貞操逆転世界でBSSならぬWSSを量産する話   作:ひつーじ

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それぞれの部活見学

(三浦千秋 視点)

 

「文芸部は無しだったかあ〜」

「ごめんね、やっぱ感性が合わないから文化系はキツそう。文芸部のこととか、男性作家の作品紹介もめちゃくちゃ説明してくれたのに」

「良いってもんですよ。たまたま知己の先輩がいて知ってただけだし、それに小説もオタク語り出来て私は楽しかったし」

「舞亜、オタク語り騙りは怖いやつを敵に回すからやめた方がいい」

「何? オタク語り騙りって?」

「わからないなら良い」

 

 なんてキラキラの会話がテニスコートに迫っている。

 ヒヤヒヤする。

 テニス部をネットに張り付いて見学しているだけなので、見つかっても何の問題もない。

 なのに、バレたくない、見つからないで、と無性に思ってしまう。

 あれだ、家族とファミレスで食事していたら、学校の陽キャグループが食事しにきたのと同じ感じだ。

 全く恥ずかしくないのに無性に恥ずかしい。

 

「何ちっさくなってるの、千秋?」

「山ちゃん。そうだ私は一人じゃない、山ちゃんがいるから恥ずかしくない」

 

 中学からの友達、山ちゃんこと山﨑。

 入学式で放心状態の私に声をかけたのは彼女だった。

 

「変なこと言うよね。ってか、見て、あれ。小湊さん」

 

 山ちゃんが横目を向けた。

 私はバレないよう顔を向けない。どうやらすぐ側まで来ているみたい。

 

「やっぱり、噂通り女の子と楽しく喋ってる。ああ良いなあ、優しいし格好いい、今からでもクラスに来てくれないかな?」

「う、うん」

「うちのクラスの男子も小湊さんみたいになってくれないかな。女子に嫌悪の目を向けるだけで、喋ってるところ見たことないし」

 

 山ちゃんはため息をついたけど、男子が悪いわけではない。

 私のクラスの男子が普通で、凪くんが特別なのだ。

 

「まあでも、一緒にいるのは美甘さんと小鳥遊さんだし、一軍の美少女だから話してもらえるんだろうな。それでも超絶優しいことには変わりないけど、私らには縁遠い話だね、千秋」

「え、あー……」

「? どうかした、千秋?」

 

 山ちゃんが首を傾げたとき、耳触りのいい声が聞こえた。

 

「あ、千秋さん! テニス部に興味あったんだ?」

「う、うん」

 

 凪くんが、やっほ、と爽やかな笑顔で手を上げて近づいてきた。

 あぁ。格好いい。胸がドキドキする。

 

「ち、ちあき?」

 

 山ちゃんがこれでもかと目を見開いて私に尋ねたことで、浮かれ切った気分が少し収まる。

 

「友達? 俺、小湊凪って言います。よろしくお願いします」

「は、はひぃ。私、山崎です」

「よろしくね、山崎さん。知り合い少ないから、会ったらまた声かけてくれたら嬉しいよ」

「ふぁ? ふぁい……」

「良かった。じゃあ千秋さん、また!」

「う、うん。またね、凪くん」

 

 凪くんは、またね、と美甘さんと小鳥遊さんの元へ戻って行った。

 

「なーくん、知り合い?」

「うん、隣のクラスの三浦千秋さん。友達なんだ」

「ふーん。小湊、一緒に見なくていいの?」

「二人がいてくれてるからね。俺の都合で絡みのない子と見学するのも気まずいんじゃない?」

「私は気にしないけど?」

「舞亜は気にしないだろうけど、私は助かる」

「あはは、小鳥遊さんは正直だなあ」

 

 なんて会話が繰り広げられている最中、私は山ちゃんに肩を揺さぶられた。

 

「な、何、どういうこと!?」

 

 ぐわんぐわんする視界で気持ち悪いけど、山ちゃんの質問に答える余裕はない。

 やっぱり戻って行っちゃった。

 私より、あの二人を選んだ。

 今回の場合は、それが普通で最善。

 一緒に来た二人に気を遣わず、私と談笑する方が間違っている。

 やっぱり凪くんは優しい人なんだと心が惹かれる。

 だけど、彼女らが凪くんの戻るべきところで今後ずっとこれが続くんじゃないか、とそこはかとない不安を感じた。

 ……凪くん、同じ部活に入ってくれないかな。

 高みにいる彼女らより、その時間だけは凪くんが近くにいる。

 その時間だけは、凪くんの居場所は私の側で、私が戻るべきところになる。

 神様どうかお願いします、と目を閉じて祈った。

 

