まだ2月ですが、花粉の回です。お楽しみいただけたら、幸いです。
「いや~。あったかくなってきたね」
「ですね。桜が咲いたら、部室前でお花見もありかもですね」
「白崎さん、ナイスアイデア! 虎視先輩、もしやるとしたら鈴も誘ってもいいですか?」
「お花見いいわね。シカ部自体が人数も少ないし、一人二人の増員なら問題ないわよ」
桜のつぼみが出始めた頃、シカ部の部室に向かう女子一同。とても仲がよさそうだ。特にバレンタインの一件以降、香織とこしたんの距離が近くなっている。その一方で、後ろに続くハジメと檜山はなにやら不機嫌そうで…
「だぁああああ! 目がかゆい!!」
「花粉症の時期だもんね。僕も鼻水が止まんないよ…」ズズッ
どうやら二人そろって花粉症になってしまったようだ。檜山は目、ハジメは鼻にダイレクトヒットしたようだ。
「だらしねぇな、二人とも」
「いや、花粉症はアレルギーだから気合とか体力でどうにかなるものじゃ…」
こしたんの反応に思わず物申す香織。そのまま全員で部室に行くと…
「…」
何故か泣きながら佇むのこたんの姿があったのだ。全員がギョッとして、一斉にのこたんに問い尋ねる。
「鹿乃子、どうした!?」
「あ、こしたん。みんなも…」
「怪我でもしたんですか!?」
「いや、お腹空いたんじゃないですか?」
「白崎さんも犬養さんも、それで泣くって子供じゃないんだから!? ついに虐められたとかじゃ…」
しかし、のこたんはどの問いに対しても首を横に振りながら涙を流し続ける。
「なんだか悲しくもないのに、何故か涙が止まらないんだ…ふふ、変だよね」
妙にセンチメンタルな様子で話すのこたん。
しかし、こしたんはふいに気になって、あたりを見回す。すると部室の窓が開いており、ごみ箱はよく見るとティッシュが大量に捨ててある。加えて…
「春、だからかなぁ…」ズズッ
先ほどのハジメと同様、のこたんが話しながら鼻をすするので原因は確定となる。
「お前、それって花粉症じゃね?」
それを指摘されたのこたん本人は、一瞬だが呆気に取られる。そして、直後に溜息をつく。
「いやいやいやいや。まったく、こしたんは何を言ってるのさ。忘れたの?」
やれやれといった感じでのこたんは窓の傍で仁王立ちし、それを叫んだ。
「私はシカ、シカののこたん!! 花粉症なんてそんな人間のかかるもの、シカの私がかかるわけ…」
『我、花粉ぞ』
しかし、のこたんの鼻に花粉らしきものが接触する。一瞬、花粉が言葉を発したような気がしたが、それもつかの間…
「ヌワアアアアアアアアアア!?」
全身モコモコの綿状の物体に覆われ、悶え苦しみ始めたのだ。
「何その症状!?」
「花粉症じゃねぇ別の病気じゃねえのか!?」
「お二人とも、言ってる場合じゃないですって! 先輩、大丈夫ですか!?」
こしたんと檜山が異常な症状を指摘するも、のこたんは床の上でのたうち回る。その様子に、ハジメ達も青ざめた顔でのこたんを見つめていた。恵里だけが心配している。
「ッアーーーー! かゆっ!! 全身かゆっ!!」
あのモコモコがどうやら、痒みの原因らしい。しかし、こしたんからジト目で見られているのに気づいたのこたんはハッとする。そして立ち上がると、顔だけやたらとセンチメンタルな感じになり…
「涙が止まらない…なぜなの…?」
「だから花粉症だっつーの!!」
明らかに誤魔化そうとしてたので、こしたんもキレ気味に再度指摘する。
「意義あり!! 花粉なんかに野生のシカは屈しないから、絶対に花粉症じゃないもん!!」
「ほう。じゃあ、何が原因だと?」
のこたんの主張への反撃のため、こしたんは症状について指摘する。ちなみに、ペットもハウスダストや特定の食物でアレルギー反応を起こすため、のこたんのこの言い分は当てにならなかった。
そして、のこたんの現状に対する言い訳はこうだった。
「風邪だと思う」
「そんなモコモコの体で言われても…」
ついでに言えば、鼻水も垂れてる。
「そういや、何故か花粉症ってなった奴は認めたがらねぇよな…くそ、まだ目がかゆい」
(檜山君は自分で指摘してないけど、どっちなんだろう?)
