ありふれたシカ部のありふれない日常   作:玄武Σ

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まだ年末まで一月ありますが、初詣回を投稿します。龍太郎と鈴も登場しますが、出番は少ない予定なのであしからず。あと、原作とアニメをミックスしてオリジナル要素も足したら1万字超えてしまいました。
ちなみに、原作でも五指に入るお気に入りエピソードです。残り四つは、華道部回、占い回、エヴァパロ回、つっちーダイエット回(マガポケ無料公開の最新回でコミックス未収録)となっています。


第11話「シカ部の初詣」

大晦日の深夜、もうすぐ0時になって年明けるタイミング。シカ部の面々は餡子を伴って、とある神社に初詣へとやって来た。

 

「それにしても鹿乃子のヤツ、おせぇな。向こうから誘ってきたクセして…」

「先輩だからって俺を蔑ろにしていいわけじゃねぇぞ、あのシカ女」

「先輩も檜山君も抑えて抑えて。まあ鹿乃子先輩に振り回されてるのは、僕らも変わらないけどさ…気楽に行こうよ」

「そうそう。それに犬養さんもまだ来てないし…その犬養さんが、ここの神社を勧めてきたんだっけ?」

「南雲先輩達も、のこたんの扱いに慣れてきたって感じね。シカ部で鍛えられた感じかしら?」

 

シカ部一同は集合しているものの、のこたんと恵理の姿がまだ見えてなかったのだ。結局ギリギリになっても二人は来ず、四人だけでお参りすることとなる。

しかし境内に入る直前、こちらに声をかける人物が。

 

「香織に虎視先輩?」

「あら、天之河君?」

 

そこには光輝と、彼の幼馴染である雫と龍太郎の姿があったのだ。

 

「香織。シカ部のメンバーで初詣に行くってこっちの誘い断ってたけど、まさか同じ神社だったとはね」

「雫ちゃんも、まさか一緒の神社とは思わなかったよ」

「ごきげんよう、八重樫さん。折角だから、そっちのグループと一緒に回りましょうか?」

「え、先輩……むしろ、良いんですか?」

 

まさかの遭遇だったので香織につい話しかける雫。すると優等生モードになったこしたんが、一緒に回ろうと提案してきたので思わず反応する雫。

 

「おっす。南雲に檜山、部活始めたって聞いたけど初詣も一緒って、楽しんでるみたいだな」

「どうも、坂上君。まあ憧れの虎視先輩と同じ部活だから、僕はそこそこ楽しめてるんだけど…」

「俺は鵜飼先生から実績積まないと退学させられかねんって忠告されてな、仕方なくだよ。でねぇと、こんなキモオタやトンチキなシカと同じ部活になんか参加しねぇよ」

「そうなのか? 寧ろ、楽しそうに見えるんだが…」

「どこをどう見たら楽しそうに見えんだよ!?」

 

一方、龍太郎はハジメ達男子組に声をかける。龍太郎から、まさかの反応が返ってきたことに檜山は叫ぶのであった。

 

「南雲。一応確認だが、香織や虎視先輩の手を煩わせて無いよな?」

「天之河君、君の心配するようなことは何もしてないから心配しないで。流石の僕も、好きな人の前で格好つけたいって欲求くらいあるからさ」

「だったらいいけど…虎視先輩が雫を誘ってるみたいだし、今回は俺も同行させてもらうぞ」

 

というわけで、シカ部は光輝一行と一緒に初詣をすることになった。そして境内に入ると、人だかりが本殿に集まっているのが見える。

 

「そろそろご開帳の時間よ」

「年に一度のご開帳だものね…」

 

観衆が口々に気になる言葉を発する為、シカ部一同は本殿の方に視線を向けると、二人の巫女さんが扉を開けようと現れる。

 

「なんだ? なんかのイベントでも…って、犬養さん!?」

「あ、本当だ! 巫女さんの格好してる…」

 

なんと現れた巫女の片割れが恵里だったのだ。

しかしシカ部一同にとって、真の驚きはこれからだった。0時丁度、すなわち新年になったと同時に本殿の扉が巫女達によって開かれる。そして中に座していた人物に、一同は視線を奪われる。

 

 

 

「しっ鹿乃子ぉおおおおおおおおおおおっ!?」.

