あと、後半でゲストが出てくるオリジナル展開が入ってます。
4月に突入し、日野南高校は新入生の入学式が開かれていた。進級すると同時に、生徒会長に就任したこしたんはこの日、祝辞を述べに学校を訪れていた。
そして入学式を終えた後、部活の為に学校に来ていたシカ部のメンバー達と部室へと向かう。
「まさかこしたんが生徒会長になるとはね~」
「まさかってなんだよ、妥当だろ」
「でも、僕らも生徒代表挨拶見たかったですよ。先輩、かっこよかっただろうなぁ」
その道中でシカ部一同は話し込んでいた。入学式は在校生代表挨拶などで式を手伝う生徒以外は、新入生しか参加しないためである。二年生は部活のために学校を訪れているので、その挨拶を見れなかったハジメはガッカリしている。
「でも、私達も勧誘とか行かないでいいんですか? 餡子ちゃんも入ってくれるとは聞いてますけど、廃部対策で人数を集めた方が…」
「いや、シカの世話をする部活なんて入りたがる物好きいないでしょ。犬養さんみたいに、真面目にシカについて勉強したい事情があるならともかく…」
「白崎さんの懸念もわかるけど、虎視先輩の素を知ってる人間が少ないに越したことは無いんじゃないかな?」
香織がそんな不安について話す中、こしたんも恵里もそれぞれの意見を述べていく。恵里の言うことも尤もだった。そんなこんなで部室に到着したところ…
「……」スピー
「誰!?」
入り口前で涎を垂らしながら爆睡する女子生徒がいたのだ。ハジメが思わず声に出して驚き、こしたんと二人で駆け付けた。
「ちょ、誰か倒れてる…警察、それとも救急車!?」
「いや、寝てるだけだから保健室に連れて行けば…」
「南雲君、睡眠障害で急に寝てしまったとかそういう可能性もあるだろ! じゃなきゃ屋外、しかもベンチとかじゃなくてこんな地べたで寝るとか、無いでしょ!?」
「あ、そうか! すみません、思い込みで物を言って!!」
というわけで、二人でその生徒に呼びかけるのだが、不意にその女子が目を開き…
「はっ」
「え、起きた!?」
何かに気づいて飛び起きる。それに驚いてると、女子が口を開く。
「ばしゃめとしたことが、あったかくてついつい寝てしまいました…」
「な、なんだ…具合悪いとかじゃなくてよかった」
「で、ばしゃめ? まさか君、名前が一人称だったろする?」
普通に居眠りしていただけだったようで、安心する二人。ハジメはその一人称が気になり、アニメキャラの様に名前を一人称にしているのではと思ってしまう。容姿も、緑の髪で頭頂部に双葉みたいな形のアホ毛というかなり特徴的な物だった。
「で。新一年生っぽいけど、君は誰なの? 」
「そ、そうね。ここ部室だけど、何か用でも…」
「はい! ばしゃめ、あなたに会いに来たんです」
そしてハジメ達の問いかけに、女子は目的を告げると自己紹介を始めた。
「ばしゃめ、新一年生の
「やっぱり新一年生なのね…南雲君、一人称って苗字みたいだな」
「みたいですね。名前じゃなくて苗字が一人称って、アニメでも見ないかもです」
件の少女、ばしゃめのまさかの名前と一人称に困惑し、小声で話し合うこしたんとハジメ。すると、ここでそのばしゃめが自信がここに来た理由を明かし始めた。
「ばしゃめ、あなたに憧れてて、どうしても会いたくて…先生に聞いたらここに居るじゃないかって教えてもらったので来ちゃいました」
「えっと、この中で新一年生に会う機会がある人って…」
そのばしゃめの目的を聞いて、ハジメは隣にいるこしたんに視線を向ける。他の部員達も、一斉にこしたんを見るのだった。
(ハハ~ン。つまり入学式で見た清楚で美しくて、優等生な私に憧れて…ついつい会いに来ちゃったってことか~)
(とか、考えてんだろうなぁ。こいつのことだから)
そして内心で嬉しく思い、ついニヤけてしまうこしたん。その顔を見て、その内心を察してしまう檜山であった。
