遂に連合との衝突が確定となった日の朝。
カガリは自宅でニュースを見ながら、服を正して出かける準備をしていたが、不意にリビングへの扉が開きカガリは目を見開く。
何故なら既にオーブ全域で避難警報が発令されており、誰も居ないと思っていたからだ。
「アスラン!? お前! 何やってるんだ!」
「何と言われてもな……特に何もしていないよ」
「そうじゃなくて! なんでお前、避難してないんだよ!」
「……避難? すまない。何かあったのか? 昨日までアカツキ島に行ってたんだ。カリダさんとハルマさんに呼ばれて……」
「だぁー! 地球連合軍がオーブに攻めてくるんだよ! 良いからさっさと避難しろ! 今ならプラントにもシャトルで帰れるから!」
どこか無気力なアスランの背を押しながらカガリは叫ぶ。
しかし、アスランは意味の分からないその言葉に疑問符を返すばかりだった。
「何故、地球連合軍が攻めてくるんだ。オーブは中立だろう?」
「もうそういう事を気にしている余裕が無くなったんだよ。地球連合軍もさ。パナマがZAFTの隕石落としで消滅しちゃったから……」
「隕石落とし!? ZAFTの!?」
「あー。そうか。お前にはまだ言ってなかったんだったな。少し前にな。アラスカでも地球連合軍が攻め込んできたZAFTごと基地が自爆しちゃって、ZAFTも手段を選ばなくなってきてるみたいだな」
「……」
「だから! 地球に安全な場所は無くなっちゃったんだよ。お前は帰れる場所があるんだから、そっちに行け!」
「カガリ……!」
アスランはカガリに背を押さえれていたが、振り返りカガリの手を握った。
その突然の行動に、普段あまり女の子扱いされていないカガリは頬を朱色に染めるが、アスランは特に気にしない。
「君はどうするんだ」
「残って戦うに決まっているだろう。私はオーブ代表首長の娘。ウズミ・ナラ・アスハの子。カガリ・ユラ・アスハだぞ。私が残らず、誰が残るというんだ」
「なら……なら、俺にも何かモビルスーツを貸してくれ」
「はぁ!?」
アスランの突然の発言にカガリは思わず叫び声を上げた。
そして、少し冷静になってからアスランを睨みつける。
「お前はZAFTの兵隊だろ」
「だが、俺には贖罪しなくてはいけない事がある」
「んなモンはない。お前がここに残らなきゃいけない理由も、責任も、贖罪も。何もない」
「しかし……! 戦力は一人でも多い方が良いだろう? 俺が信用できないというのなら、機体に自爆装置を付けてくれれば、敵軍を一機でも多く巻き込みながら……」
「このバカ!!」
「っ!」
カガリはアスランの胸倉を掴み、叫ぶ。
本気で怒りながら、その怒りの根をアスランにぶつけた。
「そんな事して! キラやセナが喜ぶと、私が喜ぶと本気で思ってるのか!?」
「いや……しかし」
「『いや』も『しかし』もあるか! お前がやるべき事はな! 命を捨てて贖罪をする事じゃなくて! キラとセナに謝る事だって何度も言ってんだろ! 勝手に死のうとするな!」
「……」
「キラとセナは生きてたんだ。あんまり自分を追い詰めすぎるな」
「だが……そんなのは運が良かっただけだ。俺は……この手で……」
あの時から何も変わらず、アスランは苦悩の中に居た。
ただひたすらに自分を責めて、どうしようもない絶望の中で生きてきた。
キラとセナが生きていると知っても、変わらず。
ただ自分への罰を求めて、生きていた。
おそらくはカリダとハルマに会いに行ったのもその関係なのだろうとカガリは推察する。
「カリダさんとハルマさんは何て言ってた」
「……」
カガリの問いにアスランはただ首を振る。
それに怒りを感じながらも、カガリは再度強く問うた。