 

こしたんの絶叫の通り、中にいた人物は紛れもなくのこたんだった。いつもと違い悟りを開いたような神妙そうな微笑を浮かべ、巫女装束と千早を身に纏い、頭にも神楽用の冠を付けている。

その姿は神社に祀られる神のようで、ハジメ達他のシカ部部員と光輝も空いた口が塞がらなかった。そんな中でハジメがなんとか声を絞り出して問い尋ねようとすると…

 

「せ、先輩? 何してるんですか…」

「シカ神様よ! 立派なツノねぇ…」

「「「「「鹿乃子(先輩)が神ぃいい!?」」」」」

「アレが噂のシカ神様……神々しいわ」

「へぇ、思ったより立派な神様なんだなぁ」

「確かにね。他の人も言ってるけど、特にツノが」

 

観衆の一人から驚愕の事実を打ち明けられる。のこたんがこの神社の本尊、"シカ神様"だというのだ。当然、シカ部一同も声を合わせて驚く。

しかしその一方で、雫も龍太郎も、更には餡子もあれをのこたんではなくシカ神様だと認識しているのだ。

 

「いや、アイツが神ってそんな訳…」

「ほほう、もしやこの神社は初めてかの? シカ部の諸君」

「え? そうですけど、誰ですか?」

 

こしたんがそんなわけ無いと否定の声を上げようとすると、背後から声をかける人物が現れた。そして振り返ると、こしたんと檜山はまた驚愕の声を上げることとなる。

 

「あぁあああっ! あなたはいつぞやのシカガチ勢お婆ちゃん!!」

「ババア、なんでここに!?」

 

なんと、以前のこたんを尾行した際に遭遇した、シカの大名行列を見て古き言い伝えなる物を語った老婆だったのだ。この時のことを知らない、ハジメは当然老婆についての詳細を尋ねる。

 

「え? 二人とも、知り合い?」

「いや、知り合いっていうか…シカ部が出来る前に鹿乃子の弱みを握ろうと尾行してたことがあって」

「そん時に、同じ目的で別口から尾行してた俺と一緒に遭遇した婆さんだ。どうせバレるだろうし、この際隠し事はしねぇでおく」

(虎視先輩と檜山君が、鹿乃子先輩を尾行…まさか、シカコレの練習で見た幻覚のアレ!?)

「先輩!? なんで鹿乃子先輩を尾行なんて……あの、何故そんな疲れた顔をしてるんですか? しかも檜山まで」

「光輝君、疲れた顔については聞かないでおこう…で、お婆さんはなんで私たちのことを知ってるんですか?」

 

こしたんと檜山の話を聞いて、ハジメは先日のシカコレ練習でのこたんが見せてきたあれを思い出して一人驚愕する。一方で光輝がそれについて言及するも、二人の表情を見て困惑してしまう。

そして香織が謎の老婆に尋ねてみると、その正体に改めて驚愕することとなった。

 

「日野のババ様こと犬養ミツ(88)、恵里の祖母でここの宮司をしとる者じゃよ」

「犬養さんのお婆さん!? そして露骨なレギュラー狙いの自己紹介!!」

「あぁ、だから犬養さんここを勧めてたんですね。それにしても、シカ関連の家業が神社の宮司さんって?」

 

まさかの恵里を引き取った老婆その人だと判明したのだ。しかし、宮司とシカの見識が結びつかずにハジメはその件について尋ねてみる。

 

「なんじゃ、恵里から聞いとらんのか?」

「ミツさん、でしたっけ? お孫さんがそちらに養子に引き取られて、家業を継ぎたいからシカの見識を深めたいというのは聞いたんですけど…」

「なるほど、家業の詳細までは聞いとらんかったか。ここは鹿神神社(しかがみじんじゃ)というて、日野市におけるシカ繁栄の象徴としてあのシカ神様をお祀りしておるのじゃ。故に宮司はシカについての理解が必須での……」

「鹿神神社!? ここ、そんな名前なんですか!?」

「いや、奈良じゃなくて東京でシカの繁栄祈ってどーすんだよ!?」

 