「ばしゃめ、あなたのようになりたいんです。だから…だから、ばしゃめを弟子にしてください」
「ごめんなさいね。気持ちは嬉しいのだけど…」
「いや、そこは弟子に取ってあげた方が好感度上がると思うんですけど…」
頼み込むばしゃめに対し、謙遜しながらやんわりと断るこしたん。そんな彼女に、意見を具申するハジメ。だったのだが…
「鹿乃子せんぱい!」
「ヌン?」
「「「「しかのこ、せんぱい……?」」」」
「おぉっ! 鹿乃子先輩、憧れてくれる後輩が出来ましたよ。よかったですね!!」
ばしゃめが会いに来た相手は、なんとのこたんであった。そのため、称賛する恵里以外の部員は呆気に取られてしまう。
「いや、ちょっと待って! 私じゃなくて、鹿乃子さん!?」
「? はい」
それについて、こしたんが驚愕しながらばしゃめに問い詰める。更に、そのばしゃめはこしたんに対して…
「? あなた、どちらさまですか?」
「さっき入学式で喋った、生徒会長ですけど!?」
「君、入学式に出てなかったの!? それとも、式の途中で寝てたの!?」
まさかの、こしたんを覚えてすらいなかったことにこしたんもハジメもびっくり仰天であった。
「そんなことありませんけど…とにかく、ばしゃめは鹿乃子せんぱいに会いたくて、ここで待ってたんです」
(なんだこいつ…正気か?)
ばしゃめがガチののこたん目当てであったことに、改めて戦慄するこしたん。すると、そんな彼女に代わってハジメがばしゃめに質問をぶつけるのであった。
「えっと…馬車芽さん? なんで鹿乃子先輩に会いたかったの? 虎視先輩は入学式で会うはずだけど、鹿乃子先輩と会う機会ってあったのか… あ。ちなみに僕は、二年生の南雲ハジメっていいます」
「よくぞ聞いてくれました! 南雲せんぱいとやら、お聞かせいたしましょう」
そしてばしゃめは語り出した。彼女は入学式に向かう途中、校門目前で空腹のあまり行き倒れてしまったらしい。そこをのこたんがシカせんべいを分けてくれたお陰で、無事に入学式に行けたという。
「そんなわけで、鹿乃子せんぱいはばしゃめの命の恩人なんです。あの時のシカせんべいの味は忘れられません…」
(シカせんべいで救われる命って、なんだよ…)
(つーことは、シカせんべい食ったのか?)
(それ以前に、校門目前で行き倒れも意味わかんない…)
ばしゃめが語った、のこたんに憧れる理由がツッコミどころが多すぎた。しかし話す本人の様子から、檜山ですら空気を読んでツッコミを口に出せずにいたのだった。
そして、ここかたばしゃめの話の主題が明らかになる。
「それから、ばしゃめは入学式中にずーっと考えてました。なんてかっこいい先輩なんだろう、ばしゃめもこうなりたい……
こんなシカになりたい」
「「「「シカになりたい……!?」」」」
「だからこのばしゃめを、鹿乃子せんぱいの弟子にしてください!」
どうやら、のこたんのことで頭がいっぱいだったから、こしたんのことも覚えてなかったらしい。そんなばしゃめが、まさかのシカになりたいというとんでもない理由でのこたんに会いに来たことを知り、戦慄するシカ部一同。
「おい、鹿乃子。どうするんだよ、これ?」
「そうですよ。仮にも、先輩目当ての新入生なんですからさ」
「ヌ~ン…」
というわけで、のこたんに意見を求めるハジメとこしたん。それに対して、のこたんは思案した後、ばしゃめに話しかけるのだが…
「お前さん…ばしゃめとか、言ったかい?」
「はい! ばしゃめです!」
「シカになる覚悟、できてんのかい?」
「「「何そのキャラ??」」」
「つーか、シカになる覚悟ってなんだよ!?」
のこたんの謎のキャラに、唖然とするシカ部一同。しかしそれに対し、ばしゃめの返事は案の定であった。
「はいっ!! ばしゃめ、精一杯シカになります!!」
「いや、どんな宣誓だよ!?」
「それなら、まずはシカ部に入ることだね」
「ンハイ! ばしゃめシカ部に入ります」
