貞操逆転世界でBSSならぬWSSを量産する話   作:ひつーじ

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もし私が先に好きになれるとしたら

(美甘舞亜 視点)

 

 林間学校の夜。

 旅館の露天風呂。

 湯船に浸かる我々負け犬は、身体についた泡を流す涼香を、ジトっと眺めていた。

 

「あれ? 夕子は?」

「虚弱でのぼせるからって、風呂に入らず出た」

「あはは。そうなんだ? で、二人がじっと見てるのは? 私より相当早くお風呂に入ってたよね?」

「男子と長々と踊ってないのに、洗うとこなんてないって言ってます?」

「長風呂を楽しんでたらダメか?」

「舞亜も深山も怒んないでよー」

 

 あはは、と笑って涼香も湯に身体を沈めた。

 ただでさえ艶やかな黒髪は濡れて艶を増して、色っぽい。

 髪を纏めていて、白いうなじに、流線を描く肩も綺麗で色っぽい。

 上気してほんのりと赤い頬だって色っぽく、大和撫子なオーラで色気がむんむん。

 だけれど何より、満たされてツヤツヤしている顔がにエロい。

 

 唇を尖らせる。

 じとっと眺めてしまう。

 だって、涼香の色気は絶対になーくんと踊ったせいだし!!

 

「怒ってないやい! 羨ましいだけだから!」

「そう、私も怒っていない。ただ羨ましさが限界突破しているだけだから」

「それを怒ってるって言うんじゃない?」

「「言わない!!」」

 

 口を揃えて吠えると、涼香は肩をすくめた。

 そんな仕草すらえっちい。

 女性ホルモンの分泌量は、危険値を超えているだろう。

 

「そんなに、せくしぃになるほど、凪とのダンスは良かったのか……」

 

 しょぼん、とする深山に、どの口が、と思う。

 バスケで鍛え抜かれた無駄一つない肉体。

 手足は長くてモデルみたいだし、肌だって運動部とは思えないほどキメ細かい。

 汚したいという歪んだ欲望をぶつけるのに、うってつけの身体をしている。

 どエロの変態でなければ、男子と付き合える側の人間だったろうな。

 

「深山もいい身体してんでしょうが」

「……嫌味か、貴様!? このロリ巨乳!!」

「んっ! 馬鹿! 敏感なんだから揉むなアホ!」

 

 わちゃわちゃに笑う涼香に、私と深山は皮肉をぶつけた。

 

「高みの見物ですか? せくしぃ?」

「凪とのダンスは最高だったか? せくしぃ?」

「あはは。せくしぃかどうかはわからないけど……良かったよ?」

 

 濡れた唇に人差し指を添える姿は蠱惑的で、冗談抜きに、むきー、となった。

 が、冷静になると首を傾げた。

 

「涼香? 男子と踊れたことに舞い上がるのは分かるけれど、流石にテンション高過ぎない?」

「男子とじゃないよ。小湊くんと踊れたから仕方ないね」

 

 うん?

 

「まあ、なーくんは超格好いい男子だし……」

「あはは。格好いいのは同意だけど、格好良ければ誰でもいいわけじゃないよ」

 

 ……うん???

 

「えっと、仲もいいもんね」

「違う違う。私、小湊くんのことが好きだから浮かれてるんだよ」

 

 …………うん!?!?!?!?

 

 世界が止まったような感覚。

 永遠にも思える、数秒が経って、脳が理解すると口が開く。

 

「「はあああああああ!?」」

 

 深山と同時に声が溢れ出した。

 

「あはは」

「あははじゃないんだが!?」

「ぶくぶくぶくぶく」

「深山! 溺れてる!」

 

 私は深山を引き上げ、縁に首を預けさせた。

 しかし深山はすぐ正気を取り戻して、涼香に詰め寄る。

 おい、私の労を返せ。

 

「し、清水。いつから?」

「春休みから。元カレに色々言ってくれた時からかな」

 