ハジメが神社の名前を聞いて驚愕する横で、檜山のツッコミが冴える。しかし、そこに光輝とこしたんが物申そうとミツに声をかけるのだが…

 

「あの、彼女はどう見ても俺達の高校の鹿乃子先輩なんですが…」

「そうですよ。何かの間違いのはず…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ小僧!!」

「「「「「ひぃっ!?」」」」」

 

直後、ミツが鬼の形相とどこかで聞いたようなトーンとセリフでこしたんと光輝を怒鳴りつけ、黙らせてしまう。この顔と声で恵里の実母と新しい夫を怒鳴りつけたなら、二人が日野市に近づかないのも納得だろう。ハジメ達他のシカ部部員まで怯える始末だ。

すると、いきなり雫と龍太郎が話しかけてきて…

 

「光輝、あの方はシカ神様であってのこたん先輩じゃないと思うのだけど…」

「雫の言うとおりだぜ。どう見ても別人、いや別シカだろ」

「え? 二人とも、本気で言ってるのか?」

 

雫達の反応を見て、困惑を隠せずにいる光輝。

 

「ふぉっふぉ。その目で確かめてみるといい」

「そ、そこまで言うなら…」

 

いつの間にか元に戻っていたミツがそういうので、こしたんと光輝が一同を代表してのこたん改めシカ神様に問い尋ねに向かう。

 

「ちょっ、ちょっと鹿乃子さん!? 何してるの、そんなところで!!」

「そうですよ! 関係者に怒られるから、早く降りてください!!」

(((その関係者から神様扱いされてるんじゃ…)))

 

光輝の問いかけに、心の中でツッコミを入れるシカ部一同。しかしそんな一同を余所に、シカ神様は相変わらず神妙そうな表情をしており…

 

「なんだぁ~、その悟り顔!?」

「いいから、さっさと降りてきてください!!」

(天之河君もヒートアップしてるから気づいてないけど、虎視先輩の素がまろび出てる…危なかった!)

 

光輝がこしたんのオラついた口調に気づいていない様子に安心するハジメ。しかし、ここでシカ神様が立ち上がって、こしたん達の方に視線を向ける。

 

「我、鹿乃子に非ず」

「「え?」」

 

そして自分がのこたんであることを否定する旨の発言をするシカ神様。そして改めて名乗るのだが……

 

「我、シカなり」

「一緒じゃん! そこは、シカ神なりじゃないの!?」

「結局、シカなんですか? それとも、神なんですか!?」

 

シカ神様に対してツッコむこしたんと、純粋に疑問をぶつける光輝。そんな二人にシカ神様本人はというと…

 

ニコッ…

「「いや、ニコッ…じゃなくて!?」」

 

微笑だけで済まそうとしていたため、こしたんも光輝もますますヒートアップしていく。だが、その一方で他の参拝客達は…

 

 

「ありがたや…」

「今年も日野市にシカ神様のご加護が!」

「新年早々、縁起がいいのう」

「日野市民、騙されてない?」

 

あの発言をありがたく思う参拝客達に、思わず呟くこしたんであった。一方で…

 

「シカ神様のお言葉、なんてありがたいの…」

「ちょっと雫ちゃん、本当に最近どうしたの?」

(なんだ、これ? まさか俺達が可笑しいって事はないよな……ないよな!?)

 

雫までこの空気に馴染んでいるため、香織も光輝も内心で自分が異物ではないかという恐怖に苛まれていた。その後、気持ちを落ち着けるためにも離れたところで休憩することに。

 

「しかし、犬養さんは家業の跡を継ぐためにシカの勉強がしたいって入部理由だったけど、まさか神社だったとは…」

「うん。エリリン、養子に引き取ってくれたミツさんに本当に感謝してるんだって」

 

ハジメが恵里の家の事情を知って驚いていると、巫女服姿の少女が近づきながら声をかけてくる。短めの茶髪をツインテールにまとめている、かわいらしい少女であった。

 

「あれ? 君はもう一人の巫女さん?」

「初めまして、南雲君。エリリンの親友で、鹿神神社のバイト巫女の谷口鈴です」

「エリリン…犬養さんが親友から呼ばれている仇名だったわね。あなたがそうだったの」

 

