『私、虎視虎子! シカ部部長兼生徒会長やってます!
表向きは優等生…だけど実は元ヤンで、シカ部メンバー以外に素性を知られたら大変!
そう…』
『俺、檜山大介! シカ部部員兼シカ部撲滅同盟やってるぜ!
生徒会副会長と結託して部長の弱みを握ろうと奮闘中だから、うまく隠さないといけないぞ!
そう…』
部室に入ったこしたんと檜山は同時に、心の中でそんな子供向けアニメのナレーションみたいなことを叫んでいた。そんな二人の視線の先には…
燕谷千春と八重樫雫が、シカ部でもてなされていた。
『『こんな時でも……!』』
こしたんは同じ生徒会メンバー。檜山は香織と光輝の共通の友人。それぞれ、元ヤンの過去とシカ部撲滅計画がバレたらいけない相手がシカ部を尋ねていたのである。
「つ、燕谷さん。いらっしゃい…」
「お邪魔…してます…」
「や、八重樫も久しぶりだな…シカ部に遊びに来たのか?」
「檜山も元気そうじゃない。まあ、そんなところね」
とりあえず、向こうを不快にさせるわけにいかなかったので、挨拶はしておく。
(いや、何この状況?)
(燕谷は副会長が送った援軍かもしれねぇが、なんで八重樫がシカ部に?)
ただ、二人とも心の中は穏やかでなかったのだが。
そして彼女達をここに呼び出した可能性がある、あの人物に声をかけるこしたんであった。
「ちょ、ちょっと鹿乃子さん! こっち来てくれる?!」
「ヌン?」
「先輩、どうしました?」
そう、のこたんだ。ということで、気になったハジメを含めた四人で部室の外に向かう。
「なんで燕谷…生徒会の人間がシカ部にいるんだよ?」
「それに女子剣道部の筈の八重樫もだ。ウチって部活の掛け持ち禁止の筈だろ?」
「こしたん達のお客さんじゃないの? 二人とも、さっき尋ねてきたから中に入ってもらったんだよ」
「僕も八重樫さんは知らないけど、燕谷さんと先輩って生徒会で一緒だから、何か聞きたいことでもあるのかと思ってたんですよね。聞いてきたってことは、知らないんですか?」
しかし、のこたんも事情を知らないようだ。それどころか、こっちが呼んだとすら思っている。ハジメも同じことを思ってたらしい。
「特に約束してないし…というかそもそも、そんな仲じゃないしな」
「右に同じく。八重樫はどっちかといえば、白崎のダチだからそっちに会いに来たんじゃ…」
「檜山君、今日って香織さんは部活を休むって話してたよ。忘れたの?」
「……そうだ、忘れてた。なら、尚更わかんねぇ」
なので千春と雫がシカ部を訪ねてきた理由が、全く想像つかない一同。そんな中、二人の中である疑惑が生じる。
(もしやあいつ、シカ部に興味が!?)
(八重樫の奴、何処からかシカ部撲滅計画を聞きつけたんじゃ!?)
そしてその想像に至ったこしたん、檜山の両名はかなりの警戒を強いられることとなった。
(マズい! このままじゃ、シカ部での私の本性がバレて『会長ってそんな人だったんですね…』って幻滅されることに…ついでに八重樫さんにバレたら天之河君辺りにバラされるんじゃ!?)
(八重樫にもしも撲滅計画の証拠を掴まれたら、『大変! これは流石に、光輝に知らせないと!?』とかなっちまうんじゃ…あと燕谷の人となりなんて知らねぇから、仮に援軍だとしても上手く連携取れる自信ねぇよ!!)
といった具合に、こしたんも檜山も自分の裏の顔がバレる危険性を考えつき、戦慄するのであった。そして二人して、ある考えに至る。
(シカ部でも優等生してるって、見せつけねば!)
(あの二人に俺の撲滅計画を、なんとしても隠し通さねぇと!)
