よぉ、檜山大介だ。読者一同は俺が嫌いな奴の方が多いと思うけど、少しだけ今の俺の状況を聞いてくれ。
俺は今、ある人物を尾行している。クラスのマドンナである白崎から一方的に好かれてるにもかかわらず、それを気にしていない南雲ハジメ? それとも、前回で中学時代の雪辱を晴らそうとするも失敗した、しかも南雲の好きな相手らしい虎視虎子? どっちでもねぇ。その虎視虎子のクラスに一週間前に転校してきた、鹿乃子のことかいう、謎のシカ女だ。
奴が野生の勘とやらで虎視を元ヤンだと見抜き、そこから虎視をかつて俺と仲間達のカツアゲを邪魔した市内最強のヤンキー、日野の猛獣と同一人物だと確信を持てて、彼女を目の敵にしていた不良女子の先輩に便乗して復讐しようとしたのだ。しかし、シカ女が自分のツノを虎視と、加勢に来た南雲に武器として渡すのだが、なんとそれが爆弾と化して体育館を爆破しちまった。
結果、その不良の先輩達と近藤達仲間の3人はこれをトラウマに感じて、転校しちまった。その時に「シカ怖い」とか呟いてたらしいから、爆破事件そのものじゃなくて、あのシカ女のツノ爆弾がトラウマになっちまったんだろう。
というわけで現在、俺は鹿乃子の弱みを握って奴を脅してやろうと尾行している最中ってわけだ。ぜってぇ、痛い目に合わせてやるから覚悟しやがれや。
モノローグ終了~
下校後、檜山は制服の上からコートと帽子を着込んで正体がバレない様にしてのこたんを尾行していた。しかしのこたんは、何故か公園についてからずっとベンチに座りっぱなしで全然動こうとしなかった。
「あいつ、もう1時間はここでジッとしてやがるが…何してんだ?」
待ち合わせや暇つぶしなど、いくつかの可能性を視野に入れる檜山。しかし転校して1か月も経ってないため待ち合わせする相手がいるかも怪しいし、いたとしても家族くらいだろう。加えて、暇つぶしにしてはボーっと座ってるだけでそうは見えない。
そこで、ある可能性が脳裏をよぎった。
(まさか、家がないくらい貧乏なのか!?)
そう思った直後、のこたんが両手に息を吐きかけながら呟きだした。
「寒いし、お腹すいたなぁ…」
(どうやら、そうらしいな…ケケケッ。これなら俺が追い詰めなくても、勝手にくたばりそうだな)
流石は小悪党。ここで心配するのではなく、「ざまあみろ」といった艇で下卑た笑みを浮かべながらのこたんを見る檜山であった。すると、のこたんは自分の角を片方外し、向き合う。
「おやつでも食べるか…」
(そういえば、無理すれば食えるみたいなこと自分で言ってたが、マジであれしか食うもんが無いっぽいな…さて、俺は買ってきた焼きそばパンでも食わせてもらうか。憎い相手が暇じい思いしてるのを眺めながらの飯は格別…)
そんな下衆な思考を張り巡らしながら、檜山はコンビニで買った焼きそばパンを取り出して袋の封を切った。直後……
パカッ
なんとツノが筆箱のように縦に開き、その中にバナナが一本入っていた。のこたんはそのバナナの皮を剥いて一口…
「んまい」
(バカナ!?)
※バナナです
予想外の行動に、檜山の心を驚愕の感情が支配する。
(いや、あいつのツノ何でもやりすぎだろ! 光ったり食えたり、爆弾になったり…で、今度はバナナケースと来やがった。まだなんか使い道あったりするのか? 警戒するに越したこと無ぇか)
のこたんのツノが持つ多彩すぎる機能に、檜山はつい思案に暮れてしまう。すると、ここでのこたんに動きがあった。
「あっ。そろそろバイトの時間だ」
(あいつ、バイトしてんのか…貧乏ならやらざるを得ねぇだろうが、もしかしたら弱みにつながるかもしれねぇし、追うか)
そしてのこたんを追おうとする檜山だったが、右足を前に出した直後、ぐちゃっとした感触が靴越しに感じられる。気になって見てみると…
「なぁあ!? 俺のパン!!」
なんと檜山が踏んづけたのは、先ほど買った焼きそばパンだったのだ。どうやら、先ほどののこたんの奇行に気を取られた隙に落としたらしい。これでは3秒ルールも適用できないだろう、というかすでに3秒は過ぎてるのでどのみちNGだ。
「あのシカ、絶対に許さねえ…必ず泣かしてやる!!」
結果、のこたんへの逆恨みの感情を滾らせながら尾行を続ける檜山であった。自分以外にも、のこたんを尾行している人物がいることにも気づかず。
そしてついたのが、まさかの動物園。そこでバイト中ののこたんを見つけた檜山だったが…
(いや、どんなバイト!?)
檜山が見たのこたんのバイトは、動物園の檻の中に入り、そこにいた「普通のシカたちと一緒に展示される」という内容だったのだ。
(何か水商売とかに手ぇ出してたら、脅しの種にしてやろうと思ったんだが…こんな意味不明なバイトしてんのか? そしてこの展示を採用した日野動物園、正気か?)