ハジメが問いかけると、自己紹介を始めるバイト巫女改め鈴。恵里が話していた親友が彼女だと気づくこしたんであった。すると、ここで鈴が話しかけてきた理由について語り始める。

 

「エリリンは今日の神事で忙しいから、シカ部のみんなを案内して欲しいって頼まれてたんだ」

「あら、そうなの。谷口さん、それじゃあ早速お願いするわ」

「おっけー。ここの神社、いくつかの名物があるからまずはそれを押さえてもらおうかな?」

 

ということで、鈴に案内される形で初詣を行うことになったシカ部+光輝一行であった。

 

「それじゃあ、まずは当たると評判のおみくじでも引いてって下さい」

「おみくじ…まあ、初詣の定番かしらね」

「じゃあ、早速引いちゃいましょうか」

 

というわけで、みんなでおみくじを引くことに。まずは先陣を切って、ハジメとこしたんが引いてみると…

 

「お、これは…」

「先輩が大吉で僕が中吉…」

 

 

 

 

 

大ツノ、中ツノ

「「運勢とは!?」」

 

吉がツノになってる謎のおみくじであったため、二人そろって叫ぶのであった。そして詳細を見てみると、更にツッコミどころが多すぎた。例として大ツノを見てみると…

 

【失物】右のツノ

「ツノが見つかるってこと? なくした覚えもねえが?」

【待人】シカ 三分後に登場

「さっきから、シカとツノしか出てこねぇのか、このおみくじは!?」

「そして無駄に細かい!?」

 

鹿神神社らしくシカ関連のおみくじということなのだろうか? しかし、他の参拝客達がおみくじを引く様子を観察してみると、信じられない光景を見るのだった。

 

「今年こそ大ツノ引けるといいな~」

「俺は末ツノ以上ならなんでもいいや~」

「な、南雲君…これってやっぱり?」

「はい。たぶん、大吉と同じ扱いってことですね」

 

カップルらしき参拝客のリアクションを見て、真相を察してしまう二人であった。

 

「小ツノ…南雲先輩に負けたわね」

「ウソ!? 大ツノ引けちゃった!!」

角田(ツノダ)……これ、運勢なのか?」

「私も角山(ツノヤマ)なんだけど…」

 

一方、餡子がおみくじの結果に落胆し雫が感嘆する横で、光輝と香織が引いたおみくじは運勢と言って良いのかわからない謎のワードが出現。困惑を隠せずにいた。

かと思った直後…

 

「くそっ、小ツノか〜」

「おっ! 俺、角田だったわ〜!」

 

別口で初詣に来ていた小学生達の中に、光輝と同じ運勢のおみくじを引いた子供がいることが判明。嬉しそうな様子から、思い切って聞いて見ることにする。

 

「君、俺も角田って出たんだけど……これ、良い運勢なのか?」

「おお! にいちゃんも角田を引いたんだ、すげー!!」

「あ、すごいんだ…ごめんね、お兄ちゃんここのおみくじ引くの初めてでよくわかってなくてさ」

「おい、ちょっと待て!? 何だ、このくじの結果!!」

 

光輝が小学生と話している横で檜山が怒声を上げ始めたので、みんなして視線を向ける。おみくじの結果に不満があるようだが、そこに書いていた字は……

 

 

 

 

 

"凶ツノ"だった。

 

「なんで俺だけ、はっきりと凶ってわかるような内容になってんだよ!?」

「これに関しては、日ごろの行いじゃねえの?」

「あの、虎視先輩。檜山にだけ当たり強くないですか?」

「仲間想いの天之河君には悪いけどね。檜山君には前科があるし、目撃者として注意してみないといけないのよ」

「あ、そうでしたね。すみません…檜山、虎視先輩の信頼を取り戻せるよう、応援してるぞ」

 

憤慨する檜山に対するこしたんの反応に、光輝が疑問を呈す。しかし、こしたんは檜山のカツアゲ現場を見つけた当人であることを活かし、光輝を上手く言いくるめてしまった。

 

(ケッ。天之河の野郎が虎視を信頼し切ってるのは、厄介な点だな)

