ぶっちゃけ、本作で一番キャラ改変されてます。改変が苦手な方はご注意ください。
こしたんの妹・餡子の襲来から約一週間後。シカ部の部室を目指して一人の女子生徒が歩みを進めていた。
「シカ部、活動内容はシカのお世話…やっぱり、お婆ちゃんの後を継ぐ為に役立ってくれそう!」
それは、先日の第一回虎視虎子王決定戦でのこたんの昇天を目の当たりにした一年生であった。そんな彼女がシカ部を目指す目的とは、果たして?
その頃、部室にてシカ部の面々はというと…
「餡子が部室を襲撃した時はどうなるかと思ったけど、あれ以降は何もなくて平和だなぁ」
「ええ。流石にギャグ漫画時空にいるからって、毎日事件とか騒動が起こり放題ってわけじゃないですから」
「ハジメ君、流石にメタいって」
「つーか、虎視ってこの漫画好きだったのか…まさかファッションヤンキーだったのか、テメェ?」
何故か漫画とポテチを持ち寄って読みながら駄弁っていた。オタクを馬鹿にする小悪党の檜山ですら、人並みに流行りの漫画くらいは読んでいたようだ。ちなみに、檜山が読んでいるのは、こしたんが持ってきた某タイムリープするヤンキー漫画だ。
「あ、実は恥ずかしながら…まあ、これが黒歴史にも若干思えてたから高校デビューと同時に卒業したんだけど」
「あ、そうなのか…(ファッションヤンキーなんかに負けたのか、あの時の俺達!?)」
「ぬふふ。人に歴史ありとは言うけど、こしたんもそうだったんだね」
「でも先輩、素が出てる時も口調が激しくなるくらいで別に乱暴になるわけじゃないですよね。今の聞いて、私もすごい納得しましたよ」
こしたんがヤンキーやってたのが漫画の影響という衝撃の事実が判明するも、内心でショックを受けてる檜山以外はそこまで悪印象ではなかった。
そんな中、ハジメからまさかの提案が飛び出す。
「これだったら、部室の外でも素を出しても問題ないんじゃないですか? 先輩も仮面優等生をいつまでも続けてたら、窮屈だろうし…」
「な、南雲君!? それは無理無理!!」
ハジメの提案を、やたら食い気味で拒否するこしたん。何故かと言うと……
「そんなことして幻滅されたら、ここまで築き上げた私のイメージが崩壊するだろ! それで"みんな憧れの虎視さん像“がぶっ壊れて、他の人気者狙い達に今の地位から引き摺り下ろされるわ!!」
「そ、そうですか…まあ、好きでやってるなら全然良いんですけど」
とのことだった。ハジメ自身、こしたんの負担にならないなら異存は無いため、とりあえず言う通りにしておこうと思うのだった。そんな中、ハジメはあることに気づいて檜山に話しかけた。
「そういえば檜山君、先週に襲われて入院した件だけど…相変わらずなの?」
「あ、ああ……意識を失う前後の記憶がきれいさっぱりでな」
「そうなんだね(餡子ちゃん、意図してやったのかな? だとしたら用意周到過ぎる!)」
どうやら、檜山は餡子に襲われた前後の記憶が残ってないらしい。攻撃を受けたショックか、餡子が意図的にやったのか、それとも檜山が本能的に自らの記憶を消してしまったのか?
