ありふれたシカ部のありふれない日常   作:玄武Σ

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0時ぴったりの更新ができず、失礼しました。ストックが今回でラストなので、更新頻度も落ちます。
そして今回から、しかのこ最凶のヤンデレ妹が登場します。シカ部にハジメ(男子)がいる以上、彼女がやることと言えば? そしてハジメの傍には同様に…
後、切りのいいところが見つからず、1万字オーバーしてしまいました。


第7話「ハジメ、狙われる!?」

シカ部結成の翌週、月曜日の早朝。檜山大介は大量の2ℓペットボトルを載せたリヤカーを引きながら登校していた。

 

「まさか、部活初日であのシカ女の弱点が見つかるとはな」

 

しめしめといった感じの笑みを浮かべながら呟く檜山だったが、それはシカ部を結成した翌日のことに遡る。

 

〜回想〜

その日、のこたんが部活用に着ていたジャージがボロボロだったことから、備品調達のついでに新しいジャージを買いに行くことになったのだった。しかしその道中、何故かのこたんが電柱の陰に隠れるのが見えたのだ。

 

「あの…鹿乃子先輩、どうしました?」

「あれ…こわい……」

 

ハジメが気になって尋ねると、怯えながらあるものを指さす。そこには、ラベルを剝がした水入りの2ℓペットボトルが数本置かれていたが、それは紛れもなく…

 

「猫除けのペットボトル…ですか?」

「お前、こんなもんが怖いのか?」

「……うん」

「いや、今どき猫でも怖がらねぇだろ」

 

ハジメもこしたんも、のこたんが意外なものを怖がっているため困惑していた。しかし、ここで香織があることに気づく。

 

「先輩…後ろにもペットボトル、ありますよ?」

「!? ヌーーーーーーーーーーーッ!!!」

「「「そんなに!?」」」

 

振り返った直後、のこたんが涙目で絶叫するが、尋常じゃない怯えようだ。そして、ハジメ達は総出でのこたんを宥めにかかるのだった。

 

(なんとまぁ、変な弱点だこった………ん、弱点?)

 

その光景を見て檜山が困惑していると、ここで気づいた。今、宿敵の弱点を発見したことに。

 

(そうだ、弱点だ! ヒヒッ、まさかここでシカ女の弱点を見つけるとはよ!!)

 

それに気づいた檜山も、いつもの小悪党笑いがこみ上げる。何とか周りにバレないよう、喜びを噛み締めるのだった。

〜回想了〜

「にしても、アイツはなんでこんなモンが怖えんだ? 微妙なモンだがまた謎も増えちまったし…」

 

改めて思い出すと、困惑しかないのこたんの弱点であった。しかし気を取り直して猫避けペットボトルを使った、のこたんへの嫌がらせ計画を思案する檜山。

 

「まあ無難なところで、部室の周りやヤツの教室に置けるだけペットボトルを置きまくってまともに登校出来ないようにするってところか……捻りはねぇが、毎日繰り返してりゃ効果もそこそこだろうしな」

 

そんなみみっちい復讐計画を立てる檜山だったが、彼の背後に謎の人影が近づいてくる。その気配に気づいた檜山はすぐ振り向いたのだが……

 

「え…

 

 

 

 

 

 

ぎゃあああああああああああああ!?」

 

直後、日野市に檜山の断末魔が響くのだった。

 

 

その後、全校集会にて

 

「えー、先ほど日野総合病院から電話があったのですが…1-A所属の檜山大介君が倒れているところが発見され、そのまま入院する事になったそうです。通り魔の危険性もあるので、気をつけてください」

 

校長から、とんでもない報告と注意勧告がされた。どうやら檜山は、あの時に近づいてきた人影に襲われたようだ。当然、生徒一同も驚愕に染まるのだった。

 

「みんな、放課後はクラスのみんなで檜山のお見舞いに行かないか?」

 

全校集会の後、教室に戻る途中で光輝が呼びかけた。檜山が仲間達とハジメをからかっていた件を、「努力しないハジメに非がある」と半ば容認しているのだ。原作時空のハジメよりは真面目なはずなのにこの言い分だが、やはり本能的に嫌ってるのだろうか? だからか檜山のことも問題児とは認識していないようで、このような提案をしたのだった。

