貞操逆転世界でBSSならぬWSSを量産する話   作:ひつーじ

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三浦千秋は分かっていても尚

 バスケを終えた後皆のところに戻り、19時になるギリギリまで駄弁って店から出た。

 駅につながる通りをぺちゃくちゃ喋りながら歩く。

 ラウンド2は駅近くにあり、帰り道は短い。

 疲れているのか、それとも惜しいのかわからないけど歩みは遅かった。

 

「何か食べて帰る?」

「うちは食べれる気しないからパス。疲れた」

「そだね。まだ一日目だし、これから何度も食べに行く機会はあるか〜」

 

 清水さんがそう言って、やはり今日は解散の流れになった。

 惜しい気持ちはあるが、満足感が優に上回っている。

 もう高校生活を満喫しきったような気すらするが、恐るべきことにまだ入学初日。

 これ以上の青春なんてありはするのか? と不意に考えると、忘れていた疑問を思い出した。

 明日からは何をしよう?

 ラウンド2に来るまでに『ま、すぐ見つかるだろう』と思った小目標は、まだ見つかっていない。

「小湊くんって駅はどっち方面? 家まで送ってこうか?」

 

 振り返った清水さんは、散々汗をかいたはずなのにサラサラの髪を靡かせた。

 

「清水さんが俺を? あはは、逆に俺が送るよ」

 

 俺はおかしくて笑うが、皆様方に、うーん、と渋い顔をされてしまう。

 

「小湊くん、最近は痴女事件だって多いんだから気をつけないと」

「そうそ。小湊さんさあ〜、流石に女に無警戒すぎやしやせんか?」

 

 美甘さんにジトっとした目を向けられた。

 そんなこと言われても、警戒しようがない。

 別に痴女と出会うことは俺にとって嫌なことじゃない。むしろメタルスライムが出現したような嬉しさすらある。

 が、まあ、俺の安全を思ってくれる友達を心配させてまで出会いたいかというと、そうではない。

 

「わかった、気をつける。でも、駅から家は近いし交番もすぐだから、送ってもらわなくて大丈夫だよ」

「う〜ん、いやそれは安心なんだけど。そのもっと女には警戒してほしいっていうか……」

「あはは、俺も流石に知らない人は警戒するよ。でも今日は美甘さんたちと一緒に居て安心してたから、緩んだところしか見せれなくて心配させちゃったかな? ごめんね」

「そういうとこ!!」

 

 ええ……美甘さんに怒られてしまった。

 割とどういうところか本気でわからない。

 

「美甘の言いたいことはわかる。凪はそういうところ良くて良くない」

「そうそう! っぱわかってんじゃん、深山! ……って凪?」

 

 美甘さんがギギギと音を立てて首を回す。

 

「深山、いつの間に、小湊さんのことをファーストネームで呼ぶようになったの?」

 

 あぁ。そう言えば、バスケが終わってから初めて名前を呼ばれたな。

 怜はあのあと妙に静かだったので、会話にはあまり参加していなかった。

 だから俺の名前を呼んではないし、俺も怜とは呼んでいなかった。

 

「美甘さんと小鳥遊さんがテーブルの上で干物になってた時、怜とバスケして自然と呼ぶようになったんだよ」

「ヘー……。しかも、怜……か」

 

 美甘さんは悲しそうな泣きそうな顔で俯く。

 しかし、すぐに上がった顔はスッキリしていた。

 

「いやあ良かった! モヤモヤしていたことも最後に踏ん切りがついた! やっぱり私は続けよう!」

「どういうこと?」

「大丈夫、終わったこと! これからは美甘舞亜の正しい姿をお見せできるから、とくとご覧あれ!」

 

 はあ。まあ良くわからないけど、気にするなと言われたら気にしない。

 本人に語る気がなく、探るヒントすら落ちていないのだからそうする他ない。

 

「まあ美甘さんがいいならいいよ」

「おう! オールオッケーさ!」

「了解。それでなんだけどさ、美甘さん」

「何かな?」

「俺も舞亜って呼んじゃダメかな?」

「え……」

 

 美甘さんが固まった。

 やばい。怜と同じように下の名前で呼べるくらい仲良くなったと思ったけど、流石に早かったか……。

 

「ご、ごめんね。流石に馴れ馴れしかったよね?」

「い、いや、めちゃんこ嬉しいし、下の名前呼びは全然良いんだけど………………全然よくなぁああああい!!」

 

 美甘さんは堪えきれないといった感じで、小鳥遊さんの背中にダイブした。

 

「うわあっ、舞亜。うちにのしかかんな!」

「うるせえ、夕子! もう歩く力もねえよ! おんぶしろ!」

「あはは!」

 

 清水さんが目元を拭って笑ってるところを見るに、三人にとっては美甘さんの奇行ではなくいつものやりとりなのだろう。

 

「仲良いね、本当に」

 

 同意を求めて怜を見ると、寂しそうな顔をしていた。

 

「怜?」

「ん? あ、ああそうだね」

 

 怜はそう言って笑う。

 なんとなく自嘲のような儚い笑みだと感じた。

 

 ***

 