檜山がうんざりした様子で言いながら、目をこする。それを見ながら、ハジメも檜山本人の言い分について疑問に思うのだった。すると、恵里が挙手してくる。
「あの、鹿乃子先輩ってヒトとのハイブリッドだから、普通のシカよりも花粉耐性が弱いんじゃないですか?」
「あ。犬養さん、それありえるかも」
「なんだとー!?」
のこたんが恵里の言い分と、それに納得する香織に怒り心頭となる。これなら、仮にシカが花粉症にならないとしてものこたんの現状にも説得力があった。
「それじゃあみんなはどうなのさ!? なぐもんとひやまんは花粉症っぽいけど…女子一同、特にこしたん!!」
そして怒りのままにこしたん達女子組に対して問い尋ねた。
「私は鼻炎の薬を事前に飲んでるので」
「右に同じく」
香織と恵里はクシャミも目のかゆみも無かったものの、実は予防薬の準備をしていたことが判明する。対してこしたんはというと…
「な~んだ、二人とも薬で誤魔化してたのか。対して、私は17年間花粉症になんかなってないし、これからもならなんわ」
勝ち誇った笑みでやたらと自身気に宣言するのだった。
「ずるいよみんな、人間のクセに! 特にこしたん!!」
「ハッハーン、なんとで言いたまえ」
「元ヤンのクセに! 少女趣味のクセに!」
「そこは関係ないだろ///」
勝ち誇るこしたんだったが、のこたんからまさかの返しが来たので思わず顔を赤らめるのであった。
「この苦しみが分からない部長とはやっていけない! シカ部は今日を持って解散する!!」
「「「「そんな理由で!?」」」」
方向性の違いってやつです。
ちなみに、檜山はこしたんとのこたんへの逆恨みで、二人を追い込むために廃部を企んでいる。なので、向こうが勝手に廃部にするのはそんなに嬉しくない。
その後、解散云々は置いておいて、一同は手洗い場にやって来た。
「見てるこっちもムズムズするから、まずそのモコモコを洗い落とせ。私はタオルを取ってくる」
「僕は保健室に行ってきます。この症状に効きそうな薬、無いか聞いてみようかと」
「ハジメ君……あるかな?」
「俺も行くわ。目薬が欲しい…」
「それじゃあ、私は残って鹿乃子先輩を看てますね」
というわけで、恵里が一人だけ残ってのこたんの様子を見るのだった。幸い、水洗いだけでモコモコはすぐに落ちるのだった。
「あ~、気持ちいい~~」
「良かった。モコモコ、洗っただけで取れましたね」
「心配ありがとう、えりたん。でも、まだツノの奥がムズムズする…」
「う~ん…あ、鹿乃子先輩。ちょっと、ホースの準備しますね」
予想外の部分が洗いたくなるのこたん。すると、それを聞いた恵里が何かを思いついて、行動に出る。
「おーい、タオルあったぞ。洗い終わったか?」
「流石にあれに効きそうな薬は無かったか…」
「流石に無いよね、ハジメ君」
「ふぅ~、痒みも治まってきた…」
そしてこしたん達が戻ってきて、のこたんの様子を見に行くものの、そこでとんでもない光景を目の当たりにする。
「鹿乃子先輩、どうですか?」
「えりたん、ありがとう。生き返るよ~~」
なんとのこたんが外したツノの先端にホースを繋げて水を流すと、反対側のツノから水が噴き出していたのだ。
「「「「何この光景、怖っ!!」」」」
その光景に、思わず声を揃えて叫ぶシカ部一同。
「はー、スッキリした~」
「鹿乃子先輩、今更なんですけど頭の中どうなってるんですか!?」
「確かに、ツノについては散々見てきたけど頭の中のこと、ちゃんと考えてねぇ!!」
洗い終えたツノを付けなおし、すごくスッキリした表情を浮かべるのこたん。そんな彼女に、ここに来て新たな疑問が出現して戦慄するシカ部一同であった。
「え、えーっと……鹿乃子先輩、治ったなら部室に戻りましょう…」
『マタキタヨ』
香織が空気を変えようと発言した矢先、また花粉が飛んできてのこたんのツノの先端に接触する。直後…
「ヌッ」
なんとのこたんのツノから桜の花が一斉に咲き始めたのだ。ついでに、目もバッキバキである。
「「「「受粉しとる!?」」」」
急な開花に、一同はそう叫ぶしかなかった。そして部室に戻ったのこたんは、また花粉に苦しめられることとなる。
「顔洗ったらすっきりしたけど、やっぱりまだかゆいーーー!!!」
「まあ、花粉がダイレクトヒットしてしましたからね…」
