タイトルからもわかるように、今回で光輝が初登場します。異世界召喚されない世界で彼は果たしてどうなるのか? ちなみに、召喚されないことで結果、一番救済された人物だったりします。
虎視虎子と力を合わせ、謎のシカ娘を救出したハジメと香織。二人はその後なんとか遅刻せずに済み、無事に午前の授業終了まで過ごすことが出来たのだった。ちなみに、四限目は移動教室だ。
「それにしても、今朝のあの人って何者だったんだろうね?」
「鹿のツノ生えてたけど、そもそも人間なのかな…」
やはりツノの生えたJKなど一度見たら忘れることなどできず、こうしてこの時間まで引っ張る事となるのだった。そんな感じで教室に入ろうとしたその時、ハジメの前に突如として一人の男子が立ち塞がる。
「南雲、香織の世話に焼かれるどころか迷惑をかけて! もう我慢出来ないぞ!!」
なんと、彼のクラスのリーダーで剣道部期待のエース"天之河光輝"がいきなり怒鳴ってきたのだ。わけがわからず、二人が問いかける。
「あ、天之河君? 教室に戻って早々、なんの話??」
「そうだよ。私、ハジメ君に迷惑かけられたなんて思ってないけど…」
「香織、こんな奴庇わなくていい。それとも知らないのか?」
すると光輝は教室に二人を入れ、ハジメと香織の席を指差して怒鳴りました。
「こんな目立つことして、迷惑をかけてないなんて言い張れるわけないだろ!!」
「「え゛」」
なんと二人の机の上に、というか机に乗り切らず床にまで溢れる大量のお菓子があったのだ。それも、文字通り山積みになるほど大量にだ。
そして、光輝の言い分はこうだった。
「この学校に菓子類の持ち込み禁止なんて校則は確かにないけど、それでも常識の範囲というものがある。それも、自分の席に置き切れないからって香織の席まで使うなんて…これで迷惑かけてないなんてどの口が言えるんだ!!」
「ま、待ってよ天之河君! 僕、そもそもお菓子の持ち込みなんてしてないよ! これも全然覚えなんてないし…」
「ねぇハジメ君、これ見て。光輝君も」
「「え?」」
しかし途中、香織に指摘されて件の山積みのお菓子を見てみる。よく見ると円形のそれは紙で出来た十字の帯に巻かれている。そしてそれを見て、お菓子の正体に気づくハジメ達。
「「シカせんべい?」」
「そう。シカ専用のお菓子を、自分じゃ食べれないものをわざわざ持ってくると思う?」
シカせんべい。奈良公園の鹿に餌付けする用のお菓子で、米ヌカと小麦を練ったものを鉄板で薄く焼いた代物。そのため、人間は美味しく感じないのである。
「それはわかったとして……香織、ならこのシカせんべいは誰が持って来たものなんだ?」
「多分だけど……!?」
「どうしたの、香織さ……!!」
話している途中で教室の出入り口に視線を向け、そのまま驚愕の表情を浮かべる香織。そしてハジメがその視線の先を見てみるとそこには……
「………」ダバァーッ
今朝助けたシカ娘が、滝のような涎を垂らしながら物欲しそうな表情でこちらを見つめる姿が映ったのだった。
((犯人見つけたーーーーーーっ!!))
シカせんべいの送り主を見つけ、心の中で驚愕するハジメと香織。そして意を決して、二人はシカ娘に問尋ねた。
「えっと、今朝の先輩ですよね……あのシカせんべい、ひょっとしてあなたが?」
「ヌン」
「えっと、何のためにあんなたくさん持ってきたんですか?」
「……………今朝の恩返し」
((恩返しする人の表情じゃないけど!?))