唖然としながらのこたんのいる檻を見つめていると、デート中のカップルと思しき男女が檻に近づいてくる。
「わぁ、シカだ~!」
「かわいいね」
「のつ」
「「喋った! かしこ~い!!」」
(いや、シカが喋るのを受け入れんな)
学校の外でも、のこたんを普通に受け入れている光景に、心の中でツッコミを入れる檜山。しかし何かしらの弱みを見せるかもしれないと思い、のこたんを観察し続ける。
「ようこそ日野動物園へ。ここではシカの展示をしてるよ」
(いや動物園のシカやるなら二足歩行すんじゃねぇよ)
立ち上がって展示案内を始めるのこたんに対して、またも心の中でツッコミを入れる檜山。彼の中で、シカの概念が崩れ去ろうとしていた。
「シカのコーナーではシカの餌やり体験ができるよ」
「餌やり体験? やってみたーい!」
「いいね、やろうやろう!」
「一人300円です」
のこたんの案内で餌やりをやろうとするカップル。その際、餌代の徴収ものこたんがしているのが見えた。
(えっと、展示の動物やりつつマスコット兼案内役。そう考えたらバイトとして成立……ってことでいいのか?)
感覚がマヒしたのか、檜山なりにのこたんのバイト内容を納得しようとしていた。そしてカップルの女性側が餌用のシカせんべいを受け取り、子供のシカにあげようと近づく……
バクッ
「ぎゃああああああああっ!?」
直後、のこたんが女性の腕ごとシカせんべいに食らいついたのだ。それによる痛みと驚きで、某ホラー漫画家っぽい画風の顔で女性が絶叫する。
「何よこのシカ、放しなさいよ!!!」
「
「なんて!?」
(こ、これはヒデェ…)
あまりの見苦しさに、ドン引きする檜山。その後、気持ちを落ち着けるためにいったん距離を取るのだった。
「こいつ、マジでなんなんだ? 弱み掴むはずが、どんどん謎が深まっていきやがる…」
そしてここで、ここまで見ていて最大の謎に思い至ってしまい、檜山は叫んだ。
「「ていうかなんで誰もあいつが展示されてる事にツッコマないんだ!? 俺(私)がおかしいんか!?
……ん?」」
その時、檜山の叫びが誰かと重なる。声のした方に視線を向けると、そこには自分と同様、コートと帽子を着込んだ変装らしき格好の少女がいた。そしてその顔は…
「てめぇ、虎視か!?」
「そういうお前は檜山!?」
なんとこしたんであった。まさかの遭遇に、お互い驚愕してしまう。
「てめぇ、なんで放課後に一人で動物園になんかいやがんだ?」
「それはこっちのセリフだ…まさか、私の
「俺が尾行してるのはテメェじゃなくて、てめぇのクラスに転校した鹿乃子とかいう変なシカ女の方だ! それに命取るだけの力は無ぇから、弱み握るのが精一杯だよ!!」
「え? まさかの私と同じ目的??」
「え? つーことは、てめぇもあいつの弱みを??」
こしたんも檜山も、同じ理由でこの場にいることに気づいてしまう。そこでしばらく沈黙が続き…
「その、お互い苦労してんだな…」
「お互いにな…」
お互いに同情するという、まさかの事態が発生した。敵対者同士でも、思うところあったらしい。すると突如、アナウンスが鳴り響くのだが内容は不可解極まりない物だった。
『えー、大変お待たせいたしました。ただいまより日野動物園名物"シカの大名行列"がはじまります。通路をあけてお待ちください』
「シカの大名行列?」
「んだそりゃ? ……え?」
突如、動物園の大通りにワラワラとシカの群れが出現。道をそのまま闊歩する。そしてその背には、胡座をかきながら腕を組んで踏ん反り返るのこたんの姿があった。
「「なんか乗っとる!?」」
再び声を揃えて驚愕するこしたんと檜山。あまりにもシュールすぎる光景だから仕方ないだろう。
「シカの上にシカ?が乗ってる謎行列って、楽しみどころが一切わからない! こういうのってもっと可愛い動物がやるんじゃないの!?」
「つーか、これが名物ってことはだいぶ前からやってるってことなのか!?」
こしたんが謎の行事に恐怖を抱く中、檜山はとんでもない事実に気づき、余計にその恐怖が強まってしまう。
「なんという愛らしさと立派なツノじゃ…シカが心を開いておる」
「んだ、このババア!? 急に出てきやがったぞ!」
「相変わらず口悪ぃな…でも、本当に誰?」
かと思いきや、いつの間にか謎の老婆が隣に立ち、感動したように一言。その言動も相待って本当に謎の人物だ。
そうして眺めていると、なんとシカの群れが突如として金色の光を放ち始めたのだ。そしてそれに合わせてのこたんのツノも光りを放ち、シカの群れの背中の上に立ちながら両手を広げる。
「「なんだこのイリュージョン!?」」
その奇妙な光景に、こしたんと檜山の言動がまたシンクロした。本日3度目である。
「いや、こんなモンが受けるワケねぇだろ…」