ちなみに、停学の件は光輝も知っているが彼の形だけの謝罪で許しているらしい。

 

「天之河君、僕はちょっと部活があるから遠慮しておくよ」

「私も。虎視先輩から、部活関連で手伝いを頼まれてるし」

 

しかしハジメも香織も、檜山にそこまでする義理はないため部活を理由に断るのだった。光輝は面白くなかったのか、ムッとした表情でハジメに反論する。

 

「南雲…虎視先輩の力になることはいいが、クラスの仲間を蔑ろにするのは良くないと思うんだが?」

「いつも学生なら家の用事より学校生活に力を入れろって言ったの、君じゃないか。ようやく、それをやろうって時に非難するのはどうなの?」

 

流石にハジメもご立腹だったようで、過去の光輝の発言を上げて反論する。しかし、光輝も負けじと反論を続けるのだった。

 

「確かに、虎視先輩が部長をしている新設の部活で、副部長なんて大変そうな立場になったのは評価しよう。けど、檜山もクラスどころか部活まで一緒の仲間なんだ。心配してもいいんじゃないか?」

「クラス全員が仲いいわけじゃないんだからさ。お見舞いに行く行かないは各人の自由でしょ?」

「檜山の親友達はこの間の体育館爆発事故がトラウマになって、転校したんだぞ。寂しい思いをしてるだろうから、クラスも部活も同じ南雲がお見舞いに行くのは道理だろ?」

「普通ならそうするけどさ…君、僕と檜山君が仲悪いのは知ってるだろ? それでお見舞いに行ったって逆に不快な思いをさせると思うんだけど」

(私もお見舞いに行かないって言った筈だけど、光輝君は一切触れてこないなぁ…やっぱり、無意識に贔屓しているのかも)

 

そのままハジメと光輝が口論を続けていると、いつの間にか教室のすぐそこに来ていた。

しかしその時、それは起こった。

 

ガガッ

「「「……え?」」」

 

何かが飛んできて、ハジメの顔をかすめる。そして、後ろの壁に深く突き刺さったのだ。ハジメ、光輝、香織の三人は壊れたおもちゃの様にギギギッと首を向けて、刺さったものを確認する。

 

「苦無?」

 

それはまごう事なき、忍者の使用する暗器の一種"苦無(くない)"だったのだ。

 

「な、南雲……ケガはないか?」

「あ、うん…ギリギリ当たらなかったから心配しないで」

 

流石に異常事態だったので、光輝もハジメを心配する。光輝がハジメのことをいくら憎らしく思っていても、暴力がありふれていない普通の都立高校でこんなことが起きたなら心配するのは当然だった。

 

ヒュンッ

「!? ハジメ君、危ない!」

 

しかしまた苦無が飛んできたのを香織が目撃、今度は当たると確信して自分も手裏剣を投擲する。見事に命中し、苦無ははじき返されたのだった。

 

「か、香織……今の、手裏剣か?」

「うん。通信教育で、忍術を嗜んでてね」

 

幼馴染がいきなり暗器を取り出して、しかも使いこなす光景。思わず光輝は、宇宙猫みたいな顔になって問い尋ねてしまうのだった。それに対する、香織の誤魔化し方もなかなかぶっ飛んでいた。

 

「で、ハジメ君は怪我無かった? あれ、明らかにハジメ君を狙ってたみたいだけど…」

「おかげさまで無傷だよ。ありがとう、香織さん」

 

その後も「ハジメが教室の外にいる間、不定期で苦無が飛んでくる」という異常な出来事が何度も起きる。そしてその都度、香織が手裏剣を投擲して撃ち落とし、事なきを得たのだった。ちなみに、光輝がそのシーンを見るたびに宇宙猫みたいな顔になるため、学校中の人間に注目されたという。

後、この一件で檜山のお見舞いは有耶無耶になったのだった。

 

~放課後~

「結局、苦無が一日中飛んできたね…」

「ハジメ君に恨みのある人間、檜山君…は入院してるし、仲間の三人…私に気がある他の誰か? いずれにしても、要警戒だね」

 

