貞操逆転世界でBSSならぬWSSを量産する話   作:ひつーじ

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三浦千秋の微WSS

(三浦千秋 視点)

 

 男性の出生率が著しく下がって何年になるのだろうか。

 元は男女比が半々だったらしい。けれど今を生きる私にとって、江戸幕府があって侍が闊歩していたというようなもの。全く現実味がない。

 聞くところによると男女比が偏った原因は、遺伝的な問題が出なくなったことで生物的に女性が男性を選り好みする必要がなくなったため、男が増えても子孫の数は増えないので女性の方が増えていったとかなんとか。

 他にも、人工授精技術の発展で、男性の数が少なくとも人口が減らなくなったからとか、多々説があるけれど、真相は不明。

 大切なのは私が生きている間に男が増えたり、女性の有り余る性欲が減衰しなさそうなこと。

 そして……自分から行動しないと男子と触れ合う機会なんてないということ。

 中学生の私は大人しい子、いわゆる陰キャだった。

 男子と喋れる陽キャの女子を尻目に、主食のラブコメラノベとラブコメ漫画を貪る日々を送っていた。

 私だって年頃の女子。男子と喋りたくないわけじゃない。むしろラブコメを愛する分、男子と甘酸っぱい青春を送ることに焦がれていた。

 だけど話しかけることすら出来なかった。

 私は運動も勉強も人より得意なわけではない。

 面白かったり、一芸を持っているわけでもない。

 何より平凡な自分に自信を持っていなかった。

 だから話しかけてはきっと迷惑で、拒絶される恐怖で声を掛けられなかった。

 それ以上に嫌な思いをさせることが申し訳なく、男子と距離を置いて生活していた。

 可愛くて、取り柄があって、輝いている神様に選ばれたような女子だけが、男子と甘い時間を過ごせる。凡庸なる私にその資格はない。

 男子との青春を諦めようと、何度言い聞かせたかわからない。

 だが、青春に恋焦がれ、諦めることはついぞ出来なかった。

 私だって、胸をときめかせたり、ドキドキしたり、そわそわしたり、焦ったくなったり、触れあって甘い時を過ごしたい。過ごしたくて仕方ない。

 そんな願いを叶えるため、高校で青春するために私は変わることにした。

 春休みをフルに使って、ちょっとでも頭良くなろうと高校の範囲を予習し、ちょっとでも足が早くなろうと毎日走り、ちょっとでも可愛くなろうとオシャレを学んだ。

 そして今まで踏み出せなかった偉大なる一歩を駅のホームで踏み出した。

 

「んふふふふ」

 

 スマホに映る連絡先、小湊凪の文字に笑みが溢れる。

 嬉しい。人生初の男子の連絡先にニヤけてニヤけて堪らない。

 ああ、勇気出して声かけて良かった。

 走馬灯に映る人生のハイライトはきっと凪くんに話しかけた瞬間だ。

 

『あ、あの!?』

 

 今思い出しても、あれは緊張した。

 新品の綺麗な制服に身を包んだ男子の横顔を見るだけで心拍数が増加した。

 声を出したときには心臓まで飛び出たかと思った。

 

『もしかして俺に声かけた?』

 

 女子の高音とは違う男子の落ち着いた声で尋ね返されたとき、格好良い顔を向けられたとき、わたしなんかが声かけてすみません、と尻尾巻いて逃げ出しかけたが、ギリギリで踏みとどまった。

 

『!? そ、そうです! じゃなくて、そう! 城桜高校の制服だし新入生だよね?』

『うん、そうだよ』

『わ、私もなんだよ〜』

『へえ。よろしくね』

『う、うん』

 

 そこで会話が止まってしまい、自分のコミュ力の低さに泣きたくなった。

 だけど凪くんは優しく笑って話を広げてくれた。

 

『名前はなんて言うの?』

『あ、はい。私、三浦千秋って言います』

『な、名前が変でしたか?』

『ああ、ごめん。響きがいいし、千秋って可愛い名前だね』

『か、かわいい!?』

『うん、俺は好きだけど?』

『す、好き……』

 

