何の前触れもなく地球連合軍から届けられた最後通告により、オーブは現在混乱の真っ只中にあった。
行政府はオーブへと近づきつつある地球連合軍艦艇に対し、何かしらの対応策を講じなくてはいけない状況である。
「最後通告だと!?」
「現在の世界情勢を鑑みず、地球の一国家としての責務を放棄し、頑なに自国の安寧のみを追求し、あまつさえ、再三の協力要請にも拒否の姿勢を崩さぬオーブ連合首長国に対し、地球連合軍はその構成国を代表して、以下の要求を通告する」
「一、オーブ首長国現政権の即時退陣」
「二、国軍の武装解除、並びに解体」
「48時間以内に以上の要求が実行されない場合、地球連合はオーブ首長国をザフト支援国家と見なし、武力を以て対峙するものである」
「どういう茶番だそれは!?」
「パナマを落とされ、もはや体裁を取り繕う余裕すらなくしたか、大西洋連邦め!」
「既に、太平洋を連合軍艦隊が南下中です」
「欲しいのはマスドライバーとモルゲンレーテですなぁ」
「が、いくらこれが筋の通らぬことと声高に叫んでも、もはや大西洋連邦に逆らえる国もない。キラとセナの事で、世界は嫌な形で一つになってしまったしな」
「我等も選ばねばならぬ時、ということですかな」
「事態を知ったZAFT……プラントからも使者が来ておりますな」
「どうあっても世界を二分したいか! 大西洋連邦は! 敵か味方かと! そしてオーブは、その理念と法を捨て、命じられるままに、与えられた敵と戦う国となるのか!?」
ウズミの言葉に、オーブ首脳陣は皆俯きながら小さく息を吐いた。
ある程度予測できていた事態ではあるが、現実となってしまうと気持ちが重くなってしまう。
「連合と組めば、プラントは敵。プラントと組めば、連合は敵。例え連合に降り、今日の争いを避けられたとしても、明日はパナマの二の舞ぞ! 陣営を定めれば、どのみち戦火は免れぬ!」
「解っております。しかし……」
「ともあれ避難命令を……」
「キラ様やセナ様がいらっしゃれば……この様な事態はさけられたのだが」
「そうやって、あの子達に全てを押し付けた事が、今になって返ってきているのだ! 任せれば応えてくれるからと、押し付けた挙句、その命が一度は失われるかもしれなかったのだ! 我々は学ばねばならん」
「そうですな……子供たちが時代に殺される様な事だけは避けねばならん」
そして、オーブは国民の避難を開始し、『戦争』を始める為の準備を進めていた。
軍本部も、カガリ・ユラ・アスハを受け入れ、作戦本部として機能し始める。
「カガリ様!」
「避難の状況はどうなっているか!」
「順調です。現在住民の避難は70%が完了。開戦前までに全て完了する見込みです」
「よし。モビルスーツ部隊の配備は……ん? ロンド・ギナ・サハクはどうした!?」
「連合からの最後通告を確認され、マスドライバーで『アメノミハシラ』へ向かいました」
「アメノミハシラへ? 何か新しい兵器でも出来たのか?」
「そういう話は伺っておりませんが」
「そうか。まぁ奴の事だ。逃げたという事は無いだろう。居ない者は仕方ない。モビルスーツ部隊も私が指揮を取る! 奴が来るまで作戦指揮は私に回せ!」
「承知いたしました!」
「チッ! ストライクルージュが完成していれば私も戦場に行ったんだがな!」
「お止めください! その様な事は!」
「何でだ! キラやセナだってモビルスーツに乗って戦っていたんだぞ!」
「我らとしてはそれもお止めしたいくらいです。ですから、カガリ様もどうかお抑え下さい」
お小言を言われ、カガリはムスッとしながらも各拠点に指示を出し、開戦の準備を進めてゆく。
その姿に、多くのオーブ軍人は強い感動を覚えながら、何が起ころうとカガリを必ず守ると心に誓うのだった。
そして、今はオーブに居ないが、キラとセナも同様に。
御三方の命を守る事が出来るの出れば、この体を盾にしてでも……!
