地球連合軍がオーブに到着するまで後一日となった頃。
アークエンジェルでは急ぎ、戦闘の準備が進められていた。
「カガリ様。我々の要望を受け入れて下さり、ありがとうございます」
『いや。礼を言うのは我らの方だ。諸君らとしては味方であった者達と戦う事になるというのに……すまない』
「既に覚悟は出来ております。それに……」
「我々は、自らが掲げた正義の為に軍へ志願したのです。決してブルーコスモスの私兵として戦う為ではない」
マリューの言葉に続いて、長き時間が掛かったが遂に吹っ切れたナタルがハッキリとカガリに言い放った。
その心にもはや迷いはない。
現在オーブへ向かっている艦隊がブルーコスモスの盟主であるムルタ・アズラエルによって支配されているという事実が、彼女の決断のキッカケとなったのは確かであった。
そして、ブリッジの者たちも彼女たちの言葉に、苦しい戦いへ向かうというのに笑顔のまま大きく頷いた。
そう。
例え明日死ぬとしても、自らが納得し、自らが選んだ道で最後の瞬間まで戦いたいのだ。
それがきっと人であり、それこそが……キラやセナが、これまで彼女たちに見せてきた平和を願う者としての姿だったから。
『分かった。後、貴君らの覚悟を問うようで申し訳ないが、戦闘に参加せず避難する者が居ないというのは……本当に良いのか? 今ならオーブ国民としての籍を作る事も可能だが』
「それに関しても。何も変わりはありませんわ。私も何度か確認しましたが、みな心は変わらぬ様です」
『そうか……その気高き心に、改めて感謝する』
「カガリ様。全てはキラ様とセナ様が、今日という日を作って下さったのです」
『……本当に。二人には感謝してもしきれないな』
そして、カガリは泣きそうな顔で笑うと、敬礼をして通信を切った。
マリューとナタルは通信が切れた事を確認してから改めて戦闘に参加する連合軍艦全てと通信を繋ぎ、作戦の細かい調整を行うのだった。
オーブ軍から送られてきた艦隊の配置と作戦資料を確認しながら。
艦長らがブリッジでカガリと会話をしている頃、格納庫ではムウがフレイに最後の確認をしていた。
「本当に良いんだな? 嬢ちゃん」
「しつこいわね。何度聞かれても変わらないわ。私はキラやセナと一緒に戦う。今度こそ私が守るんだから」
「って言ってもよ。あの二人は今どこに居るか分からないんだぜ?」
「来るに決まってるわ。二人が来ないワケ無いじゃない」
「いや、そりゃ気持ちはそうだろうけどよ」
「でも、キラさん達なら本当にどうにかして来そうですよね」
「案外どっかから、とんでもねぇモビルスーツ持って来るんじゃねぇか?」
「あり得るな。何せラウの妹だ」
「いや、それ、ホントにマジ情報なのか? クルーゼ隊長が? キラとセナの妹?」
「本人に聞いたからな。間違いない」
「全然信じられねぇわ。似てなさすぎだろ」
「まぁまぁ。ディアッカ。カナードは長く独房に居て妄想と現実の区別が付かなくなっているんでしょう」
「だから! 本当なんだって!」
「プラントに帰ったらいい病院を紹介しますよ」
「ニコル!」
モルゲンレーテからモビルスーツを運んできたニコルとディアッカとカナードは自然な顔でムウとフレイの会話に割り込んで笑う。
そんな三人にもムウは呆れたような溜息を吐くばかりだ。
「そういえば。オッサンとは話したけど、そっちのお嬢ちゃんとはハジメマシテだったな。俺はディアッカ・エルスマン。よろしくな!」
「別にアンタたちとよろしくする気なんか無いから」
「おー、こわ」
茶化した様な顔で笑うディアッカにフレイは冷たい目を向けるが、若草色の髪をした少年。ニコルには少しだけ優し気な目を向ける。
「アンタも、戦うの?」
