ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第84話『PHASE-29『慟哭の空2』』

 キラ達が戦った小島周辺に襲い掛かっていた嵐も過ぎ去って、ようやく船が動かせるようになったと、朝日と共に海岸へと到着したカガリは、多くのオーブ軍人と共に島へ舞い降りて指示を出しながらキラとセナの捜索を始める。

 そして、開始早々に軍人の一人からオーブの五大氏族の一人であるロンド・ギナ・サハクを発見したとカガリに報告に来た。

 

「ロンド・ギナ・サハク! キラとセナは!?」

「カガリ・ユラ・アスハか」

「キラとセナは!?」

「何度も言われずとも聞こえている。言われずとも発見しているのならば、すぐに運んでいるに決まっているだろう」

「くそっ!」

 

 カガリは苛立ちをそのまま地面に叩きつけて憎々し気に周囲を見渡した。

 そして、何故かロープで縛られながら転がっている少年を見つけた。

 

「アレは?」

「重要な参考人を殺そうとしていたのでな。拘束しただけだ」

「ったく。何やってるんだ。アイツは」

 

 カガリは頭をガリガリと掻きながら、ムスッとした顔で地面に転がっているシンと、その横で座っているレイの元へと向かった。

 

「先にこっちへ来ているという話は聞いていたが、まさか暴れているとは思わなかったぞ。シン」

「うっさいな! 俺だって別に暴れたくて暴れたんじゃないよ!」

「しかし、暴れたのは事実だろう? ったく。この大変な時に」

「アイツが! キラさんを殺したアイツが! のうのうと生きて! 助けられてるから!」

「アイツ……?」

「アスランだ! キラさんが友達だって言ってた! なのに! なのに!!」

「アスラン……?」

 

 カガリは酷く聞き覚えのある名前に首を傾げるが、答えはすぐ後ろから帰ってきた。

 感情を見せない冷徹な為政者の顔をしたロンド・ギナ・サハクが淡々とカガリの疑問に応える。

 

「ZAFTのパイロットだ。おそらくはイージスのパイロットであり……キラの乗っていたストライクをイージスの自爆に巻き込んだらしい」

「そのまま死んでれば良かったんだ!」

「と、まぁ。小僧が怒りのままに殺そうとしたんだがな……現状、この島で起こった事を知るのは奴だけだ。殺すワケにはいかん。キラとセナの行方は分からないのだからな」

「そうだな……」

 

 カガリはギナの言葉に頷きながら、引き続き島の調査を軍人たちに任せ、ギナやシン達と共に『アスラン』の元へと向かうのだった。

 キラとセナを見つける為に。

 

 

 そして、カガリはアスランを収容したという軍艦の中へ入り、アスランが起きるまでギナ達が見つけた遺言の様なビデオメッセージと、これまでに分かったイージスとストライクの戦闘解析データを見ながら、燃え上がる様な怒りを壁に叩きつけて……静かにその時を待っていた。

 こんなはずではなかった過去。

 こんな風になるとは思っていなかった今日。

 

 まだ僅かに残っている希望に縋る様に……カガリはアスランが目を覚ますのを待つ。

 

「カガリ様。例の兵士が」

「目覚めたか!」

 

 そして、アスランが目覚めたという報を聞き、カガリはギナ達と共に急いでアスランがいる部屋へと向かった。

 

「入るぞ」

「……?」

 

 逸る気持ちのまま、兵士二人が入り口の所に立っている部屋に入り、ベッドの上で上半身を起こしている少年を見つけて、カガリは目を細めた。

 あの、『アスラン』である。

 小島で出会った、夜通し平和について語り合った少年だ。

 

「気が付いたか」

「……あぁ」

「ここはオーブの軍艦の中だ。暴れようとか、逃げようとしても無駄だ。我が国にはコーディネーターの軍人も多い。お前一人では逃げようとしても殺されるのがオチだ」

「だから……?」

「キラが繋いでくれた命を捨てるな。と言っている。それとな。一つ忠告しておくが、言葉には気をつけろ。私も……そうだが。我が国の人間は今、今までにない程に気が立っている」

「……?」

 

 身に覚えのない怒り……いや、憎しみを向けられてアスランは静かに首を傾げた。

 そんなアスランにカガリたちの怒りはさらに加速してゆく。

 

「キラとセナはどうした? お前の仲間がプラントへ連れて行ったのか!?」

「……? なんの、話だ?」

 