「私と南雲君そっちのけで、話を進めないでくれる!?」
「というか、顧問の鵜飼先生に話を通すのが先なんじゃ!?」
「まさか、シカの世話じゃなくてシカになりたがって入部する人がいるとね…」
「あぁ、また変なのが来やがった……」
のこたんとばしゃめが、シカ部一同そっちのけで話を進めてしまうのでついて行けずにいた。特に檜山は、天を仰ぎながら現状を憂いていた。
「シカ部はこしたんが部長であり飼い主。そして副部長のなぐもんと他の部員達がそのサポートをする…というわけだから、まずは私の飼い主であるこしたんに『お世話してください』ってお願いしな!」
「ガッテン承知の助!」
「飼い主の私の話を聞けよ」
そしてそのまま、勝手に話を進めてしまうのこたんとばしゃめに、こしたんは文句を言う。当然だろう。
しかし、ここで予想外の人物が声をかけたのだ。
「ちょっと待ってください」
「ぬん? えりたん、どったの?」
そんな中、なんと恵里から待ったが入る。一体何事かと思い、のこたんもばしゃめも彼女に視線を向ける。
「馬車芽さん、私は犬養絵里。二年生で、日野市のシカ繁栄を祈る鹿神神社の次期宮司として、シカについて勉強するためにシカ部へと入部したんだ。そんな私から、貴女に言いたいことがある…」
(何だ? 鹿乃子の世話をしないなら入部させない、とか言い出すのか?)
恵里の発言を聞き、こしたんは何を言うのかと想像をするのだが、その内容は予想だにしないものであった。
「世話を願うなら、私でお願いします!!」
「「「「はい!?」」」」
当然、こしたんだけでなく他のシカ部部員達も声を揃えて驚いた。そして恵里は、その発言の理由を事細かに語り始める。
「正直、シカの世話をする部活なのに部所属のシカは、ヒトとのハイブリッドで普通のシカより手がかからない鹿乃子先輩しかいない。しかもシカ1に対してヒト5で、人員を持て余しガチ…これじゃ、私の跡継ぎ修行としては手応えが無さすぎる。そんな中、シカ志望で入部を願うばしゃめさんが来たおかげで転機が訪れたと思ったよ!」
まさかの鹿神神社関連の話が、ここで飛び出して来たのだ。まさかの真面目な話にこしたん達は呆然として恵里を見つめ、のこたんとばしゃめは真剣な眼差しで向き合う。
「というわけで鹿乃子先輩。私の修業に協力させる形で申し訳ないけど、新人の馬車芽さんの世話を私にさせてください!!」
そして、そのまま土下座して頼み込み出したのだ。その様子にのこたんは思案し……
「なるほど、わかった! ばしゃめ、お前さんはえりたん専属シカになりな。日野のシカ繫栄に協力するのもシカの務めだから、力を貸してやんれ!!」
「相分かりました! えりたん先輩、早速ですがお世話をお願いします!!」
「二人とも、ありがとうございます! それじゃあ、まずは馬車芽さんのブラッシングから始めようか」
そしてとんとん拍子に話が進んでしまい、恵里は早速ブラシを片手にばしゃめと向き合う。そのままブラッシングが始まり、困惑したままその光景を見つめるシカ部一同だった。
「お姉ちゃん、お待た…何、この状況?」
「餡子……すまん、私もよくわかってない」
直後に餡子が入部しに部室を尋ねてきたが、この光景に困惑してしまう。こしたんも説明に困るのであった。
そして午後、シカ部の面々は餡子とばしゃめの歓迎会と進級祝いのために移動をしていた。ちなみに、予算はハジメの父が出してくれた。
やって来た店の名はウィステリア。日野市の隠れた名店と称される、所謂"町の洋食屋さん"である。
「すみません。8人いるんですけど、席って空いてますか?」
「いらっしゃいませ! ちょうど空いてる席があるので、いけますよ」
こしたんを先頭に店に入ったシカ部を出迎えたのは、ハジメ達と歳の近そうな少女だった。その少女は、栗色セミロングの髪をした美人系の顔立ちの少女だった。アルバイトだろうか?