と、熱い決心を胸に抱きながら、まだ16の身でありながら、オーブの為にと声を張り上げるカガリを心にそっと宿すのだった。
そんな一般オーブ軍人の熱いオーブ魂が一つとなっている軍本部はさておき。
アークエンジェルやアラスカから逃げ延びてきた連合艦の居る秘密ドックでは、マリューが全連合兵に対して演説を行っていた。
本人は自分では! と別の人間に譲ろうとしたのだが、かの姫君たち。
キラやセナが最も信頼した女傑という事で、役割を押し付けられてしまった。
そんな状況にマリューは軽くはぁとため息を吐いてから声を張り上げた。
「現在、このオーブへ向け、地球連合軍艦隊が進行中です」
「「「……!」」」
「地球軍に与し、共にプラントを討つ道を取らぬというのならば、ザフト支援国と見なす。それが理由です」
「なんだそりゃ……」
「オーブがキラ姫とセナ姫の母国だと知っているのか?」
「知らない訳が無いだろう。お二人が国に居ないからと攻めてきたのさ。恥知らずな連中だ」
「アラスカであんな事をやった連中だ。不思議はないぜ」
「オーブ政府は、あくまで中立の立場を貫くとし、現在も外交努力を継続中ですが、残念ながら、現状の地球軍の対応を見る限りにおいて、戦闘回避の可能性は、非常に低いものと言わざるを得ません」
「オーブは全国民に対し、都市部、及び軍関係施設周辺からの退去を命じ、不測の事態に備えて、防衛態勢に入るとのことです」
「我々もまた、道を選ばねばなりません」
「現在、我々は命令なく戦線を離れた脱走兵という扱いになり、我々自身の立場も定かでない状況にあります」
「オーブのこの事態に際し、我々はどうするべきなのか、命ずる者もなく、また私もあなた方に対し、その権限を持ち得ません」
「回避不能となれば、明後日0900、戦闘は開始されます」
「オーブを守るべく、これと戦うべきなのか。そうではないのか」
「我々は皆、自身で判断せねばなりません」
「よってこれを機に、連合軍を離れようと思う者は、今より速やかに退去し、オーブ政府の指示に従って、避難して下さい」
「今日まで共に戦ってくれて……ありがとう。これからの皆さんの歩む道に幸ある事を願っております」
マリューは皆に敬礼をして、解散と宣言した。
が、戸惑いは大きく、多くの者がこの場に残り、あれやこれやと話をしている状況だった。
そんな中、数人の軍人がマリューの元へ近づいてきて、笑顔で敬礼をする。
「良い演説でしたよ。ラミアス少佐。流石はハルバートン准将の部下という所かな」
「いえ……私などは閣下に比べれば赤子の様な物ですわ」
「ハハハ。彼はコーディネーターすら恐れた男ですからな。当然かもしれませんな」
「そうですわね。私たちが今ここにいるのも、全ては閣下が歩み始めた道から繋がっておりますから」
「ふむ。そうだな……道、道か」
「……?」
男は秘密ドックの中にあるアークエンジェルを見上げながら眩しい物を見る様に目を細めた。
そして、酷く穏やかな顔で口を開く。
「私は……いや、私たちはな。このまま連合と戦うつもりだ」
「……!」
「アラスカでの事は聞いたか?」
「はい。お話だけですが」
「そうか……まぁ、その方が良いだろうな。アレはこの世の地獄であったよ。まさか自分たちが守ろうとしていた物から殺されそうになるとは思わなかった。多くの仲間が……サイクロプスに巻き込まれて死んだよ」
「心中お察します」
「うむ。だが……我らは天使に救われたのだ。セナ様が我らの前に現れなければ……我らはあそこで味方であった者たちに利用され、死んでいただろう」
「……はい」
「セナ様に拾われ、永らえた命だ。セナ様の護りたかったモノの為に使う事に、何のためらいもない」
「そうですね。私も、同じ気持ちです」
「そうか。では、後で作戦の話をさせてくれ。オーブ軍とも……出来れば連携を取りたいものだな」
「きっと、受け入れて下さいますわ。あの子達が、愛した国ですもの」
「そうだな。うむ。そうだろうな……」
男は湧き上がって来た情動を全身に染みわたらせて、泣いてしまいそうな笑みを零した。
そして、軽く敬礼をしてから部下たちと共に去ってゆくのだった。
マリューはそんな彼らを見送ってからアークエンジェルの仲間の元へと急ぐ。
自分たちの今後を決める為に。