 心底意味が分からないとアスランはカガリに問い返す。

 当然だろう。アスランはキラとセナがオーブに居ると思っているのだから。

 つい先ほどまで死闘を繰り広げていたアスランに、キラとセナがどこにいるかなど知る由もない。

 

「ストライクと、セイバー……! 機体のパイロットだ! どうしたと聞いている!!」

 

 強すぎる怒りが、カガリに銃を抜かせ、アスランへと向けさせる。

 本心では今すぐ撃ち殺したい。

 しかし、出来ない。

 キラが、セナが見つからないから。

 

「ストライクと、セイバー? いや、キラはオーブで足つきには乗らなかったのだろう? モルゲンレーテで軟禁されていたと聞いている。それにセナは……セナは、ずっとオーブに居た……そうだろう?」

 

 カガリの言葉に、その剣幕に、アスランはドクドクと早まる心臓の鼓動を感じながら、確かめる様に……まるで救いを求める様に問うた。

 だって、そうでなければ。

 もし、あの機体にキラとセナが乗っていたのだとすれば……自分は。

 

「アークエンジェルが出航する直前。キラはモビルスーツを使用して脱走し、アークエンジェルへと合流した。そして、セナも監視の目を逃れてアークエンジェルに密航している。そして、セナはおそらくモビルスーツ戦となればストライクセイバーに乗っただろう」

「……バカな。それじゃあ……?」

「殺したのか!?」

 

 突き刺すような赤い、燃える瞳に睨みつけられ、言葉を投げつけられながらアスランはビクッと震えた。

 恐怖からではない。

 己が犯してしまったかもしれない罪を目の前に見つけた動揺から、震えているのだ。

 

 おかしな事はいくつもあった。

 ストライクセイバーはどれだけ接近しても、システムハッキングをしなかったし、アスラン達のコックピットを狙う事もなかった。

 ストライクも同じだ。

 確実にイージスのコックピットを刺せる場面だったというのに、ビームサーベルは途中で消え、アスランは無事だった。

 それを不具合か、エネルギー切れだとアスランは思ったが、ストライクのフェイズシフトがダウンしたのは、アスランが岩壁に叩きつけた後だ。

 

 しかもイージスの拘束から逃れる事もせず、途中から完全に動かなくなっていた。

 

 もし、もしもだ。

 セイバーに乗っていたのがセナで、ストライクに乗っていたのがキラだった場合、全てが説明できる。

 セナはこちらと戦うつもりはなく、そんなセナを殺したアスラン達をキラが怒り、殺そうとしたが……最後にやはり駄目だと止めてしまった。

 

 ダラダラと汗を流しながら、震える自分の手を見て、アスランは救いを求める様にカガリを見た。

 しかし、カガリは強くアスランを睨みつけるばかりだ。

 

 おそらく、キラは……セナは見つからなかったのだろう。

 つまり、アスランが、二人を……殺したのだ。

 

「二人……は……俺が、殺した」

「お前っ!」

「抑えろ! シン!」

「っ!」

 

「セイバーは、動力部にビームサーベルを突き刺して、少し離れた場所に墜落して……爆発していた。脱出は間に合わなかっただろう」

「……!」

「ストライクは……イージスで組み付いて、自爆した。逃げる事が出来たとは……思えない。人間の足で自爆の影響範囲から逃れるのは……不可能だ。あれ? なら、なんで、俺は生きてるんだ……?」

「キラさんが! アンタを助けたんだよ!」

 

 シンがレイに体を捕まれたまま怒りのままに叫ぶ。

 ストライクを解析して、イージスの脱出ブロックを確認して、分かった事実を。

 

「お前が自爆しようとした時! キラさんが、お前を助ける為に!! イージスのプログラムを弄ってたんだ! 殺そうとしてきた相手を! 助ける為に!! そんな人を! お前は!!」

「……あぁ。そうか。キラが。キラらしいな」

「お前!!」

 

 もはやアスランは感情が追いつかず、虚無を体に宿しながら、意思なく言葉を呟く。

 頭の中に残る疑問は消えない。増えるばかりだ。

 何故? どうして?

