「オペレーション、メテオぉ?」
どこか抜けた様な声がブリッジに響き、その声に栗色の髪の少女……キラ・ユラ・アスハが小さく頷いた。
「そう。プロフェッサーと一緒にZAFTのメインシステムに侵入して見つけた。オペレーション・スピットブレイクの裏に隠された作戦だ」
「ど、どういう作戦なんですか?」
「より端的に言えば……隕石落としよ」
「「隕石落としぃ!?」」
プロフェッサーの答えに、ロウとキサトは声を揃えながら驚愕の声を上げる。
そして、そんな二人を見ながらキラは少し悲し気な顔をして、ブリッジのメインモニターに作戦概要を映すのだった。
「オーブの宇宙ステーション『アメノミハシラ』でも何度か確認はしていたんだけどね。デブリの不自然な地球落下。アレは、この作戦の予行演習みたいな物だったらしい」
「あ!」
「どうしたの? ロウ」
「ほら、覚えてるか? 前にオーブからの依頼で、デブリ破壊の依頼を受けただろ?」
「あぁ! あの怪しい依頼!? ってぇ! 違いますからね! キラ様! 別にキラ様を疑っている訳じゃなくて!」
「ふふ。大丈夫。分かってるよ。キサトさん。……僕らも気にはしていたんだけどね……まさか地球に隕石を落とす作戦とは思わなかった。いや、信じたく無かったんだね。彼らがまさか、そんな事をするなんて……」
「……キラ様」
沈み込むキラの雰囲気に流されてブリッジにも重い空気が流れるが、通信から空気を読まない明るい声が流れてきた事で、ブリッジの空気が変わる。
『いやはや! 百年もしない内に、まさかここまで争いが激化するとは! 人類とは恐ろしいものだね!』
「……ジョージさん」
『人類最初のコーディネーターとしては、何とも複雑な気分だよ!』
「まぁ、僕としても今を生きるコーディネーターの一人として申し訳ない気持ちです」
『我々は、人の今と未来の間に立つ者として創造された筈なんだがなぁ……彼が聞いたらさぞや悲しむ事だろう』
「彼……というのは、あなたを生み出した?」
『そう。……いずれ来る異種族との対話の為に、我らは人類を変革させる必要がある。とよく言っていたよ』
「対話……ですか。おそらく今の世界から最も遠い場所にある言葉でしょうね」
『だからこそ。為さねばならない。我らはその為に生まれたのだから。このまま外宇宙へ向けて旅立っても、内部の争いで崩壊してしまう』
「まぁ……そうですね」
これまでの人生で、痛い程その事実を思い知らされたキラは目を伏せながら悲しみを抱えて頷く。
しかし、そんなキラの背を叩きながらロウは、軽くいつもの調子で語り掛けるのだった。
「落ち込んでてもしょうがないぜ! まだ全部が終わった訳じゃないんだろ? なら、やれる事をやろうぜ!」
「うん。そうだね」
キラはロウの言葉に頷いて、ZAFTを止める為の作戦を模索する。
「という訳で! オペレーション・メテオを止める作戦についてなんですけど」
「……ゴクリ」
「はい。まったくありません! もう止められません!」
「ズコー! な、どういう事なんですか!? キラ様!」
新鮮な反応を見せてくれるキサトにキラは困った様な顔で微笑みながら、そうだねぇと呟いた。
が、どうやらキラではなくプロフェッサーが事情を説明してくれる様で、キサトにも分かりやすく続きを語ってくれる。
「私たちがこの作戦を見つけた時、既に隕石は地球に向けて落下軌道に入ってたのよ。だから、私たちに出来たのは避難する様に呼びかけるだけ。ま。まるで話を聞いてくれなかったけどね」
「でも。まだ宇宙に居るのなら、何とかこう! 軌道を変えたりとか出来ないんですか!?」
「うーん。軌道を変えるって言ってもねぇ。質量が違い過ぎるし。核ミサイルでも無いと難しいかなぁ」
「そんなぁ」
「それに、変に触った結果、より被害が広がる可能性もあるし……難しいんだよ」
「じゃあ……その隕石は」
「うん。地球連合軍のパナマ基地に向かってる……多分あと数時間でパナマ基地は消滅すると思う。一応、地球全部が駄目になるってワケじゃないよ」
キラの言葉に、この場に居た者達は皆、顔を青ざめさせた。
しかし、キラは変わらぬ調子でそのまま言葉を続ける。
「でも、僕もこのまま終わらせるつもりはないんだ。オーブには救援要請を出したし。どれだけの人が生き残れるか分からないけど……地上の事はカガリたちに任せたい」
「地上は……ってキラはどうするんだ?」
「僕は……プラントに行こうと思ってる」
「プラントに!?」
キラは決意を込めた瞳で頷きながらそう言葉を落とした。
自分にどれほどの事が出来るか、それは分からないが……出来るだけの事がしたいのだと拳を強く握りしめる。
「今のプラントで一番偉い人はさ。僕の知り合いなんだ。だから……もう、二度と、こんな非道な作戦をしない様に説得する」
また。
ユニウスセブンと同じ様に見捨ててしまった者達に、心の中で謝罪をしながらキラは、犠牲者の事は見ず、考えず、前だけを見つめる。
そうしなければきっと、立ち止まってしまうから。
もう二度と歩けなくなってしまうから。
失ってしまった者達を心の中に描きながら、ただ一心に平和だけを願って……進むのだ。
それが、自分の使命だと深く己に刻みつけた。
「という訳だからさ。一つシャトルを貸して欲しいんだ」
「それは構わねぇけどよ」
「うん?」
「キラはプラントに行くとして……俺たちは何をすればいい?」
