ありふれたシカ部のありふれない日常   作:玄武Σ

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オリジナル回でバレンタインエピソードを入れました。ちなみに、喫茶ツバメの回の後日談となっております。後、ありふれ側の原作要素もちょっと入ってたり…ラストでちょこっとゲストも登場。


第14話「こしたんと香織とバレンタイン」

喫茶ツバメ

日野市民の憩いの場として市内で人気の喫茶店である。マスターが掲げるポリシー"完璧なおもてなしこそ人生"から来る神対応と称される接客、コーヒーや料理だけでなくお冷や器具や各種小物類にも行き渡るこだわり、それらが人気の秘訣でもある。

そんな喫茶ツバメに、二人の客が訪れる。

 

「へぇ。こんなところに喫茶店があったんですね」

「前に鹿乃子と来たんだけど、コーヒーもスイーツも凄い美味くてさぁ」

 

こしたんと香織である。他のシカ部部員がいない中で二人きりで行動するのはかなり珍しいが、何かあったのだろうか?

ちなみに、他の部員達はというと…

 

のこたん『今日はバイトがあるから』

ハジメ『父さんが仕事を手伝ってくれって』

檜山『課題溜まってるから、休むわ』

恵里『私も神社の手伝いがありますので』

 

と、それぞれ用事があるので部活が休みになったのだった。

 

「いらっしゃいませ…あ、この間のお客様」

「あ、覚えてくれてたんですね」

 

店に入った瞬間、黒髪に眼鏡の青年が迎え入れてくる。この青年こそが、マスターの燕谷義治(つばめやよしはる)その人である。直後、義治がこしたんを覚えている旨の発言をするので思わず反応する。

 

「ところで、今日はあのシカのお嬢さんは来てないんですね…」

「あ、彼女は今日バイトがあって…なので代わりに部活の後輩を連れてきたんですよ」

「そうだったんですね…ハァ」

 

しかしのこたんがいないという話を聞いて、義治は何故かため息をしてしまう。

 

「あの、どうしたんですか?」

「あ、ごめんなさい。私、また彼女が来た時に備えてツノ置きとシカせんべいを仕入れたので…以前はシカへの接客が初めてだったので不覚を取りましたが、今度こそ彼女を喜ばせて見せますよ」

「あの時、彼女に対してそんな真剣に考えてたんですね。なら明日にでも、本人にお伝えしておきますよ」

「あ、わざわざすみません。でも、助かります」

 

義治の意思を聞いたこしたんは、のこたんにこの件について約束をするのだった。すると、義治からある事実を聞かされる。

 

「ところで…ツノ置きって普通にネットショッピングでも買えるんですね。しかも彼女みたいに、頭ごと外した用の奴が」

「ああ、私もそれ知った時はビックリして…ええ!?」

「まさか店主さん、鹿乃子先輩に違和感を!?」

 

まさか自分たちの同類がここにいるとは思わず、衝動的に香織は義治に問い尋ねてしまう。

 

「何を驚いて…ツノの生えたシカの女子高生って、普通はいないのでは?」

「その筈、ですよね…虎視先輩、ならなんで学校のみんなや他の日野市民はあれを受けれいるんだろう?」

「だよなぁ。本当に、なんで?」

「え? まさか初見で彼女に驚いたのって、この場にいる私達だけ?」

「ここにいない他の部活メンバーも、驚いていましたけど…それ以外は誰も」

「そ、そうなんですか…(そういえば彼女達、妹と同じ日野南高校の制服だな。妹も最近、シカにドハマりしてるし…まさか、今の日野市じゃあれは常識なのか!?)」

 

そしてしばらくの沈黙の後…

 

「と、とりあえずこの話は終わりにしましょうか!」

「で、ですね先輩! 早く座りましょう!!」

「あ、そうでした! 席にご案内しますね!!」

 

こしたんが無理やり話を終わらせて、それに合わせて義治が二人を席に案内するのであった。

 

「じゃあ早速ですけど、チョコレートパフェで」

「なら私はパンケーキとブレンドコーヒーでお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

こしたんは最初の来店時にパンケーキを注文したので別のメニューに挑戦し、香織はそのこしたんの最初のメニューを食べてみようと思い、それぞれ注文をするのだった。

 

「さて。それじゃあ、早速本題に入るか」

「ですね。先輩、頼みたいことがあるから二人だけでお茶したいって言いましたけど、何の御用で?」

 

どうやら二人がお茶しに来た理由は、こしたんの方から誘ってきたかららしい。すると、こしたんが早速その頼みをしてきたのだ。

 

