貞操逆転世界でBSSならぬWSSを量産する話   作:ひつーじ

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ガルバ系女子はカウンターでグラグラ

 入学式が終わったので俺はポツポツとメッセージを打ち込む。

 

『凪です。顔色悪そうだったけど大丈夫?』

 

 スタンプを添えて送信し、アプリを閉じる。

 入学式前に見た千秋さんが心配だ。

 顔が暗かったし、体調不良か?

 もしくは何か嫌なことでもあったとか……ありうる。

 千秋さんの身だしなみを整え、ピアスとネックレスを外させたとはいえ、ムラがある髪色は目立つ。

 もしかしたら、いじめっ子に目をつけられたのかも。

 今時、そんなガキくさい高校生がいるとは思えないけれど、もしそうだったら初めての友達を守るための行動は辞さない。

 事実確認のため、メッセージを付け加えておく。

 

『何かあったら、相談乗るよ』

 

 メッセージを送信すると再びスマホを閉じる。

 

「アー、アー、ルインってアプリってシッテルー?」

 

 体育館から教室へ帰る道中。突然、前を歩く美甘さんが棒読みで言った。

 

「美甘さん、何を言ってるんだ? 今時知らない人、ましてや女子高生が知らないなんて……」

「おい、深山怜。私に話を合わせろ」

「わ、わかった」

「ルインってアプリ〜、知らない間にスマホのホーム画面にあるんだけど〜、これってウイルスかなあ〜?」

「ウイルスじゃない? うちは今すぐ消したほうがいいと思う」

「小ギャル! 邪魔すんなあ! えーとぉ〜、開いてみたらぁ〜、連絡先みたいなところがあるんだけど〜」

「小湊くん、ルインやってる? もし良かったら私と交換してほしいんだけど?」

「涼香ぁ〜! 抜け駆けするなあ!」

 

 どうやら美甘さんは俺がルインをしてる画面が見えて、棒な演技をして遠回しに連絡先をもらおうとしていたみたい。

 ガールズバンド風のピンクメッシュが似合う美少女だ。その可憐さなら、くれ、の二文字で片膝ついて男子はささげるのに……いやこの世界ではそんなことないのかもしれない。

 

「あはは! 勿論いいよ!」

 

 俺は片膝ついて捧げる世界の人間なので、QRコードを表示してスマホを出した。

 

「よ、よろしいので?」

 

 美甘さんが丸くした目を俺に向けてきたので頷く。

 

「勿論。あ、来た。清水涼香、アイコンはダックスフンドか、可愛いなあ」

「ふふん、でしょ? うちの愛犬は世界一可愛いんだ!」

「え〜、いいなあ」

 

 ハッとした美甘さんがものすごい勢いでスマホを操作したかと思えば、俺のルインに通知が来る。

 

「お、美甘舞亜。アイコンは……」

「ナイルワニだよ! 家で飼ってるんだけど見に来る?」

「遠慮しとこうかな……」

「ええ!? 頑張ってネットで拾って今変えたのにいっ!」

「舞亜……もっと別の生き物があったんじゃない?」

 

 呆れたような小鳥遊さんに美甘さんはキョトンと首をかしげる。

 

「え? ナイルワニ可愛くない?」

「……送るね、小湊」

「ちょおっ! どうして反応ないのさ!」

 

 小鳥遊さんからもメッセージがくる。アイコンは自撮りで、ギャルっぽい小鳥遊さんらしい。

 

「深山さんはまだ来てないけど、俺から送ろうか?」

「い、いや、私が今すぐ送るからっ」

 

 すぐに来た。アイコンはバスケットボール。これまた深山さんらしい。

 このわずかな時間で為人をかなり知れたと思う。

 だけどもっと知りたい。

 皆いい人で、早く知って仲良くなりたいと思ってしまう。

 

「ありがとう、みんな! グループとか作る?」

「うっわあ、賛成賛成!! 最高じゃん!!」

「舞亜はっや。うちら三人のグループあったのに即抜けたじゃん」

「そんなグループなかったよ! だから早く作って! なんなら私が作ろうか!?」

「あはは、いいよ。もう俺が作ったから」

 

 全員を招待。そしてもっと仲良くなるためにurlを貼る。

 