今朝助けたお礼にシカせんべいをプレゼントしたそうだが、恐らく自分が食べたいからこんな表情をしてるのだろう。しかし、あまりにも露骨すぎる表情から、思わず心の中でツッコミを入れてしまうハジメ達であった。
「えっと……このシカせんべい、あなたが置いていった物だったんですね。ところで、2年生みたいですけど貴女は?」
(流石は光輝君、得体の知れないシカ娘相手にも普通に応対している)
すると光輝がシカ娘に応対するので、香織がひっそりと感心する。当然のようにハジメへの謝罪はなかったものの、今はシカ娘の方に全員が意識を持って行ってるため気づいていない。そして、ここでようやくシカ娘の名前が判明した。
「あ、私としたことが自己紹介がまだだった。今日、この学校に転校してきた鹿乃子のこです。のこたんって呼んでね!」
「あ、転校生だから見ない顔だったんですね」
シカ娘改めてのこ…じゃなくて、のこたんが転校生だったことが分かり、見覚えがなかった理由が判明する。するとそれを聞いた光輝が反応を示した。
「2年の転校生…もしかして虎視先輩のクラスに転校してきた?」
「虎視先輩……あ、こしたんの事だね。知り合い?」
「知り合いというか、尊敬する先輩ですけど……まさか今朝から聞くあの噂が本当だったとは」
(まあ、あんな鹿のツノが生えた人が転校してきたら噂にはなるだろうけど…)
(なんか、光輝君の表情が怒りに染まってるような? そして鹿乃子先輩、虎視先輩をしれっとあだ名呼びしてる)
意外なことに、のこたんが教室に来ても誰も彼女の容姿、具体的にはツノについて言及しなかった。それどころか、ごく一部の驚愕している生徒以外、教室にいる全員が彼女のことを受け入れていたのだ。
なので光輝がここでのこたんのツノに言及すると思われたのだが…
「虎視先輩を初対面でヤンキー呼ばわりした、失礼な転校生の噂は聞いています! 彼女に謝ってください!!」
「「あ、そっちぃいい!?」
のこたんに対する光輝の指摘が予想外すぎて、変な声で反応してしまうハジメと香織だった。というか、のこたんは虎子改めてこしたんのことを教室でもヤンキーのお姉さんと呼んだようだ。
「ヌン? こしたんがヤンキーなのがおかしいの?」
「文武両道、品行方正、来年度の生徒会長最有力候補として名高い先輩がヤンキー、つまり不良なんてあるわけないじゃないですか! 何を根拠にそんな世迷言を、初対面の虎視先輩に言ったんですか!?」
光輝の「自分の考えが一番正しいと思い込んでるご都合主義思考」がまさかの形で発動。こしたんのクラスでも動揺が走ったようだが、彼のように真っ向から否定する人物はいなかったため、そこでも意外な形だ。まあこしたんが実際にヤンキーだとしても、それを隠したがってる様子なので本人的には都合がよさそうだが。そして光輝の主張は続く。
「まさか、虎視先輩が金髪=ヤンキーなんて先入観でそんなこと言ったんじゃないでしょうね? 転校して来たばかりの鹿乃子先輩は知らないでしょうけど、この学校に髪の色に関する校則はありません。だからオシャレで髪を染める生徒が一定数います。髪の色だけでヤンキーなんて決めつけ、虎視先輩だけじゃなくこの学校で黒以外の髪色の全生徒に失礼ですよ!!」
(天之河君、言ってること自体は正しいよ。正しいんだけど…)
(今はもっと気にするところあるんじゃないかな? かな? そして誰もなんで気にしてないの?)
のこたんに対する光輝の主張、それ自体は確かに正しい。人を見かけで判断するのは、多様性の時代において愚かなことだろう。しかし、あからさまに人外な見た目ののこたんを気にしないのは、別の問題だった。更に香織の親友で光輝同様、剣道部期待の新星と名高い"八重樫雫"は、何故かのこたんを一眼見てから目を輝かせている。
「いやいや、そんなんじゃなくて私の野生の勘。それがこしたんはヤンキーだって言ってる」
「「鹿乃子先輩、野生なんですか!?」」
「そしてツノも反応したし。こんな風に」
「「だからなんでツノが光るんですか!?」」
そしてそれに対するのこたんの主張も、ツッコミどころが多すぎた。ハジメ達も声に出てしまうレベルである。
その一方で、のこたんはとにかくマイペースだった。
「そんなイライラして、昼休み前だしお腹空いてるのかな? でも君も、シカせんべいはご所望じゃなさそうだし…あっ!」
「鹿乃子先輩、話を逸らさないでください! 今は虎視先輩がヤンキーじゃないって話の途中…」
「ヌンッ」ボキッ
光輝の発言を気に止めないのこたんは、いきなり自らのツノをへし折る。そしてそれを光輝に差し出した。
「こっちの方が食べ応えあるよ。どう?」
「え? 先輩、鹿のツノって食べれるんですか?」
突然の奇行に、思わず香織が問尋ねると…
「食べれるよ。でも、固くて無味無臭」
「無理して食べるヤツですよ、それ!?」
「いや、確かに鹿のツノって漢方になるとは聞いたことありますけど…」
「結構です、弁当を持参してますので。それよりそんなことで誤魔化さないで、虎視先輩に謝ってください!」
のこたんの返答にまたもツッコミを入れる香織と、まさかの雑学を入れて来るハジメ。そして奇行も無視してこしたんへの謝罪を促し続ける光輝。三者三様の反応である。
「シカせんべいもツノもだめ。となると君たちの望みは…」
((あのツノ、つけ直せるんだ…))
しかしのこたんは思案しながらツノを付け直しており、ハジメ達も内心で驚いた。すると、いきなりハッとした表情になって自分の体を抱きながら身震いをしだす。
「まさか私…!?」
「い、いや…俺にはもう気になる人がいるんでそこは大丈夫です」
「あ、僕も右に同じく…」
(ん? さっきまで食べ物云々の話してたのに、なんで急に先輩の体がどうのって話になるの?)
