オリジナル回で檜山とのやり取りになってる。そして文字数が6000字未満と短めですが、お楽しみいただければ幸いです。
「あぁ、今日も疲れたぜ……」
放課後、檜山大介は疲れた様子で下校していた。去年の秋、シカ部の結成に居合わせたことで自分も巻き込まれる形でシカ部に入部してしまう。
取り合えず逆恨みしているハジメやのこたん、こしたんを陥れるネタを仕入れるためにそのままシカ部に居座ってはいるものの、成果がなく無駄に精神的な疲労をため込むことになるのだった。
ちなみに今回は学校側から呼び出しを受けていたため、部活には不参加である。
「鵜飼先生から用事があるって呼びだしだったが、たぶん俺の監視が目的なんだろうな…早いところシカ部を陥れる算段を付けねぇと、俺の平穏な学校生活が送れなくなっちまうぞ」
檜山が己の平穏を憂いているものの、檜山にとっての平穏は弱いものいじめやカツアゲを楽しむ悪人のそれだが。それを抜きにしても、こしたん達への恨みを晴らすための今後を考えるのが、今の檜山にとっての急務である。
「にゃんにゃにゃんにゃにゃんにゃんにゃんにゃん♪」
「ん? 猫の鳴き声…いや、あれは?」
そんな中、檜山は猫みたいな声で歌う誰かが前方を歩いてることに気づく。その人物を凝視してみると…
「身長的に小学生…でもウチの制服着てるな。そんで、ツノ付けてやがるぞ」
その人物は日野南高校の女子制服を着た、小柄な少女であった。しかしサイズが合っておらず、袖がブカブカになっているので、高校生に見えなかった。加えてなぜかネコミミとシカのツノを付けているので、のこたんみたいに人と動物のハイブリッドなのかもしれない。
するとその少女が振り返り、突如として叫びだす。
「って、今日もまた虎視虎子の弱みを見つけられなかった!?」
(って、あの顔は確かうちの生徒会副会長!?)
その時顕わになった顔には、檜山も見覚えがあった。
(今、気になることを叫んでたな。虎視の弱みを見つけられなかったって…シカのツノは、敵情視察でシカ部に行った時に貰ったのか?)
「にゃああああああああああ!?」
ねこちゃんが膝を着きながら叫ぶ中、檜山がそんなねこちゃんの考えが気になり思案する。その後、檜山はねこちゃんの企みに興味を持ち、こっそりと彼女の後をつけるのだった。
そして人気のない公園についたねこちゃんは、ツノを外しながらブランコに座ると、ぶつぶつと独り言を言い始めた。
「マズいわね。直接私がシカ部に乗り込んだら、あのノリに絆されて暗躍出来そうにない……これじゃあシカ部撲滅とそれに伴う虎視虎子の生徒会長失脚、そして私が生徒会長と学園のマドンナの地位に就くという大いなる野望が叶いそうに無いわ!?」
(あの副会長、ご丁寧に俺が知りたいこと全部ぶち撒けやがったぞ。悪党に向いてなさすぎだろ…)
ねこちゃんの独り言で、檜山の欲しい情報が全部まろび出てしまう。その姿を見て、檜山は思わず呆れてしまった。
「こうなったら、誰かスパイをシカ部に送り込んで…生徒会メンバーが急に来たら怪しまれそうだし、いきなりシカ部に入部しても疑われなさそうな味方とか、いないかしら?」
(おお、こいつは好都合だぜ! 向こうも味方を欲しがってるとはな…)
しかし、話を聞いた檜山はこれを好機だと感じて早速行動に出た。先日、檜山がシカ部の方針会議の後で思った『天之河光輝より学校から信頼されてる生徒が味方にいれば』という彼の願望に叶う人物が、目の前の生徒会副会長だからである。
「へぇ、副会長は生徒会長の座が欲しくてシカ部の廃部を企んでるのか。いいこと聞いちまったぜ」
「!? 誰?」
檜山が今の独り言を聞いていた旨を語りながら、ねこちゃんに近寄る。檜山の声を聞いて、警戒を強めるねこちゃんだったが、その姿を見てより強めることとなった。
「あんた、確かシカ部の…」
「ええ。シカ部所属の二年生、檜山大介っていいます。初めまして、副会長さんよぉ」
「嘘でしょ…今の独り言をよりにもよってシカ部部員、それもこんなガラの悪そうな男子に聞かれるなんて!?」
檜山に独り言を聞かれた事実に、ねこちゃんは顔を青ざめる。そして怯えた様子で、檜山に尋ねた。
「まさか、あんたこれをネタに私に対して何か悪いことさせるつもりじゃ…それこそ体の関係を迫るとか!?」
「いや、あんたみてぇなチンチクリンに微塵も興味ねぇよ」
「チンチクリン…一応、私先輩なんだけど口悪いわね。シカ部を真面目に守るとは考えにくいし、ならお金をせびるとか色々と悪事を企んで!?」