「白崎さん、バレンタインチョコの作り方を教えてほしいんだけど…」

「バレンタインチョコですか?」

 

まさかの頼みに、思わず聞き返してしまう香織。そこでこしたんは、ある事実を明かす。

 

「この際だから打ち明けるけど、私って実は料理苦手でさ。弁当も餡子が作ってて…」

「え、そうなんですか? 意外ですね…」

「まあ、私は文武両道かつ品行方正で有名だけどね! でも、包丁とか火加減とか細かい味付けって、どうもしり込みしちゃって」

「……ちなみになんですけど、先輩はハジメ君のことを異性としてどう思ってるんですか?」

 

香織は真っ先にこの件が気になった。ハジメがこしたんを好きなのは知っているが、肝心のこしたんがハジメをどう思っているかはまだ誰も知らない。今回、バレンタインチョコを送るということはそういうことを考えている異性がいるということで、それがハジメなのか否かが気になったわけだ。こしたん自身、少女マンガ脳で夢見がちなのが災いして恋愛経験0だったことに加え、部活以外に異性と知り合う機会がないのも大きい。

そしてそれに対するこしたんの答えは…

 

「正直に言うと、私はまだ南雲君が異性として好きなのかよくわかってない…でも、真剣に考えて返事をしたいとは思ってる。それに、シカ部が発足してから助けられることが多いし、日頃の感謝も兼ねてバレンタインに贈り物をしたいんだ」

 

ということだった。そのことを伝えたこしたんの眼は、真剣そのものだった。

 

「だから南雲君のことを本気で好きな白崎さんからしたら、敵に塩を送る形になるのはわかってる。でも恥を承知でお願いするわ、バレンタインチョコの作り方を教えて!!」

 

そしてこしたんは頭を机に叩きつける勢いで下す。それに対する香織の答えは…

 

 

 

「顔を上げてください、先輩。ハジメ君との関係、真剣に考えてくれてるなら問題ありませんよ」

「白崎さん…」

「ハジメ君が先輩を好きなことはもう周知の事実ですし、私がハジメ君と中学で初めて会った時にすぐ先輩に惚れてたのもわかり切ってましたからね」

「あ。あの時に南雲君のフォローに入った女の子、やっぱり白崎さんだったのか」

「覚えててくれてたんですね…だから、私の預かり知らないところでハジメ君が知らない誰かと両想いになるとかに比べたら、全然受け入れれますよ」

 

そして自身のハジメとこしたんに関して思うことを伝え、改めて先ほどのこしたんの頼みに対しての返事をする。

 

「というわけで、教えますから都合のいい日にでもうちに来てください。私が先輩の家に行くと、餡子ちゃんが察して暴走しそうなので」

「ありがとう白崎さん! 恩に着るわ!」

 

香織が快い返事を貰えて、こしたんは彼女の手を握りながらお礼を言う。そして、そのまま談笑を楽しむのだった。その一方で…

 

(バレンタインか。今年も妹がチョコをくれるだろうか……いや、それよりもどこぞの馬の骨にチョコを贈らないかが気になって仕方ない! 帰ってきたらそれとなく聞いてみるか)

 

カウンターから話を聞いていた善治が、こんなことを思案していた。何を隠そう、餡子ほど物騒ではないがこの男も中々のシスコンなのである。これの所為で若干調理に遅れが生じるが、こしたん達は談笑に夢中だったので気づかなかった。

 

「そういえば、白崎さんと南雲君って、何でうちの高校を志望してたの?」

「日野南高校に、ですか?」

 

談笑中、不意にこしたんが香織にそんな質問をする。それについて、香織の表情が少し曇ったように見えた。

 

「あ、なんかマズいこと聞いた? ごめん、高校で初めて会った時の反応的に、私を追いかけてとかじゃなさそうだったからさ! 単なる興味本位だから、無理に答えなくても…」

「いえ。荒唐無稽な話だから極一部、両親やハジメ君とかにしか話してないってだけで」

「荒唐無稽…今更、この世界観でそんなこと言う?」

「それ言われると、弱いですね…」

 

そして香織は、その荒唐無稽な理由を語り始める。

 

「私がハジメ君に興味を持って、虎視先輩と初めて会ったあの日から数日が経過した頃から、変な夢を繰り返し見ることがあったんです。あ、もう今は見ないんですけど」

「夢?」

「夢の中で私は、日野南高校と別の学校の制服を着ていて、ハジメ君や光輝君、檜山君といった何人かと同じクラスにいたんですけど…昼休み中にクラスごと異世界召喚されるって内容だったんですよね」

「異世界召喚される夢…確かに、荒唐無稽だな」

 