「ほら。凶を引いたら厄落としすれば心配ないから、行こう」

「厄落としって、あの凶のおみくじを結ぶ奴だよな? なら俺も凶ツノだったから、ついて行ってやるぜ」

 

檜山の内心を知ってか知らずか、香織と龍太郎が彼を宥めておみくじを結ぶ場所を探しに行くのだった。そしてその様子を見送るこしたん、ハジメ、光輝はというと…

 

「…それにしても、ツッコミ疲れが凄まじいわ」

「ですね。新年早々、なんでこんな…」

「香織達が戻ってきたら、帰るか。勿論、谷口さんに断りを入れて」

 

今回の初詣について話していた。そろって、疲れた表情を浮かべながら。そんな中、三人の鼻腔を擽る感覚が襲う。

 

「ん? 甘い匂い…」

「なんだろう? 嗅いだことないな」

「人の子よ、そなたらに一杯恵んでやろう。(ちこ)う寄れ」

 

声のした方を見ると、甘酒を配っているシカ神様の姿があった。そこでこしたんはスマホのストップウォッチ機能を確認してみる。実はおみくじを引いた時につけてたのだが…

 

「ジャスト3分、もはや未来予知!」

 

本当にキッチリ3分でシカ神様=のこたんに会えたことになったのだ。よく当たるおみくじというのは、本当らしい。そしてそれを確認すると同時に、こしたんと光輝がシカ神様に詰め寄る。

 

「鹿乃子てめぇ、私との約束ぶっちぎっておいていい度胸じゃねえか」

「そうですよ。この際ですから、虎視先輩にヤンキー疑惑を抱いた件と合わせて謝ってもらいましょうか」

(天之河君、まだ例の件を引きずってたんだ…)

 

相変わらずのこたんに対してオラついた口調がまろび出てしまうが、横にいた光輝も同様に激高していたためまた気づいていないのだった。というか、まだこしたんを初対面でヤンキー呼びしたことを光輝は怒っていたらしく、ハジメがまた驚く。

 

「神様ごっこの次は甘酒配りか? あ?」

「否。甘酒ではない」

「ん? じゃあお汁粉ですか?」

 

凄むこしたんに対し、配っているものが甘酒じゃないと話すシカ神様。それに対し、光輝が他に配っていた物の候補を予想して口に出す。しかし、シカ神様から出た答えは予想だにしないものだった。

 

「それも否。ツノ汁である」

「ツノ汁……何ですか、それ?」

「ツノの汁である」

「全然説明になってないですよ!! なんかあんまり飲みたくないんですが!?」

「あと、さっきから本当に何なの。その悟り顔!?」

 

シカ神様の要領を得ない説明に、疑問が尽きないこしたんと光輝。すると、そこに鈴が駆け付けてツノ汁についての解説を始めた。

 

「皆さん。ツノ汁もこの神社名物の一つで、シカ神様が自ら出汁となって三日三晩かけて作ったありがたい飲み物なんだよ。飲めば今年の運気も爆上がりだよ」

「どういうこと? こいつ煮出して作った汁ってこと!?」

「天之河君、この神社ってやっぱりおかしくない?」

「南雲、遺憾だがお前に同意するよ……」

 

鈴がしたツノ汁の説明に怖気づくこしたんの横で、ハジメと光輝がコソコソ話をする。虎視虎子王決定戦の時同様、二人の気持ちがシンクロしてしまったのだ。

すると、シカ神様と鈴に近づいてくるミツの姿が見えた。

 

「シカ神様、そろそろ時間ですぞ。鈴ちゃんも、恵里が待っとるから手伝っておくれ」

「あ、わかりました。みんな、そろそろ鹿神神社最後の名物、お焚き上げが始まるから、見てってよ」

「「「お焚き上げぇ?」」」

 

鈴からの誘いに、三人は訝しげな表情を浮かべながら反応する。そして厄落としから戻ってきた檜山と同行していた香織達とともに、お焚き上げを見に行く。そして、シカ部一同はこの日一番の異常を目の当たりにすることとなる。

 

ミツ「はんにゃー ふんにゃら ほんにゃー シカシカー」

恵里「はんにゃー ふんにゃら ほんにゃー シカシカー」

鈴「はんにゃー ふんにゃら ほんにゃー シカシカー」

三人「「「はんにゃー ふんにゃら ほんにゃー シカシカー」」」

(((((何この謎儀式…)))))