疲れた表情のハジメと、手裏剣を構えて警戒し続ける香織が部室に向かう。とりあえず犯人の正体を知るためにも、部活動終了時間まで粘って人が少なくなるタイミングを探る必要があった。

 

「あ、虎視先輩」

「お、南雲君に白崎さん! 早速だけど、部活に行くぞー!!」

 

そこで二人がこしたんを発見。妙にテンションの高い彼女と、シカ部の部室に向かうこととなった。

 

「先輩、実はシカ部の活動って結構楽しんでます?」

「え? 別に楽しんでないけど??」

「!? じゃあ、なんでそんなにテンション高いんですか?」

 

こしたんに部活について尋ねると、意外な答えが返ってきて驚くハジメ。改めて聞いてみたら、これまた予想外の答えが返ってきた。

 

「いや、実はさ…早朝から部室にお気に入りの家具とか持ってきて、模様替えしたんだよね。いや~、部室という名のパーソナルスペース、いやユートピアが学校にあるって最高だね~」

「先輩…職権乱用になってないですか?」

 

流石のハジメも、こしたんのこの行動には軽く引いていた。するとここで、こしたんがハジメの様子がいつもと違うことに気づいた。

 

「ところで、南雲君なんか疲れてない? 白崎さんも、やたらと警戒してるみたいだし…」

「あ、信じられないかもしれないんですが…僕、命を狙われているみたいで」

「だから私も、警戒中ってことです」

「命を狙われてる…考えすぎじゃない? それをやりそうな檜山も、気の毒だけど今朝入院したって聞いてるしさ」

 

しかし事情を聞いても、こしたんはあまり信じていないようだ。まあ、現代日本で明確に命を狙われてると言われれば、それも無理がないだろう。

そして部室に到着し、意気揚々と扉を開けるこしたんだったが……

 

 

 

 

 

部室が荒らされ、家具も破壊し尽くされていた。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??」

 

ユートピア終了に、こしたんはこの世の終わりのような顔で悲鳴を上げることとなった。

 

「そ、そんな…私が朝3時に起きて作り上げたユートピアが……」

「「朝3時って、まだ夜中ですよ!?」」

 

ショックを受けるこしたんが呟いた一言に、思わずツッコミを入れるハジメと香織。

 

「あーっ、クマゴロー!?」

 

更にこしたんお気に入りのクマのぬいぐるみが、首を切り落とされて壁に苦無で固定されている光景が目に映る。あまりの悲惨さに、こしたんのメンタルも限界に近かった。

 

「みんな、そんなところにいたら危ないよ! 物陰に隠れて!!」

「鹿乃子……!!」

 

そんな中、段ボールの中に隠れていたのこたんが出てきて声をかけてきた。ここでこしたんは思わず、ある可能性を疑ってのこたんを問い詰めにかかった。

 

「お前か? この惨状はお前の仕業なのか!!」

「? 私が来た時には、もう部室はこうなってたよ」

「あ、そうなのか…悪い」

 

しかしのこたんから否定の言葉が飛び出し、部室荒らしの犯人と疑った件を謝罪する。しかし直後、のこたんはあることを打ち明けた。

 

「実は私、狙われてるみたいなんだ。たぶん、部室を破壊したのもそいつだと思う」

「え? 鹿乃子先輩も狙われてるんですか??」

「ということも、なぐもんも狙われてる?」

 

のこたんもハジメ同様、何者かに命を狙われているという衝撃の事実が判明した。そして、互いの事情を確認すべく、何があったのかを確認しあった。

 

「私が部室に入ろうとしたら、5mの落とし穴に落ちたし。入ったら今度は、天井から槍が落ちてきて…」

「なんで生きてんの!?」

「先輩は放課後からですか…僕は全校集会の後からこの時間まで、教室の外にいると苦無が飛んできてたんですよね」

「私が全部撃ち落としたので、ご心配なく」

「南雲君達もそんなことになってたの!? ちゃんと話聞かなくてごめん!!」

 

そしてのこたんとハジメから状況を聞いてみると、なかなかトンデモない状況だったことがわかる。しかし、直後にこしたんは冷静になってここにいる全員に語り掛けた。

 

