オーブを離れ、オーブ近海でその時を待っていたアスラン達は、潜水艦の上で日の光を浴びながら寝転がっていた。
気楽な様子で遊んでいる様にも見えるが、その内心はそこまで穏やかではない。
「やはり、オーブに足つきは居たな」
「あぁ。足つきはまともに動ける状態じゃなかった。キラの射撃は正確だからな」
「そして、キラさんの性格を考えれば完全修理が終わるまで、オーブで修理を行う、と」
「ま。分かってはいた事だが、キラちゃんがオーブに居た以上は確実だろうぜ」
空を仰ぎながら、言葉を交わす四人は荒れる内心のわりに、どこか穏やかな様子で言葉を発していた。
軍人だから、と言えば簡単であるが……彼らが感情を奥に閉じ込める事が出来るくらい、多くの事があったのだ。
「……ニュートロンジャマーキャンセラーの件、キラさん、ショックを受けてましたね」
「当然だろ? キラちゃんはあくまで平和の為にって作ったんだからよ。しかもナチュラル共はバカみたいにそれを守って、兵器にはしなかった」
「でも、プラントはしてしまった」
「仕方がないだろう! このままズルズルと戦争が続けば無駄な犠牲が出るばかりだ! 母上だって、苦渋の選択だったのだ!」
「分かってますよ。イザーク。別に責めている訳じゃないです。ただ、どうして……という想いは残りますけどね」
「仕方ねぇさ。ウチの親父だって。最後まで悩んだって言ってたからな。でもよ。キラちゃんがアレを作っちまったからなぁ」
「ナチュラル用のOS、ですか」
「そ。いや、冷静にやべぇだろ。元々数は比べるまでもなくこっちの方が少ないってのに、コーディネーター並とはいかなくても、それなりに戦えるOSだぜ? 冗談じゃねぇよ」
「だから、ナチュラルを圧倒する力が必要だった。ですか」
「そして、一刻も早く戦争を終わらせる必要がある。あれはその為の力なんだ。少なくとも最高評議会はそう信じている」
「現場を知らねぇってのは良いモンだぜ。核って言っても結局はモビルスーツ。戦うのは俺達だぜ?」
「しかし、戦わなくては戦争は終わらない。それは確かだろう」
「そうかもしれねぇけどよ。このまま戦っててホントに戦争は終わるのかよ? 向こうが兵器を作ったから、こっちも作って、またあっちも作ってってよ。ホントに全員死ぬまで終わらねぇんじゃねぇか? 俺たちがやるべき事って何だよ」
「ディアッカ……」
「俺は、正直……このまま、ただ命令に従って死ぬまで戦い続ける、なんてのはごめんだ」
「ですが、ならどうするんですか?」
「クライン派に行く。キラちゃんとも戦って、話して、思った。俺たちはきっとこのままじゃいけないんだ」
「なるほど。久しぶりに意見が合いましたね。ディアッカ。それなら僕も同じ意見ですよ。僕もこの戦いが終わったらラクス様の一派に合流するつもりでした。僕らが目指すべきは平和。ナチュラルとも共生してゆく世界です」
「……お前たち」
ディアッカと二コルの言葉に、イザークは戸惑ったような声を漏らした。
そしてアスランも、何も言えないまま、ただ二コルとディアッカを見つめる。
「別にプラントを見捨てようってわけじゃないです。ですが、終わりのない戦いなんて続けても意味が無いじゃないですか。僕らはナチュラルを皆殺しにしたくて戦っているんじゃない。平和の為でしょう?」
「それは……そうだが」
「キラさんは、おそらく地球連合の上層部を説得するだけの力を持っています。そしてプラントでのラクス様の影響力は強い。二人が一緒に平和へ進めば、何だか届きそうじゃないですか? 平和の世界。後は反抗勢力を僕らで潰せばいい」
「姫様の騎士団ってか? 悪くねぇな」
「お前たちは血のバレンタインを赦せるのか?」
「赦せるわけ無いじゃないですか。ですが、それでナチュラルを全て憎んでどうするんです。同じナチュラルの仲間だから同罪と? そういうのであれば、キラさんだって、あの時は連合と共に居たんですよ?」