「「え!?」」
しかし、その顔を見たハジメと香織が、同時に驚愕した。当然、少女本人や他のシカ部部員も困惑することとなる。
「あの、何か?」
「あ、すみません! ちょっと、昔の知り合いに似てたので…」
「そうですか…まあ、いいですけど。早速、席に案内しますね」
取り敢えず適当な言い訳を考えて口にすると、店員の少女は信じてくれたようで、そのまま席に案内してくれる。一方でこしたんは二人の反応が気になったようで、こっそりハジメに聞いてみる。
「南雲君、あの店員の子がどうしたんだ?」
「先輩。香織さんから僕らが日野南高校を志望した理由を聞いたって、前に言ってましたよね?」
「ああ。別の高校に進学したら、異世界召喚に巻き込まれる夢を見たのがきっかけって…まさか!?」
「はい。彼女、その夢に出てたクラスメイトの一人なんですよね」
まさかの事実が判明し、こしたんも驚愕することとなる。
「やっぱり、あれが正夢になる可能性があったのかな?」
「でも、僕達は彼女を学校内で見たことないんですよね。あの夢と同じ高校に通ってるんですかね?」
「実際にその夢を見たことない私には何とも言えねぇけど、夢の登場人物がそのまま出てくるなら警戒したほうがいいかもな。後でそれとなく聞いてみるか」
この後のことを話し終えたところで、席に到着したシカ部一同。そんな中、店員の少女に声をかける少女がいた。
「優花、どうしたの?」
「あ、千春。団体のお客さんが来ただけだから、大丈夫だよ」
「ん。トラブルじゃないなら、いい」
それは日野南高校の制服を着た、黒髪ショートにハイライトの無い瞳の少女である。そしてその少女と向かい合う席に、見覚えのある人物がいた。
「あ、喫茶ツバメのマスターさん」
「ああ、いつかのお客様! 君達も、ここで昼食を?」
こしたんが気づいたとおり、燕谷善治がウィステリアで昼食を取っていたのだ。ということは、向かいの席に着く少女は彼の身内であろうか?
「まあ、ちょっと部活仲間と進級祝いをと思いまして……ところで、マスターさんは何でここに?」
「今日は喫茶店が定休日でして、私も妹の進級祝いに来たんですよ。それと学生時代からの行きつけで、定期的に料理とコーヒーの研究も兼ねてランチに来るんです」
善治が店にいる理由を説明し終えると、その向かいに座っていた妹らしき少女がこちらに気付いた。
「あ、虎視先輩……(と、のこたん先輩!?)」
「あ、よく見たら燕谷さんじゃない」
かと思いきや、なんとこしたんと知り合いらしいことが判明した。一瞬、のこたんを見るなり驚愕の評価を浮かべたような気もしたが、こしたんからの紹介が入ってそれも有耶無耶になるのだった。
「みなさん、紹介致します。今年から生徒会に会計として属することになった、
「…ん」
「生徒会のメンバーだったんだ。はじめまして、シカ部副部長の南雲ハジメっていいます」
「同じくシカ部部員の白崎香織だよ」
件の少女"千春"がこしたんと同じ生徒会のメンバーだと知り、挨拶が必要に感じたハジメと香織。しかし挨拶をした直後…
「シカ部の…」キッ
((睨んできた!? そして目つき怖っ!!))