「待て待て。普通に考えて、鹿乃子を狙うやつなんているわけないだろ。南雲君は、学年のマドンナの白崎さんに好かれてるから僅かにあるかもだけど…」

「先輩、僕はあるんですね…」

「あ、ごめん」

 

うっかり失言してハジメを傷つけてしまい、謝罪するこしたん。そして気を取り直し、改めて語りだす。

 

「部室に関しては、窓も開けっぱなしだし野良猫とかが入っていたずらしたとかでしょ。こういう時は外の空気でも吸って、落ち着いて考えをまとめるのが…」

 

言いながら、半開きの窓を全開にして喚起をしようとする。しかし、その直後…

 

ヒュンッヒュンッ

「……え?」

 

こしたんの頭のすぐ横で、風を切る音が二回聞こえた。後ろを見ると、のこたんが避けたと思しき苦無が壁に深く突き刺さっている。そしてその横で、香織が何かを投げたような手つきをしている。おそらく、手裏剣でハジメに向かっていた苦無を撃ち落としたのだろう。

 

「おい、迂闊に窓の外に顔を出す奴があるか。ここは戦場だぞ!」

「「「誰!?」」」

 

のこたんが劇画調の顔立ちになり、ガタイまで良くなった姿で怒鳴ってきた。あまりの変貌ぶりに、ツッコミが捗る三人だった。

 

「戦場では少しの油断が命取りだと教えただろ!?」

「教わってねーよ!? こちとら平和な平成生まれだ!!」

「私は教わってるけど、鹿乃子先輩からではないかな」

「これは、もう確定だね…」

 

いつの間にかのこたんがこの場のメンバーを鍛えた教官を気取りだしたため、ツッコミが冴える。その一方で、やはり命を狙われている確信が持てたのだった。

 

「先輩、今日は部活休んでさっさと帰った方がいいと思います。流石に巻き込むわけにいかないので」

「あ、ああ…そうさせてもらうよ」

「なぐもん、こしたんを帰すってどーいうことさ!? 教官を見捨てるつもりかー!!」

 

危険なのでこしたんに帰ってもらうことにするハジメだったが、のこたんはそれが不服らしい。

 

「鹿乃子先輩、私が犯人を粛正するから安心して。ハジメ君を狙った以上、生きて帰す気は無いから…」

「かおりん、頼れる~! それに対して、こしたんは薄情だねぇ…」

「先輩、僕が鹿乃子先輩を黙らせますから遠慮なく帰ってください」

「あ、ありがとう南雲君。それじゃあ早速…」

 

そしてひと悶着あったものの、なんとかこしたんが返るタイミングをつかめた直後…

 

カチッ

「ん……ゴフッ!?」ゴンッ

 

何かを踏んだと思った直後、なんとこしたんの頭に金タライが降ってきたのだ。あまりの事態に、ハジメは心配でこしたんに駆け寄った。

 

「先輩、頭に怪我とかしてないですか!?」

「南雲君……私も犯人消したくなったから、帰らないことにしたわ

「あ、そうですか…わかりました」

 

ヤンキー時代の闘志を蘇らせたこしたんに、思わず慄くハジメ。これに関して、彼は同意するしかなかったのだ。かと思いきや、今度は部室の扉がひとりでに開きだした。その方向を一同が見てみると…

 

 

 

 

 

 

シカせんべいが転がってるのが見えた。

 

「先輩、どう見ても罠だから行かないでください!!」

「そうだぞ鹿乃子! あんなバレバレの罠に自ら飛び込むって…」

 

のこたんがシカせんべいに飛びつこうとするのを、ハジメとこしたんで必死に抑える。

 

「それでも…私は目の前に大事なものがあったら、手を伸ばしたい!」

「し、鹿乃子…」

「「……あれ? でもそれって」

 

なんかいいこと言った風なのこたんの雰囲気にこしたんが飲まれ、その内容を冷静に考え出したハジメと香織。そしてその隙をついて、のこたんは拘束を解いて部室の外に飛び出すのだった。

 

(みんな、ごめん。それでも私は……シカせんべいが好きだから!!)

