入学式の日に出来た友達とラウンド2に行くというのは、高校生は皆憧れるシチュエーションだ。美少女4人と行くのだから尚更だろう。
制服のままでも良かったけど、動きやすい服装に着替えるため一旦帰宅。
そのお陰で女子四人の私服を拝める結果になった。
まずは深山さん。
バスケ女子らしい、バスケのチームロゴが入ったスウェットの上下。
クールでスポーティーな印象の服装だけど、スウェットが丸みを帯びていて女の子らしくて可愛い。
スニーカーもバスケ女子って感じの可愛いやつで、何なら制服よりも女の子らしさが出ていて凄く似合っている。
次に小鳥遊さん。
タンクトップTの上に、オーバーサイズの黒のジップパーカーをゆるっと羽織っていて、艶かしい肩に鎖骨が露出されている。
黒のキャップから溢れ出すプラチナの髪が、パーカーの黒も相まって映えて美しい。
パーカーの丈より短いショートパンツから伸びる脚は、程よく引き締まっていて滑らかな美脚だ。
大きいスニーカーもデザイン性があって目立ち、可愛い印象を強めている。
続いて清水さん。
ジーンズ、白のシャツ、と凄くシンプルだけど、両方デザインがお洒落で安っぽい印象は全くない。むしろ清水さんの爽やかさにマッチしていて、白百合のような高潔さすらある。
清楚そのもので、前世のラブコメ漫画のヒロインは彼女を参考にしているのでは、と変なことを思ってしまう。
最後に、美甘さん。
ボーダーの長袖Tシャツにピンクメッシュのミディアムヘアーが似合っている。
制服で見た時より胸の部分は大きく膨らんでいて、着痩せするタイプなんだと思う。
ベージュのパンツはストリート風で、バンド系女子っぽさもまた可愛い。
あと何かもじもじとして目を伏せているのが、凄く可愛い。
「何しおらしくしてんの? 舞亜らしくない」
「らしくあるべきか、らしくなく行くべきか悩んでいるんだよっ夕子! 私はどうすればいい!?」
「うわっ、何か変でキモ。でも舞亜らしいか」
「ねえ? キモいをアイデンティティにしたことないんだけど?」
「やっぱり仲良いね!」
笑うと、美甘さんは顔を赤くしたのち、はああ、とため息をついた。
俺は、何で? と内心首を傾げる。
「じゃっ、舞亜も来たことだし、入ろっか! 私すぽってゃ好きなんだよ!」
清水さんが受付に行ったので後に続く。
入学式の日が他の高校と一日ずれているので、まだ学校の終わってないこの時間は空いている。
並ぶことなく受付を終えると、何か羨ましそうな顔の店員さんから紙製のリストバンドを貰ってすぽってゃのエリアへ。
「まずどこから行く? バスケ以外で」
「バス……な、何でバスケダメなの?」
「そりゃ深山にボコられて終わりじゃん。やりたくなーい」
小鳥遊さんの言葉に深山さんはがくんと項垂れた。
「深山さんってそんなに上手なの?」
「そんなに上手。学校違ったうちでも知ってるくらいだよ。全国には決勝で負けて行けなかったけど、選抜でバリバリ活躍してたからね」
「すっご!!」
尊敬から深山さんを見ると、恥ずかしそうに顔を赤く染めた。
「だからやんない。あとフットサルもやらない」
「ええ〜、なんで〜」
今度は清水さんから不満の声が上がった。
「そりゃそうでしょ。ジュニアユース入ってたやつとやりたくないわ」
「ユース!? 凄いね!」
「でしょ? ってまあプロになるつもりはなかったから、上がるタイミングで辞めちゃったんだけどね。だから深山さんみたいに、プロを視野に入れられるほど上手ってわけじゃないし」
「それでも凄いけどね」
「あはは、ありがとう。小湊くんは優しいね。でも私で凄かったら、舞亜の経歴聞いたら目が飛び出ちゃうよ」
「え、そうなの?」
「新聞社主催のコンクールで全国3位だからね」
ピアノに対して無知な俺でも全国3位が偉業だということは分かる。
「美甘さん凄いね! 敬語とか使った方がいい?」
「……っ!? い、いやあ昔取った杵柄ですよ。大したことありゃしまへん。結局やめちゃったし」