そんな時、それは起こった。
コンコンッ
「すみません、シカ部ってここで合ってますか? 返事してください」
「(え、誰かが部室を?)はーい! 合ってるけど、今片付け途中だから少し待ってて!!」
「鵜飼先生以外にここに用が? みんな、漫画隠せ」
誰かが部屋の入り口をノックし、声を掛けてきたのだ。突然の事態に驚きつつも、漫画とポテチを隠してノックした相手に声を掛ける。
「ど、どうぞ…」
「失礼します」
そして入ってきたのは、冒頭に出てきた黒髪ロングの眼鏡女子だ。パッと見だといわゆる地味子とクラスで揶揄われそうな特徴だが、どこか妖艶なオーラを醸し出し、妙に目が離せなかった。
「!?(何だ!? 結構な美人なのに、急に悪寒が…)」
「えーっと、どなたかしら? スカーフの色的に、一年生みたいだけど」
檜山が内心で言い知れない恐怖を感じる中、それに気づかずこしたんが応対をする。直後、少女は自己紹介を始めた。
「はじめまして、虎視先輩。1-B所属の
犬養
この名を聞いてピンときた読者もいるのではないか? そう、彼女こそ本世界線における中村恵里その人なのだ! しかし、正史の彼女は髪をショートカットにしており、普段は隠しているが素は僕っ子。そして、惚れていたある人物を独占する為だけにクラスメイトを陥れたり、ラスボス勢力に加担したりと、暗躍していた彼女とはかけ離れている。それどころか、苗字まで違うのだ。
そんな彼女が、何故シカ部の部室に来たのか? その理由はすぐに、彼女の口から語られた。
「単刀直入に言います……虎視先輩、私をシカ部に入部させてください!!」
「……はい? 今、なんて??」
まさかの入部志望に、こしたんは思わず聞き返してしまう。
「聞こえませんでした? 私をシカ部に入れてください!!」
」はい!?「
「先輩、声裏返ってますよ!」
「あ、ああ。ごめんなさい南雲君…犬養さんだったかしら? 少し待ってくださいね」
ここに来てシカ部の入部希望者が現れたため、こしたんも変な声で反応してしまう。ハジメに諌められて落ち着いたこしたんは、他の部員達を集めて話し合いをすることにした。
「どうする? ここに来てまさかの入部希望者って……まさか、私を追い落としに来た刺客とかじゃないよな?」
「さ、流石に考えすぎじゃ…B組に光輝君の親友がいるんですけど、そんな危なそうな生徒の話は聞いたことないですし」
「天之河の親友って、坂上のことか? 脳筋で何も考えてなさそうな奴の言い分なんざ、当てになんねぇだろ」
「檜山君、言い過ぎじゃない? でも、こんな中途半端な時期の入部希望者は確かに珍しいですね」
既に11月に突入し、部活への入部時期としては確かに違和感が大きい状態だ。その中で、急に入部希望者が出てきたので色々と怪しむのも仕方ないだろう。
そんな中で、不意にここまで出番の無かった坂上龍太郎が日野南高校に在籍していることが判明している。余談だが、空手部のエースとして大活躍中だとか。
「とりあえず、いきなり追い出すのもアレだからお茶でも出して話を聞きましょうよ」
「そうだな。いきなり拒否して追い出したら、余計に怪しまれそうだし。そうと決まれば、まずはお茶の用意を…」
ハジメから恵里への対応案が出て、一旦はそれで決まる。そして早速、こしたんがお茶の用意をしようとしたその時。
「こしたん、コーヒーだったら私すぐに出せるけど」
「お。鹿乃子、コーヒー淹れれるのか。じゃあ、頼むわ」
「あ。先輩、ついでで悪いですけど僕ももらっていいですか?」
「オッケー。コーヒー二人前、用意するね」
というわけでのこたんがコーヒーを淹れ始めるのだが……
パカッ『頭が開く』
↓
『中にコーヒー豆を投入』
↓
『頭を閉める』
↓
ギュイイイイイン『コーヒー豆を挽く』
↓
「あれ? お湯どこに入れるんだっけ??」
「「やっぱりいらないです」」
((((気持ち悪っ!?))))
のこたんのまさかのコーヒーの淹れ方に、こしたんとハジメは真顔で拒否し、内心でドン引きしていた。横で見ていた檜山と香織も同様である。
「犬養さん、粗茶です。ごめんなさい、今はペットボトルのお茶しか出せるものが無くて…」
「いえいえ、お構いなく」
結局、部室の冷蔵庫にあったペットボトルの緑茶を出すことになるのだった。そして恵里がお茶を一口飲んで一息ついたところで、早速本題に入ることとなった。
「犬養さん。シカ部に入部希望とのことだけど、まずは二つほど聞きたいことがあるの。顧問の鵜飼先生に話はしたのかと、入部理由とね」
「特に後者は、11月になっていきなり新設の部活に入りたがるって、あまり聞かない話だしさ。無いとは思うけど、邪な理由とかもあるかもしれないし」
取り敢えず、部長と副部長が代表として話を聞くことに決まり、こしたんとハジメが恵里と話すこととなった。まずは質問をぶつけてみると、恵里は順番に答えていく。