というわけで覚悟を決めるのだった。そしてそのためにのこたんと口裏を合わせようと呼び寄せるこしたんと、猫ちゃんに千春の件について聞こうと電話を入れる檜山であった。
「いいか、鹿乃子。燕谷がいる間は余計なことはするなよ」
「ぬん? 何故??」
「いいから、私の言うとおりにしろ」
「よくわからないけど、合点承知の鹿」
取り合えず、こしたんの方は話をつけ終えていた。一方、檜山はというと…
『うちの燕谷がシカ部に? スパイを依頼したの、アンタだけの筈よ』
「ま、マジか? だとしたら、なんでシカ部に?」
『自主的なスパイ活動か、何か別の目的でも…まあアンタのこともまだ教えてないし、取り合えずはバレない方向でお願い。八重樫さんの方も同様でね』
「了解した。じゃあ部活に戻るから、切るぜ」
こっちでも今後の動きについて相談が終わったので、部活再開となった。
「燕谷さん。今日は来てくれてありが…」
「八重樫、折角来たんだ。俺が直々にもてなして…」
早速二人に対応しようと、雫達の方に近寄るのだが…
「お二人とも、ごはんは白米派ですか? それとも玄米派?」
「うふふ…お姉ちゃんとの爛れた関係には、例え生徒会や学年の女神でも割り込ませないから」
「そういえば、燕谷さんって今年の初詣はどこに行ってたの? 来年は良ければ、うちの実家の鹿神神社に…」
「みんな、餡子ちゃんがまた暴走してる! 僕一人じゃ止められないよ!!」
ばしゃめがごはんを、餡子が苦無を片手に二人に迫る光景が映ったのだ。それを大慌てで知らせるハジメが、なかなか大変そうだ。恵里も便乗して、実家の神社を宣伝しようとしている。
「キェエエエエエエエエエエエエエエ!!」
この問題は、こしたんがハジメ以外の三人を部室の外に投げ飛ばして事なきを得るのだった。
「あはは…ところで、燕谷さんはシカ部がどんな活動をしてるか興味あるのかしら?」
「そ、そうそう! 八重樫も、外から見るばっかりで詳しいことは知らないんじゃねえの?」
(馬車芽さんと犬養さんまで放り出さなくても良かったのでは?)
愛想笑いをしながら、さっきの件を忘れてもらおうと話題を持ちかける。檜山も便乗して、雫に話題を振るのだった。一方、ハジメは投げ出された三人の扱いについて、釈然としてなかった。
「活動…」
「あ、そういえばよく知らないわね。先輩、どんな感じなんですか?」
((食いついた!!))
二人が話題に食いついたことで、早速紹介に入ることとなった。
「シカ部はシカのお世話をするっていう活動内容なのだけど、鹿乃子さんの他にも日野動物園から出張してくれるシカがいて、そのシカさんで練習させてもらったりもするのよ」
「そうそう! 他にもシカに由来するイベントの参加とかも、やったりしてな。去年はシカコレクションっつー、四年に一回だけやるシカの品評会への参加もしててよ」
「ちなみに飼い主とシカでのペア、もしくはチーム参加だから僕と虎視先輩が代表して飼い主枠として参加してたんだよ」
シカ部の活動について解説する中、ハジメも加わってシカコレクションに関しても説明して行く。すると、雫があることが気になって質問してくる。
「へぇ…南雲君、その大会の映像か写真って無いの?」
「うぇ!? え、え~っと、どうだったかなぁ…先輩、どうでしたっけ?」
「お、おほほ。ごめんなさい、南雲君。私も覚えてない…」
練習内容からもわかるように、シカコレはハジメとこしたん双方にとって黒歴史となっていた。なので、何とか誤魔化そうとするのだが……
「あ、私録画映像貰ってるよ。ちなみに、これがそうです」
『『のこたん。ヘイ、カモン!!』』
「「ぎゃぁあああああああああああああああああ!!??」」
なんと横から割って入ってきたのこたんが、パソコンでシカコレ参加時の様子を見せてきたのだ。しかも丁度、こしたんとハジメがパドドゥのポーズでのこたんに呼びかけるシーンである。羞恥のあまりに絶叫する二人は、のこたんを連れ出してこの件について問い詰める。
「おい、余計なことをすんな!」