突然睨まれ、ギョッとしてしまうのだった。
「(初対面なのに、何かあったのか…?)ところで燕谷さん。そこのバイトさんと親しいみたいだけど、どういったご関係で?」
とりあえず、ハジメ達に対する千春の反応が気になったものの触れない方がいいと思い尋ねないことにした。代わりに空気を変えることも兼ねて、もう一つ気になる所だったウィステリアの店員さんと燕谷兄弟の関係について聞いてみる。
「彼女は、別の高校に通う友人。それで、ここの店主の娘」
「初めまして、園部優花といいます。千春と同じ学校みたいですけど、生徒会所属ならこれからお世話になるみたいなのでよろしくお願いします」
「あら、これはご丁寧に(ということは、日野南高校の生徒じゃないのか)」
ということで、思いのほか早く優花の所属が判明した。そのままシカ部一同は席に着くのだが…
「あ、鹿乃子さん。ツノ置きをどうぞ」
「ありがとう、ゆうたん」カポッ
(((((な!?)))))
なんと優花は、どういうわけかツノ置きを持ってきて、のこたんの席の足元に置く。それにお礼を言いながら、ツノを外して借りたツノ置きに置いた。
(優花ちゃん、あのシカのお嬢さんが欲しいものを真っ先に用意しただと!? なぜ、わかったんだ??)
「それじゃあ、注文を確認しますね」
当然、過去にのこたんの接客に失敗した善治の方もこれに驚愕してしまう。一方で、優花はそれに気づいているかいないのか、そのままシカ部の面々に注文を確認していく。
こしたん「じゃあ、私はカツカレーとエビフライ」ガッツリ
ハジメ「僕はナポリタンでお願いします」サラッと
のこたん「じゃあ、私はいつもの」?
香織「(いつもの?)私、オムライスで」定番
檜山「俺はハンバーグランチにするわ(南雲持ちなんだし、一番高いやつ食わせてもらうか)」取り敢えず高いやつ
恵里「私、ボロネーゼにしますね」定番
餡子「カレーライスと、デザートにปลาแห้งแตงโมをお願いします」?
ばしゃめ「エビピラフとライス大盛りで」ザ・米
「かしこまりました。揚げ物などはお時間かかりますので、完成順にお運びしますが宜しかったですか?」
「あ、全然いいですよ」
そして優花が確認を終えると、そのまま厨房へと入っていく。各自の注文に個性が出ていたが、餡子が特に気になる料理名を告げたので尋ねてみる。
「餡子……デザートに、なんて?」
「ปลาแห้งแตงโมよ。お姉ちゃん、知らないの?」
「いや、知らねえよ! 今の何語!?」
「これ字面的に洋食屋のメニューじゃねえだろ! なんで置いてんだ!?」
檜山ともども、謎のメニューにツッコミが止まらないこしたんだった。
ちなみにปลาแห้งแตงโมは"プラーヘンテンモー"と読み、フレーク状にした魚の干物をスイカに振りかけたタイ料理だ。優花の父が新メニューの試作品として、試しに置いてみた代物である。
「ばしゃめさん、食べ過ぎなんじゃ……というか、ピラフとライスって米で重複してない?」
「んはぁ~。日本人、そしてシカとして米食は基本ですよ。逆になぐもん先輩、食べなさすぎじゃないですかぁ?」
「今でこそマシになったけど、僕は食に無頓着だからね。サッと食べて趣味や睡眠に時間を割きたいって気持ちが大きいんだよ」
「私の場合は帰ったら神社の手伝いあるから、満腹すぎてもしんどいからね。南雲君もばしゃめさんも、お互い健康負担にならないならあんまり干渉しない方がいいよ」
一方、ハジメとばしゃめは互いの注文に思うところがあって尋ねてみる。そこに恵里が割って入り、中祭する。その頃、香織はのこたんの注文が気になっていたので直接それについて聞いていた。
「で、鹿乃子先輩。さっき、いつものって注文してましたけど、何を?」
「実はさ、ウィステリアにはバイト帰りに何度か来たことあるんだよね。それで、最初に来た時に『こういうの作れる?』みたいに聞いたら次来た時に用意してくれたんだ」
「なるほど、それ以降のお気に入りと…ちなみにどんな料理を?」
「それは見てからのお楽しみ」
(なんだ。すでに複数回来ていたのか……だが、今の話し方だとあのお嬢さんの提案が新メニューとして採用された事になる。優花ちゃんか店長かはわからないけど、一体どんな代物を作り上げたんだ?)