 

鼻提灯を膨らませるシカ神様の前で炎を焚き、そこに大量のシカのツノを焚べて燃やしているのだ。そしてその炎を挟んで反対側にミツ、恵理、鈴が座り込んで祈祷している。更にそれらに呼応するように、シカの群れがどこからともなく現れてじっとその儀式を見ている。

まさに謎儀式だ。

 

「白崎さん。お焚き上げって、去年の破魔矢を燃やす筈よね?」

「ですよね、先輩」

「檜山、今燃やしてるのって明らかにツノだよな?」

「ああ。ついでに、シカせんべいも燃やしてるな…」

「南雲君。日野市に野生のシカなんていないはずよね?」

「はい。僕も今日まで、一度も見たことないです」

「最後に天之河君、ここの境内でもシカって飼ってなかったわよね?」

「はい。俺もここに来るまで一度も見かけませんでした」

 

こしたんはあまりにも謎すぎる光景に、シカ部の一人一人、そして光輝にもこれについての確認を取っていく。そして、叫んだ。

 

「じゃあこの光景一体なんなの!?」

「「「「「そんなの僕(私)(俺)が知りたいよ!!」」」」」

 

しかしそんな一同の反応を余所に…

 

「今年のお焚き上げは気合い入ってるね…」

「これはご利益ありそう…」

「ですね。初見の私でも、この気迫は伝わってきます」

「ああ…よくわからんがすごい気合が伝わってるぜ」

((ご利益なんてあるわねぇだろ!))

((というか、これ毎年やってるの!?))

(雫も龍太郎も、本当に何でこれに順応できてるんだ?)

 

他の参拝客達が見入って感想を述べる中、雫も龍太郎もそれに同意してしまう。それに内心でツッコミを入れるこしたんと檜山、恒例行事だと再認識して驚愕するハジメと香織、そして雫達が順応できていることに戦慄する光輝と、良識組は様々な反応を見せることとなった。

 

「因縁上等、酒池肉林…」

「餡子ちゃん、欲望にまっすぐすぎるね…」

 

一方、餡子はこの機に便乗して自分の願望を叶えてもらおうとしている。ハジメがそれに気づき、冷や汗を流しつつも逆に関心することとなった。

 

「「「はんにゃー ふんにゃら ほんにゃー シカシカー…はんにゃー ふんにゃら ほんにゃー シカシカー…はんにゃー ふんにゃら ほんにゃー シカシカー…」」」

 

祈祷が続く中、突如として風が吹き出す。

 

「急に風が?」

「あ、見て!?」

 

こしたんが反応した直後、雫が何かに気づいて叫ぶ。そしてシカ部も雫が指さした方向に目を向けると…

 

「シカ神様の体が光り出したわ!」

「「「「「何故!?」」」」」

 

さっきから驚きっぱなしの一同だが、その間も祈祷が進む。そしてそれに呼応するかのように、吹き始めた風もシカ神様の発するも光も、次第に強まっていく。

 

「「「はんにゃー ふんにゃら ほんにゃー シカシカー! はんにゃー ふんにゃら ほんにゃー シカシカー! はんにゃー ふんにゃら ほんにゃー シカシカー!」」」

『ピィ一ーーーーーーー!』

 

そして祈祷の勢いが強っていくと、突如シカの群れが一斉に鳴き声を上げる。そしてその直後、シカ神様が開眼し……

 

 

 

 

 

 

 

 

「のつ…」のつ…のつ…のつ…のつ…

 

大仏のような微笑を浮かべて、一言だけ呟く。そしてその呟きが、辺り一帯に木霊するのであった。

その様子に呆然とするシカ部一同だったが…

 

「「「「「「ありがたやー!!!」」」」」」

「「「「どこが!?」」」」

 

涙を流しながらそれを拝む参拝客達に、またツッコミを飛ばすことになるのであった。

 

そしてお焚き上げが終わった後、すぐに境内を出ていく一同。

 

