ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第82話『PHASE-28『閃光の刻』』

 オーブを出て、すぐにアスラン達に襲撃され、アークエンジェルのエンジンが被弾し、不時着し、いくつかの武装を破壊されたが、それでもまだキラたちは何も希望を失わないまま戦っていた。

 エンジンは修理出来る。

 Gを撃退すればアラスカはすぐに手が届く場所にある。

 

 ここを耐えれば良い。

 だが、敵の猛攻が激しい。

 そこだけが厳しい状況であった。

 

『お姉ちゃん!』

『どうしたの!? セナ!』

『パイロットを強制脱出させて、ブリッツを破壊したのですが、デュエルと交戦しており、回収出来ません!』

『分かった! フレイ! 回収お願いできる!?』

「なんで私が! コーディネーターなんて、敵なんて助ける必要ないじゃない!」

『それでも!! 助けられる命を見捨てる事は出来ないんだよ!』

「……っ!」

『ごめん。このままじゃ死んじゃう、から……ごめん』

「……わかったわ」

 

 フレイはキラの泣き出してしまう様な声に頷いて、急ぎスカイグラスパーをセナが示した場所へと向かわせる。

 そして、確かに地面に倒れていた二コルを回収して再び飛び上がるのだった。

 

「何よ。まだ子供じゃない。バカみたい。こんな戦争なんかに首を突っ込んで……」

 

 フレイは二コルを抱えたままアークエンジェルの方へと飛ぼうとしたのだが、直後にセナから焦った様な通信が入った。

 

『フレイさん!! 避けて!!』

「え?」

 

 フレイが機体の後方に目を向けた瞬間、そこにはビームサーベルを構えながら突っ込んでくるデュエルの姿があった。

 フレイは機体を加速させようとしたが、間に合わない。

 このまま撃墜されると、二コルを強く抱きしめながら目を閉じて、体を固くした。

 しかし、衝撃はいつまで経っても来ない。

 

『ぐっ! あ!』

『オルフェさん!!』

 

 泣き叫ぶようなセナの声と共に後ろを見れば、ストライクセイバーを庇うようにデュエルのビームサーベルを腹部で受けているストライクセイバーがあった。

 

『ここは私たちに任せていけ! フレイ・アルスター!』

「……! ごめん!」

 

 フレイは無我夢中でスカイグラスパーを加速させ、アークエンジェルへと戻った。

 

 

 そんなフレイを見送りながら、オルフェはストライクセイバーを操り、デュエルを蹴り飛ばす。

 そして、おまけとばかりにオーブから持ってきた閃光弾が装填された銃をデュエルに向かって放ち、デュエルのレーダーとカメラを潰してから地面に降りるのだった。

 

「オルフェさん!? オルフェさん! 大丈夫ですか!?」

「あ……あぁ。生きてはいる。だが、あまり良い状態とは……言えないな」

 

 オルフェはわき腹から血を流しており、デュエルから受けたビームサーベルの影響で吹き飛んだ計器が突き刺さっていた。

 もはや戦闘が出来る状態ではない。

 

「だが、このまま逃げるという訳にもいかないだろう? キラを助けなくては……」

「えぇ。そうですね。ですが、オルフェさんのお仕事はここまでです」

「なに?」

「今、オーブに救援要請信号を送りました。遅くとも、五、六時間もすればオーブからの救援が来ると思います」

「……だから、どうした」

 

 オルフェは酷く嫌な予感を感じながら、後部に座っているセナを見ようとした。

 しかし、その前にオルフェの体はストライクセイバーの外へと弾きだされてしまうのだった。

 いつの間にか開いていたコックピットハッチの外へと、オルフェが座っていた椅子ごと。

 

 そして、うまく椅子がクッションになり、わき腹を押さえながらオルフェはフラフラと立ち上がるが、ストライクセイバーはオルフェを助ける事なく膝立ち状態から立ち上がる。

 

「セナ! どういうつもりだ!」

「ごめんなさい。オルフェさん。怪我人相手に」

「そうじゃない!! 一人で何をするつもりだと言っているんだ!!」

「この戦いを終わらせます。オルフェさん。お姉ちゃんの事。後はお願いします」

「止めろ! セナ! 戻れ!」

 

 ストライクセイバーはスラスターを吹かせ、上空へと舞い上がると、そのまま飛び去って行ってしまった。

 

 

 遠ざかるオルフェをモニターで確認しながら、セナは戦闘支援AIを立ち上げて、怒りに燃えるデュエルと、ストライクと交戦しているイージスの元へ向かった。

 状況はセナの理想に限りなく近い。

 

「でも……まさかオルフェさんがここまで変わるとは、思いませんでした」

「物事は悪い方向にばかり転がるという事では無いみたいです」

「後は……お姉ちゃんと一緒に戦って下さることを祈りましょう」

 

