ても仕方ないのだ。
アラスカに行って、また連合の上層部を説得するしかない。
「レッドフレームとブルーフレームの行方については分かったんですけど。それで、なんで僕が模擬戦を?」
「決着をつける為だ」
「いや、レッドフレームはもう人の機体なんですよね? 駄目でしょ。勝手に使っちゃあ」
「元々はオーブの機体だ。何も問題はない」
「問題大ありです! ちゃんと許可は取らなきゃ。あー! ジュリちゃーん! おーい!」
「はいはーい! 何かありましたか? キラ様」
「それがさー。ギナ様が僕にレッドフレームに乗って模擬戦しろー! って言ってきたんだけど、この機体の持ち主、知らない?」
「あぁ、ロウ? 知ってますよ。呼んできましょうか?」
「うん。お願い」
「まったく。無駄な事を……!」
「必要な事です!」
キラはレッドフレームの近くでレッドフレームの整備を手伝っていた眼鏡の少女、ジュリ・ウー・ニェンを呼び、レッドフレームの現在の持ち主を呼び出した。
そして、しばらくしてジュリと共に歩いて来たのは逆立った髪と、底抜けの明るさを持った青年であった。
「よぅ! 俺に用があるっていうのはアンタかい?」
「ちょっと! ロウ! マズいよ! この人、オーブのお姫様だよ!?」
「そうなのか?」
「あー。気にしなくても大丈夫ですよ。私は敬語とか、かしこまった態度とかは好きじゃないので、気軽にキラとお呼びください。この可愛い子は妹のセナ。こっちのイライラしている人はギナさんです」
「キラ……!」
「もう。お客様の前ですよ。もっと愛想よく出来ないんですか?」
「貴様は王族としての威厳を持て!」
「あっはっはっは! 面白い人だなぁ! アンタ!」
「そうですか?」
「あぁ。これでも色々な奴は見てきたが、こんなお姫様は初めてだよ。キラ」
「それは嬉しいですね」
「俺はロウ。ロウ・ギュールだ。ジャンク屋をやってる。何か作って欲しいモンがあれば、何でも作るぜ?」
「あら。それは凄いですね。じゃあ巨大な移民船って作れます? 一億人くらい乗れる奴」
「なんだそれ! どっかで計画が動いてるのか!?」
「いえ。全然。ただ、その内作ろうかと思いまして」
「へぇー。面白そうだな。ちなみに、なんで移民船? 火星にでも行くのか?」
「うーん。行くなら太陽系の外ですかねぇ。人の住める場所を探して遥かな宇宙でも彷徨おうかなと思ってます」
「へー。なるほどな。それなら自給自足出来ないと話にならないよな」
「後は医療施設とか、社会インフラで必要な物も用意しないといけないです。治安維持とかも必要ですし。外宇宙に行くのなら、何かあった時の為のモビルスーツも必要でしょう?」
「工場とかも居るか……。しかし資源が不安だな」
「そこは、宇宙を旅しながら小惑星を探したりすれば良いのでは?」
「そうなったら発掘と、精錬もしないと駄目だな。なるほど。それで一億人か」
「そう。みんなで協力しながら宇宙旅行。楽しそうでしょう?」
「確かにな! うーん。面白そうだ! 作る時は是非呼んでくれよ! 知り合いのジャンク屋連中にも声かけるからさ!」
「それはありがたいですね! では戦争が終わったら、お呼びしますので、どうか生き残ってくださいね」
「あぁ。分かってるさ。アンタもな。こんな面白い奴が居なくなるのは、世界の損失だ」
キラとロウは手を握り合いながら笑い合う。
そして、ギナに煽られキラはロウを呼び出した本題を思い出した。
「あー。忘れてました。実はロウさんにお願いがありまして」
「お。なんだ? なんでも言ってくれよ」
「実はレッドフレームを貸していただきたいんです!」
「良いぜ! あ、でも壊したらここの施設貸してくれよな!」
「それは勿論。欲しい部品全部あげちゃいます」
「おー!? マジか! お前、良い奴だなぁ!」