***

 

 休憩に入った先輩がドリンク片手に私に近づいてきた。

 

「深山さんがうちに来てくれて良かったよ! これでウィンターカップ目指せるよ!」

「嬉しいです。頑張ります」

 

 城桜高校のバスケ部は強い。毎年地区ベスト4に入るレベルで強い。

 だけど流石に、推薦で選手を集めている高校の方が強い。

 この学校を選んだのは、私の偏差値で入れる学校のなかで最もバスケが強かったから。私は勝ち負けが好きなのではなくてバスケが好きなのだ。

 また休憩が終わって、先輩たちが練習に戻る。

 シューズがキュッキュッと鳴る音が好きだ。

 ネットにボールが吸い込まれる音も、掛け声が体育館内に反響するのも好き。

 蒸し暑い体育館に窓から吹き込む風がひんやりと心地いい。

 春休みはOGとして出しゃばらないよう、一人外で自主練ばかりしていたから久々の空気が美味しい。

 やっぱりバスケ部の活動は格別だ。見ているだけで心が躍る。

 だけど遠く及ばない。

 凪としたバスケの足元にも及ばない。

 バスケは好きだ。でも撮れば玉ボケしてしまうような、凪との輝いた時間に比べると、物足りなさを感じてしまう。

 もし、凪がバスケ部に入ってくれたら……と妄想を巡らす。

 

『怜、お疲れ様。はい、ドリンク』

 

 と、ドリンクを渡してくれたり。

 

『暑いね、今日』

 

 と、玉の肌に汗を滴らせる凪を目にしたり。

 

『頑張れ!! 勝て!』

 

 と、応援してもらったり。

 

『帰り、ファミレス寄ってく?』

 

 と、一緒に帰ったり。

 

『部室、二人っきりだね?』

 

 ……艶っぽい吐息が漏れた。

 昨日あれだけ鎮めたのに気持ちが昂る。

 恋焦がれるそわつきに耐えきれず、声をかける。

 

「先輩、私も参加しちゃダメですか?」

 

 きょとんとする先輩方、でもすぐにグッと親指を立ててくれた。

 すぐに着替えて練習に混ざる。

 悶々とした感情を吹き飛ばすように激しく動く。

 ボールに集中する。

 シュートしたボールがストンとネットに吸い込まれる。

 跳ぶ、投げる、跳ねる、加速する。

 やっぱり楽しい。バスケが好きだ。

 

「深山さん、すご」

「期待のルーキーすぎでしょ」

 

 先輩方も優しい。強いルーキーが現れるとスタメンの座を危ぶみ、いい顔をしないものだけれど、そんな気配一切ない。

 超強豪校じゃないから緩いのかもしれないが、それなら私の選択は正解だった。

 コミュニケーションに問題なく、今後増えると思うと怖いくらい楽しみだ。

 凪とのバスケが忘れられなくて、楽しめないかも、と考えていたけれど、杞憂だったようだ。

 とんとん、とボールをついてスリーポイントの位置からシュートを放つ。

 ボールは放物線を描いて、ネットにストンと吸い込まれた。

 ボールを取りに行った時、体育館の入り口に凪の姿を見つける。

 手元がおぼつかなくてなって拾ったボールを落とし、入口の方へ転がっていくのを慌てて追いかけた。

 

「はい、パス!」

 

 ボールを拾った凪から手わたしでボールをもらう。

 凪の笑顔と、触れた指先に甘くてもどかしい気持ちが湧き出す。

 

「怜、ナイシュー」

 

 嬉しい。嬉しくてたまらない。

 もっと褒めて欲しくて仕方なくなっちゃう。

 凪と同じ部活ならずっとこの感覚を味わえる。

 あの時のバスケの続きが紡がれる。

 いやそれ以上。好き+好きで、どれほど幸せだろうか。

 

「凪……バスケ部に入るの?」

「まだわからないけど、チーム競技だし、やるならマネージャーかなあ」

 

 男マネ。同じ部活の男マネとの恋愛は女子高生の夢。

 そんな夢は夢で終わらせた方がいい。

 そもそも凪が入るか分からないんだから、夢見るのは愚か。

 わかるけど、今だけは愚か者でいよう。

 

「凪が入ってくれると嬉しい」

 