 セナは一人呟きながらデュエルの攻撃でボロボロになってゆくストライクセイバーの中で小さく笑みを浮かべた。

 ここまで長かった。

 

 子供の頃から世界が壊れてしまう怖い夢を沢山見て。

 それでも、優しい人たちに囲まれていたから、今日まで頑張ることが出来た。

 絶望の未来を変えようと抗う事が出来た。

 

『セナ! オルフェ君! 駄目だ! 下がって! アスランたちは! 何かおかしい!』

「……お姉ちゃん。世界をお願いします」

『セナ!?』

 

 デュエルの攻撃でシールドごと左腕を切り飛ばされ、バランスを崩しながらも何とか空中で体勢を整えた。

 右手に握ったビームサーベルを構えて、それを大きく振り上げる。

 

 キラのストライクが、セイバーへと向かうイージスを護る様に立ちふさがるデュエルの頭と右腕を斬り飛ばすが、セナにはイザークとアスランの声が聞こえていた。

 

『やれ!! アスラン!!』

『うおぉぉおおお!!!』

 

「あぁ……」

 

 セナはアスランが傷つかぬようにとセイバーの右手を広げ、イージスのビームサーベルを受け入れた。

 

『セナ!!』

 

 泣き叫ぶような、キラの声が聞こえるが、既に手遅れだ。

 ストライクセイバーの胸部にはビームサーベルが深々と突き刺さり、今から脱出しても間に合わないだろう。

 

 まぁ、セナに脱出するような気はない訳だが。

 

「これで、ようやく世界が、平和になる」

 

 セナはゆっくりと目を閉じながら、たった一つ。

 願い続けてきた、想いを口にした。

 

 あの日から。ずっと。ずっとセナが追い求めてきた願いを。

 

『勝手に作られた子供に、愛情なんて持てるワケが無いでしょう?』

『存在するだけで災いを呼ぶ……貴女は、生まれるべきじゃなかったんだわ』

 

「だから……私も、もう一度だけ……『お母さん』って……」

 

 伸ばした右手は何も掴めないまま、ストライクセイバーはイージスが突き刺した場所から火を噴いて、仰向けに倒れながら遠く森の中へと落ちて……大爆発を起こした。

 

 

 その光景を見ていたオルフェは、木に手を付きながら荒い呼吸を繰り返して、ただ、空に飛ぶ赤いモビルスーツを見上げながら言葉を漏らす。

 

「セナ……?」

 

 問いかけても答えは出ない。

 オルフェの知っている歴史の知識では、この様な事はあり得なかった。

 まるで理解出来ない光景であった。

 

「なぜ……」

 

 血に濡れた体をそのままに、オルフェはただ疑問を投げかける。

 キラとアスランは共にラクス・クラインの元で手を取りながら平和を求めて戦う筈だった。

 前はそういう歴史であった。

 

 しかし、その一角が。

 正義を手に戦う筈のアスラン・ザラが……ただ平和を訴えて、祈っていただけの少女を手にかけている。

 意味が分からなかった。

 この行動のどこに正義があるのか、分からない。

 何も、理解が出来ない。

 

「何故だ……」

 

 怒りか、悲しみか。

 その感情の根は分からないが、激しい苦しみが胃の辺りで渦巻いて、オルフェはあまりの気持ち悪さに地面に吐き出した。

 ドロドロとした感情の混じる汚物を。

 

「なんだ、これは。おかしいじゃないか。これが、どうやって平和に繋がる!」

「お前たちは! ラクス・クラインの元で、平和を作る為に、戦う筈だろう!? 何故、何故だ!!」

 

「私が、僕のせいなのか? 僕が、アークエンジェルに来たから、だからセナは死んだのか……?」

「何故彼女が死ななければならない! ただ、あの子は平和を願っていただけだ!!」

「何故だ!! アスラン・ザラ!!」

「どうして、お前は!!」

 

 オルフェの叫びに呼応する様に暗雲から雷鳴が鳴り響き、激しい雨が降り始めていた。

 だが、それでも。

 大粒の雨に体を打ち付けられながらも、オルフェはイージスをいつまでも睨みつけているのだった。

 

 

 そしてオルフェと同じく激しい感情に囚われそうになっていた少女は、必死に自分を保とうとしていた。

 操縦桿を強く握りしめて、荒い呼吸を繰り返しながら、現状を飲み込もうとする。

 だが、どれほど、どれほど気持ちを落ち着けようとしても、それは叶わなかった。

 

 全身を包む強い悲しみが。

 全てを焼き尽くす激しい怒りが、キラの魂を揺らしている。

 

「……セナ。 オルフェ君」

 

 どうして。

 なぜ。

 

 疑問はいくつも浮かび、消えてゆく。

 溢れ出た涙は静かに頬を伝って流れ落ちた。

 ヘルメットを外し、改めてモニターを見ても現実は変わらない。

 