「母さんと父さんはなんて言ってたって聞いてるんだ!!」
「……生きろと。例え、俺の責任で二人が死んでいたとしても、答えは変わらない。二人の事を背負って、生きなさいと」
「ならそれが答えだろ! お前は生きなきゃいけないんだよ! それが贖罪だ! 分かったらさっさとプラントへ帰れ!」
「……それは、出来ない」
「ったく。しょうがないな。ついて来い!」
カガリは沈むアスランの腕を引っ張り、自宅の前に止まっていた車にアスランを押し込んで、車を発進させた。
そして、モルゲンレーテに行くように告げる。
それから人がおらず異常に静かなオーブの町を走り、カガリたちを乗せた車はモルゲンレーテの工場区に到着した。
既にモビルスーツが発進した後で、静まり返った工場内を歩き、カガリは一つの格納庫にアスランを連れて行った。
「お前に、コイツを貸してやる」
「……これは?」
「『MVF-M11C ムラサメ』オーブ軍の次期主力モビルスーツだ。まだ試作段階だが性能は折り紙付きだ」
「良いのか?」
「あぁ。だが、貸すだけだ! 勘違いするな。貸すだけ! だからな! 絶対に返せよ! 高いんだからな! コレ!」
「……あぁ。ありがとう」
アスランはムラサメを見上げながらジッと目を細めた。
静かに渦巻いていた激情はその動きを止め、モビルスーツと出会う事で戦士としての魂に変化してゆく。
「カガリ。君は俺が守る。カガリとキラとセナが愛した物も。全て」
「期待してるよ。後、通信は常に繋げとけ! お前は戦力として期待してるからな」
「あぁ……任せてくれ」
アスランは今まで以上に、全ての覚悟を決めた顔で頷く。
もしかしたら初めから、こうしたかったのかもしれない、なんて考えながら。
キラとセナと……カガリと。
彼女たちを守る為に銃を手に、戦う事を。
アスランはずっと望んでいたのかもしれない。
「あー!? カガリさん!? 何やってるんっスか! みんな探してましたよ!」
「あぁシンか。悪かったな……。って、お前も何やってるんだ! 避難しろって昨日言っただろ!」
「あ、やべ! レイ! 隠れるぞ」
「もう手遅れだ。シン」
「やべ! じゃない! 戦争は遊びじゃないんだ! 今ならまだ間に合うから……あー、アスラン悪いが、コイツらを避難所まで連れて行ってくれ。ムラサメならすぐだから」
「いやだ!」
「いやだ、ってお前……!」
「俺だって、モビルスーツに乗れるんっスよ!? ムラサメを動かして来た時間はオーブの誰よりも長い! 俺達が一番上手くムラサメを使えるハズなんだ!」
「だとしても、戦争が出来る訳じゃない。子供はそんなモノに関わるな」
「子供って、カガリさんだって子供じゃないっスか!」
「私は大人だ子供だの前に国家元首の娘だ」
「そうやって! キラさんも、セナも! 戦場に飛び込んで行ったんじゃないか! そして……それで!」
「……シン」
「俺、もう嫌なんですよ! あんなの、あんな光景、もう、見たくないんですよ!」
シンは破壊されたストライクと、無惨に転がったモビルスーツだったモノたち。
そして、キラとセナの消えてしまった戦場を思い出して涙する。
アレは、恐怖だ。
姉の様に思っていた人と妹の様に思っていた子がある日突然帰らぬ人になってしまう。
そして、今ここで話をしているカガリだって……キラやセナと同じ様な目にあってしまうかもしれない。
二人は偶然助かったが……カガリがどうなるか。それは誰にも分からないのだ。
もし、連合軍に敗北し、オーブが焼かれた時。
シンはきっと後悔するだろう。
あの戦場の様に、命が失われた場所を見て、きっと泣き叫ぶ事しか出来ない。
だから……!