「鵜飼先生になら、最初に許可をもらいに行ったのでご存じです。先生は他の部員の了承さえ貰えれば、入部自体は問題ないと仰ってましたよ」
「あ、そうなのね。部室の場所も先生から聞いた感じかしら?」
「はい。そして入部希望の理由ですが…」
そして恵里は入部理由について語られるのだが…
「この間の南雲君と鹿乃子先輩が、虎視先輩の妹さんとクイズ対決をした時のことがきっかけなんです」
「「ブーッ!?」」
「ヌン? 私となぐもんが?」
予想外の理由にハジメとこしたんは吹き出し、のこたんも食いついた。横で見ていた香織もあんぐりと口を開いており、当時その場にいなかった檜山はというと…
(例のクイズ対決がねぇ……コイツを鹿乃子達への復讐の味方にできねぇかと思ったが、無理そうだな)
こんな理由で内心ガッカリしていた。
「そ、そうなの。で、なんでアレを見てシカ部に入ろうと?」
「厳密に言えば、あの時に私にだけ見えたある光景がですね…」
そして恵里は、あの時に見た一部始終をシカ部の面々へと語っていく。のこたんが誤射された餡子の苦無を受けて死んだと思われた時、昇天するのこたんの魂を見たこと。その魂がシカの天国の神様らしきものに蹴り落とされて、肉体に戻って復活したこと。そのままのこたんとハジメが餡子と予想外の和解を実現させたこと。
当然、それを聞いたシカ部の面々はのこたんを除いて呆然としていた。しかし、恵里はそのまま話を続ける。
「それでシカ部に興味を持って調べてみたら、シカのお世話をする部活とあるじゃないですか。それで、シカについての見識を深めるのに一役勝ってくれそうに思って、入部したいと思ったんです!」
「し、シカの見識? いったい、何のためにそんなものを…」
シカの見識、という謎のワードについ問い尋ねるハジメ。すると恵里の口から…
「私を養子に引き取ってくれた、お婆ちゃんのためですね」
「「「「え?」」」」
「ぬん?」
想像の斜め上なワードが飛び出したのだ。しかも、かなり重めの。
そして恵里の口から語られた彼女の過去…それは、壮絶な物だった。
恵里が5歳の頃に父親が彼女を庇って事故死、それをきっかけに母親が「自分の大切な人を奪った」と責任転嫁して恵里を虐待し始めたのだ。しかし当時の恵里は、「自分の不注意の所為で父が死んだから」とこの虐待を甘んじて受け入れていたという。母が良家のお嬢様だったのに駆け落ちしてまで父と結婚したことから、そこまで愛していた父の死で変わってしまっただけで、いつか昔の優しい母に戻ってくれると信じていたそうだ。
それから月日が経ち、恵里が9歳になった年に虐待を受けてる最中、突如として警察が家に突入して母と引き離された。曰く、近くを散歩していた老婆が母の怒声と物音を聞いて、警察と児童相談所に通報したと言う。恵里も初めは母は悪くないと警察と児童相談所、そして通報した老婆に訴えるが、上手く言いくるめられてそのまま保護されてしまう。そして周りの大人達は恵里を母親から解放する為に、彼女に親権を放棄させようと行動していた。恵里の母は何故か頑なに拒んでいたそうで、難航していたようだ。
しかし約1ヶ月後、転機が訪れることとなる。恵里の母が新しい男を連れてきて、交際を宣言したのだ。その際、その新しい男から「前の夫との子を捨てないと結婚しない」と言われたから親権放棄に快諾したいというのだ。その新しい男が恵里の引取先か養護施設に示談金を言い値で払うとまで提案、交渉しようとするが……
「そんな穢らわしい金など要らん! 寧ろこっちから手切れ金を払うつもりでおったから、好都合じゃわ。さっさと書類を書いて、この町から失せろ小童ども!!」
この時の老婆の怒声と鬼の形相に恐れをなした2人は、親権放棄に快諾する書類を書いて去っていった。これ以降、この二人の行方は知れていないという。そしてこの一幕で、恵里の母が"自分を欲してくれる男なら誰でも良い"という本性を隠していたことを知り、恵里自身もショックを受けていた。しかしそんな中、老婆からある提案が出てきた。
「恵里ちゃんや。もし良かったら、このババのうちの子にならんか? ワシは子供ができないまま夫に先立たれて、子も孫もおらんから寂しくてのぉ。独り身の年寄りを助けると思って、頼みたいんじゃ」
そして老婆と特別養子縁組をして、中村恵里は母親と完全に絶縁し、犬養恵里となった。そこから少しずつ心の傷を癒やし、現在に至ると言う。
ちなみに書類上は母と娘だが、年齢差もあって周りには祖母と孫で通しているそうだ。
そして一通り話し終えて…
「ヒグッ…犬養さん、辛かったね。でも、優しい人に出会えて、良かったねぇ…」
「グスッ、そうだね…」
こしたんとのこたんは思わず号泣している。漫画の影響でヤンキーになっただけあり、乗せられやすいこしたんは御涙頂戴な話にも弱かったらしい。