「それにしても、意外と面白かったわね」

「だな。話変わるけど、確か虎視先輩の妹なんだっけか? うちの受験する予定らしいけど、よろしくな」

「坂上龍太郎、別にあなたや天之河光輝とよろしくするつもりないから」

「あ、そうなのか? まあ別に無理に仲良くしなくてもいいけどな」

 

餡子と龍太郎が何故か会話をしている横で、シカ部の面々は疲れた表情を浮かべていた。

 

「今年もいいことありそう…来てよかったわね、香織」

「雫ちゃん……そうかな?」

「なんか、すんごい疲れましたね」

「あぁ。それも精神的な方で」

「本当、新年早々に何が起こってるんだ? というか、鹿乃子先輩が来てから日野市が可笑しくなったような?」

「久しぶりに近藤達と会おうと思ったんだが、もう帰って寝る……」

 

満足げな様子の雫に対し、精神的な疲労をため込むこととなる一同。すると、ここでまさかの事態が発生。

 

「みんな、お待たせー!」

「みんな、うちの神社の初詣はどうだった?」

 

なんと鳥居前の道路を駆けながらこちらに話しかけるのこたんの姿があったのだ。しかも先ほどのシカ神様スタイルではなく、見慣れた制服姿である。そして本殿から私服に着替えた恵里も駆けつけてくる。ちなみに、恵里もいつの間にか砕けた口調になっていた。

そしてそんなのこたんを見て、こしたんと光輝は怒りの表情を浮かべながら詰め寄る。

 

「テメェ! 散々人を待たせた挙句、シカ神様だお焚き上げだなんだって、ふざけやがって!! 私、もう帰るからな!!」

「先輩! 気持ちはわかりますけど、まずはこの機会にヤンキー疑惑の件で謝ってもらいましょう!!」

(まだ言ってるよ、天之河君…)

 

光輝の反応にまた困惑しているハジメだったが、その一方でのこたんはキョトンとした表情を浮かべている。

 

「シカ神様にお焚き上げって、何それ?? 私、今来たとこだよー」

「「は!?」」

「みんな、お婆ちゃんと鈴から聞いたけど…シカ神様と鹿乃子先輩は別シカだよ。何言ってるの?」

 

更に恵里も訝しげな表情を浮かべながら混ざってくる。もはや訳が分からなかった。

 

「そ、そうなんだ…ところで犬養さん、神社の手伝いはもういいの?」

「南雲君、心配ありがとう。お焚き上げが終わって落ち着いたから、お婆ちゃんと鈴がこっちに行っていいってさ」

「あ、そうなんだ。次に谷口さんとお婆さんに会ったら、お礼言わないと」

 

妙な空気になったのでハジメが恵里に話題を振る。そして空気が和んだところで、のこたんが次の行動に移った。

 

「まあ、どっちにしても寒い中で待たせちゃったのはゴメンね。よかったら、あったかい飲み物持ってきたから飲んでよ」

「あ、どうも…」

 

のこたんが謝罪と同時に、持ってきた魔法瓶と紙コップで飲み物を入れて配って回る。雫が一人だけ目をキラキラさせて飲み物を見つめる横で、みんなで一口飲む。

 

「美味い…けど、なんだこれ?」

「甘い味だけど、なんか出汁っぽい?」

「けどなんか、家の味噌汁みてぇで落ち着くな」

(檜山君がおふくろの味を語ってる…)

「鹿乃子先輩、美味しいですけど本当に何ですかコレ?」

 

のこたんが持ってきた飲み物に舌鼓を打つ一同だったが、やっぱり知らない味だったのでのこたんに聞いてみる。

 

ツノ汁

「「ぶぅうううううううううううう!?」」

「「「な、何それ?」」」

「やっぱさっきのお前じゃねえか!!」

 

のこたんの答えにこしたんがツッコミを入れる横で、ハジメと光輝は思わず吹き出し、場を離れていた香織と檜山と龍太郎は疑問を浮かべることとなった。果たして、シカ神様は本当にのこたんだったのか、それとも別シカだったのか?

まあそれはともかく、みんなでお詣りし直してこの日は解散するのであった。




というわけで次回はシカ生ゲーム回を予定しています。前後編の予定です。
ちなみに、光輝はこの時点で鈴とは初対面なので苗字呼びになっています。
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