「うひょーーーーーーーーーー!!」

 

そしてのこたんは涎を垂らしながら、シカせんべいに飛び掛かる。

直後、のこたんは網に捕まり、そのまま気に吊るされてしまった。やはり罠だったわけである。

 

「ああああああああああ! 教官ーーーーーーーーーーーーーー!!」

言ったじゃない 少しの油断が 命取り

           こしたん心の俳句

 

「……ぬかった」

「いや、罠だって言ったのになにが『ぬかった』だよ…」

「最後にスピードが落ちて、シカせんべいに手が届かなかった…」

「そっちかよ!」

 

網に吊るされるのこたんの言い分にツッコミが絶えないこしたんだった。

 

「先輩、今みんなで降ろしますからジッとしててください…」

「バ、南雲君まだ出ていくな!」

 

しかしうっかりハジメがのこたんを開放すべく、部室の外に出てしまった。こしたんも制止するが、もう間に合わない。

 

「!? しまった…」

 

そして部室の外にハジメが出てきたのを見計らうかのように、彼の四方八方から苦無が大量に飛んできたのだ。これでは回避が間に合わない。そう思った直後、彼女が動いた。

 

「ハジメ君を傷つけさせない!!」

 

香織が部室から飛び出し、制服の下に隠し持っていた大量の手裏剣を一斉に投擲。飛んできた苦無を一つ残らず撃ち落としたのだ。

 

「卑怯者!!」

 

そしてすべての苦無を撃ち落とした直後、香織は叫んだ。

 

「私は白崎香織。お前が今狙っている、南雲ハジメ君は私の好きな人だ! ハジメ君には、他に好きな人がいる……それでも、私は彼が大好きなんだ!! あなたがハジメ君にどんな恨みを抱いてるか知らないけど、陰からコソコソと命を狙う卑怯なあなたに私は負けない。私を倒したかったら、正面から正々堂々と戦いなさい!!」

「か、香織さん…」

「白崎さん、南雲君をそこまで……」

 

香織の、ハジメに対する熱い思いが叫ばれたのだ。それに対し、ハジメもこしたんも思わず息をのんだのだった。

 

「シカとその男だけじゃなくて、あんたも図太い害獣なのね…」

 

その時、聞き覚えのない少女の声が響く。そして、声の主の物とと思しき足音が近づいてくる。

 

「勘違いしてるみたいだけど、南雲ハジメと鹿乃子のこが最優先ってだけで、私の駆除対象はシカ部の部員全員なの。でも、貴女を先に始末しないと南雲ハジメを消せないみたいね」

 

どうやら香織の叫びに応え、これまでハジメ達を狙った人物が姿を現したようだ。そして声と足音のする方に一同は視線を向ける。

 

「そういうことなら白崎香織、貴女から先に地獄に落としてあげるわ。南雲ハジメはその後で送ってあげるから、あの世でアピールでもしてなさい」

 

そして現れたのは、近隣の中学校の制服を着た黒髪ロングの少女だった。顔立ちはかなり整っているものの、目にハイライトが無く非常に不気味だ。

犯人が校内の人間どころか、まだ年下だった事実に一同は驚愕する。

 

「香織さん…この子、八重樫流の門下生にいた?」

「ううん、見たことないよ。たぶん、苦無の扱いは独学だと思う。それであのレベルの使い手ってことは、かなり手強そう…」

 

香織は謎の少女に対し、警戒を怠らない。未知なる強敵らしき少女を睨みながら手裏剣を構えなおしていると、意外な人物が反応を示した。

 

 

 

 

 

 

 

「あんこぉ!? おまっ、こんなところで何してんだ?」

「え? 先輩、知り合いなんですか??」

 

反応したのはこしたんだった。思わず、ハジメが彼女との関係について尋ねようとした直後…

 

「おねぇちゃぁん♡」

 

なんと少女はこしたんを姉と呼び、目にハートを浮かべながら甘ったるい声を発したのだ。そしてこしたんに駆け寄り、そのまま抱き着く。

 

「会いたかったぁ♡」

「うわっ!? 会いたかったって、家に帰りゃ会うだろ…」

「お姉ちゃんとは365日24時間毎分毎秒一緒にいたいのっ♡」

 