 もうね。死んでも良い。

 同い年の男子と会話できた上、そんな言葉をかけられたのだから、照れてドキドキで夢を見てるのかと思うくらい幸せだった。

 それだけでも生まれて初めて覚える多幸感があったのに、それだけでは終わらなかった。

 

『それはちょっと嫌かな』

『だ、だよね……。いきなり呼び捨てなんて……本当私のバカぁ』

『あはは! 冗談で断ってみただけ。凪でいいよ』

『う、うぅ……凪の……いや凪くんの意地悪ぅ』

 

 からかわれて小恥ずかしい気持ちになったのに、それがどうしようもなく心地良かった。

 

『そうなんだ? 俺は千秋さんって呼ぶの結構気恥ずかしいけど、千秋さんは慣れてるんだね』

『と、当然……じゃないです。その、私、同級生の男の子と話したのも始めてレベルで、名前を呼べることに舞い上がっちゃいました。引かないでください……』

『あはは、引かないよ。俺も女の子と話せて舞い上がってて同じだし』

『うええ!?』

 

 舞い上がった私に引くことなく、自分も同じだ、と笑ってくれた。

 高校デビューとバレてしまったときも、見下すことなく私に……。

 

『はい、出来た。可愛い』

 

 男子の長い指が私の首元に触れ、格好良い顔が至近距離に迫って、うなじからは女子にはない男子特有のいい香りが鼻腔をくすぐって……ぼんっ、と顔から火が出る。

 バクバクと拍動する心臓を押さえて、すーはー、と深呼吸して落ち着ける。

 凪くんは女子の妄想を具現化したような男子だ。

 連絡先を交換したときもそう。

 

『そ、そりゃそうだよ。初めて男子と仲良くなれたのに、夢見たキラキラの青春だったのに……もう話すこともなくなるんだ』

『あはは。そんなわけないじゃん。じゃあさ、ルイン交換しようよ』

『え……?』

『うん。勝手ながら、千秋さんのことを友達だと思ってるからさ。連絡先欲しいんだけどダメ?』

 

 私はそのとき固まった。

 そりゃそうだよ……もう! もう!! もう!!!! 

 思春期女子の心臓を壊したいとしか思えない台詞だよ。女子が男子に言ってほしいことNo1みたいな台詞にトキめかないわけがない。

 普通、男の子はこんな風に距離を詰めてこない。女子を敬遠していたり、冷たかったり、小馬鹿にしている男子も少なくない。

 なのに凪くんはそんなの一切なくて、ラブコメ漫画の学園のアイドルのような男子で素敵すぎる。

 そしてそんな男子と友達になれたことは、スマホの連絡先がバッチリ証拠として残っている。

 ああもう、夢みたい。

 何度言い聞かせても諦めきれなかった夢が、今現実に起きている。クラスは違うけれど、私は最高に素敵で格好良い凪くんと薔薇色の青春を送れる。嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて堪らない。

 莫大な初めての感情が溢れ出し、私はスマホをぎゅっと抱きしめることで発散する。

 

「千秋、どうしたの? 入学式行くよ」

 

 怪訝な顔の中学からの友達に現実に引き戻され、いつの間にか人がいない教室を慌てて出た。

 体育館への移動の最中も凪くんのことを考え、浮かれていたとき、凪くんの姿が見えた。

 目が合う。手を挙げてくれる。喜びが全身を駆け巡る。

 そして私は手を挙げ……かけたが下げた。

 凪くんの周りにいた女子が目に入る。

 私とは違う、可愛くて、取り柄があって、輝いている神様に選ばれたような女子達だ。

 ……そう、だよね。

 何を夢見ちゃってたんだろう。

 凪くんに相応しいのは、ああいう子達だ。

 凪くんが選ぶのも、ああいう子達だ。

 そこに私のような凡庸な陰キャが入り込む余地なんてない。

 それから入学式が終わるまでの記憶はない。

 中学の友達が言うには、放心状態になっていたみたいだった。

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