 愚かでいることに抵抗がなくなるほど、その夢は甘美だった。「凪、考えといて」

 

「うん。バスケ部楽しそうだし、男マネも検討してみるよ」

「ありがとう、じゃね凪。小鳥遊、美甘」

「ういす」

「ばいば〜い」

 

 とバスケ部の見学を終えた私たちは第一体育館を去る。

 靴を履き替えて振り返ると、名残惜しそうな体育館で部活する皆様方。

 ま、そうだよなあ。

 男子が部活に入るかもしれないという一世一代のチャンス。むざむざと逃したくないだろう。

 だけど男子にガツガツ行って嫌われたら、なーくんのような男子に嫌われたら生きていけないので、二の足踏むのは、ま、そうだよなあ、だ。

 

「これで四つめ。入る部活は決まった?」

 

 夕子が言ったように、これで四つめ。

 奥にいたバレーボール部の背が高い先輩が四人掛かりで押さえつけられていたりはしたが、朝心配していたような激しい部活勧誘はない。

 他の女から守る騎士の気分でいたけれど、流石に退学のリスクを背負ってまで無茶なことはしでかさないだろうと思っていた。

 それでも同行したのは、もしかしたら独占欲の現れだったのかもしれない。

 まあ今となっては、どうでもいい話だけど。

 

「まだ決まってないかな。今のところ、候補はバスケ部かテニス部」

「へえ〜、何で?」

「テニス部は緩そうだったし、個人競技だから俺でも出来るかなって。バスケ部は楽しそうだけど、マネージャー業務次第かな」

「業務次第? なーくん的に嫌な業務とかあるの?」

「俺が嫌っていうか、俺に洗濯とかされたら嫌じゃない?」

 

 なーくんに洗ってもらう。

 汗なんかが染みたビブスとか、ユニフォームとかを……。

 

「変態」

「だよね。だから業務次第かなあ」

「え……」

 

 夕子の変態って言葉は想像した私に向けてのもの。

 それを自分のことと捉えるってことは……本当に女子の理想を具現化した男子だ。

 もはや私には関係のない話だけど。

 

「まあ小湊のそれは今に始まったことではないか。で、じゃあ最後の部活も見にいくってこと?」

「あはは。もし疲れてたら大丈夫だよ」

「疲れてはいるけど、楽しいから行く。で、最後の部活はどこ?」

「軽音部」

「へ?」

 

 口から間抜けな声が出た。

 軽音部? 

 軽音部ってあの軽音部? 

 ギターをガシャガシャするとか、キーボードバンバン叩いたり、ベースをべんべんかき鳴らすあの軽音部?

 私が属する予定の軽音部?

 

「舞亜と同じ?」

「うん、軽音部って高校から始める部活って感じがしていい。それに舞亜ちゃんと同じなら楽しそうだしね」

「まあそれは同感。舞亜的にはどうなの?」

 

 夕子の質問を答えるのに、間が開く。

 

「……そりゃ楽しいよ。なーくんと同じ部活なら嬉しい」

 

 そりゃ楽しいでしょ。

 一緒に楽器演奏して、休憩時間にはうだうだ駄弁って、休日に楽器屋めぐったり、ライブハウスで肌を擦れ合わせたり、文化祭とかのライブで一緒の舞台に立ったり、そんなの憧れの青春だ。

 まだ付き合いは浅いけれど、なーくんと同じ部活になれば憧れが現実的なものになると思う。

 でもまあ、憧れは憧れのままでいい。

 

「良かった。足手まといは要らないとか言われるかと思った」

「なーくん? 私そんなヤバい敵キャラみたいに見える?」

「割と」

「おーい?」

「あはは、冗談だって」

 

 そんな会話に笑いながら、軽音部の部室に向かう。

 きっと部活に入れば、こんな会話がずっと続くんだろうな。

 そしたら距離感が近すぎて勘違いしてしまうんだろうな。

 まあ私はならないけれど。

 

「すみません、見学してもいいですか?」

 

 軽音部室という名の空き教室に入って、中学の軽音部にいた先輩に声をかけた。

 

「おっ、美甘来たな……って男連れ!?」

「言い方どーにかなんないすか、先輩?」

 

 私はそう言うけれど、悪くない気がした。

 でも肥大化する前にしまいこむ。

 

「ど、どぞどぞ、粗茶です」

「ありがとうございます!」

 

 畏まってせこせこお茶を用意した先輩に、なーくんは爽やかな笑顔を向けた。

 