そして驚くこしたんを余所に、甘えてくる少女。かなり懐いているようだ……

 

「ハァ……

 

 

 

 

お姉ちゃんのにおい…♡」

「ちょ、やめんか!!」

 

と思ったら、変態おやじのような言動を少女が取り出したのだ。当然、こしたんも辞めさせようとする。

一連の流れを見ていたハジメ達は、困惑を隠せずにいた。そして、少女とこしたんの関係について、あらためて問い尋ねる。

 

「えっと…虎視先輩、その子が妹って本当ですか?」

「あ、ああ。虎視餡子(こしあんこ)っつって、まぎれもない私の妹だよ」

「虎視先輩の妹の、餡子ちゃんですか…」

 

名前を反芻するハジメに対し、件の少女"餡子"は再びハイライトの無い目で睨んできた。正直、超怖い。

一方、餡子の名前をフルネームで聞いたのこたんはというと…

 

「こし…あんこ……こし…あん…こ……こしあん…こ……!!」ダバァ~

「さては何か美味しそうな物を想像しているな」

 

滝のようなよだれを垂らすのこたんに、こしたんはそう返した。どうやら、のこたんはシカせんべい以外も普通に美味しく感じるようだ。

しかし餡子は、改めてのこたんとハジメに対して語りかけてきた。

 

「シカ部部員ども、特に南雲ハジメと鹿乃子のこ…私はお前たちを許さない」

「き、君が先輩の妹ってのはわかった…でもなんで僕や鹿乃子先輩のことを? 状況的に、僕たちを攻撃したり、部室を荒らしたり、今朝に檜山君を襲撃して病院送りにしたのも、君なの??」

「ご名答。全部、私がやったわ」

 

それに対して、餡子は躊躇いなく答えた。それに対してこしたんは当然、疑問を感じるのだった。

 

「餡子…お前、なんでそんなことを?」

「全部全部、お前らシカ部が悪いのよ!! シカ部のせいでお姉ちゃんは変わっちゃった…」

 

そして尋常じゃないようすでシカ部に対する恨みを口にするのだが…

 

「これまでは学校が終わったらすぐ私のもとへ帰ってきてくれたのに」

「お前のもとってか私の家な?」

「最近は毎日帰るのが夜遅く…」

「19時までには帰ってますけど!?」

「遅くまで何してるのかと思ってちょっと尾行してみたら、部活と称して密室で男と混じってシカのお世話(意味深)!? なんていやらしい……!」

「いやらしいのはお前の思考回路だよ!!」

 

取り合えず、これだけでいろいろ拗らせているのがわかった。こしたんのツッコミも、聞いている様子がない。そして、極めつけがこれだ。

 

「それで今日にいたっては朝早くに家を出たと思ったら…シカと男どもとの愛の巣作りに夢中じゃない…!!

 

亡霊みたいな暗い目になって、部室の模様替えをこんな解釈した旨で話し出したのだ。

 

「ここでナニする予定だったの? あんなことやこんなことをするつもりだったの!?」

 

そのまま興奮した様子で餡子はこしたんに問いかけるが、私利私欲で部室の模様替えをしたと言えず、答えられなかった。しかしそのせいで、餡子にさらなる誤解を与えることとなる。

 

「まさか、もう寝たの?」

「んなわけねーだろ、メンヘラ彼女かお前は!?」

「えっと、つまり……先輩の妹さんが重度のシスコン且つヤンデレで、僕達シカ部を姉妹の絆を裂く邪魔者と見なして排除しようと、今回の騒動を起こしたと」

 

取り合えず、ここまでの餡子とこしたんのやり取りで自分とのこたんが狙われている理由を知ったハジメ。だが、ここで彼は予想外の行動をとることになる。

 

「餡子ちゃん。妹の君なら知ってるだろうけど、虎視先輩は中学時代に日野市最強ヤンキーとして名を馳せてた。そんな先輩は、ある理由で不良に絡まれてた僕を助けてくれて、その直前にやった僕の奇行をフォローしてくれた。僕はそれに恩を感じると同時に、先輩の芯の強さと心遣いに心底惚れたんだ。香織さんには悪いけどね」

「え!? ちょ、南雲君!?」

 