そしてそれを又聞きしていた善治は、優花の接客の様子に納得する。初見でツノ置きをのこたんに用意していたなら、完全に彼女の接客スキルが自分を超えていたためである。まあ、これに関してはのこたんが優花をあだ名呼びしてたので察しがつきそうだが。
そしてしばらくして、シカ部の面々が注文した料理が完成した。優花が母親らしき中年女性と二人で、完成した順に料理を用意する。
届いたのは餡子→ばしゃめ→恵里→ハジメ→香織→檜山→こしたんであった。
「大鍋で作るカレーとかピラフはすぐ出るとして、まさか鹿乃子先輩がラストになるとは…」
「だな。揚げ物頼んだ私より長引くって、何を頼んだんだ?」
どういうわけか、こしたんより後になったのこたんの注文メニュー。その正体について話し合うハジメとこしたんだったが、ついにそれが運ばれてきた。
「お待たせしました。鹿乃子さん専用メニュー"シカせんべいとキノコのリゾット"になります」
「うひょー、待ってました!!」
「「「「何それ!?」」」」
運ばれてきた料理にのこたんがテンションを上げる一方、シカ部の面々は声を揃えて驚愕する。
そのリゾットは、シカせんべいとキノコ(マッシュルームとシメジ)が具として入っている。更にシカせんべい一束がまるごと刺さっているという、珍妙な見た目をしていたのだ。
「お姉ちゃん、見たまんまの料理でしょ。リゾットの具にキノコとシカせんべいを使った的な」
「いや、見たまんまだからわかんねぇんだよ! 何? シカせんべいをそのまま頼むんじゃなくって、料理しちゃったってこと!?」
何でもない様に話す餡子に対して、こしたんは疑問に思った理由を丁寧に説明する。のこたんのことだから、洋食屋にも関わらずシカせんべいをそのまま注文するというぶっ飛んだことをやろうとするものだと思った。しかし、シカせんべいを更に調理するという予想の斜め上の注文だったので驚いたのだ。
「鹿乃子さんが初めてうちに来た時に『シカせんべいを洋食向きのメニューに出来ないか』を提案されてね。それで私とお父さんで試行錯誤して、完成した代物なんだよ」
「な、なるほど…リゾットなら大鍋で作れそうだけど、鹿乃子先輩専用だから一人前ずつ作ってたってことかな?」
「ですね。だから今回は一番最後の提供になった次第です」
優花からこのリゾットについて丁寧に説明が成された。まさかののこたん専用メニューに困惑するハジメ達であった。
一方で、善治はこの光景を見て何故か戦慄している。そんな彼の胸中はというと…
(な、んだと…優花ちゃんと店長が、こんな代物を……私は彼女にシカせんべいをそのまま提供しようといていたのに、ウィステリアではより美味しくしようと工夫して提供していた…クソ、私はまだ飲食店経営者として未熟だったのか!?)
「お兄ちゃん、優花達をじっと見てどうしたの?」
勝手に敗北感を抱きながら色々と葛藤しているのだった。そして肝心のシカせんべいリゾットの味はというと…
「う~ん。ブイヨンとキノコの旨味を吸って煮込まれたクタクタのシカせんべい、何度口にしてもやはり美味ですなぁ。そしてシカせんべい本来のサクサク感を活かすために、もう一束添えるのも工夫としては最高といったところですねぇ」
(なんだ、この似非評論家みたいな口調?)
(まあ、鹿乃子先輩が満足してるならいいけど…)
そんなのこたんの様子に困惑を隠せずにいるこしたんとハジメであったが、ウィステリアの料理自体は絶品だったので、この日の歓迎会自体は成功だった。
後日、善治から優花の尊敬度が勝手に上がったのは別の話である。
優花と善治の絡みは最初、完全オリジナル回でまるごと一話使う予定でしたが、そこまで使うシナリオが浮かばずにここにねじ込ませていただきました。
杜撰で申し訳ありません。