ハンバーガーを食べ終えて、十分に満足したキラはシンに代金を渡し、来た時よりも数倍混雑した店を脱出した。
平均的オーブ国民は、キラ様の行った店に集まることが多く、キラが呟いた後ではこの様な現象が起こりやすいのであった。
そして、何とか店を出たキラは折角だからとシン達を誘ってセナとよく行く喫茶店へと案内する。
オープンテラスのその店はキラがよく行く店であり、店員も勝手知ったるとばかりに一番良い席にキラ達を案内するのだった。
「適当にオススメを店員さんに頼んじゃったけど、二人は嫌いな物は無いかな?」
「無いです!」
「俺もありません」
「よろしい。じゃあケーキはうまく分けて食べようか。結構おいしいからさ。期待しててよ」
「へー。じゃあ帰りに持ち帰りで買って帰ろうかな」
「良いけど。紅茶だけでもさっきのハンバーガー屋さんの会計全部よりも高いから気を付けてね? ケーキはもうちょっと高いかな」
「え? マジっすか?」
「マジっす」
シンはへーっと言いながら青ざめた顔でメニュー表をテーブルに置いた。
そして、そわそわとしながら周囲をキョロキョロと見回す。
「落ち着けシン。行儀が悪いぞ」
「いや、でもさ」
「何も起こりはしない。ここはキラ様方のよく来る店だ。配慮もされている」
「いや、そういう問題じゃないんだって」
よく分かっていないのかレイは首を傾げるが、シンは大声を出さない様に気を付けながら、必死に自分の想いを訴えるのだった。
そんな二人が面白くて、キラはクスクスと笑いながら再び携帯端末を取り出して、セナと二人で撮った写真をSNSに上げる。
そして、少ししてからやってきた紅茶を飲み、ケーキをシン達と分けながら食後のティータイムを楽しむのだった。
穏やかな時間。
ゆったりと過ぎてゆく世界の中で、キラは目を伏せながら通り過ぎる風の音を聞いていたのだが、不意に少し離れた所から聞きなれた声が聞こえてくるのを感じた。
「うん?」
「どうしました? お姉ちゃん」
「いや、なんか。アスラン達の声が聞こえた気がして」
「え? でも、まさか……」
「アスラン?」
「あぁ、ごめん。シン達は知らないよね。僕とセナの友達……なんだけど、今はオーブに居ない筈なんだよね」
とシンに言葉を返しながらキラは椅子から立ち上がり、入り口の方へと向かった。
そして、店員と何やら言い争いになっている幼馴染の姿を見つける。
「……何やってるのさ。アスラン。それに、イザークに二コルに、ディアッカ」
「うぉ。マジでいた!」
「ディアッカ。こういうお店ですから。少しは声のトーンを落としてください」
「いや、驚いて声出ただけだろ。まさか本物だと思わないじゃんか」
「それはそうですが、マナーという物がありますから」
「そういうのは店員脅してるアスランとかイザークに言ってくれる?」
「面倒でしょ。あの二人は。ディアッカの方が言い易いので」
「ひでぇ」
「キラ! 話があるんだ!」
「貴様! 逃げずに話をしろ!」
「はいはい。僕は逃げないから。とりあえず店の奥に来てくれる? ここじゃ迷惑だからさ。ごめんなさい。彼らは僕の客なので、ご迷惑をおかけしました」
「いえ! キラ様がご迷惑など!」
「そう言っていただけると助かります。申し訳ございませんが奥を使わせていただきますね」
「はい。承知いたしました。元よりキラ様以外のお客様は通さぬ場所ですので、ごゆるりとお過ごしください」
「ありがとうございます。後、彼らにもオススメを」
「承知いたしました。少々お待ちください」
丁寧に頭を下げる店員さんに礼を言ってからキラはアスラン達を店の奥に案内した。
そして、大き目なテーブル席へと移動して、キラ、セナ、シン、レイの順番で並び、対面にアスラン、イザーク、二コル、ディアッカの順で並んでもらう。