「ねえ、舞亜。うちらのないんだけど」

「この先輩カスだから仕方ないよ」

「カスとか言うな美甘! ティーパック、ラスト一個なの! 取捨選択した結果なの!」

「それがカスって言うんですよ。用意してください、先輩」

「うっ……わかった、探しに行ってくる」

 

 先輩は部室から出て行った。

 別にお茶が欲しいわけではない。

 人を選んでお茶を出す人、となーくんに見られないよう探しに行かせたのだった。

 なーくん、そういうタイプじゃないし、先輩も別に男子に浮かれただけで悪い人じゃないからなあ。

 こんなことで、軽音部の選択肢が潰えるのは、なーくん的にも先輩的にも惜しい。

 私的にも……関係ないか。

 ひっそりと価値のないゴミを丁重に詰め込む。

 

「あはは、面白そうな人だね」

「あの人は変だけど面白いよ」

「やっぱりそうなんだ。あ、お茶どうする? 俺別になくてもいいし、舞亜ちゃんか、小鳥遊さん飲む?」

「うちはいいよ」

「私も大丈夫。なーくんが飲んで」

「そう? じゃあ飲むけど、探しに行った先輩が可哀想だなあ」

「いいのいいの。なーくんは気にしない」

 

 私がそう言うと、なーくんはカップに口をつけた。

 紅茶で濡れた唇が目に入ってドキドキする。

 ああまた、しまわないと。

 

「はあ〜、美味しい。優しいんだね、舞亜ちゃん」

「それは良かった。譲った甲斐があるってもんですよ」

「あはは、違うって。先輩に気を遣ったんでしょ、お茶取りに行かせたの」

「え……」

「俺にも気を遣ってくれたんじゃない? 嫌な先輩じゃないよ、って教えるためにさ」

「あ、その、えと、わざとらしかった?」

「いやわかるよ。付き合いは浅いけど、舞亜ちゃんは飲まなくてもいいのに、わざわざ取りに行かせようとするタイプじゃないからさ」

 

 ……ダメ。しまう。

 

「舞亜ちゃんと仲良くなれて良かったよ」

「?! えほっ、えほ」

 

 不意の一撃にむせてしまう。

 俯いた先にすっとカップを差し出された。

 

「大丈夫? お茶飲みな」

 

 カップが口元に近づけられ、唇が触れた。

 甘い痺れと痛いくらい大きな鼓動。

 目はチカチカして頭はふわふわする。

 押さえろ。そう、しまいこめ。

 

「ありがとう、助かったぁ〜」

「良かったよ」

 

 落ち着きを取り戻し、冷静になる。

 先輩が戻ってきて、それからは今まで通り部活見学。

 活動内容とか一通りの説明を聞いて、実際の練習風景を見学。

 

「そろそろ、お暇しようか」

「おっけー、小湊。帰ろう!」

「元気になったなあ、すぐ出ていっちゃったし。舞亜ちゃんはどうする?」

 

 先輩は音の世界に入り込み、演奏に夢中。こっちの会話なんて聞こえていないのかもしれない。

 演奏を止めるのは野暮だし、終わってから挨拶して帰るか。それに少しここで歌っていきたさもある。

 

「私は残るよ。あとは夕子に任せた」

「そっか、了解」

「お見送り致しやす」

 

 部室の出口へ、一緒に行く。

 なーくんがドアに手をかけ、がらがらとドアが開く。

 私はそのドアにドンと手をつき、開くのを止めた。

 

「舞亜ちゃん?」

 

 腕が短いから、なーくんの背中に密着してしまった。

 無駄に大きな胸が潰れて、心音が伝わってしまったかもしれない。

 だけど今の恋焦がれた顔を見られないで済むのは助かった。

 

「軽音部、考えてみてね! じゃっ!」

 

 声だけは精一杯取り繕って、なーくんに背を向けた。

 何もしまうことが出来なかった引き出しは、使ったことがないから知らなかった。

 ……こんなに狭く浅かったなんて。

 

————————————————————————————————————————————

(小湊凪)

 

 5つの部活動の見学を終えたのち、小鳥遊さんと駅へ。

 