「はい」
「でも、アンタ……ZAFTなんでしょ?」
「そうですね。ですが、キラさんやセナさんと同じ戦いを嫌う者でもあります」
「戦いを、嫌う?」
「はい。僕は……正直戦争なんてしたくないんです。殺したくもないし。殺されたくもない」
「なら、プラントに逃げれば良いじゃない」
「出来るならそうしたいのですが……そうしていても、今のオーブの様に攻められてしまいますから。やはり家族や大切な人を守る為に戦わなければいけないんです」
「……でも、オーブはあなたの国じゃないわ」
「それは、フレイさんも同じなのでしょう?」
「私は……キラとセナが守りたかったモノを、守りたいだけよ」
「僕も同じです」
「……!」
「僕らはきっとこれまでに色々な選択を間違えてきました。でも、それでも……キラさんとセナさんは僕らが生き残る様な道を、どんなに苦しい中でも選んでくれたんです」
「そうよ。あの子達は、ずっと……そうだったわ」
「だから、僕はお二人に恩を返したいんです。命を救っていただいたのだから。同じ様に命を。お二人が愛した人の命を守る。それこそが今の僕の願いです」
ニコルはハッキリとフレイに言い放ち。
フレイはそんなニコルをジッと見つめる。
二人は静かに言葉もなく見つめ合った。
そして、フレイはため息を一つ吐くと一言だけ残してこの場を去っていくのだった。
「なら、死ぬんじゃないわよ。アンタが死んでほしくないからキラもセナもアンタを助けたんだから。悲しませたら許さないわ」
「はい」
そのままフレイは格納庫から歩き去り、残されたニコルはホッとした様な息を吐いてからディアッカ達に振り返った。
「さて。大きな約束をしてしまいましたね」
「まぁでも最初からやることは変わってねぇだろ?」
「オーブも守る。アークエンジェルも、俺たちも、誰も死なせない。覚悟は出来てるぜ。プレアもな」
「……前から気になってたんだけどよ。そのプレアってのは誰なんだよ」
「プレアはプレアだよ。そこのオッサンが子供になった姿だ」
「オッサンじゃねぇ!」
「……やっぱり、病院に連れて行った方が良さそうですね」
「俺は病気じゃねぇ!」
そして、またワイワイと騒ぎ始めた子供達を見ながら、ムウは仕方ないかと言葉を漏らし、これから自分の愛機となる機体を見上げた。
あの小島から、連合軍が回収し、キラとセナの作ったナチュラル用のOSを搭載したモビルスーツ『ストライク』
戦場はモビルアーマーからモビルスーツへと移行しており、ムウもそれに合わせて機体をストライクに変えたのだ。
「嬢ちゃん。フレイの嬢ちゃんじゃねぇが。俺も少しばかし力を借りるぜ。ガキ共を守る為に……な」
ムウの呟きに、ストライクは僅かにカメラアイを光らせた。
アークエンジェルを始めとする連合軍から離脱した艦。
ZAFTから一時的に離脱している者達。
オーブ軍。
それぞれの準備が進行している頃、一人の少年が彼らと同じ様に、オーブが連合軍から理不尽な要求を突きつけられていると聞き、まだ傷の治りきっていない体で病院を抜け出し、オーブ行政府へきていた。
「……ウズミ・ナラ・アスハに話がある」
「面会の約束は?」
「ない。だが、話がある」
「約束が無いのであれば……」
「あー! ちょい待って! 私、その子の事知ってるから大丈夫!」
「っ!? ミヤビ様!?」
「……あなたは?」
「私はミヤビ・オト・キオウ。貴方のお友達のキラやセナの……まぁ、お姉さんみたいな人よ」
「キラやセナの……?」
「そう。ウズミ様に話があるんでしょ? 私が連れて行ってあげる」
そう朗らかに笑う女性に手を引っ張られ、少年は行政府の中へと足を踏み入れた。