のこたんの苦しみに、ついフォローの言葉を送ってしまうハジメであった。すると、こしたんがあることを思い出した。
「そういや、花粉用の眼鏡ってあったな。横から花粉が入るの、防ぐ的な奴…」
「それだぁ!!」
「先輩、ナイスアイデア!」
こしたんが気づいたことに、のこたんとハジメが称賛の声を上げる。そして10分後、のこたんは花粉用メガネの代わりになりそうなものを手に入れてくる。
「水泳部のゴーグル借りてきたよ!」
「おー」
「これなら、鹿乃子先輩も花粉に勝てますね」
のこたんが万全の状態になったので、それを見て感心するハジメとこしたん。しかしそんな中、不意にのこたんのツノがいきなり震えだしたと思いきや…
『ヌ゜ェッぷヌ゜ァンッ!!』ぶしゃべっ
奇怪な音と同時に、ツノの先端からぬるぬるした液体が噴き出したのだ。その光景に、シカ部一同は固まってしまう。そしてそのまま、のこたんから反応が現れる。
「…またツノかゆくなった~~~~~~~~~~~!!」
「待って何いまの!?」
「まさか、ツノがくしゃみしたんですか!?」
「いや、気色悪すぎるだろ! こいつ、マジで何者なんだ!?」
ということはツノから噴き出した液体は、鼻水ならぬツノ水といったところだろうか?
それから、こしたんはティッシュを用意してくる。
「いいか? 次くしゃみが出そうになったら、このティッシュでツノかめ」
(鼻じゃなくて、ツノをかむのか…)
こしたんの発言に、内心でツッコむ檜山。その一方でのこたんは…
「ツノセレブがいい…」
「先輩、贅沢言わないでください。僕だって鼻水止まらないから、質より量で安いの大量に使ってるんですよ…」
こんなことを言うので、ハジメが諫めようとする。しかし、直後にそれは起こった。
「ヌヘホンッ ヌホンヌッ」
「? 今度は何?」
「おい、なんかの呪文か?」
「なんだか、のども痒くなってイガイガしてきた…」
「今の、まさか咳か?」
「先輩、咳までクセ強すぎないかな? かな?」
まさかの咳に、香織も混乱して圧を発する際の発言を純粋に疑問をぶつけるために使ってしまう。
「ヌ゛ヘボッヌ゛ッヌ゛ホッヌ゛ホンヌッ」
「!? お、おい大丈夫か?」
「だ、だいぶ咳が激しいですけど…」
のこたんの咳が激しくなったので、心配して問いかけるこしたんとハジメ。
「ん゛っあ、あー…
鼻が詰まって鼻声になっちゃった」
「なんか、めっちゃいい声になってない?」
「先輩、文章じゃ伝わりませんよ…」
のこたんの声の変化に、心配から一転してツッコみを入れてしまう二人。
「どうして~? 私ばかり、こんな目に合わなければな~らな~いの~~♪」
「先輩~、泣~かないでく~ださ~~~い♪」
「なんか急にミュージカル始まったんだけど!?」
「鼻水垂らして、何を悲劇のヒロインぶってやがんだ?」
「犬養さんも、かなりノリノリだね…」
「うん。しかも、ラジカセ持ってきて音楽流し始めたし…」
突然ののこたんと恵里のやり取りを見て、思い思いに感想を述べるシカ部一同。檜山は特に辛辣である。
「もうこんな世の中…いや!!」
そして、のこたんが悲しみにつぶれて叫んだ。そしてその叫びが、日野市全域に木霊する。
〜同時刻・日野動物園〜
突如としてシカ達が、何かを察知して一斉に檻から脱走。
〜これまた同時刻・東京都の山岳部~
こちらでもシカ以外の野生動物たちが、一斉に山から飛び出していく。
そしてのこたんが叫んだ数分後、動物たちがなんと部室に集結していたのだ。
「…あら? もしかしてみんな、私のことを励ましてくれるの?」
「「どっから湧いてきた、この動物達!?」」
「「なんか、熊までいるんだけど!?」」
のこたんが動物達に気づいて、笑顔で彼らに問い尋ねる。しかし、急な事態でこしたんも檜山も彼らに対して思わず叫んでしまった。直後にハジメ達が気づいたが、なんとシカやウサギといった草食動物に紛れて熊まで来ていたのだ。以前のシカ生ゲームに出てきたグリズリーみたいに、目が澄んでいるのが特徴だ。
「先輩。彼らも勇気づけてくれてますから、花粉なんかに負けないでください!」
「えりたん、みんな…ありがとう! 私、負けない!!」
「何、この空気? ここ、部室だよね!?」