檜山の口の悪さは置いといて、ねこちゃんが彼に抱いた疑惑は当然だった。彼女のシカ部撲滅計画は、こしたん以外の生徒会メンバーだけで内密に進めていたため、外部にバレたら邪魔されると考えていたのだ。加えてねこちゃんは檜山が問題児であることは知らないものの、第一印象で素行の悪い生徒と認識したので、自分への揺りを恐れたのである。
なので取り敢えず、檜山はまず誤解を解くことにするのだった。
「勘違いしてるようだが、別に俺はシカ部を守る為とかアンタの秘密を盾に悪事を強要、とかするつもりは全く無ぇから安心しろ」
「にゃ?」
「名前通りネコみてぇな女だな……むしろ、俺もシカ部撲滅に協力したくてな。さっきの発言的に味方が欲しいらしいし、手を組まねぇか?」
まさかの提案に首を傾げるねこちゃん。当然、檜山にそのことで質問するのだった。
「いや、アンタってシカ部のメンバーよね? なのに、なんで私の撲滅計画に賛成なわけ?」
「そこまで詳しい事情は知らねえらしいな。俺はシカ部の発足に居合わせちまった所為で巻き込まれる形で入部しちまってな。シカ部にいる事自体が不本意なんだよ。だから、ここから解放されるためにもアンタの計画が好都合なわけさ」
「そ、そうなの……でも、それなら自主的に退部すればいいんじゃないの?」
檜山が何故自分の計画に協力するのかを聞いて、困惑気味のねこちゃん。当然、自分からシカ部を辞めればいいという発想になるのだった。それに対して檜山は生徒会副会長相手にシカ部を辞められない理由を話しづらかったが、協力を得るためにやむなしと思って正直に打ち明けることにする。
「実は一年の前半で停学喰らってる身なんだが、鵜飼先生から退学対策で実績を積んで来いって部活の所属を余儀なくされたから出て行けねぇんだよ。運動部はバカ厳しいし、文化部はキモオタどもの巣窟だしで、消去法でシカ部に入るしかなかったわけだな」
流石に鵜飼先生に圧をかけられたことは黙っておく。自分の身が危ない気がしたからだ。
「(うわ、マジの問題児じゃないのコイツ……)けどまあ、シカ部の関係者が私の計画に協力してくれるのはありがたいわね。選り好みはしてられないわ」
一方、それを聞いたねこちゃんは檜山が思った通りの相手だったことに眉をひそめる。しかし、シカ部の関係者が味方になるという絶好のチャンスを逃すわけにいかなかったので、檜山を協力者に選ぶことを決めるのだった。
「おし、協力感謝だぜ…で、早速だが耳寄りな情報が」
そして檜山は、早速こしたん失脚に良さそうな情報を教える。彼女の元ヤンの過去をだ。
「虎視虎子が元市内最強ヤンキーの"日野の猛獣"ですって!?」
「ああ。いわゆる"弱きを助け強きを挫く"系の、昔の漫画に出てきそうなタイプなんだが、それでもヤンキーってイメージの先入観は生徒会長への不信感を抱くには十分だろうぜ」
当然、その話を聞いたねこちゃんは驚愕する。檜山からの補足情報を聞いた後、ねこちゃんはあることを思い出した。
「そういえば、あの鹿乃子って生徒が転校してすぐの頃にそんな噂があったけど…だとしたらアンタの話が本当ってことね」
「まあ、俺もヤツが野生の勘とやらで見抜いてなかったら他人の空似と思うぐらいには、イメージ変わってるんだが」
「ああ、あの人? いやシカ? がね…今更だけど、あの子何者かしら?」
改めてのこたんの謎について再認識する二人。しかし、ねこちゃんとしても有用な武器が手に入ったことで自分のシカ部撲滅計画が現実味を増したことを喜ぶ。
「まあ、でもこの噂を広めれば虎視虎子の失脚も現実味を増すわ。早速、この話を広めて…」
「ああ、その事なんだがすぐやっても無駄だと思うぜ」
「はあ? 自分から教えておいてなんで止めるのよ?」
しかし何故かねこちゃんの企みを止めてしまう檜山。だが、それについての理由を説明し始めた。
「アンタも生徒会の人間なら知ってるだろうが、二年生に天之河光輝って生徒がいてな」
「ああ、あのうちの高校始まって以来の天才剣道少年って有名な…彼のおかげで日野南高校が初めてインターハイに出場出来たから、一応は」
「ヤツが虎視を特別視しているようで、『虎視先輩みたいな真面目で優秀な人がヤンキーなんて、鹿乃子先輩の勘違いなんだ』って、学校中に言って廻った所為で噂がすぐに治っちまったんだよ。あの野郎、思い込みの強さとカリスマ性の高さがスゲェからな」
「なるほど……そういえば、うちのメンバーに『自分より天之河君が生徒会に相応しいんじゃないか』って言ってる子がいてね。その子が超ネガティブだから話半分に聞いてたんだけど、本当らしいわね」
檜山から、こしたん失脚の障害として光輝の事を聞かされるねこちゃん。人伝に聞いた彼の逸話に、納得しているようだ。ちなみに、光輝自身は生徒会に参加したかったらしいが剣道部が忙しいため断念したそうだ。
