貞操逆転世界でBSSならぬWSSを量産する話   作:ひつーじ

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高校デビュー女子は惚れっぽい

 10人に1人というのは少なくない。

 左利きの人、AB型の人と同じ割合と言えば分かりやすいだろう。

 珍しいけれど、自分の交友関係には数人いる。大体そんな感じ。

 はてさて、なぜ俺が比率について考えているかと言えば、俺はその10人に1人の存在だと知ったからだ。

 

『——今年の男性の出生率は変わらず、全体の10分の1になったということです。続いてのニュースです。年々増加する痴女行為を取り締まるため警察は……』

 

 どうやら俺は男女比1:9の貞操逆転世界に転生したらしい。

 

***

 

 改札を抜け、駅のホーム。

 桜の花弁を運ぶ冷たい風を浴びながら、電車が来るのを列に並んで待つ。

 前世で着慣れた制服はパリッとしていて少し硬い。サイズは少し大きいくらいで、背が伸びたら買い換えるのかなあ、と心配していたのが懐かしい。卒業後も余裕で着れたのは悲しい記憶だ……。

 ため息をついて辺りを見回す。

 男性も見かけるが、ひたすらに女性が多い。

 やはりここは貞操逆転世界なんだと実感する。

 最初は中学三年生の春休みにタイムリープしたのかと思った。

 前世と同じ名前に同じ顔。体と感性が若返っていた以外、俺に変化がなかったのだから、そう思うのも当然だった。

 だが、テレビ、ネット、まるで年頃の女子にするような家族の反応を見て、俺がここを貞操逆転世界だと気付いたのはすぐだった。

 ……貞操逆転世界かあ。

 ネット小説を軽く嗜んでいたので、すぐに気づいた。

 だけど未だに、どう生活して良いかわかっていない。

 望んだわけではないけれど、転生したからには何かしないと勿体無い。

 ここがファンタジーの異世界なら分かりやすいのにな。

 俺は前世の知識を活かし、魔法の修行をして魔王を討伐する旅に出ることだろう。悪役ならば前世のモラルで善行を積み、原作知識を用いてシナリオを破壊しにかかるだろう。現代ならば、一人高難度ダンジョンに潜って配信を始めていただろう。

 しかしながらここは貞操逆転世界。

 男性が少なく、女性の性欲が強いだけの世界。

 貞操観念が入れ替わっただけで、前世とほぼ同じ世界。

 はあ……。とため息。

 前世とほぼ同じ世界で何をすればいいというのか。

 社会構造や価値観なんかは前世と異なるけれど、『だから何?』って話。

 俺は数少ない男性ではあるが、左利きと同じ割合でいるので極端に珍しいわけでもない一市民。特別な存在では毛頭ない。

 はあああ……。と再度ため息。

 ファンタジー中心の読み専だったが、こんなことなら貞操逆転世界の現代ラブコメを履修しておくべきだった。

 何かしないと勿体無いが、何していいか全く思い浮かばない。

 

「あ、あの!?」

 

 大きな声にびっくりして振り向くと、凄く可愛い子がいた。

 暗い茶髪はムラがあって変な染まり方をしているが、髪自体は艶やか。

 ゴテゴテしたシルバーのピアスはセンスが悪いけれど、耳はつまみたくなる程綺麗。

 ワイシャツのボタンを外して着崩す制服の着こなしはダサく、つけているネックレスも野球選手がつけてるやつみたいでピアス同様ダサいが、露出した大きな胸元は前世の男どもを魅惑してやまないだろう。

 顔は可愛い系。尖ったアクセや着崩した制服に似合わず、大きな丸い目が可愛い。鼻も唇もすっとしていて相当な美少女だ。

 

「もしかして俺に声かけた?」

「!? そ、そうです! じゃなくて、そう! 城桜高校の制服だし新入生だよね?」

「うん、そうだよ」

「わ、私もなんだよ〜」

「へえ。よろしくね」

「う、うん」

 

 そこで会話が止まってしまう。

 女の子はあたふたしていて、あまり会話が得意ではないみたい。

 俺も得意ではないけど話を広げよう。可愛い同級生と話せるのは嬉しいし。

 というより、興味がある。

 

「名前はなんて言うの?」

 

 俺は前世でこの子を見たことがない。どこの誰なのだろう?