「だな。虎視と同感ってのが癪だが…」
「「「わぁああ!!」」」パチパチパチッ
「「って、拍手喝采かよ!?」」
予想に反してウケのいい催しだったため、またツッコミが冴える。
「シカ姉様、セーラー服を着てるの…」
「シカ姉様って誰!?」
観衆の中にいた幼女がうっとりしながら言うので、こしたんが更にツッコミを入れる。
「まるでシカの草原の上を歩いているみたい」
「いや、シカの草原ってなんだよ!? んな日本語、聞いたことねぇよ!」
シカの群れの背で、バランスを取りながらゆっくり歩くのこたんに対する感想。そこに今度は檜山のツッコミが響く。
「その者 セーラー服をまといてシカの野に降り立つべし…古き言い伝えはまことであった!!」
「古き言い伝えって何!? ここまででそんなフリあった!?」
「つーか現代日本、しかも東京にそんなモノあるのかよ!?」
極め付けは先ほどの謎の老婆のこの発言。観衆の奇妙な言動の度、こしたんと檜山はツッコミを入れるためキリがなかった。
しかし、ここで思わぬ事態が発生。
「あ、こしたんとひやまんだ。 ヤッホー!」
「げっ…(バレたか)」
「おい、俺まで変なあだ名で呼ぶんじゃねー!」
のこたんにバレてしまったのだ。そのままのこたんは大名行列から離れ、二人に近づいていく。
「二人とも何してるの? 変な格好だね~」
「い、いや別に…暇だからぶらぶらしてただけっつーか?」
「そ、そうそう。たまには動物園も悪くね~かなぁ…って」
「ふ~ん…」
そのまま声をかけてくるのこたんに対し、二人は尾行がバレないよう何とかごまかす。それでもまじまじと見てくるのこたんだったが…
「二人とも…ペアルックだし、もしかして付き合ってる?」
「「はぁっ!? 誰がこいつなんかと!」」
のこたんがまさかの予想をしてきたので、そろって否定する。しかし、取り合えずのこたんの言い分を聞いてみた。
「前回の戦いをきっかけに、思いが通じ合ったとか…そっか、こしたんはなぐもんよりひやまんが好みだったんだね」
「いや、天地がひっくり返ってもあり得ないわ」
「右に同じく。つーか、前回の俺は南雲とばっか戦ってたろ」
「それもそっか。付き合ってるんじゃないなら…もしかして、二人とも私のファン?」
「「図に乗るなよ」」
今度は顔を赤らめながら予想を口にしたため、冷ややかに返した。直後、アナウンスが鳴り響くとのこたんが反応した。
「あ、そろそろ閉演時間だ。のつかれっしたー」
「「ヌン」」
「「いや、普通に帰るんかい」」
そのまま檻の中のシカ達に別れの挨拶をするのこたんに、こしたんと檜山は思わずツッコんだ。ちなみに、シカ達も返事を返したので意外にも知能は高いらしい。
「いや~。今日も働いたなぁ」
「家が無いと思ったけど、普通にあるっぽいな」
「ああ。住み込みバイトの線も考えてたが、違うらしい」
どうやらこしたんも檜山と同様、のこたんが家無しと予想していたらしい。しかし、この会話でその節は否定された。と思ったら、のこたんがまたも予想外の発言をした。
「頑張ったご褒美に今日はタピって帰ろ~っと」
「は? タピるって、タピオカ屋に行くってことか?」
「あ、そうか。鹿乃子、お前金あるのか?」
「え? あるよ?」カポッ
「何その大金!? バイトする必要なくない?」
檜山とこしたんの指摘を受けたのこたんは、またもツノ(というか頭)を外す。するとその中に、えっぐい量の札束が入っていた。こしたんも思わず、叫ぶほどビックリした。
(おいおいおい、ちょっと待て。つまりなんだ、鹿乃子が貧乏っていう当初の予想がまるごと外れたってことか…しかも、高校生であんな大金…)
そして、檜山もここまでのツッコミ疲れとのこたんの持ってる大金を見た驚きのダブルパンチで、ついに心が折れた。
「ねぇ、二人も一緒にタピろ?」
「だ、誰がてめぇなんかと…」
「悪い。俺、今気分わりぃから帰るわ。それで、帰って寝る…」
するとのこたんが顔を赤らめながらタピオカ屋に行こうと誘ってくる。イライラしながら断ろうとするこしたんに対し、檜山は疲れた表情で有無を言わさずに帰ろうとしていた。
「ありゃ、そうか…それじゃひやまん、お大事に~」
のこたんは檜山の言葉を鵜吞みにし、そのまま手を振って見送る。結局、この後こしたんはのこたんの誘いを受けてタピオカ屋に向かい、結果としてのこたんに甘いもの好きという弱みを握られることとなった。
一方、檜山は帰った後で夕飯も食べずにさっさと寝てしまった。結果、課題をやり忘れて翌日に補修を受けることとなったという。
わかりやすい小悪党の檜山は、ギャグマンガ時空だとツッコミ周りとかで美味しい役どころになってくれそうに思ったので、今作では出番が多くなります。ご了承ください。