「というか、何で先輩があの時の映像を持って…」
「ヌン? 参加者は記念として大会の録画データを貰ってたはずだよ? それを介して、シカ部の具体的な活動を紹介したまでだが?」
「それが余計な事だっつーの!?」
「というか、あれ僕にとっても黒歴史なんで許可なく暴露しないでください!!」
のこたんを何とか口止めしようと、二人揃って彼女を怒鳴りつける。しかし、ハジメの発したある単語に、雫と千春の双方が食いついた。
「「黒歴史…」」
「あ、違うのよ! 今の映像は、単なるお遊びで…」
それを聞いたこしたんは、なんとか誤魔化そうと説明を始めるのだが……
「お遊び!? 今までの日々は遊びだったというの!?」
ここでのこたんがまた事態をややこしくしてしまうのだった。
「ひどいよ、こしたん! なぐもんだって、今の話を聞いて泣きたくなってる筈だよ…」
「変なことを言うな! というか、私は恋愛経験ないんだから南雲君に関してはお遊びじゃねぇよ!!」
「鹿乃子先輩、僕も妙な巻き添え食らうんで本当に黙っててください!!」
なのでまたのこたんを怒鳴りつけ、再び雫達へ事情を説明し直そうとする……
「二人とも。シカコレクションが気になるなら、この動画サイトで期間限定の無料配信してるよ。優勝したツノヤマさんと飼い主の田辺さんペアをはじめとした、日本全国のエリートシカ達が…」
「犬養、いつの間に戻ってきやがった!?」
のだが、恵里がいつの間にか復帰してシカコレクションが見れる動画サイトを宣伝している。それを見た檜山も、思わずツッコミを入れてしまう。
「キェエエエエエエエエエエエエエエ!!」
だが、またこしたんが恵里を部室の外に投げ飛ばし、事なきを得るのだった。
「あ、そうだわ! 二人とも、お茶飲む?」
「実は僕の母が、仕事関係でいい紅茶を貰ってて。せっかくだし、飲んでってよ」
「紅茶…うち、日本茶ばっかりだから新鮮ね。いただくわ」
「ありがとうございます」
なんとか話題を逸らそうと、二人に紅茶を入れてあげる事にした。そして、そのままみんなでお茶を飲みながら一服するのだった。
「南雲君。私、燕谷が何考えてるのかが全然わかんねぇんだよ。悪い奴じゃないんだけど、壁を感じるというか…」
「確かに。八重樫さんともどういう関係か、いまいち想像つかないんですよね…」
「無難に、『別々の目的で尋ねたら偶然会った』とかじゃねえのか? その目的が想像つかねぇけど」
そのままのこたん以外のシカ部部員で、改めて二人が尋ねてきた理由や人となりについて話し合うことに。しかし、ここでまたのこたんがやらかしてしまう。
ガッサァアアアアアアアアア
「「ピギャアアアアアアアアアアア!!」」
(おお。鹿乃子の奴、自分の首を絞めるようなことを…ヒヒッ。これなら八重樫と燕谷が、二人で勝手にシカ部を潰してくれるかもな)
のこたんがシカせんべいの一斗缶を開けたと思いきや、雫達に頭の上からぶちまけたのだ。その様子にこしたんとハジメが揃って絶叫し、檜山はそれを見て嬉しそうにする。
「バッキャロー!! お前、何してんだよ!?」
「何って…おもてなしだけど?」
「シカのお菓子で人間をもてなしても、嬉しいわけないでしょうが!?」
こしたんが問い詰めると、案の定な理由がのこたんの口から語られた。それに対して、ハジメから至極真っ当なツッコミが飛ぶ。
そして大慌てで、二人に謝ろうと向き合った。
「八重樫さんも燕谷さんも、本当にごめん!! でも、鹿乃子先輩も悪気があったわけじゃなくって…」
「そ、そうなのよ! 本人も言ってるようにおもてなし、完全に善意でやったことだから…」
(ケケケッ。虎視も南雲も、めちゃくちゃフォロー入れてきやがるぜ。これは、シカ部撲滅も秒読み…)
「「///」」
しかし何故か、二人して顔を赤らめながらシカせんべいを手に取って見つめているのだった。
「「「え?」」」
それを見たこしたんもハジメも、更に檜山までもが頭の周りに?を浮かべ、落書きっぽい画風で二人を見つめる。
(え? 何、その表情? そんなに嬉しかったの??)
