ZAFTが地球軍との戦いを終わらせる為に立てた作戦。
オペレーション・スピットブレイク
発動されれば、大きく戦局を変える物として議会でも重要視されていた物であるが……既にその発動まで最終承認を待つ所まできていた。
既に全ての障害は排除されている。
『スピットブレイク、全軍の配置、完了しました。後はご命令いただくのみです』
クルーゼの言葉がプラントの最高評議会で響き、その言葉にプラント最高評議会議長であるパトリック・ザラが立ち上がって応えた。
『セナ姫とキラ姫の事は悲劇であった。我らがより早く戦争を終わらせていれば、こんな事にはならなかったであろう!』
『しかし、彼女たちの無念を無駄にしない為にも! 我らは必ず勝利しなくてはならない!!』
『彼女たちが我らと共に開発したモビルスーツは我らの力となって、今もここにある!』
『我らに勝利を! そして、この作戦により、戦争が早期終結に向かわんことを切に願う。真の自由と、正義が示されんこと!』
『オペレーション・スピットブレイク! 開始せよ!』
パトリック・ザラの演説によって『オペレーション・スピットブレイク』は発動した。
そして、オペレーター達は、作戦の概要と目標。各機の行動指針などを送ってゆく。
唯一残されたG、デュエルに搭乗していたイザークも作戦の概要を確認して口を開いた。
「降下目的地はアラスカ……JOSH-Aか」
『イザーク!』
「どうした。ミゲル」
『いや、緊張してないかって声をかけただけさ』
「今更! 緊張などする訳が無いだろう。その様な事をしている余裕などない」
『……イザーク』
「カナードも、二コルも、ディアッカも、アスランも。みんな死んだ! 俺たちの戦争に巻き込まれて、キラとセナも死んだ! よりによって平和を願ってた連中が、全員だ! なら、残された俺が! あいつらの意思を継いでやらなきゃ、無駄死にじゃないか……!」
『お前は、本当に良い奴だよ』
「本当の良い奴らは死んだ奴らだ。俺はあいつ等が居なくなって、ようやくあいつ等の言っていた事を理解した。バカな男だ。もっと早く。もっとちゃんと聞いていれば良かった」
『後悔ってのは、後からしか出来ないってのはよく聞くが……俺たちは後悔しない様に生きなきゃな。あいつ等の分まで』
「あぁ……! お前も、死ぬなよ」
『あぁ。勿論だ。お前もな。イザーク』
イザークはミゲルと軽く通信で言葉を交わしてから、小さく息を吐いた。
あの日。あの時。あの場所で。
イザークは何も出来なかった。
何一つ救えず、何も変えられず、今日までのうのうと生きてきた。
だから、無様に生き残ってしまった命を全て燃やし尽くして……戦争を終わらせる。
キラやセナが願っていた様に。
ディアッカと二コルが目指した様に。
アスランが……本心では切望していた様に。
大切な者達の気持ちを背負って、イザークは強く操縦桿を握りしめた。
「もし、死後の世界なんてものがあるのなら……またお前たちにも会えるかもな」
そして、降下ポッドの中から大切な者達の命を奪い取った青い地球を見下ろすのだった。
ZAFTの大部隊が地上に降りようとしている頃、ホープでプラントを飛び出したセナは、月面都市で食事をしながらパソコンで世界の情報を調べていた。
地球軍とZAFTのメインシステムに侵入して、これから起きるであろう争いを、これから起きるであろう悲劇を調べる。
そして、そんな中でZAFTの作戦を見つけたのだった。
「オペレーション・スピットブレイク……ですか。ZAFTの地上部隊を集めて、アラスカ、JOSH-Aを襲撃。壊滅する作戦」
「しかし、アラスカには……アレが仕掛けられていますし。最悪は双方に甚大な被害が出ますね……」
セナは自らが行かねばならない場所を見つけ、残ったハンバーガーを一気に食べてから、うんと頷いた。
そして、ゴミ箱にゴミを捨てて、街の中を走る。
為すべき事を為す為に。
しかし、そんなセナの行く手を阻む様に数人の男女が前に立ちふさがった。
「おっとぉー! ここから先は通さねぇぜ。コーディネーターのお嬢ちゃんよぉ」