なんと、ハジメは自分の過去と、それに由来するこしたんに対する思いを語りだしたのだ。顔を赤らめながら驚愕するこしたんを無視し、ハジメは餡子への語り掛けを続ける。

 

「先輩が僕を異性として気に入らないなら、潔く身を引くよ…でも、僕を否定する権利は先輩にだけあって餡子ちゃんにはその権利は一切ないんだ! だから、今回の一件は君が邪魔することはお門違いなんだよ!!」

「ハジメ君…」

 

そのあまりにも力強い声に、香織も圧倒された。しかし、餡子はいまだに表情を崩さない。

 

「そして餡子ちゃん。もし先輩が僕を受け入れてくれるのなら、その時は君にも認めてほしい。僕の好きな人の、血を分けた姉妹なんだ。なら、君とも可能な限り仲良くしたいと思ってる」

 

そして穏やかな声になり、そのまま餡子にも友好的に接したい旨を伝えたハジメ。一通りの話を終えたところで、餡子も口を開いた。

 

「お姉ちゃんの居場所は私の隣だけ…というか、この世界に私とお姉ちゃん以外存在する価値はないと思ってるわ。私たちの仲を邪魔をする奴は全員敵…だから全部ぶっ壊してやろうって思ったの。シカ部なんてふざけた部活をめちゃくちゃにして、あんたたち害獣を駆除して、そうすればお姉ちゃんが戻ってくると思ったの」

 

あまりにも利己的かつ物騒な物言いをする餡子。説得は難しいと思った直後、意外なことを言い出したのだ。

 

「でも、気が変わった」

「え?」

「南雲ハジメ。あなたのその気概を買って、特別に一対一で勝負してあげる。あなたが勝ったら、お姉ちゃんとあなたの関わり合いについて、私からは何も言わないし、二人が爛れた関係になりたいなら私も潔く身を引くわ」

「爛れ…!?」

「ちょ、誤解を招くような言い方やめろ!!」

 

なんと餡子からタイマン勝負が提案されたのだ。途中、餡子のいやらしい思考がまろび出たが、気にしないでおこう。

 

「でも代わりに、私が勝ったらあなたには別の高校へ転校してもらうわ。それで一生、お姉ちゃんに近づくことも禁止する。もし破ったら、あなたの命は無いものと思いなさい」

「……わかった。香織さん、守ってくれてるところ申し訳ないけど、ここは僕が一人で行かないといけないっぽいから、後は任せて」

「ハジメ君……うん。ここで断ったら、私もお門違いになりそうだし、任せるよ」

「南雲君、そんな滅茶苦茶な提案なんて乗る必要ないって! 餡子もそんなこと言わないで…」

 

そして香織を説得し、こしたんの制止も聞かずにハジメVS餡子の戦いが幕を切ろうとしていた…

 

「その勝負、私も参加願う! こしたんは私の女だ!!」

「ちょ、ややこしくなるから辞めろ!」

「そして私が勝ったら、シカせんべいいっぱいください」

「そして図々しい!」

 

と思った直後、のこたんも勝負に名乗り出たのだ。色々と拗れそうだったし、フリーダム過ぎたのでこしたんが制止するが、餡子の反応は意外だった。

 

「まあ、あなたの始末もしないとだし丁度いいかもね。南雲ハジメ、彼女も勝負に混ぜて問題ないわよね?」

「それは大丈夫。餡子ちゃんに不満さえなければ」

 

のこたんもまとめて始末するつもりらしく、のこたんにも参加を許したのだ。そして苦無を投擲し、のこたんを捕えていた網を切り落としたのだった。

 

「それじゃあ鹿乃子のこ、あなたが勝ったら好きなだけシカせんべいを上げるし、お姉ちゃんとの関係にも文句言わないわ。代わりに負けたら、奈良公園のシカになって奈良に永住してもらうわ

「「「いや、何その条件!?」」」

「わかった。こしたん、私となぐもんを信じてて!!」

 

かくして、のこたんVSハジメVS餡子という頂上決戦が始まろうとしていた。果たしてどうなる!?




というわけで、次回はのこたんVS餡子にハジメを加えた展開になります。
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