こうしていると、連合との会議みたいだなぁと思いつつ、キラはうんうんと頷くが、ここにナチュラルは一人しかいないので、どちらかと言えばプラントとの会談である。
「それで? 何か用?」
「何か用? じゃない! 足つきはどうなったんだ!」
「さぁ? オーブの公式発表は知ってるでしょ? 連合軍の宇宙艦はオーブの攻撃から逃げて領海から離脱したんだよ」
「それを素直に信じると思う?」
「まぁ、思わないだろうねぇ。でも、公式発表は、ソレなんだよ」
嫌味を言うディアッカにキラはズビシっと指をさして答えた。
そんなキラに苦笑しながらディアッカはごもっともと笑う。
「それで? そうだとして、キラはどうするんだ」
「どうするって言われても、何が?」
「足つきにまた乗るのか?」
「居ない艦に乗るかって聞かれても、困っちゃうんだけど」
キラは紅茶に口を付けながら目を伏せる。
しかし、アスランとイザークはそんなキラに苛立ちながら噛みつくばかりだ。
「貴様! いつまでもそんな誤魔化しが通用すると思うなよ!」
「あの艦は危険なんだ! 放置すれば争いが広がる」
「そう? 僕とは逆の意見だね」
「キラ!」
「さっきから黙って聞いてればなんだよ! アンタ達は!」
「君には関係ない。黙っていてくれ」
「関係ない!? 関係なくないね! 俺はキラさんの護衛なんだ! 変な奴が絡んできたら守るのが俺の仕事なんだ!」
「そういうセリフは一人前になってから言うセリフだろう?」
アスランに勢いよく噛みついたシンは、アスランに嫌味と共に言葉を返され、更に苛立ちを強くする。
しかし、シンの隣に座っていたセナがシンの手を握り、落ち着いて欲しいと訴えるのだった。
「シン君。お店の迷惑になりますから」
「う……ごめん」
「まったく。護衛対象に諫められているなんて話にならないな。それでも護衛か?」
「お前!」
「アスラン……! シン君に嫌がらせをするのは止めてくれる?」
「……すまない。つい」
「つい、じゃないよ。人に言う前に自分が大人になって欲しいね」
ヤレヤレと言いながらキラは紅茶を口にして肩をすくめた。
そして、再び四人を見ながら、それで? と繰り返す。
「用事はそれでおしまい? だったら、僕も話す事は無いけど」
「キラ!」
「そんな叫ばなくても聞こえるから。……なに?」
「プラントに来い」
「いやだ」
「何故だ!」
「何故も何も無いでしょ。僕はオーブの人間なの。そんなポンポンプラントに行けないよ。それに今は戦争中なんだからさ。行ったら帰ってこれないでしょ?」
「なら、せめて……オーブを離れないでくれ」
「それは保証できないよ。僕は戦争を止める事を諦めていないんだ」
「どうして……お前はそんなにも」
「悪いけどね。アスランにはアスランの理由がある様に。僕には僕の理由があるんだよ。だから……」
「議会で……ニュートロンジャマーキャンセラーの使用が正式に決定した」
「なっ!?」
「おい! アスラン!」
アスランが呟いた言葉に、二コルとイザークは驚愕し、ディアッカはアスランの名を叫んだが、一度放たれた言葉は消えない。
キラとセナはアスランが呟いた言葉に目を見開き、驚愕の声を漏らした。
「ソレ、本当なの?」
「あぁ」
キラの問いにアスランが肯定した事で、ディアッカ達が頭を抱えながらため息を吐く。
まさか、こうも容易く最も重要度の高い機密を漏らすとは思わなかった。
上層部に知られれば銃殺刑も免れない。
だが、アスランはそれだけ必死だったのだ。
「進めたのは、父上だ。母上の状態が悪化してから父上は」
「おい! アンタ! 今の話、本当なのか!?」
「シン君。落ち着いて」
「ニュートロンジャマーキャンセラーって、核って事だろ!? プラントが核を持ったっていうのか!?」
「シン君! 良いから落ち着いて!」
「アンタらは連合とは違うんじゃなかったのかよ! なんで核なんて! しかもキラさん達の前で!」
「シン!!」