そして、一つの部屋に通され、すぐにウズミ・ナラ・アスハを連れてミヤビが戻って来た。
「……君か。私に話とは何かな?」
「オーブが、連合に狙われていると聞いた。私にモビルスーツを一つ、貸して欲しい。返せる保証は無いが」
「避難するつもりであれば、モビルスーツが無くとも避難船がある」
「……私は、戦うつもりだ。連合軍と」
「戦場ならば、オーブでなくとも様々な場所にあるだろう」
「僕は!! 戦いたいんじゃない! 守りたいんだ」
「何を?」
「キラと、セナが守りたかったモノを……!」
少年の血が滲む様な訴えに、ウズミは目を細めて少年の真意を確かめようとした。
しかし、ミヤビから少年の名を聞き、やや驚きに目を見開いた後、椅子から立ち上がる。
「来なさい」
「……」
そして、少年を連れモルゲンレーテの奥。
一部の人間を除いて誰も入る事の出来ない奥の奥に向かい、厳重に隔離された扉を開いて、その白い機体を照明で照らし出した。
その機体は、血のバレンタイン以降ずっとモルゲンレーテの奥で封印されていた機体であった。
「……これは」
「かつてキラとセナが、プラントへ放たれる核を止める為に使った機体だ」
「っ!」
「結局、戦争は始まってしまったが……あの子達はこれで戦争を止めようとしたのだ。故に。我らの認識では、コレは兵器ではない」
「……兵器では、ない」
「そう。あの子達はコレを兵器として扱わなかった。その意味が君に分かるか?」
「平和を、導く為の……力。殺す為ではなく、何かを守る為の、力」
「君に、その想いを受け継ぐ覚悟はあるか?」
ウズミの厳しい問いに少年は表情を変えぬままウズミから機体へと視線を移した。
この世界にあるどんなモビルスーツとも似ていない。
まるで、一度世界の破滅を救った様な雰囲気を纏っている。
そして少年には、キラやセナの意思も残されていると『感じ取る』ことができた。
「覚悟はある」
「分かった。では、受け取れ」
「っ! 良いのか?」
「少し前、アークエンジェルがオーブに来た際、セナが言っていたのだ。もし、自分たちが居なくなって、『オルフェ』という少年が力を求めて来た時、この機体を預けて欲しいと。君なら自分たち以上に上手くやれると、そう言っていたよ」
「セナが……そうか」
少年――オルフェはセナの名を呟きながら少し寂しそうな顔で笑う。
しかし、すぐに覚悟を決めた顔になって機体のコックピットへと向かった。
そして、大きく息を吐きながら動きを確かめる為に両手で操縦桿を握りしめるのだった。
その瞬間……。
「っ!? なんだ……? この感覚は」
『おや、なんだ。僕に気付くとは。あの小さい子以来だな』
「頭に直接響く声……? 誰だ。お前は」
『僕はこの機体に焼き付いた意思さ。オルフェ』
「僕の中に入ってくるな!」
『悪いな。久しぶりに話せる人間と会ったモノでね。しかし……君も、僕と同じみたいだね』
「同じ……?」
『そう。僕もかつて、大切な人を戦場で亡くしたんだ。あの男が居なければと恨んだ事もあったが、殺したのは僕さ』
「お前も……?」
『そうだよ。オルフェ・ラム・タオ。しかし、そうだな。それでも君は戦う意思がある。なら……僕が少し手を貸してあげようか。サイコフレームも、初めて触れるのだろう?』
「これは……!?」
オルフェの意思に反して、機体は勝手に起動しメインカメラであるツインアイを光らせる。
それに驚きを感じながらもオルフェは力強い機体の波動に笑みをこぼした。
これならば……と。
「信用しても良いんだな?」
『あぁ。任せてくれて良い。僕も、ガンダムも』
そして、強く操縦桿を握りしめながらオルフェは呟いた。
「では、力を借りるぞ……ガンダム」
連合軍との戦いまで……あと12時間。