オーブ、アークエンジェルがそれぞれ戦いに向けて準備を進めている頃。
アークエンジェルの中に囚われていた者達が遂に解放される事となった。
「出な。坊主共」
「なに? 尋問? 移送?」
「わりぃけど、俺たちはもう地球連合軍じゃねぇからさ。ご期待の扱いはしてやれねぇんだ」
「はぁ? 何が起きてんだよ」
「地球連合軍がな。オーブに攻めてくるんだ。んで、俺らはオーブを守る為に出るってワケ。お前らは邪魔だからさっさと出ていけって話だ」
「いや、出ていけって……オッサン!」
「オッサンじゃない!」
「フラガさん。ここはオーブで間違いないのですか?」
「あぁ。その通りだ。それに関しちゃ間違いない」
「……そうですか」
ムウの言葉を聞いて、ニコルはしばし思案してから覚悟を決めた顔で頷く。
「分かりました。では僕も協力させて下さい。何かモビルスーツをお借りできると嬉しいのですが」
「はぁー!? 何言ってんだよ! ニコル! 俺たちはZAFTよ? 何でオーブと一緒に戦うんだよ」
「戦う相手は連合です。なら、特に問題は無いでしょう」
「いや、お前! 問題だらけだっての! オーブの争いにZAFTが介入したら国際問題になるだろうが!」
「大丈夫ですよ。僕らはMIA扱いで死んだことになっているでしょうから」
「何も大丈夫じゃねぇだろうが!」
ニコルとディアッカが言い争いをしている頃、カナードは一人、廊下の向こうを見据えながら拳を握りしめていた。
そして、普段は酷く騒がしいカナードが静かな事に気付いたニコルとディアッカがカナードの様子に気づき、声を掛ける。
「カナード? どうしたんですか?」
「……プレアが言っている。俺の機体があると」
「「「俺の機体?」」」
カナードの呟く様な言葉に、ムウとニコルとディアッカが疑問符を浮かべるが、カナードはそれに応える事はなく、走り出した。
突如として走り出したカナードに、三人はカナードを追いかけて走り……結局三人がカナードに追いついたのは、カナードがモルゲンレーテに着いてからだった。
そして勝手に倉庫内に侵入し、明確な目的があるとでも言うように、『その場所』まで真っすぐに駆けて行った。
「……これか」
「坊主! 勝手に歩き回るんじゃねぇよ!」
「ようやく、止まりましたか」
「ったく、自由すぎだろ」
何とか追いついたニコル達は、これ以上カナードが走り出さない様に腕や足を掴んで抑え込んだが、カナードは拘束など知らぬと静かに、その機体を見上げた。
その機体は、他のフェイズシフト機体……Gと同じく灰色の武骨な姿をしていた。
特徴的なのは、背後に付けられたXの字をしたバックパックだ。
「これは……」
「プラントのクライン派という方々から贈られた機体ですわ。名を『ドレッドノート』」
カナードの呟きに合わせる様に静かな女性の声が格納庫内に響いた。
そして、モルゲンレーテの主任設計技師であるエリカ・シモンズが笑みを浮かべたまま四人に近づいてくるのだった。
「おっ、す、すまん! 勝手に入っちまって! 止めるつもりだったんだが!」
「良いんですよ。少佐。私も丁度彼らに会いたかったので」
「え?」
「俺たちに?」
「そう。ZAFTのパイロット。でも、オーブの為に戦ってくれる……そうでしょ?」
「はぁ!?」
「何ですか? 嫌なんですか? キラさんやセナさんの大切な物を守るのが」
「いや、そうじゃねぇけどよ」
「そんなに嫌なら、ZAFTに帰れば良いじゃないですか。僕は止めませんよ」
挑発する様なニコルの言葉にディアッカは叫び、分かったと言葉を区切った。
「やるよ! やりゃあ良いんだろ! おい! アンタ! 何か機体があるんだろ? 俺らを待ってたって事はよ!」
「えぇ。アークエンジェルから預かってた『バスター』と小島で発見した部品を元に再製造させた『ブリッツ』がね」
「それは良いですね」
「あぁ。十分に暴れてやるさ」
ニコルとディアッカはエリカの言葉に勝気な笑みを浮かべ拳をぶつけ合う。
そして、ようやく正気に戻ったのかカナードも二人を見ながら口を開いた。
「俺も……やろう。やらなきゃいけない事が沢山ある。俺もプレアの様に、勇敢に戦う。それだけだ」
三人は拳をぶつけ合い、オーブの防衛の為に力を尽くすと誓いあうのだった。