「っ!」
「落ち着いて」
シンはキラに名を呼ばれ、ようやく落ち着いてから上げていた腰を椅子の上に落とす。
怒りか、嘆きか、悲しみか。
様々な感情がシンの中で渦巻いて、感情を暴走させる。
だが、キラの声に僅かな理性を取り戻して、歯を食いしばりながら静かにアスラン達を睨みつけた。
「……ラクスは?」
「シーゲル・クライン氏は議長ではなくなり、発言権は大きく落ちている」
「はぁ……それで僕に説得を、って?」
「ナチュラルの殲滅を願うザラ議長に、もはや誰の声も届かない」
「でも、それじゃ僕の声も届かないでしょ?」
「分からない、けれど……父上はキラの事を気にしていたから。もしかしたら」
「……わかったよ。可能性は低いかもしれないけど。僕もプラントに行く。それで良い?」
「あぁ、あぁ!」
「でも、すぐは無理。オーブでやる事が沢山あるの。そんなに暇じゃないからね。僕は」
「分かっている。俺たちも、今は任務が無いから。呼んでくれればすぐに」
「だーめ。行くなら正式なルートで行くよ。オーブからシャトルでプラントにね。それで良い?」
「あぁ。分かった」
「じゃあ、いつ行くか分からないけど。なるべく早く行くから。アスラン達も、悪いけど。少し協力してくれると嬉しいな」
「勿論だ! なんでも言ってくれ」
「何でも。って言われても困るけどさ。まぁ平和につながる事をやってくれたら嬉しいかな?」
「分かった」
「じゃ、お話は終わり。あんまりここに居ると怖い人達が来ちゃうから。さっさと帰ってね」
「あぁ」
キラはアスラン達に別れを告げてため息と共に椅子に体重を預けた。
そして、改めてアスラン以外の友達を順に見て……ふとイザークの顔に大きな傷が付いている事に気づく。
「イザーク……!」
「なんだ?」
「その傷……大丈夫? 結構痛そうだけど」
「あぁ。何も問題はない。次に会った時には治ってるだろう」
「そうなんだ。ってそうか……戦場じゃあ傷は治せないもんね」
「そういう事だ。まぁ、お前がここに居るのなら、何も問題はない。すぐに片付く問題だ」
「そう? まぁ、頑張って? っていうのもおかしいかもしれないけど。無理はしないでね」
「分かっている」
「では、色々とお騒がせしまして」
「二コル君も、無理はしないでね。アスランもイザークも色々騒がしいから」
「ハハハ。まぁ、慣れてますから。キラさんもまたどこかで会いましょう」
「うん」
「あ、そうそうキラちゃん」
「ん? どしたの。ディアッカ」
「SNSやりすぎ注意だぜ。テロリストが狙ってるかもしれないからな。投稿するなら時間をずらしな」
「アドバイスありがとーございます。ストーカーさん達に言われると説得力があるね」
「ま、まぁ。そういう事だからさ。またな」
そらから。
四人が出て行って、キラは深いため息を吐いた。
「ニュートロンジャマーキャンセラーかぁ……やっぱり僕らのせいかな? セナ」
「そうかもしれませんが、いずれ開発はされていたかもしれませんね」
「そうだね。でも、まさかこんなに早く……Gのせいかなぁ」
「かもしれません」
「キラさん!」
「うん?」
「俺、キラさんのやった事! 何も間違ってないって思ってます! ニュートロンジャマーキャンセラーだって、沢山の人を救ったし! 核ミサイルだって、確かに駄目だったかもしれないけど! でも! 止めようとしたキラさんの想いも! セナの想いも! 無駄なんかじゃなくて! 俺だって!」
「うん……ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。僕も頑張った甲斐があるってモンだ」
「……っ!」
「だからこそ。今度こそプラントへ向けられる核も、地球へ向けられる核も止めなきゃならない。今度こそ……」
キラは強い決意を込めて手を握りしめた。
未だ消えていない平和への灯を消さない為に。