「何このリンク? 近所のラウンド2?」

「うん。親睦会を兼ねてどうかなって」

 

 そう言うと、小鳥遊さんが目を輝かせた。

 

「いいじゃん、今日行こうよ。涼香行ける?」

「うん、明日から部活の紹介とか体験があるから今日行こう。楽しみだね」

「私も部活がない今日行きたい。私を交ぜてくれるならだけど……」

 

 恐る恐る言った深山さんに笑いかける。

 

「勿論一緒に行こうよ! 一緒に遊んで遠慮しなくなるまで仲良くなってやるから覚悟しとけ!」

 

 俺がそう言うと、深山さんは顔を隠すように頷いた。

 

「舞亜どしたん?」

「うん、舞亜が一番乗り気そうなのにね」

 

 首を傾げる小鳥遊さんと清水さん。

 そういえば、まだ返事がないな、と見ると、美甘さんはまじまじと俺を見てきていた。

 

「どうしたの? 美甘さん?」

「いやあ、何もない……ってことはない! ち、ちょっと小湊くん、こっちこれる?」

「え? うん」

 

 どうしたんだろうか?

 皆から離れ、美甘さんについていく。

 誰もいない階段の踊り場まで来ると、美甘さんに尋ねられた。

 

「小湊くんって現実の男子だよね?」

「何を言ってるの?」

「いやあ私も何言ってんかわかんないけど、うーん。流石に理想の男子すぎない?」

「俺が? 何でそう思ったの?」

「だよねえ……それが素なんだよねえ。だから誰彼構わず優しくしちゃうんだろうけど……あのさ、小湊くん」

 

 美甘さんはぐっと距離を詰めてきた。

 小悪魔感のある可愛い顔に見上げられる。

 綺麗な澄んだ瞳、リップが塗られた潤んだ唇が目に入りドキッとした。

 

「そんな女子に優しく接してたら、本当に好きになられちゃうよ?」

 

 じっと目を合わせられる。

 時が止まったかのように静かになる。

 綺麗な瞳にも、潤んだ唇からも引力を感じる。

 

 しばらくして美甘さんは笑った。

 

「あはは。ちょっと、忠告。小湊くんも興味ない女子に本気になられても困……」

「え、全然好きになってもらっていいよ」

「はへ?」

 

 ぽかんとしている美甘さんだけど、俺としては当然のことだ。

 こんな美少女に好きなってもらって、嬉しくないわけがない。

 

「逆に好きになっちゃったらごめんね?」

 

 俺がそう謝った時、始業開始の鐘が鳴った。

 

「やばっ、教室戻ろ」

 

 美甘さんに背を向けて駆け出すと、かなり間があって背中に足音が届いた。

 

***

(美甘舞亜視点)

 

 本気になるのは格好良い。

 サッカーで全国大会を目指すのも、毎日せせこまと写真をSNSにあげて評価を稼ぐのも、ゲームの一勝に拘って夜更かしするのだって、なんだって輝きがある。

 何事においても本気になる人というのは格好良い。

 殆どの人は憧れているだろう。だって殆どの人が本気になんてなれないから。

 本気になって結果が残らなかったら怖い。

 本気になって何も実らなかったら自分は大したやつではないと自尊心が傷つく。

 人には嘲笑われることだってあるし、本気になることで周りから人が去ることだってある。

 だから殆どの人は本気になれない。

 かくいう私も本気になれないうちの一人だ。

 3歳のころに始めたピアノは中二でやめた。

 得意だったし、コンクールで賞をとった経験もざらにある。

 ピアノを弾く時間は好きだったし、血の滲むような努力してきた自負もある。

 今でも同年代では上の方だと思っているし、時間があればピアノを触りたいとは思う。

 それでもやめてしまったのは、自分より才能も技術もある人たちと比べられるのが怖かったからだ。

 わざわざ深掘りするまでもない何てことない話。

 大人になる過程で誰もが経験する話で、私がどこにでもいる普通の女子という話だ。

 中学校三年生から私は軽音楽部でバンドを始めた。

 ピアノは天才に及ばなかったけれど、バンドなら私の感性が評価されて、天辺をつかめるかもしれない。

 そんな思いで始めたけれど、もはやピアノをやっていた子供の私ではなかった。

 