一方で、他の面々もあまりに重い話が飛び出したため、ガッツリとメンタルを削られている。
「犬養さん、そんな重い過去があったんだ……でも、そこからどうしてシカへの見識を深めたいって話になったの?」
ハジメはなんとか気力を振り絞り、恵里に改めてシカ部への入部理由について尋ねてみる。
「実は、お婆ちゃんの家の家業があるんですけど、それがシカに関係するものなんです。お婆ちゃんには跡取りがいないから、親戚の誰かに跡継ぎを頼めないか相談してるらしいんですけど…」
ここから先の想像は大体つきそうだが……
「私、お婆ちゃんの後を継ぎたいんです。私に愛情をくれたお婆ちゃんや、周辺の大人達を助けたいんです。そのためにもシカについての見識を深めたく思い、シカ部の入部を希望する次第です。どうか、入らせてください!」
やはり、後継のためにシカについての見識を深めたいという理由であったのだ。
まさかの真面目な理由でシカ部に入りたい人間の出現に、唖然とするシカ部一同だが、その一方で自分が恥ずかしくなってしまう。というのも、発起人であるのこたん以外の入部理由が……
こしたんと檜山:流れで仕方なく
ハジメと香織:好きな人と同じ部活になりたいという打算
なのだから、仕方がなかった。理由が理由なので、ハジメや香織はすでに折れていた。
「先輩、これは入部を認めないと筋が通りませんよ。なんなら、先輩の過去を打ち明けて黙ってもらうよう頼み込むほうが良さそうです」
「犬養さん、ここまで話してて普通にいい子っぽいですし、きっと大丈夫ですって。下手に隠そうとしてウッカリ素がバレる方がリスキーですし、この場合」
「……まあ、そうだよな。わかった」
そんな二人に説得され、こしたんは観念する。そして恵里に向き合って、入部の是非について語る。
「犬養さん。入部は認めるけど、今から話すことは他言無用でお願いするわ。私の中学の黒歴史なんだけど……」
前振りをしておいて、こしたんは自分が元ヤンで、素の口調が乱暴になりがちだということを簡単に説明する。
「だから高校デビューしてから今まで築き上げた私のイメージを守る為にも、これは秘密にして! なんなら、勉強みたりとか色々とサポートもしてあげるから!」
「僕からもお願いするよ、犬養さん。ヤンキー時代の虎視先輩にすごい大きな恩を感じてるから、出来るだけ力になってあげたいんだ」
「ええ、大丈夫ですよ。私も、別に誰かを陥れたいわけじゃないですし」
何か言われると思いきや、結構あっさりと黙ってくれることを約束してくれた恵里。
「というか、そんなことしてる暇があればシカの勉強をしたいくらいですし」
かと思いきや、いきなり真顔になってそんなことを伝えてきた。取り合えず、これだけでもガチのシカ部志望なのが見て取れる。
そして話がまとまったところで、のこたんが恵里に握手を求めてきた。
「よーし、それじゃあ今日からよろしくね。えりたん」
「えりたん? それ、私のあだ名ですか?」
「そうだよ。のこたんとこしたんに続いての、えりたん……かわいかろ?」
恵里を仇名呼びして、横ピースしながら宣言するのこたん。それに対して、恵里の方は何故かキョトンとしていた。
「ぬん? もしかして、気に入らなかった?」
「いえ、そうじゃないです。同じクラスの親友から、エリリンってあだ名で呼ばれてたので、別のあだ名は新鮮だなぁって思っただけです。なので、お好きに呼んでください。のこたん先輩」
「オッケー、えりたん。いやぁ、〇〇たんって呼べる部員が増えて私も嬉しいよ。かおりんはこの呼び方はしづらいし、なぐもん達男子組をそう呼ぶのもなんか違うしさぁ」
「ふふ。お眼鏡に敵ったようで、何よりです」
そうして、のこたんと恵里は握手を交わす。一方で、その光景を見ていた檜山はというと…
(悪寒はいつの間にか治ってたが、また変なのが出てきやがったな…俺、これからやっていけんのかな?)
小悪党組で唯一、このギャグ時空に取り残されたことへの不安が強まることとなるのであった。
こうして、新たな部員も増えてますます賑やかになるシカ部。次回、早速シカ部に新たなイベントが近づこうとしている。
最後の入部メンバーは恵里となりました。当然ですが、光輝と出会う前に母親から解放されたので、性格は原作からかけ離れています。ちなみに、恵里の母親の新しい男も原作と別人で、「子供嫌いの冷血漢」なイメージとなります。
実はギリギリまで鈴とどっちをシカ部にするか迷ったんですが、その場合は恵里は家業の手伝いで部活は出来ず、親友の手伝いをする為にシカについての見識を深めたいという入部動機になる予定でした。
そして恵里を養子に引き取ったお婆さんですが、しかのこ側のあるキャラです。近いうちに出てくるのでお楽しみに。