「パパとママは居ねぇのかいー? 一人で歩いてちゃ、怖い人たちに攫われちまうぜぇ? 俺達みたいななぁ!」
不意に現れたごろつきに、セナは深く被っていた帽子をさらに深く被って、ジッと彼らを見据えた。
ブルーコスモスではない様に思う。
ブルーコスモスであれば、挨拶などなしに、殺されていただろうから。
と、セナは冷静に分析しながら、小さく呟いた。
「『ホープ』」
「あん? なんだって?」
「申し訳ございませんが、私には行かねばならない所があるのです」
そして、セナが男たちにハッキリと告げたすぐ後に、暗い宇宙から一機のモビルスーツがセナの近くに飛んできた。
地上に降りる事は無いが、激しいスラスターとバーニャの噴射により、ごろつき達を遠ざけながら、セナを両手ですくい上げる。
「も、もも、モビルスーツぅー!?」
「なんでこんな所に!」
「ZAFTだ! ナチュラルは皆殺しにされるぞぉー! 逃げろぉー!」
逃げてゆく人々を見ながらコックピットに飛び込んだセナは、警備のモビルアーマーが近づいてきている事に気づき、全速で月面都市を離れてゆく。
Gすらも置き去りにするような加速に、警備用のモビルアーマーであるメビウスでは追いつく事が出来ず、謎のモビルスーツとして記録にだけ残されたのだった。
そして、月を離れ、地球へと向かったセナは地球軌道上に展開していたZAFTの宇宙艦隊に向かって突っ込み、その中央を強行突破してアラスカ JOSH-Aへと向かう。
『な、なんだ!? あの白いモビルスーツは!?』
『所属不明! モビルスーツがアラスカへ向かってゆきます!』
『地球軍のモビルスーツか!?』
『分かりません!』
『えぇい! 地上部隊へ信号を送れ!』
セナは操縦をホープに任せながら、自身は作戦区域に展開しているモビルスーツや地球軍の部隊に目を向ける。
「既に正面のゲートは破られている様ですね。地球軍の被害も甚大ですが……ZAFTも酷い被害ですね。どれだけの人が亡くなったのか」
悲し気に唇を噛みしめながらセナはZAFT本体の正面に降り立ち、一機のジンからグゥルを奪うと、それに乗ってこの戦場にいる全てに通信を繋げた。
『なんだ!?』
『所属不明機です! っ!? 通信、繋がります!』
『なに!?』
「これ以上、無為な争いを行うのは止めて下さい!」
『なんだこの通信は!?』
『どこから発せられている!?』
セナの言葉に、戦場は一気に混乱の海に叩き落された。
地球軍もZAFTも、戦いながら、意識はセナの乗った白いモビルスーツ……ホープに向けられる。
「争いは何も生み出しません。私たちは、話し合い、分かり合う事が出来る筈です」
『この声は!?』
『セナか!』
そして、破壊された中央ゲートから内部へと侵入していたイザークとクルーゼが、セナの声に気づいて内部から外に飛び出して、ホープへと視線を向けた。
『……やはり生きていたか。セナ。ではキラも……!』
『セナ! 生きていたのか!』
『イザーク!』
『は、はい!』
『急ぎセナ姫を連れてここから離脱しろ。戦場にこれ以上彼女を置かせるな』
『分かりました!』
イザークはクルーゼからの命令を受けて、背中を見せているホープに向かって飛び込む。
が、自らの意思で動いているホープはイザークの駆るデュエルの接近に反応し、振り替えいながらデュエルの腕を掴むのだった。
『な、なにぃ!?』
「デュエル! という事は、イザークさんですか!?」
『セナ! ここは戦場だ! 早く帰れ!』
「そういう訳にはいきません! 少しでも、一人でも多く助けなければ!」
『助けるだと!?』
「……既に、システムは発動準備に入っているんです! イザークさんこそ、早くここから離脱してください!」
『何が動いているというんだ! セナ!』
イザークが冷や汗を流しながら投げかけた言葉に、セナは冷静な言葉で返す。
あまりにも絶望的な事実を。
「地球軍、ZAFTの皆さん。聞いてください。このアラスカ基地には『サイクロプス』と呼ばれるシステムが仕掛けられています。使用されれば、半径10キロは溶鉱炉となってしまいます! 既にシステムは稼働を始めています。急ぎ、この区域からの離脱を!」