(八重樫さんも何で…いや。八重樫さんは一時期、鹿乃子先輩を見るたびにこんな風になったか。まさか燕谷さんも似たような理由?)
(つーか、こいつ等が仮に鹿乃子を好ましく見てるとしても、今のは普通に失礼に感じるだろ。なんでそんな嬉しそうにしやがるんだ?)
「いやぁ。こんなに喜んでもらえると、もてなし甲斐があるなぁ」
ハジメはある程度察したようだが、それを踏まえても疑問が尽きない光景であった。一方、のこたんは自分のもてなしが好感触だった事に機嫌を良くしたので、次の行動に移る。
「あ、そうだ。二人には特別に、これをあげよう」パカッ
『アアアアアアアア……』
「ヒィッ!?(なんか、鹿乃子の頭ん中から呻き声みてぇな音が聞こえてきやがる…前までしなかったのに、何があった?)」
いつも通り頭を外したのこたんが、中に手を突っ込んで何かを取り出そうとする。その時に鳴った呻き声のような不気味な音に、檜山は背筋が凍る思いをするのだった。
「はい」
「「「草ぁあっ!!」」」
そんな中でのこたんが出したのは、一掴み分の野草である。
「鹿乃子先輩! だから、シカの食べ物は人間じゃ食べれないって言ってるじゃないですか!?」
「そうだぞ! 今度こそ本当に怒らせ…」
「いや、オメェ等…たぶん、そうでもねぇぞ」
またハジメとこしたんで、のこたんを怒鳴りつけるのだが、そんな中で檜山が雫達を指さすのでそちらを見る。
「「…////////」」
((だから、何でアレで嬉しそうなの!?))
すると二人してさっきより顔を赤らめながら、受け取っているのである。そしてそれを見たこしたんは、あることが気になってハジメに問いかける。
「南雲君、鹿乃子ばっかり喜ばれてる気がするけど…もしかして、私って嫌われてる?」
「さ、流石にそれは無いんじゃないですか…まあ、鹿乃子先輩の方が好かれてる感じはしますけど」
(これ、二人とも俺の企みの阻止でも協力でもなさそうだな…けど、何故にあのヘンテコシカ女を???)
その一方で檜山は、自分の目的がバレてない事に安心するも、のこたんが妙に好かれてる件で困惑するのであった。
その後、こしたんは何とか雫と千春の気を引こうと頑張った。お茶請け用の高級お菓子を出したり、いつの間にかやってたシカ部のお花見で披露したかくし芸を見せたり…手を変え品を変え、とにかく頑張った。
そして一時間後…
「南雲君…やっぱり私、燕谷に嫌われてる?(泣)」
「そうは思わないけど、あの塩対応は堪えるでしょうね…」
(やべ。必死な虎視が面白くて、録画もせずに見入っちまった…)
惨敗ッ! 圧倒的、惨敗ッ!!