「それは……!」
「それに僕らは既に報復をしてしまった。エイプリルフールクライシス。アレの被害者はユニウスセブンの比じゃないでしょう。キラさんとセナちゃんのお陰で被害は最小限に抑えられたとはいえ……僕らは既にただ一方的に恨み言を言える立場じゃないんですよ。僕らはどこかで、彼らを赦さなくてはいけない。それこそが平和に繋がる道だと、僕は信じています」
「……」
「だから、今すぐじゃなくても良いんです。いつか。二人も共に歩んでくれる事を願ってますよ」
二コルが微笑みながら告げた言葉に、アスランとイザークは言葉なく小さく頷くのであった。
そして、話がひと段落した時に、潜水艦の中から声が聞こえた。
「皆さん! 遂にオーブへ潜入中のスパイより連絡が来ました!」
「向こうは何と?」
「キラ様、セナ様はそれぞれモルゲンレーテと自宅に軟禁状態。そして、軍港近くで動きがあったそうです」
「……来たか!」
アスランは立ち上がり、イザーク、二コル、ディアッカへと視線を向ける。
「これから俺たちがどうするか。それも確かに大事だが、今一番重要なのは足つきだ」
「えぇ。セナさんからの依頼ですね。彼女が軟禁状態という事を考えると、やはりオーブとしてはセイバーを地球連合に届けるつもりなのでしょう」
「やっぱりオーブは敵だったって事かよ」
「分かってはいた事だ。しかし、キラやセナがオーブに居るという事は……もはや何も遠慮は要らないという事でもある」
「今度こそ。カナードの仇とイザークの傷の礼をしてやらないとな」
「ストライクセイバー。俺が必ず落としてやる……!」
「だが、気を付けろ。連合とオーブが組んでいた以上、既に戦闘データを機体に反映している可能性は高い。キラ並の強さがあるかもしれん」
「分かっています。ですが、だからこそ放置は出来ない。ですよね?」
「そういう事だ。ストライクセイバー。ここで確実に破壊する。キラの願う平和へと、繋げる為に」
アスランが差し出した拳に、イザーク、ディアッカ、二コルが合わせて互いの拳を軽くぶつけ合う。
「行くぞ!」
そして、アスランたちは、ここで確実にアークエンジェルを沈め、ストライク及びストライクセイバーを完全に破壊する為に動き始めた。
アークエンジェルの前方からグゥルに乗って出撃し、油断しているところを強襲する。
『早速出てきたな。まずは俺とディアッカで足を止める。イザークと二コルは援護を頼む!』
『あぁ!』
『分かりました!』
『オーケー! 行こうぜ!!』
イージスとバスターは機体を急上昇させて上空からアークエンジェルの推進装置を狙い、ビームを放つ。
が、その行動を止める様にアークエンジェルからスカイグラスパーが飛んできて、バスターを狙って『320mm超高インパルス砲:アグニ』を放ってくるのだった。
ディアッカはひとまずそちらの迎撃にとイージスの傍を離れる。
『すまん! アスラン! そっちは任せた! まずはこの煩いハエを叩き落す!』
『了解した』
スカイグラスパーはバスターとの交戦を始め、ストライクセイバーは艦上からビームを放っているだけ。
そしてストライクの注意はブリッツとデュエルが引いている。
ここだな。と判断したアスランはグゥルから飛び上がり、一瞬で変形すると、『580mm複列位相エネルギー砲:スキュラ』をアークエンジェルのエンジン部に向けて放つのだった。
油断をしていた訳ではない。
イージスの位置も把握はしていた、だが、あまりにも上空から放たれた一撃にアークエンジェルは成す術なくエンジン部を破損させて、その艦体を傾け始めた。
そして、近くにある小島へと不時着する事になったのである。
これを好機と見たアスランは一気に降下して、アークエンジェルの武装をビームライフルで狙撃した。
逃げる事も、砲台としても機能させない。
『艦の足は止めた。また動き出す前に、モビルスーツを叩くぞ!』
『セイバーは俺が貰ったァ!!』
『イザーク! 前に出すぎるなよ!』
