アラスカに到着したアークエンジェルはアラスカで艦体の補修を受けながら、次の作戦に向けて準備を進めていた。
その一環として、地球連合軍最高司令部統合作戦室所属、ウィリアム・サザーランド大佐から作戦説明を受けているのだった。
「本来であれば君たちの行動に関して、査問会を行う所だがな。今はその様な事を行っている時間も惜しいし、キラ様たちに守られながらとはいえ、ZAFTに長く狙われながら生き残った君たちの経験は貴重だ」
「……はい」
「その為、君たちはアークエンジェルの修理が完了次第、パナマ基地へ向かい宇宙へと上がって貰う。その後は月艦隊と合流し、プラント本国への直接攻撃に参加してもらう」
「プラント本国への……直接攻撃で、ありますか……?」
「何か不服かね? マリュー・ラミアス艦長」
「いえ。その様な事はありませんが……我らは和平の為に」
「まだその様な寝ぼけた事を言っているのか。君は」
「……」
「我らはこれまでに何度も! 和平を申し込んできた! だが、それを跳ね除けてきたのはコーディネーター共だ! そして! その上で、平和を願っていた姫君の乗った艦を襲撃! その搭乗機を破壊! 殺害しようとしていた意図は明らかだ。こんな連中との和平などあり得ん」
「それは……!」
「それとも何かね? 君は、コーディネーター共が正しい。とでも言うつもりかね? 君たちを守り続けてきたキラ様とセナ様の意思と願いを踏みにじった連中を!」
「いえ……その様な事はありません」
マリューはサザーランドの剣幕に何も言えず、押し黙ってしまう。
そんなマリューにサザーランドはため息を吐いてから、作戦の説明を続けた。
「まぁ、コーディネーター共の脅威にさらされ続けた君たちが連中を恐れるのも、分からんでもない。だから和平等と言う甘い夢に今も縋っているのだろう」
「いえ! 我らは……!」
「もはや恐れる必要は無いのだ。マリュー・ラミアス艦長。それにアークエンジェルのクルー諸君。我らには姫君から託された大いなる力があるのだからな」
「託された、力……?」
「そう。コーディネーター共によって我らが危機に瀕した時、彼女たちが託してくれた力」
「っ! まさか!」
「そう。そのまさかだよ。ムウ・ラ・フラガ少佐」
「……ニュートロン・ジャマー・キャンセラー」
「その通りだ。ナタル・バジルール中尉。やはり君たちはそれなりに優秀な様だな。その優秀さがあれば特別強襲隊としての役目も果たせるだろう」
「特別強襲隊……! でありますか」
「そう。コーディネーター共と月艦隊の本隊が衝突している宙域を避け、プラント本国への直接核攻撃を行う部隊だ」
笑みを浮かべながら放ったサザーランドの言葉に、アークエンジェルに乗っていた面々は顔を青くさせながら、そのおぞましい作戦に息をのむ。
軍ではなく、直接民間人の暮らすコロニーを核攻撃する。
それはもはや戦争ではなく、虐殺であった。
「その様なもの! キラちゃん達が望むはずがありません! 彼女たちは!」
「そうだろうな」
「っ!」
「しかし、貴様らは守れなかったではないか。キラ姫もセナ姫も!」
「そ……れは」
「それに、地上に居る人類はそれを望んでいるのだ。奴らの殲滅を!」
「……!」
「理解出来たのならば、己の役目を果たせ。地球連合軍マリュー・ラミアス少佐。奴らを! 殲滅するのだ!」
マリューはサザーランドの命令に敬礼で返しながらも、己の心は違うと叫び続けていた。
いや、マリューだけではない。
アークエンジェルで、キラ達と共に今日までの時間を過ごしてきた全ての者が。
こんなものは間違っていると、そう考えていたのだ。
しかし、それでも彼女たちは軍人で、地球連合軍全体の命令には従わねばならない立場であった。
サザーランドの命令を受けてから、順調に修理が行われているアークエンジェルの艦内で、マリューは机の上に飾られた写真を見ていた。
ヘリオポリスで、開発を始める時にマリューとキラとセナで撮った写真だ。
あの頃は希望で満ち溢れていた。
マリューは作戦開始まで待機という事で普段は飲んでいない酒を浴びる様に飲みながら、ただ、写真を通して失われてしまった子供達を想う。
そんなマリューの部屋にノックの音が響き、一人の女性士官が入って来た。
「艦長。捕虜の件ですが……っ!? 何ですか! この匂いは!」
「……んー? あぁ、ナタル。ごめんなさいね。ちょっと飲んでた物だから」
椅子にだらしなく座ったまま軽く手を振るマリューにナタルは額に青筋を浮かべながらも言葉を続ける。
「ラミアス少佐! 確かに現在我々は休息中ではありますが、事が起きれば戦いが始まります! 我々も参加しなくてはなりますまい! その様な状況で、この様な状態になるまで飲酒するというのは!」
「あーもー! 良いじゃない! こんな時くらい!」
「こんな時って……」
「プラント本国へ……民間人に核を撃てって、命令された後なのよ? 飲みたい気分にくらいなるわ」
「……」
「きっと、あの世に行ったら……キラちゃんとセナちゃんに罵られるわね。裏切者ー! って」
「その様な事。あの御二方が仰るはずもない。その様な侮辱は止めて頂きたい」
「……そうね。ごめんなさい」