「それ神社やなくてジンジャーやないかい!」

「いきなりどうしたの、小鳥遊さん」

「いや、不意に思いついたから。ツッコんでみたいなって。小湊、なんかボケてよ」

「ええ……。じゃあ、冷え切った関係をポカポカさせるために縁結びをしに行ったんだよ。生姜湯を持って」

「それ神社やなくてジンジャーやないかい! って、小湊下手すぎない?」

「頑張ってはみたけど、無理だったわ。小鳥遊さんならできる?」

「縁結びの神社とかけまして、生姜と解きます」

「その心は?」

「どちらもポカポカするでしょう」

「パクリだし、オチの分かってる謎かけってつまんないなあ」

「ふふ、はは!」

 

 茜色に染まる通学路を、くだらないことを駄弁りながら下校する。

 なんとも青春で、昨日、今日の二日だけで、転生して良かったと思えてしまう。

 

「小湊、結局何部にするの?」

「うーん、保留。まあでも、今日行ったどこかにして明日からは所属したいかな」

「案外、気が早いんだ」

「まあね」

 

 気も早くなる。

 三週間後には林間学校で、フォークダンスの相手も選ばなければならないのだ。

 悠長に構えていては、相手の青春を奪うことになってしまう。

 

「逆に小鳥遊さんは入りたい部活動とかあった?」

「うち? ない。家でのんびりしたい、ゲームとかしたいし」

「へえ。何か小鳥遊さんってギャルっぽくないよね」

「ふふ、ようやく気づいた?」

 

 小鳥遊さんは笑った。

 

「こんな格好してるけど、ギャルでも何でもない。防具を着込んでるだけ」

「防具?」

「そう。うちが舞亜と涼香と幼馴染っていうのは知ってるよね?」

「うん」

「うちって普通じゃん? でも涼香はジュニアユース、舞亜はピアノでぶいぶい言わせてた。だからそこにいるには舐められないための防具が必要だったんだよ」

「あー、身の丈にあってないのにどうして一緒にいるんだー、みたいな感じ?」

「そうそう、それ」

「別に清水さんも舞亜ちゃんも、そんなん気にしないだろうに。言う相手がくだらないだけでしょ」

「それもそう。小湊が言うことは正しい。うちもそう思って『間違っているのはお前らだ、私の方が正しいし二人は気にせずに友達でいてくれる』って、見てみぬふりをして過ごしてた」

「過去形だし、今現在もギャルっぽいってことは?」

「うん。無理だった。嫉妬やら嘲笑、なんなら不幸にして鬱憤を晴らそうとしたりなんかは、どう足掻いてもある。それは絶対に間違っているけれど、だからといってないものとして扱ったところで、あるものはある。あるから見える。見て見ぬふりするには限界があるよ」

 

 小鳥遊さんは笑って続けた。

 

「それで怖い格好してた。まあ最近は完全に趣味だけどね」

「そうなんだ」

「ええ……。感想それだけ?」

「じゃあ、重い話聞いちゃったな……」

「うちが暗くしたくないのわかってて、そう言ってるよね?」

「うん」

「うんじゃねーよ」

 

 小鳥遊さんが笑ってこづいてきたので、俺も笑う。

 

「あはは。実際『そうなんだ』としか思わないし」

「まあそうだよね。別にうちも聞かされたところで、だから? としか思わないし」

「うん、敢えて他に感想を出すなら、そこまでするくらい二人との関係を大切にしてるんだなってことくらいかな」

 

 前世で言う、舐められたくないから不良っぽい格好をする、みたいな感じだと思うけど、小鳥遊さんの気怠げな性格でやるにはカロリーが高すぎる行動だ。

 それだけ友人関係が大切なのだと思う。

 

「そうだね。うちは、舞亜と涼香との関係が大事。楽しいし、居心地いいから、好き。だからさ……」

「だから?」

「小湊には嫉妬してんだ。涼香も舞亜も小湊に夢中で、小湊も悪くないと思ってる。そのうち、うちの方が先に好きだったのに二人を掻っ攫って行くんだって」

「それは突拍子がなくない? 仮に掻っ攫うとしても、小鳥遊さん含めて掻っ攫うよ」

「あはは、なら頼むわ。小湊といるのは楽しいからね」

 

 小鳥遊さんは「でもね、小湊」と続けた。

 

「あるものはある。あるから見える。見て見ぬふりには限界が来る。それだけは知っておいて欲しい」

「はあ。わかったけど、どうして?」

「理由なんてないよ。ただ、そんな気がしただけ。『それ神社やなくてジンジャーやないかい!』みたいなもの。思いついたからツッコんでみたい、そんだけのものだよ」

 

 小鳥遊さんはそう言って笑い、別の話を振ってきた。

 それから何でもない話をし、駅のホームで俺たちは別れた。

 

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