シンは戦う事を決意したのだ。
「お前にも家族が居るはずだ。彼らはどうするつもりだ」
「父さんと、母さんと、マユは、もう避難してます。母さんとマユには泣かれたけど、父さんは行けって言ってくれました」
「バカな……!」
カガリはシンの言葉に吐き捨てる様な言葉を呟いた。
だが、カガリ自身レジスタンスに参加して戦っていた過去がある。
そこまでシンに強く言える立場では無かった。
だから……カガリは静かに成り行きを見守っていた男を見上げた。
あの日から、いくつもの言葉を交わし、想いを語り合い、信用できると思える様になった男を。
「アスラン」
「……なんだ?」
「悪いが、コイツ等を守ってやってくれ。出来るか?」
「その程度は問題ない」
「はぁ~!? いや! お前、アスランだろ!?」
「だから何だ」
「なんでお前がモビルスーツに乗って戦うんだよ! お前は関係ないだろ!」
「関係が無い訳じゃない。俺には戦う理由がある」
「戦う理由だぁー!?」
「そうだ。君には理解出来ないかもしれないが」
「んだよ! アンタも俺を子供扱いするのか!?」
「別にそういう訳じゃないが……それで行くのか? 行かないのか?」
「行くに決まってるだろ! 行こうぜ! レイ!」
「あぁ」
レイと呼ばれた金髪の少年はアスランを一瞥すると、特に何かを言う様な事もなくそのままムラサメに向けて走って行った。
そして、彼らを見送ってからアスランもムラサメへと向かう。
新たな戦場へ。
アスランはムラサメのシステムの設定を終え、パイロットスーツを借りてムラサメに乗りながらカガリからの発進指示を待っていた。
「……」
『なぁ!』
「……なんだ?」
『アンタ、本気でオーブの為に戦うんだな!?』
「あぁ」
『信じて良いんだな!?』
「あぁ。気に入らないのなら、後ろから撃てばいい。俺は構わない」
『……!』
『アスラン! 開戦だ! 出撃しろ!』
「あぁ。シン。レイ行くぞ」
『命令すんな! シン・アスカ! ムラサメ! 行きますっ!』
『レイ・ザ・バレル! ムラサメ! 発進する!』
「まったく……自分勝手な連中だな」
アスランは僅かに笑みをこぼしながら、シン達に続いて宣言をした。
「アスラン・ザラ! ムラサメ、出る!」
そして、アスランはオーブを守る為、大空へと飛び立つのだった。
遂に始まってしまったオーブと地球連合軍との戦い。
その戦いを遠くから見ていた男、ラウ・ル・クルーゼは部下たちに命令を下す。
「始まったな。我らも順次出撃するぞ」
「……あの、隊長」
「何かな? イザーク」
「いえ……その、我らが参戦しても問題無いのでしょうか?」
「あぁ。何も問題は無い。何故なら、この戦闘への参加は、我らの地球脱出も兼ねているからだ。セナ嬢からメッセージを受け取った時はまさかと思ったが……」
「オーブに参戦する代わりに、マスドライバーを貸すと」
「その通りだ。故に、我らはこの瞬間よりZAFTではなく、オーブ軍として戦う事になる。機体の認識コードは変えておけよ」
「ハッ!」
イザークはクルーゼの言葉に敬礼で返し、自らの機体……デュエルへと向かった。
そして、クルーゼもまた指揮官用のディンへと向かい、乗り込んでから機体の認識コードを変える。
「……まさか、この様な蛮行を地球軍がするとはな。やはり、もはや地球は必要ないか」
「キラとセナの障害となるのなら……地球軍もろとも消えて貰おう。ジェネシスでな」
口元を歪めながらクルーゼは発進の合図をする。
「私が出たらそのままオーブへと向かい、艦を放棄、指定された場所へ向かえ」
『ハッ!』
「では、ラウ・ル・クルーゼだ! ディン! 出るぞ!」
地球に残された最後のZAFT兵もまた……オーブという戦場へと向かうのだった。