『サイクロプスだと!?』
『隊長!』
『イザーク! 全速でこの空域から離脱しろ! 作戦参加中の全モビルスーツに通達! 現作戦区域を放棄! 全速でこの区域より離脱しろ! 急げ! 巻き込まれれば死ぬぞ!』
「……ありがとうございます。ZAFTの指揮官さん。後は! 連合の皆さん! 話を聞いてください! 既にこの基地は作戦本部によって放棄されています! 急ぎ離脱を!」
『ZAFTが撤退している!? 君は、何者なんだ!?』
「私は……セナ・ユラ・アスハ。平和を願い、戦いい続ける者です」
『な、セナ様!? まさか! 亡くなったと!』
「運よく生き延びる事が出来ました。どうか、私の話を信じて下さい!」
『承知いたしました! 全艦に告ぐ! 防衛拠点JOSH-Aを放棄! 全速で離脱しろ! 全パイロットにも通達! 母艦が無ければ当艦に降りろ! すぐにアラスカから離脱するんだ!!』
「ありがとうございます……! 信じてくれて!」
セナは地球軍士官に礼を言いながら、逃げようとするモビルスーツ、及び戦闘機、艦船のサポートを行った。
一機でも、一人でも多く、生き残る事が出来る様にと……。
しかし、そんな願いを踏みにじる様に、既にアラスカの中心部付近まで侵攻していた者達を巻き込みながら悪魔の兵器が起動する。
『アラスカ基地内に、強烈なエネルギー放射を確認。これはっ!』
『サイクロプス起動!』
『機関最大! 退避!』
『駄目です! 間に合いません!!』
そして、多くの犠牲を出しながら……それでも、多くのコーディネーターとナチュラルの兵士を救出して安全地帯まで退避するのだった。
多くの者達が退避した場所にホープを着地させたセナは、地面に降りると目の前に広がる惨状に目を細める。
何もしなければ……より多くの被害者が出ただろう。
だから、それに比べれば多くの人を助けられたと思う。
だが、しかし。それでも傷ついた多くの者達。
そして亡くなってしまった者達を見て、心が痛むのも確かだった。
「……セナ様」
「はい」
「……さいごに、貴女の、すがたを、見る事が出来て……良かった」
地球連合軍の、傷つき苦しむ兵の手を握りながら、セナは微笑みを向けた。
泣き出したい気持ちを抑えて、その青年の心が少しでも安らかである様にと祈り、言葉を向ける。
「どうか……妻、と子を……おまもり、ください……」
「分かりました。私が、必ず」
「……あり、がたい」
彼の家族がどの様な人か、セナは知る由もないが。それでもセナは必ず守ると伝えた。
慰めでも何でもなく。
真実、彼の願いを叶えようと考えて……。
「申し訳ございません。彼のご家族は……」
だから、近くに居た者に。
彼の死に涙を流す者達に声をかけようとしたのだが、少し離れた場所から大声が上がった事で立ち上がり、そちらへ視線を向けた。
「この野郎! お前らのせいで! ハンナは!」
「お前らが攻めてこなけりゃ誰も死ななかったんだ! 死ねば良かったんだよ! コーディネーターなんて!」
「なんだと!? このっ! ナチュラルが!」
「止めて! 止めて下さい! ここで争っても何も生まれません。私たちは……!」
そして、殴り合いの争いを始める彼らを、セナは必死に止めようとしたのだが……その時、空を切り裂くような轟音と共に、何かが青い大気を切り裂いて頭上を通過していった。
「っ!? なに!? アレは!」
「……オペレーション・メテオ」
「オペレーション……メテオ!?」
セナの疑問に答える様に、ZAFTのパイロットスーツを着た男が笑みを浮かべながら応える。
悪意に満ちた表情で。
「セナ様。もはや地球は終わりですよ。こんな連中は見捨ててプラントへ来てください。それが、我ら人類の為になる」
「あ、あなた達は……いったい……何を始めてしまったのですか……!?」
驚愕に満ちた顔で、セナは遥か遠方に流れ、落ちてゆく隕石を見やった。
戦争は次なるステージに突入したのだと、セナは思い知らされる事になる。