「なぁ知ってるか?裏山の廃墟にゴーストライダーが出るって噂。」
「あぁ?なんだそれ。」
「黒い馬に乗った大男が目撃されてるんだってさ!だから今日、その大男を探しに行かね?」
「へぇ…面白そうじゃん。おいデクゥ!!お前も来るよなぁ?」
昼下がりの公園でツンツンヘアーの少年がドスの効いた声を向ける先に、緑髪のオドオドしている少年がいた。
「でっ、でも山は危ないし…大人がいないと駄目だよ…。」
「デクは弱虫だなぁ、大丈夫だって!」
そんなんじゃ、『ヒーロー』になれねぇぞ?
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「みんなぁ…どこなの……」
裏山に建てられた研究所を思わせる廃墟で少年、緑谷出久が大粒の涙を手で拭いながら彷徨っていた。
「酷いよぅ…ひっく……グスッ」
無理矢理、連れてこられた緑谷は置いて行かれ迷子になっていた。日は暮れ建物内を月明かりが照らしている。そこは廃墟と言う割には比較的新しく、窓ガラスが床に散乱していたり、壁が崩れてもいない。
…パカラッ……パカラッ………パカラッ…
「ふぇ?」
奥から何かがやってくる。辺りは暗く何も見えないが、確かにそこにいる。緑谷は足が竦んで動く事が出来なかった。その足音は、一歩、また一歩と近づいてくる。
「……黒い…お馬さん?」
暗闇から現れたのはサドルの着いた黒馬だった。フンスッ、フンスッと鼻息を立てて近づく。
「ひっ…?!」
咄嗟に顔を腕で守る、しかし馬は緑谷の匂いを嗅いで鼻を擦り付ける。
「くっ、くすぐったいよ。」
警戒を解くために行ったのか緑谷には分からないが、まるで泣かないでと慰めてくれているようで嬉しかった。
「ありがとう、お馬さん。」
すると馬は向きを変えて歩き始める。しかしすぐに首を後ろに向けて鼻息を吐く。
「着いてきて欲しいの?」
馬は言葉が分かるのか頷くように首を縦に降り、また歩き始める。
「まっ、待ってよ!」
馬に導かれるまま廃墟の奥へと進んで行く。建物を出ると中庭に出る。
すると馬は止まり、緑谷もつられて足を止め正面を見る。
「ほう…馬に気に入られたか。こっちに寄れ、なぁに食ったりしない。」
そこに居たのは焚き火に佇む、布切れのような外套を被る大男だった。
「あの……僕、緑谷出久っていいます。」
「自ら名を明かすとは躾がなっている様だな。『ベガ』だ。」
ベガと名乗る大男は手招きをして緑谷を焚き火の傍に座らせる。すると黒馬が緑谷を囲うように座り、口で緑谷の髪を撫でる。
「馬の名は、ロシナンテ。俺の愛馬だ。」
「この馬って、ベガさんの馬だったんですね…。」
「……それで、こんな廃墟に何故やって来た?」
「それは…えっと……友達に無理矢理連れて来られて。」
ぽつりぽつりと話を始める。4歳の頃に無個性だと判明した事、それを友達に知られて軽いいじめが始まった事、そして今回、この廃墟にゴーストライダーが出るという噂を聞いた友達に連れてこられて置いていかれた事を。
「怒りは感じないのか?」
「怒りなんて…、僕が無個性だから……だから!」
「怒っているじゃないか。」
「…へっ?」
「怒りを感じないとほざいて起きながら、体は正直の様だな。」
ベガが指を指す先を緑谷が見ると自分が強く拳を握っている事に気付いた。
「怒りを縛り付けなくてもいい。体に毒だ。」
「……人間は生まれながらにして、平等では無い。だが、俺はお前の思いを振り払う事は無い。」
「ベガさん…!!」
そして緑谷は、今まで、理不尽、暴力、嘲笑等で蓄積された涙を盛大に流した。
「緑谷といったな、歳は?」
「11歳です。」
それを聞いたベガは少し考えるような素振りををした後、緑谷の目を見る。彼の目は純粋で心優しい、いわばお人好しだろう。だが、ベガは気付いたのだ。瞳の奥にある自身の劣等感、周りから差別、嘲笑の対象にされる事への怒りを。
「……試す価値はあるか。」
「ベガさん?」
「緑谷よ、力を欲するか。」
「それって、個性が欲しいのかって意味ですか?」
「そうだ。」
「そんなの……欲しいに決まってるじゃないですか。」
「ならば俺の力、分け与えてやってもいい。」
その言葉に驚いた緑谷は顔を上げる。嘘か誠か分からないが、それでも彼は、ベガを信じる事にした。
そしてベガは包帯で巻かれた右腕を出す。右腕から蒼いナニカが溢れてくる様子を見て、緑谷は息を呑む。
「最後の確認だ。この力を受け入れば、貴様は強者になるチケットを手に入れられる。だが力に呑まれれば……、後は、分かるな。」
「ベガさん、僕っ、僕は受け入れます!ベガさん、『個性』のない人間でも あなたみたいになれますか?」
「それは…、貴様次第だ。緑谷出久。」
久しぶりに書いたぞ〜。