 午後九時。

 無事帰宅し、風呂を済ませ、ベッドに寝転ぶ。

 

 強い睡魔に襲われる。

 明日学校で寝ないよう今日は寝て、疲れを残さないようにしないと。

 

 でも、最後に……スマホを操作して電話をかける。

 

『は、はひっ、三浦千秋でございましゅ!!』

 

 上ずった元気な声が聞こえて安心する。

 

『何慌ててるの? あとそんなお魚咥えたくなる電話の出方するんだ?』

『い、いや、ごめん。ど、どどどどうしたの急に?』

『メッセージでは大丈夫って来てたけど、本当に大丈夫かなって確認』

『大丈夫だよ!!』

『あはは、元気すぎて怖いくらいだね。これは安心だ』

『う、うん。そのために電話かけてきてくれたんだ……』

『そうそう。入学式前に顔色良くなかったから心配したんだ。ちゃんと元気で、歩いて帰れたみたいで良かったよ』

 

 声を聞いて安心した。

 普通ここまでやらないけれど、入学してすぐに出来た初めての友達。この世界初めての友達なので無事を確認してホッとする。

 

『うん、帰れたけど、はっ!? 女子としたことが男子に心配されるなんて! 凪くんは、きょ、今日、家に居て無事!?』

『あはは、無事に決まってるじゃん。ちゃんと、ラウンド2から真っ直ぐ帰宅して何事もなく無事だよ』

『良かっ……ら、ラウンド2!? も、もしかして誰かと!?』

『うん、友達と。というか、あんまラウンド2に一人で行く人いないんじゃない?』

『うぅ…………』

 

 通話の声が聞こえなくなって尋ねる。

 

『もしもし?』

『へ? あ、ごめん。電波の調子が悪かったみたいで。で、でも、友達と遊んで尚、凪くんは私に電話をかけて来てくれたんだよね?』

 

 でも、の使い方がおかしいような気がしたが、気に留めずに答える。

 

『そうだけど?』

『だよね、ならまだ……じゃなくて、ええと、凪くん、えーと、また明日!』

『うん、また明日?」

 

 親が部屋に入って来たとか、何かあって別れを切り出したのかと思ったけど、電話が切れない。

 

『どうしたの? 切らないの?』

『え、あ、その……ごめん。勢いで言っちゃっただけで、まだ話していたくて』

 

 俺は笑った。

 高校デビューの話の時も思ったけど、千秋さんは素直なところが良い。

 

『いいよ、話そっか』

『え!? いいの!?』

『うん。俺も千秋さんと話したいし』

 

 千秋さんは超がつく可愛い女の子だ。喋りたくない男子は前世にいない。

 

『っ!? ……あ、ありがとう、それじゃあええと』

 

 それから俺たちは他愛のない話に興じた。

 一時間後には全て忘れてしまうようなくだらない話だ。

 しかし、三十分を越えた頃、千秋さんは俺にとって重大な話をした。

 

『林間合宿で、凪くんはその……誰かと踊るとか決まってる?』

『踊る? 何の話?』

『え? 男子もキャンプファイヤー囲んでフォークダンスをやるんだよ。で、男子は嫌な女子と踊らないで済むよう事前に選べるんだけど、知らない?』

『何それ? そんなのあるの?』

『うん。ダンス必修化のあおりを受けて、数年前に復活したんだよ。元々この高校の伝統だったみたいで』

 

 昼間、清水さんは『うん。でも小湊くん、三週間後にある林間学校のやつは強制参加だよ』と言ったことを思い出した。

 強制参加ってこれかぁ。

 ……って、まずくないか?

 いや、確実にまずい。

 友達とはしゃぎ、笑い合いながら踊る。

 そんな楽しいフォークダンスの思い出を、俺が指名したことによって奪いかねない。

 そうなったら俺の思い出も、死んだ目の女子と踊ったという悲惨なものとなってしまう。

 ま、まずい。

 三週間後のフォークダンスまでに、俺と踊っても楽しい思い出に出来るくらいの人間関係を築かなければならない。

 ふと帰り際の仲良い三人を思い出す。

 あれになれなければ、あれを奪ってしまう。

 ……避けないと、なんとか避けないと。

 でも誰なら男の俺と踊ってくれる? 

 三人とは仲良くなれるとは思うけど、たったの三週間であそこまでは難しい。

 怜も部活に励むだろうから、部内で切磋琢磨する仲間より仲良くなれる気がしない。

 千秋さんも別のクラス。きっとクラスメイトと踊れる方がいい。

 ……うん。明日からの目標が決まった。

 三週間後のフォークダンスまでに、俺と踊っても楽しい思い出に出来るくらいの人間関係を築く。

 それが俺の目標だ。

 なら今日よりもっと積極的に行かないと……と考えた時、ぐっと睡魔が来た。

 一杯考えたことで脳に疲れがきて、体の疲れもあいまって物凄い睡魔だ。

 

『凪くん?』

『ごめん、千秋さん。睡魔が来た……おやすみ』

『は、はうぅぅ……』

 

 千秋さんのくすぐったそうな声を最後に、俺は意識を手放した。

 

 

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