恵里も更にノリノリになっていき、のこたんもそれにノッていくので、こしたんは殊更ツッコミに身が入る。まあ、こしたん当人は嬉しくないだろうが。
そしてそんな中、のこたんがいきなり言い出した。
「そうだ! 私、いいこと思いついた!!」
「もう、何が来ても驚かんぞ…」
「先輩。たぶん予想を上回ってくること普通に言いそうだから、覚悟決めた方がいいですよ…」
「南雲君、流石に考えすぎじゃ…」
ハジメから問われるも、こしたんは軽く考えていた。しかし案の定、ハジメの懸念は当たってしまうのだった。
「燃やしましょう。杉の木を」
「ほら、言わんこっちゃない!!」
「南雲君、軽く考えててゴメンね…てゆーか、いい声で物騒なこと言ってんじゃねぇよ!!」
「あの、鹿乃子先輩…それはやりすぎじゃ……」
その物騒な発言で思わず叫んでしまったハジメとこしたん。流石にこれは、恵里も引いていた様子だ。
「いや、鹿乃子よぉ…近所の杉の木、燃やしたくれぇで花粉症が無くなる訳ねぇだろ」
「ひやまん、忘れたの? 私のツノ、爆弾になるんだよ…」
「あ、そういえばそうだったな…(確か4話だったか?)」
実際に爆撃を食らった当事者の檜山は、のこたんの問いかけにも思わず返してしまう。ちなみに、メタ発言も心の中でやってしまった。
「そして、シカのツノは生え変わる…だから、爆弾のストックがあるというわけ」
言いながら、何処からか取り出した箱を開けるのこたん。中には、ぎっしりとツノが詰まっていた。
「いや、かなりの量だな…て、まさかお前!?」
「これで日本全国の杉林を爆破してやる…」
「いや、部室に爆発物置かないでください!!」
こしたんがそれに気づいた直後、のこたんはガンギマリの目でこれからやろうとすることを説明し始める。ハジメも思わず叫んでしまった。
「すべてを無に還して一からやり直すんだよ…」
「先輩、それラスボスのセリフみたいなんですけど!?」
のこたんの返事にハジメが、あまりの物騒さから思わずツッコんでしまった。すると、直後にこしたんが何かを思い至って、そのままため息をついた。
「まぁ待て。その前に、行っておくべき所がある」
「イッテオクベキトコロ?」
殺意に吞まれたのか、こしたんの言葉に反応するのこたんのセリフが片言になっている。そしてそんなのこたんに、いきなり首輪とリードをつけるこしたん。
「ヌ?」
そして疑問を浮かべるのこたんを、そのままリードで引っ張って何処かに連れて行く。
「先輩、何処に行くんだろう…」
「香織さん、ついて行こう。皆も、来て」
察しがついた様子のハジメは、そのまま周りを促してこしたんの後を追うのだった。のこたんが連れていかれたのは、そう……
日野わんにゃん病院。つまり動物病院だ。
「ヌ゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!? 動物病院は嫌だぁああああああああ!!」
「なんで僕達まで…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
「せめて! せめて、人間の病院に行かせてくれぇえええええ!?」
何故かハジメと檜山まで診察する羽目になり、のこたん共々絶叫する。
「先輩もお世話係=飼い主の自覚が出てきましたね」
「先輩、なんで動物病院でハジメ君達も診察してるんだろう…」
「それはわかんないけど、まあ診てくれるならいいだろ」
恵里が感心する横で、香織はハジメ達が動物病院で診察することになったこの状況を疑問に抱くことになる。しかし今回はこしたんも便乗しておくのだった。
「ヌン」ピトッ
直後、また花粉が現れたと思うとこしたんの鼻と接触する。
「へくしっ」
「「あ」」
直後、こしたんがクシャミをしてしまった。香織と恵里もすぐ、それに気づく。
「あれ?」
「次、虎視虎子さん。診察室へどうぞ~」
こしたんがキョトンとする中、病院側はこしたんも診察室へ呼んでいたのだった。
子供の卵アレルギーが成長すると治るののと同じで、アレルギーとは成長や体質の変化で"変わる"ことがある。当然、それは花粉症でも同様だった。
アニメで猫ちゃんも一緒に診察してたのは、一応名前に動物があるから動物カウントされたと考察できますが、ハジメと檜山は完全にギャグマンガのノリです。あしからず。