 

「あ、はい。私、三浦千秋って言います」

 

 三浦千秋……やっぱり聞いたことがない。

 まあでもそれはそうか。男女比が変わっているのだから、生まれてこない人間もいる。元の世界と同じ人間がいるわけがない。

 きっと元の世界と同じ俺が特別なのだろう。よくある設定みたいに、この世界の俺と前世の俺が似過ぎていて、シンクロ率が高いから同期しちゃったパターンかもしれない。

 

「な、名前が変でしたか?」

 

 考え事をしていたら返事が遅れた。

 

「ああ、ごめん。響きがいいし、千秋って可愛い名前だね」

「か、かわいい!?」

「うん、俺は好きだけど?」

「す、好き……」

 

 千秋さんの顔が真っ赤に染まる。シューッと煙が出そうなくらいで、こめかみに汗が滑っていた。

 名前を可愛いと言っただけだけど、高一の時にクラスの女子から『格好いい名前だね』って言われたら照れてたかもしれない。

 これからは気をつけるか?

 ……いやいや。自意識過剰すぎる。俺は普通の男なのに、変に気をつけたら自分がイケてると思いこんでる痛い男になってしまう。

 ここが貞操逆転世界だからと言って、俺が変わる必要はないか。

 

「じゃあよろしくね、千秋さん。俺は小湊凪(こみなと なぎ)だよ」

「う、うん!! え、えっと、何て呼べばいいかな?」

「何でもいいよ。呼びたいように呼んでよ」

「え、じゃあ、凪って呼んでもいい?」

「それはちょっと嫌かな」

「だ、だよね……。いきなり呼び捨てなんて……本当私のバカぁ」

「あはは! 冗談で断ってみただけ。凪でいいよ」

「う、うぅ……凪の……いや凪くんの意地悪ぅ」

 

 どうやら凪くんで落ち着いたみたい。俺も初めましての女子を呼び捨てはハードルが高く、千秋さんと呼んでいるのでお互い様だろう。

 

「凪くん、凪くん……かぁ」

「嬉しそうに何度も呟いてどうしたの? 普通に怖いけど?」

「え、い、いや全然嬉しくないし! 普通だし! 男子の名前呼ぶとか普通だし!」

 

 男子の名前を連呼するのがこの世界の常識なら、実はホラーの世界かもしれない。

 多分違うから、きっと照れ隠しだろう。

 

「そうなんだ? 俺は千秋さんって呼ぶの結構気恥ずかしいけど、千秋さんは慣れてるんだね」

「と、当然……じゃないです。その、私、同級生の男の子と話したのも初めてレベルで、名前を呼べることに舞い上がっちゃいました。引かないでください……」

「あはは、引かないよ。俺も女の子と話せて舞い上がってて同じだし」

「うええ!?」

 

 目をまん丸に見開いているけど、千秋さんみたいな可愛い子と話せば舞い上がるのは当然だ。

 俺がまだ普通に話せてるのは、ピアスとか着こなしとか全体的にダサいからだし。

 

「シルバーアクセとか好きなの?」

 

 気になって聞いてみたら、千秋さんはポカンとした。

 

「え? しるばーあくせ?」

「うん。疎くてわからないけど、ピアスとかそうじゃない?」

「……好きとかじゃないけど、まあ? 普通じゃない? ピアスとかぁ、イケてるっしょ?」

「うーん。好きじゃないなら、正直言ってもいい?」

「え、はい」

「全然似合ってなくてダサい」

「ダサい!?」

「似合う人には似合うと思うんだけど、千秋さんには似合っていないかなあ」

「そんな!? 『高校デビュー間違いなしっ!』って記事読んで、お小遣い使い果たしたのにっ!」

「高校デビュー?」

 

 千秋さんは、やらかした時みたいにハッとした。

 

「えっと、それは、そのぅ……はい」

 

 がくんと項垂れて千秋さんは話し続ける。

 

「私、高校デビューしてキラキラな青春を送ろうって思ってて」

「あはは。じゃあピアスは外したほうがいいかも。あとボタンも」

 

 と千秋さんのワイシャツのボタンを止めて、ゆるゆるに下げられたネクタイをちょうど良い位置に締める。

 高校デビュー、キラキラな青春か……いいかもしれない。

 別にそこまで求めていないけれど、二度目の高校生活を思いっきり楽しむことは、転生した意味が生まれる。

 うん、普通に高校生活を楽しもう。これが俺の行動指針だ。

 

「はい、出来た。可愛い」

 

 そう言って千秋さんの顔を見ると、これ以上ないくらいに真っ赤に染まっている。

 今度は俺が、やらかした時みたいにハッとした。

 まずい、千秋さんが妹っぽくて、ついそのように接してしまった。セクハラまがいのことをしてしまった。

 

「ごめんっ! 迷惑だったよね?」

 