 ただ、セイバーが消えた場所で爆炎があがっているだけだ。

 現実は、何も変わらない。

 

 それが、キラの胸を突き刺して、かき回して、狂わせて……。

 正気を失ってしまう程の感情が、キラの中で暴れまわり、いくつもの思考や感情が荒れ狂う。

 

 そして、嵐の様に吹き荒れる感情の奔流が過ぎ去って……キラの中に残されたのは、純粋な殺意だけだった。

 

「アスラン……!」

 

 ビームサーベルを構えたままこちらを見据えるイージスを見て、歯を食いしばる。

 キラは頭の中で何かが弾けた様な感覚のまま、戦いへと精神を落としていった。

 命を奪う為の、殺し合いへと。

 

 これほど苛烈な感情に支配されたのは、久しぶりだった。

 

 おそらくは……セナが撃たれた時と同じ――!

 

「どうして、君が!」

 

 キラはストライクのスラスターを強く吹かせながらイージスに接近し、体当たりをする様な勢いでぶつかってからビームサーベルを振り下ろす。

 だが、イージスは今までとは比べ物にならない程の動きで、ストライクの攻撃を受け流すと、逆にストライクへとぶつかり、ビームサーベルを振り上げるのだった。

 

「なんで、君が! よりにもよって君が!」

 

 だが、キラも負けじと、イージスの片腕を斬り落として、さらに追撃をと迫る。

 イージスは片腕を失っても構わず、足のビームサーベルを展開してストライクの左腕をシールドごと切り落とすのだった。

 

「君がセナを殺すんだ!!」

 

 そして、キラは怒りのままにイージスの頭部をビームサーベルで突き刺して破壊した後、蹴りつけてイージスのバランスを崩す。

 

「……僕が! 君を!!」

「セナを殺した君を!!」

 

 そして、ストライクはビームサーベルを構え、隙を見せたイージスのコックピットに向かってビームサーベルを突き刺そうとした。

 しかし、直前でビームサーベルを消して、根本だけをコツンとイージスの体にぶつける。

 

「……だめだ。僕には、できない」

「君を……殺す事なんて……僕には」

 

 キラは涙に溢れた顔でイージスを見て、笑った。

 例え、セナの仇だとしても。

 気持ちを通わせたオルフェの仇だったとしても。

 

 大切な幼馴染を殺す事なんて出来ないと……。

 

 そして、動きが止まったストライクにイージスは変形しながら組み付いて、勢いよく岩壁へと叩きつけた。

 その衝撃でヘルメットを外していたキラは激しく頭を打ち、頭から血が流れた。

 

 霞んだ視界の向こうで、イージスが『580mm複列位相エネルギー砲:スキュラ』を放とうとしていた。

 

「これはきっと……罰なんだろうね」

 

 しかし、イージスはスキュラを放とうとした瞬間、エネルギーが切れた様で、フェイズシフトがダウンしてしまった。

 もはやイージスに攻撃手段は無いかと思われたが、イージスには残された攻撃手段がある事をキラは理解していた。

 

 そして、敵を討つと決めたアスランなら迷うことなくその選択を取るであろうことも。

 だが、至近距離で爆発を受ければアスランとて無事では済まないかもしれない。

 だから、キラは組み付かれた状態でストライクを動かし、イージスに触れながらシステムに侵入した。

 

 イージスを破壊すれば助かるだろうに。

 今すぐに逃げれば生き残れるかもしれないのに。

 

 ただ、アスランを助ける為に、キラはイージスのシステムに仕込んだプログラムを作動させる為にキーボードを叩き続ける。

 自爆のカウントを遅らせて、コックピット周辺をアスランごと脱出させて、自爆の影響から守るのだ。

 そうすれば、コックピットブロックがアスランを助けてくれるから。

 

 自爆の影響範囲の外まで、コックピットブロックを飛ばす。

 その為に、キラは最後の調整を行って……プログラムを実行した。

 

 そして、無事イージスからコックピットブロックが射出され、遠くに飛ばされてゆくのを見ながら小さく息を吐く。

 

「アスラン……君は生きて」

 

「核ミサイルの事……ごめん。本当に、こんな言葉に意味なんか無いかもしれないけど」

「でも、僕らの事は許せなかったかもしれないけど……地球には優しい人が……沢山居るんだ」

「だから……君にはラクスと一緒に平和を作って……欲しい」

 

「……ごめん。ラクス。後は、お願い。僕はもう……疲れちゃったよ」

 

 キラはストライクにビデオメッセージだけを残し……そして目を閉じた。

 頭から血が流れているからか。

 酷く重い瞼を落として……そのまま意識を失うのだった。

 

 それから少ししてイージスは自爆し……既にフェイズシフトがダウンしていたストライクを巻き込んで、島の地形を変えるほどの大爆発を引き起こすのだった。

 そして、アークエンジェルで確認していたストライクの信号も、それと同時に途切れる事となった。

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