ガハハと笑いながらキラの肩を叩くロウに、ロウと一緒に居た少女キサトは青くなりながらあわあわとしていたが、二人は特に気にせず笑い合っているのだった。
そして、多くの者に見られながら、キラとギナの模擬戦が始まる。
『調整は終わったか?』
「はい。仕込んでおいたOSも残ってますし。機体の状態も良いです。ギナさんが望む本気の戦いが出来ますよ」
『そうか……! では、ダンスの時間だ!』
「はぁーい」
キラの駆るレッドフレームの正面に立っていたギナのゴールドフレーム天は、ふわりと浮き上がり、少しずつその姿を消して行った。
「ミラージュコロイドですか」
『フン。余裕を見せていられるのも今の内だ! 踊れ!』
「と、言われましても、僕はダンスが苦手なんですよね。すぐ足を踏んでしまうので!」
キラはレッドフレームを浮かび上がらせると、一瞬右に動いてからすぐ左に最大加速し、そのまま施設の壁を蹴りながら何も無い空中へと蹴りをしながら飛び込んだ。
『なに!?』
「駄目ですよ。地上でのミラージュコロイドは、完璧な偽装が出来ないんですから。スラスターが足元の砂を動かしてしまっています」
『ならば!』
ゴールドフレーム天は両腕を広げ、キラのレッドフレームから距離を取りながら、マガノシラホコというフェイズシフト装甲で出来た有線式の射撃式槍を撃ちだした。
完璧にキラのレッドフレームを捉えて、高速で撃ちだされたソレをキラはギリギリの所でかわし、さらに有線部分を捕まえて、ゴールドフレームを引き寄せる。
『ぐっ!?』
「遅い!!」
そして、いつの間に抜いたのかビームサーベルを、ビームを出さないままコックピットの辺りにコツンとぶつけた。
「これで、僕の勝ち。ですね」
『バカな……! また、また我が敗北した、だと!?』
「まぁ、地上ですし。狭いフィールドですしね。ゴールドフレームの方が武装的にも不利だと思いますよ」
『……』
「だから、まぁ。まだ不満がありそうなら、今度は宇宙でやりましょう。そっちの方がギナ様も納得できるでしょう?」
『良いだろう。その言葉、忘れるなよ』
「まぁ、やるにしても戦後になると思いますけど」
『構わん。それまでに貴様の力を完璧に引き出せるモビルスーツを開発しておいてやる』
「あー。お気づきでしたか」
『当然だ。機体がその様なザマでは、話にならん!』
キラは何故か敗北したのに、こちらを強くしようと憤慨するギナに呆れた様な息を吐きながらレッドフレームを元あった場所に戻すのだった。
そして、持ち主であるロウに全力で謝罪する。
「ごめんなさい! 結構壊しちゃって!」
「良いって良いって! すげぇ戦いを見せて貰ったからな! このくらいワケねぇよ! 部品も貰えるしな!」
「ホント。ありがとうね。じゃ、他に必要な物があったらその辺の人に言って。キラから許可は出てるって言えば、みんなオッケーすると思うから」
「あぁ」
「じゃ!」
キラはこれからお昼ご飯でも食べるかーと模擬専用の施設から外へ行こうとしたのだが……それをロウが呼び止める。
底抜けに明るい笑顔ばかり浮かべていた彼が、何故か酷く深刻そうな顔で。
「なぁ! キラ!」
「うん? どうしたの?」
「さっき聞いたんだが、アンタ。戦争を止めようとしてるってホントか?」
「うん。そのつもり。まだ、全然だけどね」
「……そっか」
「……?」
「その、なんて言うか分かんねぇけどよ! 頑張れよ!」
「うん! 任せてよ! 必ず世界を平和にするからさ!」
輝く様な笑顔でそう返したキラに、ロウは少女の行く末が少しだけ気になった。
ただ宇宙を放浪する様な生活の中で、強く興味を惹かれる物を見つけたのだ。
ロウは、すぐやる事も無いしともう少しだけ少女の道を追ってみる事にしたのだった。