まさかの理由に、こしたんも困惑する。夢の中とはいえ、異世界召喚という単語が飛び出すので仕方がないだろう。しかし、段々と不穏な内容に変わっていく。

 

「で、そこでざっくりというと宗教戦争に助っ人として召喚されたうえに、その国で信仰されてる神様が召喚を実行したから、少なくともこの場にいる人間じゃ地球に返せないって言われるんです。だからその神様に帰してもらえるよう、戦わざるを得なくなってしまって…」

「宗教戦争…世界史でも見るけど、一番ドロドロした戦争じゃん。しかも神が実在するなら、余計にエグいことになりそう…」

 

宗教戦争は自分の信ずる神が正義という考えの押し付け合いによる戦争のため、歴史上で行われる戦争の中でも特に悲惨な部類に入る物だ。加えて、神が実在する異世界でそれを行っているので、より苛烈な戦争となっているんだろう。

 

「で、戦闘訓練の為に王国の軍と一緒にダンジョンに侵入したら、そこで強敵に襲われてピンチになって…脱出の隙を作りに行ったハジメ君が、ダンジョン内の崖から落ちてしまったんですよ」

「うぇええ!? 南雲君、まさかの脱落者第一号ってこと!?」

 

クラスごと事件に巻き込まれる創作物だと、クラスメイトが一人ずつ脱落して命を落とすのがお約束だが、それでハジメが最初の脱落者になってしまう展開だった。こしたんはこれで夢が終わるのだと思っていたが、直後に香織の顔がパァッと明るくなった。

 

「で、私はハジメ君を見つけるために力を受けようと訓練に明け暮れてたら、ハジメ君本人はダンジョンをクリアして一足先に脱出していたうえに、強くなってピンチの私やクラスメイトを助けてくれたんです! 見た目も、ちょっと中二病感あるけどカッコよくなってて」

「おお、ロマンチック! 白崎さんの想いに応えるために、パワーアップしてくれたのね!!」ぱわわ〜

 

こしたんがその話を聞いて、目を輝かせる。少女趣味のこしたんからすれば、この時のハジメは想い女(おもいびと)を助けに来た主人公のそれに見えたのだろう。ハジメの母が好きな少女漫画家と知った時と同じ擬音が流れるほどだ。

しかし、何故か香織は話した直後に浮かない顔をしている。

 

「……だったら、よかったんですけど」

「え、違うの?」

「それが、ハジメ君は現地で出会った女の子とすでに両想いになってたんですよね。それでその子や他の仲間と独自に地球への帰り方を調べる旅の途中で偶然私達の危機を知って、気にかけてくれた義理から助けただけだそうです」

「うわ…」

 

それを聞いて、一気に気まずくなってしまうこしたんだった。先ほど香織が自ら話した、「自分の預かり知らないところでハジメが知らない人と両想いになった」という受け入れ難い展開になっていたからである。

 

「でも夢の中の私は諦めきれなくて、私が一番になれないとわかりながらも旅に同行を申し出るってところで夢が終わって…」

「そ、それは……夢とはいえ、災難だったわね」

 

思わず、労いの言葉を口にするこしたんであった。これだけなら、香織が言う通り荒唐無稽な話で終わるのだが、なんとこの夢を見たのは香織だけではなかったのだ。

 

「そしたら、ハジメ君が同じ夢を見たって相談してきて、夢の中だと敵には冷酷で味方に甘い、それ以外には基本無関心っていうドライな性格になってたらしいんです。そこに加えて虎視先輩や私以外の知らない女の子と仲良くなる姿を見て、『自分じゃなくなってるみたいだ』って怖がってたんですよ」

「……まさか、正夢にならない様に夢と同じ高校になるのを防ごうと?」

「ですね。細かいデザインは覚えてないんですけど、制服がブレザーだったんで近隣の高校でブレザーじゃない制服の所を虱潰しに探していったら、日野南高校に行きついたわけです」

 

それぞれの視点ではあるが、二人の人物が同じ内容の夢を見ていたのだ。何かの予兆だと疑うのも仕方がないだろう。そして話を聞いて、こしたんはいくつか気になる点が出てきた。

 

「ちなみに、その夢と同じところとかまだあるの?」

「まず夢の様子的に高二っぽいんですけど、ハジメ君と光輝君達と犬養さんと谷口さんと檜山君、同じクラスにいたのはこれだけでしたね。後は見覚えのない生徒ばかりでした」

「…天之河君や檜山とか私とも関わりのあるメンバーは揃ってるな」

「あ、そういえばハジメ君とは互いに苗字呼びだったんで、そこまで親密ではなかったみたいです。他にも、檜山君の仲間三人が転校してなかったり、犬養さんは髪が短い上に養子に引き取られる前の中村性だったりしましたね」