「珍し。ピアノの話をしたら、嫌そーな顔すんのに」
「男の子に褒められて嫌なわけないでしょうがっ! それに嫌な顔してるのは、涼香が勿体無いお化けになるからだよ!」
「事実勿体無いよー。小湊くんも、そう思わない?」
清水さんに同意を求められて、ちょっと考えてみる。
たしかにまあ、勿体無いと思う気持ちはわかるけど。
「俺は思わないかな〜。外から見たらそりゃ勿体無いとは思うけど、一番わかってる本人が辞める選択をしたんだから尊重する……ってか何も思わない。俺からしたらピアノをやってようがやってまいが、美甘さんに変わりないしね」
「まあそうなんだけどね。だから私も舞亜と友達でいるし。でも、勿体無い」
「あはは!」
清水さんは付き合いが長い分、美甘さんの努力を目の当たりにしてきた。だからママっぽくなっているのだろう。絆の深さが垣間見えて微笑ましい。
「舞亜」
小鳥遊さんが美甘さんを呼んだのに返事がない。
どうしたのか見てみると、顔を真っ赤に染めて硬直していた。
「舞亜が言われたいこと言われて照れて固まってる」
「う、うぅ……固まってないっ! 人を蓋閉め忘れたワックスみたいに言うなあっ!」
「蓋閉め忘れたワックスみたいには言ってない」
「あはは。もしかして小鳥遊さんにも凄い経歴とかある?」
「うちはない。ただの女子高生」
「同じだ。落ち着くぅ〜」
「小湊、失礼か?」
小鳥遊さんはそう言ってくすくす笑った。
人形みたいな顔立ちのギャルに冗談が通じてちょっと嬉しい。
「いいね! いつも男子に怖がられる夕子が小湊くんと仲良くなれてるし、もうすぽってゃに来た甲斐があるってものだね! 今日来て良かった!」
「今日来て良かったっつーか、今日しかなかったって話じゃね?」
「まあそうだね。私も深山さんも明日からは部活。スタメン狙ってかないといけないし」
「うん。私は夏の大会で絶対に勝ちたいから、今日じゃないと嫌だったかも……」
清水さんも深山さんもスタメンと大会という目標に向かっているみたい。
いいなあ。
俺も高校生活を楽しむという目標があるけど、大会とか分かりやすい目先の目標がない。
一応、今日は仲良くなることは目標だし、やりたいことをやっていくつもりではあるけど、明日からの目標が欲しい。
ま、すぐに見つかるだろう。
今は入学して出来た友達とすぽってゃという最高の青春を楽しもう。
「なら今日、部活で行けなくなって良かったって思うくらい楽しみきって、うんざりしよう。俺が何やるか決めていい?」
笑い声と賛成の声で、早速キラキラした青春の空気に心が満たされた。
***
「おりゃー!」
カキーン、と快音が鳴る。
130kmの速球をバックネットに打ち返した美甘さんにパチパチと拍手を送る。
「やるねえ、美甘さん」
最初に来たのはバッティングスペース。
打席を外から眺められるカウンターで俺は声援を送っていた。
「そりゃそうですよ! いいとこ見せたさと、むしゃくしゃした感情で今の私はリーガーも真っ青! おりゃー!」
やけくそ気味の返事がきてすぐ、カキーン、と快音が響く。
美甘さんは良く分からないことを言っているけど、振り返ってみれば良く分からないことを言ってばかりなので、そういう人なんだと思う。
そんでそういうところが俺は好きだ。一緒にいて楽しい。
「舞亜は飽きないなぁ」
くすくす笑う小鳥遊さんに同意する。
「美甘さん本当に良いよね。仲良くなれて幸運だよ」
「だからっ! そういうぐらつくことを言うなっちゅーに! おりゃー!」
カキーンと快音が響いた。
直球のみとはいえ、長打率がすごい。ミカモサンと呼びたくなる。
「はあはあ……次、誰いく?」
全球打ち終えてバッティングスペースから帰ってきた美甘さんは、ぜえはあ、と息を切らしていた。
「んじゃあ、俺行こうかな?」
「小湊が? 出来んの?」
「出来ない。打てなかったら笑ってね」