 千秋さんはタコも真っ青な赤ら顔でぶんぶん首を振ったのだった。

 

***

 

「どうして城桜高校に入学したの?」

「え、それは、あの……部活動が活発だから全国目指せるかもって」

「へえ〜。中学は何部だったの?」

「えっと、サッカー部かなあ?」

「いいじゃん。俺もサッカー好きだよ。どこのポジション?」

「えーと、ライトで8番」

「それは野球じゃない?」

「……ご、ごめん! 見栄張って嘘ついた! サッカー全然知らないし、学校を選んだのも偏差値的にちょうど良かっただけで特に意味がなくて!」

「あっはは! どんな見栄なのそれは! 千秋さん、面白いよね!」

 

 笑うと千秋さんは顔を真っ赤に染めた。

 ただこれでも赤みはマシになった方。

 改札を抜けるまで高熱があるのかと思うほど赤く、俺は警察に被害届を出されるかヒヤヒヤしていた。

 今は長い時間かけて落ち着いたようなので、俺はお縄につく心配がなくなって安心している。

 

「クラスの発表ってどこでわかるんだろ?」

 

 校門が見えると、俺は千秋さんに尋ねた。

 今日は初登校。入学式の日。私学ではあるけど普通の高校なので、クラス分け自体はまだ分かっていない。

 

「えっと……たしか玄関前の掲示板に張り出されてるらしいけど」

「そうなんだ。一緒のクラスだといいね」

「え……う、うんっ! 神様……お願いしますっ。どうか凪くんと同じクラスにしてくださいっ!」

「あはは、たかがクラスで大袈裟過ぎない? 嬉しくはあるけど」

「そ、そういうことをまた……」

 

 くだらない会話をしながら校門を越えると、学生の声が一気に騒がしくなった気がした。

 見渡す限り女子高生ばかり。男子高校生もいるけど、駅のホームで見かけた数より少ない。

 10人に1人とはいえ、その中から男子校に通ったりする生徒もいるだろうし、男子生徒は10人に1人ではないのだろう。実際、周りの女子から珍しいものを見るような視線を感じるし。

 

「あ、あれが掲示板かな?」

「多分、そうだよね。怖いけれど、行ってみましょうっ!」

 

 新品の制服の女子たちがきゃいきゃいしているところを見ると、きっとあそこだろう。

 俺たちは掲示板に近づいて、自分の名前を探す。

 

「あった。俺は1組だ」

 

 掲示板に貼られたクラス表を見て、男子の割合を探る。

 俺のクラスは俺一人だけ。他のクラスは二人とか三人。一番多いクラスで五人。

 どうして俺は一人だけなのだろうかと思ったが、明からさまな空白が一つあったので、一人入学辞退があったからだとわかる。

 工業高校や高専、機械科等に行った友達が言ってた男女の割合と近しい気がする。多分男子の扱いはそんな感じなのかもしれない。

 肩身が狭いなあ。その辺に所属していた女子にリスペクトだ。

 

「終わった……凪さんと違うクラス」

 

 声が聞こえて隣を見ると、千秋さんが絶望の表情を浮かべていた。

 

「本当だ、名前がない。残念だね〜」

「はい……」

 

 どんよりとした千秋さんを見て笑う。

 

「そんなにショックなの?」

「そ、そりゃそうだよ。初めて男子と仲良くなれたのに、夢見たキラキラの青春だったのに……もう話すこともなくなるんだ」

「あはは。そんなわけないじゃん。じゃあさ、ルイン交換しようよ」

「え……?」

「うん。勝手ながら、千秋さんのことを友達だと思ってるからさ。連絡先欲しいんだけどダメ?」

 

 千秋さんは固まった。何なら、周囲の女子も固まったので、時が止まったんじゃないかと錯覚した。

 だけど千秋さんが声を出して、そうでないとわかる。

 

「い、いいんですか?」

「いやそれは俺のセリフだから。交換してくれる?」

「……はいっ!!」

 

 首を大きく縦に振ってくれた千秋さんに、ありがとう、と礼を言って連絡先を交換する。

 可愛くて面白い女の子と連絡先を交換できた。

 高校生活、青春を楽しむのにいい滑り出しだ。

 

 それから校舎内へ入って自分の教室前にたどり着く。

 

「じゃあまたね、千秋さん」

「はい! また……うん。またお願いします!」

 

 別れを告げ、クラスに入る前にもう一言付け加える。

 

「あはは。もう友達なんだから敬語やめようよ。またね」

 

 そう言って視線を教室内へ。

 最後に見た千秋さんの顔はやはり赤く染まっていたような気がした。

 

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