 そんな言葉が現れては消えてゆく。

 

 だが、誰もアスランに答えを渡す者は居なかった。

 

「俺は……何がしたかったんだろうな。なんで……」

「……無駄足だったな。我は捜索に戻る。コイツが脱出出来たという事は、そういう機能がGに付いている可能性は高い」

「っ! そ、そうか!」

「行くぞ。シン。レイ。ムラサメで空から探す。セイバーが爆発した周辺だ」

「は、はい!」

「キラめ。こんな死人の様な男を助ける為に死んだとは……愚かな奴だ」

「ギナさん! まだ! まだキラさんは!」

「分かっている」

 

 ギナはアスランを睨みつけるシンとレイを引き連れて部屋から出てゆき、部屋にはカガリとアスランだけが残された。

 アスランは壁に体重を預け、ズルズルと床に座る少女を見やる。

 

「……もう話す事は全て話した。俺を殺さないのか?」

 

 その言葉に。

 カガリは再び怒りを燃え上がらせて顔を上げ、アスランに銃口を向ける。

 そうだ。全て、聞いた。

 もはやこの男は、不要だ。殺すべきだ!

 最愛の妹たちを殺した! コイツを!!

 

 そう、考えて、カガリはアスランに銃口を向けたまま立ち上がり、歩く。

 しかし、頭の中に蘇るのはいくつもの言葉だった。

 消えてしまった妹たちの……言葉だ。

 

『プラントも地球も。みんな大切な人を奪われている』

『戦争が続けばその犠牲者はどこまでも増え続けて、憎しみは終わらない』

 

『憎しみは、憎しみを生み出す事しか出来ません』

『戦争を止める為には、憎しみを持って戦ってはいけないのです。どこかで、誰かが憎しみの連鎖を断ち切る必要があります』

 

『これ以上の悲劇を生み出さない為に、銃を捨てる覚悟が必要なんです』

 

「くそぉ!」

「……?」

「私は、それでも、私は……! お前たちの為に、銃を捨てる、べきなのか! こんな、痛みを! 飲み込んで!」

 

 強くアスランを睨みつけて、カガリは叫んだ。

 抵抗しないアスランの向こうには、悲しそうに微笑む妹たちの姿が見える。

 姉として、カガリは……強くあらねばならなかった。

 

 カガリは深くため息を吐いてから、銃の安全装置を戻し……懐にしまう。

 その行動にアスランは不可解な物を見るような目をカガリに向けるのだった。

 

「何を、やってるんだ? 俺を討つんじゃないのか?」

「お前は殺さない。憎しみのままに敵を討っても争いは終わらないと、私は妹たちから教わった」

「妹……?」

「キラと、セナだよ。私の大切な妹だ。何よりも……大切な妹たちだ」

「……!」

 

「私は、大切な家族をお前に殺された! でも、私はお前を殺さない! お前を憎い気持ちはあるけれど! お前を討たない」

「……なぜ」

「殺されたから殺して、殺したから殺されて、そんな事を繰り返しても……最後には平和になるなんて事は……無いからだ。私はこの憎しみを、断ち切る」

 

 強く唇を噛みしめて、涙の滲んだ顔でそうアスランに言葉を叩きつけるカガリに……アスランはキラとセナの姿を見た。

 

「キラはきっと、お前にも銃を取って欲しくなかったんだ。でも、核ミサイルを止められなかった事を、ずっと気にしていたから……。でも、もしかしたら、だから、お前に殺されても、仕方ないと思ったんだろうな」

「核ミサイル……?」

「ユニウスセブンの核ミサイルだ。あの戦場にキラとセナも居たんだ。二人は止めようとしていた。でも止められなくて……大勢の人が死んでしまったと泣いていたよ」

「あぁ……」

 

 アスランは、ようやく今になってヘリオポリスで己が言ってしまった事の言葉の重さを理解した。

 キラに言ってしまった言葉。

 無かった事にする事は出来ない、アスランの罪。

 

 おそらくは……キラを戦いに巻き込んでしまった……死への道を作ってしまった最悪の言葉。

 

「俺は……本当に、どうしようもない、奴だ」

 

 両手で顔を覆い隠しながら、アスランはこれまでの日々を悔やむ。

 もしも、あの言葉が無ければ……あんな事を言っていなければ、キラは死ななかったかもしれない。

 セナも、ニコルも、カナードも……誰も。

 

 絶望の中で、声を殺しながら泣くアスランに、カガリはそれ以上何も言う事は出来ず、静かに部屋を去ってゆくのだった。

 自らも、心が砕けてしまいそうな悲しみを感じながら。

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