「あの、そろそろ失礼します。お邪魔しました…」
「私も、そろそろ帰るわ。南雲君、邪魔してゴメンね」
「八重樫さん、気にしないでいいよ。というか、香織さんが留守の日にゴメン」
「良いのよ、気にしないで」
結果、雫も千春も下校することになったので見送る事に。
「それじゃあ、今度はかおりんがいる日にでも来てよ。というわけで、また来てね~」
そして去り行く二人を、手を振りながら見送るのこたんであった。
「負けた…鹿乃子なんかに……」
「俺の撲滅計画が、また遠のいた……」
「えええ!? 先輩はともかく、何で檜山君まで燃え尽きてるの!?」
こしたんと檜山が揃って燃え尽きる様に、驚愕するハジメである。余談だが、こしたんは帰宅後に後輩への好かれ方をググりまくったという。
雫が自宅に帰宅した時、彼女の祖父で剣術(忍術)道場を営む"
「雫、おかえり……んなぁっ!?」
帰ってきた雫の顔を見て、思わず腰を抜かしそうになった。
「おじいちゃん、ただいま」
「雫、そのにやけ顔はどうしたんじゃ!? 学校で何か…」
挨拶を終えた雫は、そのまま物申そうとする祖父を無視して部屋にあがってしまう。そして制服のままベッドに横になると……
「のこたん先輩、めっっっっっっっっっっっっっっっっちゃくちゃ可愛かった!!!!!!」
そのまま悶えて、のこたんへの気持ちを爆発させたのだ。そして一頻り悶えた後、スマホを取り出してある人物に電話をかける。そのある人物とは当然、今日シカ部に同行した彼女である。
「もしもし千春、私だけど」
『雫、やっぱりあのことで話がしたかった?』
「そうそう! 間近で見たのこたん先輩、可愛すぎでしょ!!」
『うん……私、ついに会話出来てもう嬉しすぎて///』
そしてそのまま、千春と今日のことについて語り合うのだ。
そう。雫に関してはあちこちでまろび出ていたが、彼女と千春は超・のこたんオタクなのである。そして、その縁でいつの間にか親友と化していたのだ。いつものこたんを遠巻きに見てウットリするに留まっていた雫だったが、千春が「知人であるこしたんと一緒なら緊張せずに話せるのでは?」と思い至ったことを聞き、それに便乗する形でシカ部に乗り込んだ。これが、今回の真相であった。
ちなみに、香織がシカ部にいるので同じ理由で雫ももっと早くに行けそうだったが、身近すぎて気づかなかったらしい。
すると千春が、今日のシカ部訪問で気にしていたあることを溢す。
『でも、虎視先輩には悪いことしてしまったかも。のこたん先輩といつも一緒なのが羨ましくて、つい凝視してしまって……』
「ああ、怖がらせちゃった感じ? 千春って基本的には無表情だし、睨んでる風に見えてたのは私も感じちゃったかな?」
『やっぱり……それに対して、雫が羨ましい。虎視先輩とも普通に話せてたし、副部長の南雲君とか男子相手でも物怖じしてないしで』
「まあ、私は光輝とも幼馴染だから慣れてるってのもあるからね。後、虎子先輩も可愛くて良いし…♡」
話しながら視線を棚の上に移すと、そこには一体のぬいぐるみが置いてあった。虎視虎子王決定戦のVTRに出ていた、こしたんがお休みのキスをしていた物と同じ黒猫のぬいぐるみである。
『そういえば、雫って可愛い物全般が好きだったね。虎子先輩の趣味に、親近感がある的な感じ?』
「というか、前に千春にも話したけど可愛いもの全般が好きだからさ。虎視先輩のことも割と好きなんだよね」
『ふうん……私はのこたん先輩一筋だから、わかんないかな』
「そう。まあ、押し付ける物でもないしそこは千春の好きにしたらいいよ。それより、夕飯までのこたん先輩の良さについて語ろうよ」
『あ、それは賛成。じゃあ、何処から話す?』