「うわ、そりゃ夢とだいぶ違うわ。でも、白崎さんと親しくない上に私と学校違うなら、まだ好きな人がいないってことか?」

「だとしたら、仮に召喚されてもハジメ君が変わってしまうことはないかもしれませんね。まあ、油断はしませんけど」

「お待たせしました。パンケーキのコーヒーセットとチョコレートパフェです」

「おっと。じゃあ、一旦話は終わりにして食べるか」

 

そして話の途中で善治が注文の品を運んで来たので、話は終了。コーヒーとスイーツを堪能するのであった。そして会計を済まし、店を後にする。

 

「そういえばさ、ちょっと思ったんだけど…」

 

そして帰り道にて、こしたんがまた話を振ってきたのだが…

 

「檜山にも、義理チョコくらい作ってやらない?」

「檜山君にですか?」

「いや、あいつの自業自得な所もあるけど…鹿乃子が来てから、私以上に振り回されてるし、つい同情しちゃって」

「ああ…」

 

最初こそ提案の内容に訝しげだった香織だが、こしたんがその提案をした理由を話すと、遠い目をしながら檜山の今日までの気苦労を思い出す。

そして思案した結果……

 

 

 

 

 

 

「お情けで作ってあげましょうか」

「うん。お情けで」

 

結局、檜山への対応を決めたところでこの日は解散するのであった。

 

そしてバレンタイン当日。この日は日曜だったが、部活動のために校舎が解放されてたためシカ部も集まっていた。ちなみに、チョコを渡すタイミングについては…

 

「先輩、お互い部活時間の間にチョコを渡しませんか? 恨みっこなしで行きましょう」

「えぇっ!? 白崎さん、流石にみんなが見てる前じゃ…」

「そもそも、南雲君が先輩を好きなのは周知の事実である以上、隠れて渡しても詮索されて勝手に仲を進展させられるかもですよ。なら、人前で自分の気持ちを打ち明けた方がいいですって」

「そうか、勝手に詮索される可能性あったか…わかった。ちゃんと人前で渡すよ」

 

ということで、他の部員達が居合わせている中で二人同時に渡すことになるのだった。

 

「南雲君、ちょっと他のメンバーがいる中で申し訳ないんだけど…」

「奇遇ですね。僕も虎視先輩に話が…」

 

早速チョコを渡そうとしたこしたんと香織だったが、ハジメからも話すことがあるらしい。

 

「先輩と白崎さんからどうぞ。レディファーストと年功序列ってやつで」

「ありがとう…なら、私達から」

 

しかしハジメから譲られたので、早速こしたん達から本題に切り出すのだった。

 

「南雲君、正直に言うとまだ私は君を異性として好きかわからない。でも真剣に考えて返事したいと思ってる。それでいて、日頃の感謝って意味でチョコを渡したいと思ったんだ。というわけで、受け取って!!」

「ハジメ君が先輩を好きなのは知ってるけど、それでも私はハジメ君が好きです。だから、同じくチョコを受け取って!!」

 

ということでチョコを差し出すのだったが、ハジメから意外な反応が飛び出した。

 

「え? 先輩と香織さんもチョコを…」

「え? それってどういう…」

 

聞き返そうとした直後、ハジメが懐から包装された何かを取り出す。しかも二つあった。

 

「実は、先輩と香織さんに逆チョコを用意してたんですよ。といっても、料理はからっきしだから両親の手伝いでためた小遣いで、ちょっと高いやつを買わせてもらったんですけど…」

 

そしてハジメはそれを伝えた直後、こしたんにチョコを渡して、自分もこしたんからのチョコを受け取った。続けて、香織に視線を向ける。

 

「僕も先輩一筋ではあるけど、香織さんには日ごろからお世話になってるから一緒に貰ってほしくて…」

 

そして同様に、香織のチョコを受け取って自分からのチョコを渡す。直後に照れくさそうに顔を赤らめてるハジメに、こしたんも香織も思わずキュンとしてしまう。

 

「まさかこんな形になるとは……南雲君、ありがたく頂戴するわ」

「私も貰うよ。ありがとうね」

「僕も二人のチョコ、ありがたくいただきます」

 

そして三人で思わず笑いだしてしまう。

 

「ほぉほぉ。こしたん達、青春しておりますな~」

「ですよね。鹿乃子先輩」

「クソ、南雲なんぞが本命チョコを貰えるなんて…」

 