「むしろ。泣かれると思います。ご自分を責めて。この様な事を艦長にさせてしまったと」
「そうね」
マリューはナタルの言葉を聞きながら天井を仰いで、一筋の涙を流した。
あの子達はそういう子達だったと。
「私は、何のために……」
「はぁ」
マリューの呟きにナタルはため息を返して、マリューが手に持っていた酒瓶を奪い取り、そのまま口を付ける。
酒に弱いナタルには、強すぎるくらいの酒であったが、それでも軍人としての矜持と強固な意思で自分を保ちながらマリューを睨みつける。
「以前。セナ様とこんなお話をしました」
「……ナタル?」
「私が何故軍人となったのかと、迷い悩む私に、そうセナ様はお聞きくださいました」
「何故、軍人になったのか……」
「はい。そして、私は答えました。祖国、そして民を守る為に私は大西洋連邦の軍人となったのだと。セナ様と同じく、自分の力を……他者の為に使う者であると」
「……ナタル」
「艦長。いえ。マリュー・ラミアス! 貴女は何故軍人となったのですか!? どの様な願いを抱いて! 軍人となり、今日まで戦ってきたのですか!? わたしは……?」
ナタルはマリューに向かって勢いよく叫んでいたが、その勢いが激しすぎたせいか、酒の回りが思ったよりも早かったからか、言葉の途中で意識を失ってマリューに倒れ掛かってしまった。
そんなナタルを焦りながら受け止めたマリューは、ナタルの状態を確認して、眠っただけだとホッと息を吐いた。
そして、ナタルを抱き上げながら一人呟く。
「何のために、戦うのか……か」
未だ答えの出ない問いを呟きながら、再び写真に向かって視線を送る。
何となく頭に浮かんだ答えを心の中で写真に向けると、ここには居ない二人が微笑んだ様な気がして、マリューは小さく笑みを落とした。
答えは、多分最初から……。
ナタルがマリューに対して言葉をぶつけている頃。
ムウは非常に面倒な仕事をしていた。
それは、アークエンジェルに居る捕虜の対応である。
「だーかーら! 俺たちはどうなるんだよ! って聞いてんだろ! オッサン!」
「オッサンじゃない! お前らの処遇は月基地に行くまで分からねぇんだよ。こっちもドタバタしててな」
「キラさんとセナさんはまだ見つからないんですか?」
「機密だ。お前らに言えるワケねぇだろ」
「全部セナの計画だったんだって! 俺はセナに直接聞いたんだぞ!」
「そんな事してセナさんに何の得があるって言うんですか!」
「戦争を止めたかったんだって言ってんだろ!」
「セナさんが戦争の中で死んだら戦争が悪化するに決まってるじゃないですか!」
「俺だって知らねぇよ! 本人がそう言ってたんだって!」
バスターのパイロット、ブリッツのパイロット、ジンのパイロット。
三人の子供たちは元気よく独房の中で叫び、言葉を交わす。
その元気な様子に、ムウは再び溜息を吐いた。
ナタルから捕虜について託されたが、何かを聞こうにも二言目にはキラキラ、セナセナである。
やってらんねぇなぁ。とムウは考えながら中央に置かれた椅子の上で消えたキラとセナに恨み言を言う。
彼女たちが居ればどれほど楽であっただろうと考えながら。
「とにかくだ。お前らの事は色々落ち着いたら決まるから。適当にしてろ」
「あ! おい! オッサン! 話はまだ終わってねぇぞ!」
「キラさんとセナさんはどうなったんですか!?」
「だーかーらー!」
「カナードの話は今、聞いて無いんですよ!」
「お前の妄想は後にしろ! カナード!」
「妄想じゃねぇってのに!」
ムウはまた今度にしようと部屋から出て、食事でも食べに行こうと食堂に向かうのだった。
そして、ムウが捕虜を相手に溜息を吐いている頃。
フレイは久しぶりに再会した父、ジョージ・アルスターと話をしていた。
「パパ」
「フレイ。君が無事で良かった」
「……うん。でも、キラとセナが」
「私も聞いたよ。彼女たちが居なくなるとは……本当に悲しい事だ」
「それで」
「あぁ。分かっているよ。アズラエル氏とは話が付いてね。一機。フレイの為に持って来た」
フレイはジョージに抱き着きながら、アラスカの内部を移動して格納庫まで来ると、ある一機の機体を見上げた。
キラの乗っていた機体と同じ見た目をした、まったく別の機体を。
「これが……」
「あぁ。GAT-X105-S。ストライクを元に新装甲とOSのテストを行っていた機体みたいだね。ナチュラル用のOSとストライクの戦闘データ。後はトランスフェイズ装甲という新しい装甲が採用されているんだ」
「名前は?」
「決まっていない。君が決めると良いとアズラエル氏は言っていたよ」
フレイの髪と同じ様な燃える様な赤い装甲の機体に、フレイはフッと笑みを零した。
どうせなら、キラの想いと一緒に戦いたいと。
「なら。『ストライクルージュ』が良いわ」
「分かった。彼には伝えておくよ」
「ありがとう。パパ」
「フレイ。どうか無理はしないでくれ」
「分かってるわ。私は基本的にフラガ少佐の援護になるから、そこまで危険はないから」
キラは真紅の機体を見上げながら微笑む。
これでコーディネーター共を、キラとセナを殺した奴らを皆殺しに出来ると。
「……キラ。セナ。貴女達の想いと、一緒に戦うわ。全部全部。私がやっつけるからね」