『キーボード上手すぎっ! 歌も上手いしボーカルの方がいいかな!?』

『私たちなら上を目指せるかも!』

『頑張って練習しようね!』

 

 なんて言いながら大して努力をしないメンバーに囲まれた私は、なーんにも思わなかった。

 むしろ私も、頑張ろうね、とか嘯きながらテキトーに練習していた。

 バンドで評価されたい、上手くなりたい気持ちは嘘じゃない。

 けれど成し遂げられなくても微塵も問題ない。

 そんな思いでテキトーに練習していたのだ。

 いわば本気ごっこ。おままごとの類。

 人は頑張らない人間に対して冷たいので努力しているフリをする。

 失敗しても傷つかない範囲の努力をする。

 自分は努力しているという幻想で自尊心を満たし、頑張っている自分に酔う。

 それが本気ごっこ。ノーリスクハイリターンのよく出来たシステムだ。

 使わない人間は愚かであるとすら思え、だからこそ使わない人間に敬意を示す。

 使わない人間になれない私は、人一倍敬意を示している。

 だから尊敬する本気になる人が悲しい末路を辿らないよう、小湊さんに忠告した。

 

『そんな女子に優しく接してたら、本当に好きになられちゃうよ?』

 

 と。

 小湊さんは、まあモテ男子だ。

 

『ねえさ、俺らぼっちなんだけど、話に交ぜてくんない?』

 

 と距離感を感じさせずに明るい笑顔でグイグイ来てくれる。

 それだけで惚れなかった私を褒めたいくらい魅力的だ。

 

『あはは! 全く気にしてないから大丈夫! ただ、男子女子限らず、あんまりそういうことは言わない方がいいかもね』

 

 性格も出来ている。

 大雑把な女子と違い、男子は繊細なので、冗談であっても当たり外れとかの話はしてはいけない。

 だが小湊さんは、男子女子限らず、と言ったのだ。

 それは女子であっても雑に扱ってはならないと思っているということで、まるで聖男かのような男子だ。

 けど堅物なわけでもなくて、私のくだらない冗談にもコロコロ笑ってくれるし、本人自体も明るくて会話していて楽しい。

 ルインを交換することにも抵抗がなく、仲良くなろうと率先して提案するくらい気が利く。

 挙句、『勿論一緒に行こうよ! 一緒に遊んで遠慮しなくなるまで仲良くなってやるから覚悟しとけ!』と言ったり、女子の腕を平気で組んだりする始末。

 普通に一緒にいたら、こんなん好きになっちゃうだろ……。

 だから私は忠告した。

 小湊さんに本気になってしまって傷つく人を見たくなかったのだ。

 小湊さんは悪い人じゃないから、惚れられて悲しむところを見たくなかったのだ。

 ……なのにさあ。

 

『え、全然好きになってもらっていいよ』

 

 ……だって。

 

『逆に好きになっちゃったらごめんね?』

 

 ……って、クソ格好良い顔で言うんだぜ。

 バクバクと心臓が鳴り響く。顔に血が上って火が出そうに熱くなる。

 あああああああああああああ!!!!

 心の中で大きく叫ぶ。

 そりゃ小湊さんと仲良くなれたらいいなって思って、

『いいよ、小湊さん! 夕子が怖かったらちゃんと遠ざけてあげるから。この美甘舞亜、十年来の親友より、男子との学生生活を優先します!』

 とか、

『アー、アー、ルインってアプリってシッテルー?』

 とか、私は言ってたよ。

 でもそれは、いつもの本気ごっこ。

 本気になって傷つくことが怖い私の処世術にすぎない。

 小湊くんは数少ない男子の中でも、極僅かなモテ男子だ。

 ピアノよりも身を結ばない可能性も高い。

 本気になったら絶対に傷つく。

 そんなの分かりきってるのに……。

 

『え、全然好きになってもらっていいよ』

 

 何で本気になっても良いって言うんだよお!

 

「はああ……」

 

 心の中で消化できず、ため息となって口から出た。

 時刻は14時。入学式は午前授業。一旦家で着替えてから14時10分に現地集合。

 目の前にはボーリングのピンが目立つ建物、ラウンド2がある。

 

「はあああ……私は正気を保っていられるのか」

 

 そう呟いて、とぼとぼと建物内へ歩を進めた。

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