『うるさい! コイツのせいで、どれだけの仲間がやられたと思っているんだ!』
激高しながら、ストライクセイバーに切りかかるイザークにアスランは舌打ちをしながら全体の様子を見る。
イザークがストライクから離れた事で、二コルのブリッツが押され気味になっており、アスランは急いでブリッツの援護に向かうのだった。
『二コル!』
『あぁ! アスラン! 助かりました! コイツ! かなり手ごわくて!』
『だろうな! だが、決して勝てない相手じゃない! 協力して叩くぞ!』
『はい!』
アスランは両腕のビームサーベルを展開しながら、小島に降りたストライクに迫る。
ブリッツも同様にストライクを攻めるが、やはりというか。
アスランの予想通り、キラの戦闘データを使用している為、非常に手ごわかった。
しかし、2対1なのだ。
対処のしようはいくらでもある。
『二コル! すまないが、ミラージュコロイドで回り込んでくれ。地上では精度が落ちるが、それでもある程度は有効な筈だ!』
『はい! 任せて下さい! アスランも気を付けて!』
二コルはブリッツを近くにある森に退避させて、そのまま森の中を突き進んでいた。
しかし、不意にイザークから通信が入った事で、その足を止める。
『二コル! 気を付けろ! そっちにセイバーの奴が向かった!』
『え!?』
『こっちは機体が動かん! 少し待て! すぐ援護に……!』
『いえ! 僕よりも……』
二コルはそちらも気を付けて……と言おうとした瞬間、上空から落ちてきたセイバーに驚きの声を上げる。
ミラージュコロイドを展開していたというのに、ストライクセイバーは正確に二コルの位置を見つけ、降りてきたのだ。
そして、ストライクセイバーがミラージュコロイドを展開しているブリッツに触れた瞬間、ブリッツは二コルの手を離れ、暴走を始めてしまった。
ブリッツがストライクセイバーに森の中で遭遇し、戦闘を始めた頃、イザークは機体のシステムに入り込んだウイルスを排除する為に奮闘していた。
幸い、周囲の敵からは見えない位置で機能を停止してる為、攻撃される心配はないが、仲間ばかりを戦わせている状況である。
急ぎ戦線に復帰しなくてはとキーボードを叩き、システムを復旧させていた。
そして、何とかシステムを取り戻し、通信を回復させた瞬間、聞こえてきたのは二コルの声だった・
『イザーク! セイバーは……!』
不自然に途切れた通信と、その直後に森から飛び出してきたブリッツ。
そして、ブリッツの背後から胸部に向かって突き刺されたストライクセイバーのビームサーベル。
全てが、イザークの優秀な脳でも処理が追いつかない程の混乱を呼び。
そして、ブリッツがストライクセイバーの攻撃により爆散したのを確認して、イザークは叫び声を上げた。
『二コルぅぅうう!!!!』
『どうした!? イザーク!! 何があった!! イザーク!』
イザークの胸に沸き上がるのは、苦しみすら感じるほどの怒りだ。
最初にカナードが殺された。
そして、二コルも殺された!
二コルと最後に交わした言葉がよみがえる。
《僕もこの戦いが終わったらラクス様の一派に合流するつもりでした》
《僕らが目指すべきは平和。ナチュラルとも共生してゆく世界です》
《僕らはどこかで、彼らを赦さなくてはいけない。それこそが平和に繋がる道だと、僕は信じています》
《だから、今すぐじゃなくても良いんです。いつか。二人も共に歩んでくれる事を願ってますよ》
滲んだ涙を振り払って、イザークはブリッツが起こした炎の中に立つストライクセイバーを睨みつけた。
コイツだ。
コイツが、こいつが全て……!!
今日までの、全て!!
『……っ! 赦せないんだよ!! お前だけは!!!』
膨れ上がった怒りを力に変えて、デュエルは憎しみを纏い、ストライクセイバーへと向かった。
必ずここでコイツを落とす。
そう、心に誓って。
そして、戦いは更なる地獄へと突き進んでゆく。