光輝もハジメも困惑しつつ断るのだが、香織は話題の急な変わり様に思案する。しかしその一方で、のこたんは話を続ける。
「いいよ、わかったよ…私を食べるといいよ……!」
「「だから僕(俺)は気になる人が…」」
「ヨーロッパでは鹿肉は高級品だしね…!」シビエーンエーン
「「「食べるって食的な意味ですか!?」」」
流石の光輝も今回は予想外だったらしく、ハジメや香織と声を揃えて驚くこととなった。そしてハジメはさっきから気になることを尋ねてみる。
「先輩、さっきからなんでシカ縛りのお礼ばっかりなんですか?」
「だ、だって私にあげられるものなんて、他にないよ」
ハジメからの質問に答えるのこたんだったが、一方で光輝は気を取り直してのこたんに再び例の話題を持ちかける。
「だから何もいりませんって。虎視先輩にヤンキー呼ばわりしたことを謝ってくれさえすれば…」
「お金だって持ってないし…ほら、この通り」
「だからシカせんべいもいりませんって…」
((というか、まだ持ってたんだ…))
言いながら飛び跳ねるのこたんの懐から、シカせんべいがこぼれるためハジメ達は内心驚く。
「も、もうこれ以上はご勘弁を!」
「先輩、さっきからふざけてばっかりで…」
すると余りにも取り合おうとしないのこたんに、段々と光輝のイライラも溜まっていく。そして、ついに限界を迎えた。
「先輩! 冗談はもう、ツノだけにしてください!!」
「…っ」
光輝が怒声をあげた直後、のこたんは悲痛そうな顔をする。
「そうだよね。こんなツノ、変だよね…」
「え? せ、先輩?」」
「ツノが生えてる女の子なんて、やっぱりその…気持ち悪いよね」
「い、いえ。そこまでは…」
「それ以前に、『そもそもシカって何だよ』って話だよね…」
そしてその反応にとうとう困惑し始めた光輝に、困ったような笑顔で告げながら自身のツノに両手を向けるのこたん。
「気に障ったら、ごめんね」
「!? 先輩、俺の方こそ言いすぎました! さっきの発言、先輩の個性を全否定してましたし…」
「「光輝(天之河)君が自分から謝った!?」」
意図を察した光輝は、必死になりながら謝罪するので、ハジメと香織も驚愕する。自分が正しいと思うことは世間にとっての正しいことをだと思い込んでいる彼も、女性にあんな顔をさせては自分が間違いだと認めざるを得ないだろう。
しかし……
カポッ「ふぅ〜。これならいいっしょ」
のこたんはツノどころか、眉から上の頭部を丸ごと外してしまったのだ。その様子にはさすがにクラス一同、目を丸くし……
『は?』
得体の知れないものを見る眼で、そう呟くことしかできなかった。そしてどこまでがツノなのか、怖くて聞けずにいた。
一部例外の反応をしたのは…
「鹿乃子先輩、本当にごめんなさい! だから、ツノは戻してください!!」」
真に受けて土下座しながらガチ謝罪する光輝と、
(光輝も流石に謝るわね、あれは…それにしても、のこたん先輩。カワイ過ぎる♡)
何故かメロメロになる、八重樫雫の2名だ。
その日の放課後。
「虎視虎子がヤンキー……似てるとは思ったが、やっぱりあのアマが日野の猛獣なのか? あんな得体の知れないシカ女の話を信じるのは癪だが」
「それにしても檜山、なんでアイツのツノとか奇行とか、誰も指摘しなかったんだろうな?」
「近藤、俺が知るわけねぇだろ! まあシカ女の話を抜きにしても虎視の奴には恨みがあるしな。これをダシに奴をぶちのめしてやろうぜ」
「よっしゃ! じゃあパイセンのところに行って作戦練るか」
「おお…ヒヒヒッ。虎視虎子、明日がオメェの最後の学校生活の日だ。地獄に叩き落としてやるぜ」
ハジメと香織以外でのこたんに対して驚愕していたごく一部、クラスのチンピラ二人が不穏な会話をしている。しかも内容的に、ハジメの恩人にして想い人である"日野の猛獣"に恨みを抱いているようだ。そして、この一件からこしたん=日野の猛獣ではないかと疑念を抱くこととなる。
そして翌日、彼らの悪意がこしたんに迫ろうとしていた。
本作の光輝はのこたんに対して、「こしたんを勝手にヤンキーだと決めつけてる失礼な人(鹿)」という認識を抱いているという設定です。そしてそれによって、のこたんの奇行もそっちのけで会う度にこしたんに謝らせようとするため「違うそっちじゃない!」と周りがツッコむ形になるキャラ付で行きたいと思います。ただ、出番はそんなに多くないです。
あと、雫はのこたんガチオタクと化してしかのこ側のあるキャラと親友になる予定です。