こんな感じで、雫と千春は親から呼ばれるまでのこたんの魅力について語るのであった。
その日の夜、日野市某所のバーにて。
「雫があんなにやけ顔で帰ってくるなんて、今までなかったんじゃが……まさか遂に好きな人でも出来たのかのぅ…」
「鷲三さんのお孫さんも…実は私の妹の千春も、今日顔を凄く赤らめて帰って来たから同じく恋人でも出来たんじゃないかと考えてて」
鷲三と善治が飲みながら互いの不安を打ち明けていた。日野市民憩いの場である喫茶ツバメや洋食屋ウィステリアは、当然のように八重樫家をはじめとしたメインキャラの親族も利用したりする。そこで鷲三の爺バカと善治の兄バカで互いにシナジーを感じて、仲良くなったらしい。
そんな中、鷲三が突然ある話題を善治に振ってきたのだが…
「善治君、儂の家業について実は打ち明けたいんじゃが…」
「剣術道場ですよね? 日野市内で剣道といえば八重樫って位に有名なのに、何を今更…」
「実は剣術道場は表向きの顔で、本当は忍術道場なんじゃ」
「え゛?」
不意に耳打ちする形で八重樫家の本当の顔を善治に打ち明ける鷲三。話の内容に、善治も思わず目が点になってしまう。
「鷲三さん、まだ一杯目なのにもう酔ってるんですか? 流石に冗談きついですって」
「いや、儂はまだ素面じゃよ。疑うなら、今すぐにでも儂のうちに来て息子夫婦に聞いてみるといい」
呑みながらの話だったので、善治は酔った勢いの悪ふざけと思って鷲三を諫める。しかし、鷲三の真っ直ぐな目と気迫、そして証人として他の家族を紹介しようとする発言から信じざるを得なくなってしまう。
「(目がマジのそれだ。まさか、本当に八重樫家は忍者なのか?)わ、わかりました。信じます…」
「うむ。信じてくれたようで何よりじゃ」
本当ということで納得した善治だったが、急にその事実を打ち明けたことに疑問を抱くのであった。
「ところで、なんで私にその事実を打ち明けてくれたんですか? たぶん、忍術って秘匿すべき技術とかだと思うんですけど…」
「結論から言うが、善治君に伝授しようと思ったんじゃ。千春ちゃんが悪い男に引っかかってないか、確かめたくはないか?」
まさかの門下生にスカウトする目的だった。しかし、鷲三の口から出た悪い男というワードに、善治はハッとする。
「そうか。自分の手で、しかも学校側や千春達にも気取られないようにそれを確かめらことが出来る。それでもし碌でもない男だったら、この手で粛清も…」
「孫と妹では大きく立場が違うが、共に溺愛する家族への危機に通じるかもしれん。なら、手を取り合ってその危険を排除しようと言うわけじゃよ。勿論、君は個人経営者で忙しいだろうから無理にとは言わんが…」
流石に鷲三も善治の事情を汲んで無理強いはしないことを告げる。しかし、善治の方の気持ちはすでに決まっていた。
「定休日で週一しか通えませんが、それでも良いなら入門させてください!!」
「……うむ。歓迎しよう!!」
「ありがとうございます!!!」
こうして、鷲三と善治の勘違いによって同盟が結成された。その後、善治は鷲三も驚くべき才覚で八重樫流を会得し、凄まじい戦闘力を得るのだった。
しかし二人が日野南高校に潜入しようと試みる頃には、餡子がこしたんを、香織がハジメを守る為にそれぞれDIYしたヤバいし死ねる系(略してヤバ死系)のトラップが張り巡らされているのだが、それはまた別の話である。
ハジメ達の学年のクラス分けは、以下のようになります。
A組:ハジメ、香織、檜山、恵里、鈴
B組:光輝、雫、龍太郎、絹、千春
シカ部関係者とそれ以外で纏まっております。ここに名前が挙がってないありふれキャラは、優花も含めて原作と同じ高校に通っている形となっています。
次回は絹ちゃんと体育倉庫に閉じ込められる回ですが、一工夫入れます。