微笑ましく見ているのこたんと恵里、恨めしそうにハジメを見つめる檜山。しかし、直後にそれは起こった。

 

ヒュンッ

「!?」カッ

 

何かが窓から飛んできたので香織は手裏剣を投擲し、撃ち落とす。そして窓から、その人物が侵入してきたのだ。

 

「南雲先輩…まだお姉ちゃんの友達以上と認めていないって、前に私言わなかったかしら? そんな中で、お姉ちゃんとお互いにバレンタインチョコを送りあうなんて!?」

 

案の定、餡子であった。手には何本も苦無を持っており、顔も最初の襲撃と同様に亡霊みたいなおどろおどろしいものと化していた。それを見た直後、香織も無表情になって手裏剣を構える。

 

「餡子ちゃん、もうシカ部に暴力沙汰を起こさないって約束してなかったかな? かな?」

「白崎香織、あなたこそお姉ちゃんに愛しの南雲先輩を取られてもいいの?」

「生憎だけど、私は虎視先輩を対等なライバルと見なしているから、ご心配なく」

 

餡子も香織も互いに譲れないようで、戦闘はもう避けられなさそうだ。

 

「じゃあ、貴女を始末して南雲先輩…否、南雲ハジメを抹殺させてもらう!」

「させると思うかな!!」

 

そして二人の戦いがまた勃発、互いに手裏剣と苦無を投擲し、激突した。そしてそれを合図に香織が餡子の懐に飛び込んで、彼女を窓の外に蹴り飛ばす。そこから、金属音が何度も鳴り響くことから、戦闘の激しさが伺える。

そして、それを呆然と見守るこしたん達であった。

 

「……あ、白崎さんってこれを見越して預けてたのか?」

「虎視先輩、まだなにか?」

「ああ。実は、私と白崎さんから檜山に」

「俺?」

 

そして思い出したように、檜山用の義理チョコを取り出して渡していく。

 

「お前もシカ部で振り回されてるからさ。労いっつーか、お情けっつーかで、義理チョコも用意してたんだよ。白崎さんと用意しようって、私から相談してな」

「……はい?」

(まあ、確かに檜山君も相当振り回されてるからなぁ…)

「ひやまん、良かったね! チョコ貰えたよ!」

 

それを手渡された檜山も、流石に呆気に取られる。ハジメが心の中でその一部始終を思いだして納得していると、のこたんは純粋に檜山へ祝福の言葉を送る。それを受け取った檜山は、しばらく体を小刻みに震わせる。そして…

 

「虎視に同情されるなんて屈辱だ、チクショオオオオオオ!! でも、義理チョコ美味ぇええええ!!」

((な、泣きながら食べてる…))

 

泣きながら包装を破いてチョコにがっつく檜山を見て、唖然とするハジメとこしたんであった。

 

「それじゃあ、私からもこのチョコがけツノをみんなにあげちゃおうかな。勿論、こしあんも含めて」

「私もツノ汁を混ぜたチョコを餡子ちゃん含めた全員分を用意したので、良かったらどうぞ」

((い、いらない…))

 

のこたんと恵里から、貰っても微妙なチョコが飛び出すが、堂々と断れないので貰うしかないこしたんとハジメであった。

 

その日の夜、日野市内某所の居酒屋にて

 

「というわけで、鵜飼先輩ならどうします?」

「どうって言われても…愛ちゃんが自分で答えを出さないといけないでしょうね」

 

鵜飼先生は大学時代の後輩で、別の高校で歴史の教師をしている"畑山愛子"からある相談を受けていた。

 

「いや、疎遠になってた地元の幼馴染と再会して半年後に、バレンタインの逆チョコもらうなんてありえませんよ! 少女マンガじゃないんですから!!」

「とは言っても、そういうことしてきたなら向こうは愛ちゃんのこと好きなんでしょ。愛ちゃんが満更でもないならオーケーすればいいし、逆に無いと思ったなら断るしかないと思うけど」

「そんなパッと返事なんて出来ませんよ! 先輩なら、恋愛面のアドバイスが出来るんじゃないかと思ったんですが…」

「私なら仕事してからずっと浮いた話なんてないわよ。すでに仕事が恋人って感じだし」

「じゃあ、さっきの自分で返事しなさい云々は何だったんですか!?」

「よっぽど鈍感でもない限り、恋愛経験が無くてもそれくらいわかるものよ」

 

こんなところでも、恋の話が飛び出す。果たして、愛ちゃんの幼馴染との関係はどうなることか?




愛ちゃんというか、幼馴染の彼が不憫だったので救済展開を入れさせてもらいました。
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