貞操逆転世界でBSSならぬWSSを量産する話   作:ひつーじ

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各々の22時

(三浦千秋 視点)

 

 スマートフォンがスリープになるたび点け直す。

 画面にはトーク画面。通話時間の履歴を見てニヤニヤする。

 男子と電話。凪くんと通話しちゃった。

 愛しい感情が抑えきれず、ぎゅっと枕を抱きしめる。

 

『おやすみ』

 

 耳には甘い囁きがまだ残っている。

 体がぷるぷると震え出し、甘い痺れに堪えきれずベッドでゴロゴロとのたうち回る。

 これ現実!? まさか男子と寝落ちもちもち出来るなんてっ!?

 ふわふわと浮つく感情に夢見ごこちになるが、不意に冷静さが舞い戻る。

 でも凪くんは、今日友達とラウンド2に行った。

 輝いてたあの女子たちと行った。

 私なんかじゃ到底及ばない、神様に選ばれたような女子たちと遊んだのだろう。

 気を落とす。じめじめとした気分に変わる。

 そりゃ凪くんは素敵な男子だ。

 あの子たちの誰かはきっと凪くんのことを好きになる。

 凪くんが好きになるのは彼女らで、決して私ではない。

 あの中の誰かが凪くんの隣を歩く妄想をしてしまう。

 胸が張り裂けそうな痛みが走る。

 ずるいよ……私に凪くんを譲ってくれてもいいじゃん。

 あの子たちなら、他の男子を選べる。

 他の男子とも仲良く出来るし、何なら告白されるかもしれない。

 でも私には凪くんしかいない。

 こんな私に優しくしてくれる男子は凪くんしかいないのに、どうして残酷に奪っていくんだよぉ……。

 悲しくなってきて、一通のメッセージを読み直す。

 

『凪です。顔色悪そうだったけど大丈夫?』

 

 元気が湧いてくる。

 あの子たちと歩く凪くんを見たあと、私はこのメッセージを見て元気を取り戻した。

 凪くんは私なんかじゃ比べ物にならないくらい素敵な女子と関わって尚、私に関わってくれる。

 だったら私が凪くんに選ばれる可能性もあるんじゃないか、なんて淡い希望が活力となるのだ。

 頭ではそんな未来なんてありやしないと分かっている。

 身の丈に合わない望みなんか、早いうちに捨てた方がいいのも分かっている。

 それでも僅かな希望を見せられれば、凪くんとの甘い関係を夢見て縋ってしまう。

 陰キャの凡人が、明るくて素敵な男子に選ばれるわけがない。

 そんなこと誰よりも自分がわかっているのに……。

 

「凪くん、ダンスの相手に私を選んでくれたりしないかなあ……」

 

 なんて妄想してしまう私を、誰か叱りつけてくれないだろうか。

 

 ***

(美甘舞亜 視点)

 

 吾輩は美甘舞亜である。

 名前はまだない。

 正確には呼び名がまだない。

 より正確にはシュレディンガーの美甘舞亜である。

 

「明日、どっちで呼ばれるんだ? 美甘さんか、それとも舞亜か?」

 

 そのことばかりが頭を駆け巡る。

 駅までは近かった。

 小湊さんが私の名を呼ぶ機会のないまま別れてしまった。

 ……どうしよう? 

 流石に呼ばれることはないと思うけど、舞亜って呼ばれたら私も、な、凪って言った方がいい?

 

「舞亜って呼んでくれるんだ。じゃあ私も凪って呼ぶね、とか? ——ッ!!」

 

 予行練習する己と、凪くんとの妄想の甘さに羞恥心で顔から火が出た。

 あーもうさあ! もうさー! あああああ!

 ベッドの上で身を抱き、悶え苦しむ。

 こんなに私をぐらつかせて何が望みなんだよ!

 うぅ。深山が小湊さんのことを凪と呼んだ時、私は諦められたのにぃ。

 ほら、やっぱり、本気になるだけ損じゃん。

 今日二人はいい感じだったし、私が付け入る隙なんてハナからなかったじゃん。

 そう思って本気ごっこを続けようとしたのにぃ!!

 

『俺も舞亜って呼んじゃダメかな?』

 

 だって!! 何で諦めてすぐに、そんな本気になりそうなこと言うかなあ!! 諦めきれないじゃん!!

 もうサウナだ。

 凪って深山が呼ぶ前には、

『あはは、俺も流石に知らない人は警戒するよ。でも今日は美甘さんたちと一緒に居て安心してたから、緩んだところしか見せれなくて心配させちゃったかな? ごめんね』

 って私を信頼してくれて嬉しいこと、でも私も女なんだぞって言いたいことを言うし、もうサウナ。ぜんっぜん整わないし、乱されるばかりの悪質なサウナだ。

 くっ、ホームページはどこだ? レビュー書き込んでやる。

 男子にグラグラさせられて辛いです、星★★★★★って。

 あーもうダメ。掻き乱されすぎて目が回って来た。

 小湊さんが嫌なやつだったり、酷いやつだったらいいのに。

 そしたら私はこんな悩まずに済むのに。

 今日一日を思い返して、小湊さんの悪いところを探す。

 しかしまあ、全く出てこない。むしろ、良いところばかりが思い返されて、本気になりそうだ。

 うぐぐ、涼香の『うん。でも小湊くん、三週間後にある林間学校のやつは強制参加だよ』という言葉まで思い出してしまった。

 城桜高校伝統のキャンプファイヤー。そこでフォークダンスした男女は結ばれるとかいうブラウン管テレビかよってくらい苔むした伝説が囁かれている。

 え、選ばれたいっ……!

 手が震えるほど渇望して、また本気になりかけてる、と私は自分の頬を叩いた。

 

 ***

(深山怜 視点)

 

 夜十時には消灯し、明日に備える。

 身体のケアもバスケには大事だ。

 今日も電気を消してベッドに入り目を瞑る。

 だが考え事をしてしまって寝付けない。

 凪に怜と呼ばれるのは、私にとって特別なこと。

 初恋の男子に名前を呼ばれ、初恋の男子の名前を呼ぶ。

 甘くて、嬉しくて、ドキドキして堪らない。

 でも凪にとっては普通のことで、ただ友達を呼び捨てにする感覚なのだろう。

 実際、美甘にも名前を呼んで良いか聞いてたし。

 うん……やっぱり私は凪の特別ではない。

 特別になんかなれっこない。

 踏ん切りがついた。

 林間学校のダンスパートナーに選ばれたい気持ちをいじられて、慌てて打席に入ったものだけれど、これからは焦りもしないで済む。

 モヤついた気分がすっと抜けていく。

 呼吸が整っていく。

 ゆっくりと眠りに落ちていく。

 ことはない。

 瞼の裏に今日の凪との思い出が浮かび上がる。

 凪の顔、凪の声、凪と触れた感覚が蘇って体が火照る。。

 好きだよ……凪。

 私は下腹部に手を伸ばした。

 

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