しかし、ねこちゃんは檜山からの情報を聞いて頭を抱えることとなった。
「文武両道の生徒会長と、それを擁護する学校のカリスマスポーツマン…厄介な二人を相手にしないといけないわけね。ところで、ただ噂を流すのが意味ないんだったらどうするのよ?」
「あんた、さっきシカ部にスパイを送れないかって独り言を言ってたろ? 俺がそれになってやろうってわけよ」
「は? 檜山、あんたが虎視虎子の秘密をすでに知ってるんだから、スパイやる意味ってなくない?」
檜山のその提案を聞いて、疑問が生じるねこちゃん。それに対し、檜山は取り合えず説明しておく。
「情報を持ってても、確信的な証拠がねぇから天之河が虎視の味方をしちまうんだ。それに、革新的な情報を持ってても奴のカリスマ性で『誰かの勘違いなんだ!』とか言ってもみ消されちまう…そこで副会長、アンタの出番ってわけだ」
それを聞いても首を傾げるねこちゃん。そして、檜山がそれに対して補足を加えると、ねこちゃんは察するのだった。
「天之河のヤツでも否定できないような、虎視の元ヤン疑惑を裏付ける言動を録音、もしくは録画してアンタに横流しするって寸法さ。後は、わかるだろ?」
「!…なるほどね。それを生徒会からの重大発表として、全校集会とかで見せつければ……いいわ。その提案、乗ってやろうじゃないの」
そして檜山とねこちゃんが握手をする。改めてシカ部の撲滅計画が始動しようとしたのだが、ここでねこちゃんは檜山にあることが気になって問い尋ねる。
「ところでだけど……檜山は学校側から問題児扱いされて、退学対策で実績を得る目的もあるって言ったわよね?」
「あ? そうだが、何か問題でも?」
「仮にシカ部が廃部になっても、それはそれでアンタの退学危機とかに繋がりかねないんじゃないの? 実績のための部活でもあるなら、後のことも考えないと」
「あ……ヤベー、どうすっかなぁ?」
檜山はねこちゃんに指摘されて当初のシカ部に入った理由の一つを思い出す。なのだが、先ほども語ったように他の部活がだるかったのでシカ部に消去法で入ったというのもあった。鵜飼先生も、問題児である檜山を監視する目的があったかもしれないので、有耶無耶にするのも難しそうだ。
すると、ここでねこちゃんからある提案が出てきたのだ。
「アンタさえよかったら、虎視虎子の失脚後は生徒会に空席が出来るわけだし、参加しない?」
「俺が生徒会に?」
「ええ。今、他のメンバーは二年生の女子が二人いるんだけど、虎視虎子が居なくなって私が会長になれば、このうちの片方が繰り上がりで副会長になるわけよ。となれば……」
「空いてる席に俺が座れるってわけか…生徒会に参加ってのは先生も納得してくれそうだし、卒業後にも有利になりそうでいいかもな」
提案について聞いてみると、檜山としても美味しい話だったので乗ることしたのだった。
「ちなみに、残りのメンバーは書記と会計なんだけど、アンタはどっちがいい?」
「断然、書記だな。会計なんて、部活の予算チェックやらで責任も重大で、荷が重そうだしよ」
「オッケー。さっき言ったネガティブな子が書記なんだけど、まあ自信を付けさせるために副会長に就けるのも手かしらね…一応、本人にも掛け合っておくわ」
「よっしゃ! シカ部撲滅同盟、結成だな…ヒヒッ、虎視の奴に地獄を見せてやるぜ」
なんということでしょう!? 根はいい子で、原作でもなんだかんだ言いつつ具体的な暗躍をしなかったねこちゃんが、ガチ悪役の檜山と手を組んでしまったぞ!! このまま、ねこちゃんのノリ良くて影響されやすい性格の所為で檜山と同類の悪党と化してしまうのか!?
翌日、部活動時間にて
「ヌンッ」ガブッ
「イッテェエエ!! ツノダ、いきなり噛みついて何のつもりだ!?」
「どうせ、またシカせんべい隠して嫌がらせでもしたんだろ?」
「五月蝿ぇよ、今日は何もしてねぇ!!」
「今日は? じゃあいつもはやってるってことだろ」
「それとも、別で何かの悪巧みでもしてるのかな? かな?」
部活の手伝い要員としてやって来たツノダさんに、何故か手を嚙まれる檜山。しかもこしたんと香織にまで疑いの目を向けられてしまう。
「ヌフフ。ツノダさんも、すっかりひやまんを気に入ったみたいだね」
「そ、そうなんですか?」
「んは〜、ひやまん先輩もシカ部に染まってきて良かったですねぇ〜」
そしてそんなやり取りを生暖かい眼で見守るのこたんとばしゃめに、困惑するハジメ。
(あ。なんか、ダメっぽい)
そしてそんなやり取りを、こっそりと窓から観察するねこちゃん。
どうやら杞憂な心配だったようだ。
檜山とねこちゃんによる「シカ部撲滅同盟(仮)」の結成となります。前回のあとがきから言ってますが、カップリングにはならないのでご安心を。