「ガハハハハハ!!」
「まだ打ってねえわ! 笑い方豪快すぎでしょ!」
なんて小鳥遊さんと冗談を交わして、笑いながら打席に入る。
筒に入ったバットを引き抜く。
重いけど、振るのに何の問題もない。高一の時の俺と同じだ。
ミカモサンがいたので女子の身体能力はわからないけど、男の身体能力は変わっていないみたい。
ヘルメットを被り、マシンのスイッチを押す。
バットを構え、ウィーン、というマシンの機械音に緊張する。
ギュン、とマシンの腕が回り、投げられたボールを打ち返した。
手に伝わる硬い衝撃が気持ちいい。爽快感があって、気持ちがふわっと軽くなる。
スポーツには以前と変わらぬ面白さがあって安心だ。
ここに来るまでコミックコーナーの前を通ったけど、漫画は女性向けが主流だった。男性向け作品もあったが、この世界基準の男性の作品ぽかったので、価値観が違って楽しめそうにない。
だからスポーツという俺でも楽しめる娯楽があることはありがたかった。
「よっと」
カチン、とカス当たり。
運動は好きだが得意ではないので、ファールボールを多々出して俺のバッティングは終わった。
「上手いんだねー、小湊くん」
中に戻ったら清水さんにそう言われて、首を傾げた。
「え? 上手かった?」
「うん。皆もそう思うよね?」
清水さんが他の皆に顔を向けると、皆首を縦に振った。
「わりと上手いと思うけど。うち、男子が130km打ってるのなんて早々見ないよ」
「それはそうかも。運動する男子ってあんまり見ない」
「女子みたいにモテたくて〜とか、舐められたくなくて〜とか、そういうのも無いしね」
清水さん以外の三人の話を聞いて、『あーまあ、そうなのかも』って思う。
スポーツはチームスポーツが多いし、数少ない男子が参入するのは厳しい。
また、前世では女子の目とかを気にして運動部に入るなどのくだらない風潮があったが、公園でswitchiiiする時代に風潮がないのなら、男子が運動しないのも変ではないのかもしれない。
体育も少ない人数じゃ碌に出来ないだろうし、男子が運動しなくなるのも……あれ? 俺の体育はどうなるの?
「俺、体育ってどうなるんだろう?」
「え、シラバス見てないの? 男子は自習か女子に混ざって参加か選べるんだよ」
「そうなんだ。それは割と助かるかなあ」
一人女子に混ざって体育というのは気まずい。成績のために女子相手に全力で行けば引かれるだろうし、接触して怪我させるのも申し訳ない。
だから割と助かる制度だ。
「うん。でも小湊くん、三週間後にある林間学校のやつは強制参加だよ」
清水さんがそう言うと、深山さんと美甘さんの顔に緊張が走った。
「くふふっ……いい顔したね、舞亜、深山」
小鳥遊さんがニヤニヤすると、美甘さんと深山さんは慌てた。
「は、はあ!? してねえしっ!」
「つ、次は私の打席だな」
深山さんは行進みたいに右足と右手を同時に出して歩き、打席に入った。
ヘルメットを被り、バットを引き抜き、素振り。そしてマシンのスイッチを押しに行こうとしたので、俺は慌てて止めに入った。
「ダメダメ!」
「え?」
ぽかん、とする深山さんに、止めに入って良かった、と胸を撫で下ろす。
「深山さん、右利きだよね?」
「う、うん」
「だったらこっち側」
と肩を挟み込むように手を添えて深山さんを運ぶ。
続いて背後から覆いかぶさるように深山さんの手を掴み、グリップを握る手を上下逆に持ち替えさせる。
「握りはこう。それでスタンスはこんな感じ」
と深山さんの体の位置を調整する。
「ふう、これでよし! 部活頑張らないとなのに、変な打ち方して怪我しちゃまずいからね!」
じゃあ頑張って! とマシンのスイッチを押してすぐ中に戻る。
カウンターに戻って深山さんの打席を見るけど、全球三振だった。
「意外に深山さん、バスケ以外は苦手なのかな?」
「いや……深山は頑張ったよ。たまに振れてただけ偉い」
美甘さんはパチパチと拍手を送った。