「俺達って……ロウ達も何か手伝ってくれるの?」
「当然だろ! 仲間が苦しい中で踏ん張ってるのに、何もしないで見てるだけってワケにもいかねぇだろ!」
「そうそう! 何でも頼ってくださいね! キラ様! あ! いや、何でもは出来ないんですけどぉ!」
「ふふ。あははは! まったく。君たちは……本当に物好きで、おかしな人たちなんだなぁ」
「キラに言われたくはねぇなぁ」
「……まぁ、そうだね。うん。ホントに、その通りだ」
キラはひとしきり笑った後、ロウ達を見据えながらゆっくりと口を開いた。
「なら、オーブをお願い」
「オーブを?」
「うん。ZAFTはまず、連合軍が宇宙へ出る為の道を潰すつもりなんだ……だから」
「オーブにあるマスドライバーも狙われる?」
「そう。狙うのがZAFTか連合か、どっちか分からないけどね」
「そうか。分かった! じゃあ、俺たちはオーブに接触してみるよ。何か起きたら守ってやる」
「ありがとう。本当に。心から感謝してる」
「やめろぃ! このくらいは大したことじゃねぇよ!」
「そうそう!」
「うん。でも、本当に、嬉しいんだ。だからさ。全部が終わったら、オーブに来てよ。きっと素敵な贈り物を用意するからさ」
「おぉー! もしかして新品のモビルスーツとかかぁ!?」
「ふふ。それが良いのなら、用意するよ。だから……みんな。また会おうね」
「おう!」
「お気をつけて!」
「また話をしましょ?」
そしてキラは、助けてもらった彼らに礼を言いながら、シャトルでプラントへと向かうのだった。
心の中で地球に向かって落ちてゆく隕石を描きながら……。
力のない自分を悔やみながら……。
人類はこの日の事を、決して忘れないだろう。
コーディネーターの怒りと憎しみを宿らせた隕石が、大気に焼かれながら地上へと向かい……落下していった光景を。
そして、パナマ基地のすぐ近くを航行していたアークエンジェルも、その地獄の様な光景を間近で見る事となった。
「艦長!」
「どうしたの!?」
「上空に巨大な物体!」
「え!?」
マリューはその報告に、艦長席から飛び降りて、ガラス窓の方へと向かう。
そして、上空を流れてゆく隕石を見て、目を見開いた。
「180度回頭!! 全速で空域を離脱!! 急いで!!」
指示はおそらく最速で行われ、それに対する反応も、これ以上ない程の速度で行われた。
しかし、目と鼻の先にあるパナマ基地へと落ちた隕石はアークエンジェルに甚大な被害をもたらしてしまう。
パナマ基地へと落下した隕石は、隕石に直接触れた地上の物を全て蒸発させながら、周囲に世界の終わりと勘違いするほどの衝撃をまき散らし、海は島から吹き飛ばされてきた岩盤や、隕石の欠片が落ちて荒れ狂った。
アークエンジェルにも当然の様に衝撃と隕石の破片は降り注ぎ、航行が出来なくなる程のダメージを受けてしまう。
「か、艦の被害状況は……!」
「メインエンジン停止!」
「火器に被害はありませんが、船体の70%以上にダメージを受けています!」
「……周囲の友軍艦は!?」
「反応ありません! パナマ基地も……全ての信号が消失しています!」
「そんな……」
「艦の姿勢維持できません! 着水します!」
「っ! 総員衝撃に備えて!」
「着水!」
無事海に落ちたアークエンジェルは微かに動いているエンジンで何とか海上に浮かびつつも、再び飛行する事は難しく、荒れた海上で行動不能となってしまった。
「どうにか友軍の居る場所まで動く事は出来ない?」
「難しいですね。速度は出せませんし。敵に見つかればすぐに沈められてしまいます」
「アラスカへの通信は!?」
「繋がりません!」
「……」
マリューは絶望的な状況に、フラフラと立ち上がり、アークエンジェルの外が見えるガラスまで行きながらどうにか思考をまとめようとしていた。
そんな状況の中、おそらくはアークエンジェルの中で最も頼れる男であるムウ・ラ・フラガがブリッジに飛び込んできた。
半減休息中であったナタル・バジルールと共に。
「さっきの衝撃はなんだ!?」
「艦長! 敵の襲撃ですか!? ……っ!? これは、いったい……何が」
ブリッジに飛び込んできた二人は、マリューの背の向こうに見える景色を見て、目を見開いたまま固まってしまった。
まるで火山でも噴火したかの様に黒々とした黒煙が立ち上り、燃えた隕石の破片が周囲に降り注いでいる地獄の様な光景を。
「先ほど。パナマ基地に隕石が落下したわ。そして、周囲にあった友軍の反応は全て消失」
「っ!」
「アラスカとの通信も繋がらないし。どうすれば……」
マリューが現在の状態を二人に伝えながら、まとまらない思考を何とかまとめようとしている時、通信を行っていたカズイが悲鳴の様な歓喜の声を上げた。
「艦長! オーブ艦隊から通信です!」
「オーブから!?」
「こんな場所までオーブから通信が届くワケが……!」
「き、キラが……! パナマ基地に落ちる隕石を発見して! それで! 救援を! オーブに頼んでいたって! オーブの軍艦が近くに来ているんです!」
涙をポロポロと流しながら、叫んだカズイの言葉に、誰もが息を飲んだ。
あの時、あの小島で消えてしまった命が……キラが、生きていたのだ。
「通信を……繋いで。とにかく話がしたいわ」
マリューは僅かに見えた希望を逃がすまいと、必死に手を伸ばす。
キラと再び会えると、微かな喜びを胸に抱きながら。