 涼香の元カレは、男子基準では普通。

 だが、なーくんとは比較することすら烏滸がましい。

 なーくんのことだ。きっとハラスメント気質な元カレに怒ったのだろう。

 それは漫画の世界のようで、涼香が落ちてしまうのも納得だが……。

 

「何で言わなかったんだよお! てか、なーくんも知らないよね!?」

「そりゃ隠してたし。小湊くんが恋人を作らないなら、親しい友人関係を維持していれば、私がダンスのパートナーに選ばれるってね」

「ずっっっっっっる!!」

「あはは。先に好きだったものの特権だよね!」

「「うっ」」

 

 私と深山は怯んだ。

 きっと互いに、先に好きになったのは自分だと自負していたから。

 

「でもさ。二人とも……あ」

 

 涼香の視線を辿ると、なーくんに告白した子が身体を洗い終え、露天風呂に近づいてきていた。

 千秋ちゃん、だっけ?

 

「ちょうどいいか。三浦さーん、おいで!」

 

 涼香が呼ぶと、千秋ちゃんは自らを指差した。

 そして自分が呼ばれていることを理解すると、おずおずと近づいてくる。

 ぽっこりと丸いお腹、細過ぎないけど確かにくびれた腰、むちっとした太もも、豊満な胸。

 スタイルは悪くはないけれど、特別よくはない。

 だがそれが女の肢体といった感じで、ひたすらに艶かしかった。

 

「え、えと何でしょうか?」

「硬いなあ。三浦さん、小湊くんのこと好きだよね?」

「ぶくぶくぶく」

「み、三浦!?」

 

 深山が引き上げ、縁に頭を預けさせたが、千秋ちゃんはすぐに涼香に詰め寄った。

 おい深山、あんたが苦い顔するんじゃない。

 

「ど、どうして知ってるんですか!?」

「まあそれはいいじゃん。それより、小湊くん、これからもっと格好良くなるつもりだってね」

 

 胸が大きく跳ねる。

 そうなのだ。なーくんは、私たちがもっと好きになれる男子になるから、と懇切丁寧に誠意誠実に伝えてきたのだ。

 なーくんらしさが戻ったことに、なーくんらしい答えに、皆、喜んで頷いたのだけど……。

 こ、これ以上好きになるって怖すぎる!?

 ど、どうなっちゃうの私は!?

 

「皆、同じ反応しないでよ」

 

 涼香が笑って、皆同じ気持ちでいるのだとわかる。

 

「ま、そういうわけで、これから小湊くんは益々格好良くなると思う。もはや別人と言えるくらいに」

 

 だからさ、と涼香は続けた。

 

「春休みの私が一番先に小湊くんを好きになった。でもそれは、益々格好良くなった小湊くんじゃない。だから今、皆、スタートラインは一緒だよ」

 

 涼香の言葉に、ごくり、と唾を飲み込んだ。

 

「さっき言った通り、先に好きになった方が特権はある。でも、先に好きになった方が、結ばれなかった時、私の方が先に好きだったのに、って辛い。果てしなく辛くて、大人になっても引きずっちゃうかもしれない」

 

 涼香は全員の顔を見回して、手刀を湯面にゆっくりと下ろした。

 

「よーいドンするけど? 準備は良い?」

 

 涼香の意図に気づく。

 皆、手刀を湯面に下ろす。

 私の答えは決まっている。

 

「よーい、ドン!」

 

 掛け声と同時に、四本の腕が夜空に伸ばされた。

 水飛沫が上がり、落ちてきた水滴が夜風に攫われて爽快だ。

 笑い声が漏れ出し、四つの笑い声が重なって響く。

 

 そのままゆらゆらと立ち上る湯気が美しい月へ向かっていくのを眺める。

 煙は月に届くのだろうか?

 高みから見下ろして何を思うのだろうか?

 わからない。

 だけどゆらめく姿は、どこか笑っているように見えたのだった。

 

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