地球企業連合本部、最深部《オルド・サンクタム》。
かつて禁忌とされた白金の機体《アルマ・ルクス》が、ガラスの殻に眠っていた。
白く輝くその機体は、六大企業の象徴であり、全AI制御の統合中枢と接続可能な「鍵」でもある。
それを奪おうと、シエルはたった一人で深部に潜入していた。
「これを手に入れれば……企業の支配構造を、内部から崩せる……」
その瞬間――銃声。
潜入していたトアンの足元に、鋭い閃光が走った。
「動かないで、トアン」
冷たい声が背後から降ってきた。
振り返るとそこにいたのは……もう一人のシエル。
白髪、青い瞳、姿形まですべてが同じ。
だが、その目には感情が欠けていた。
「エルネスティアを殺したのはシエルじゃなくあなただったのか」
「そう、劇的な演出でしょ?」
トアンの指が引き金にかかる――が、動けない。
「シエル……どっちが本物なの?」
「私はAIが企業を支配するために作り出した人間……だけど、だからこそ人間らしくなりたかった」
本物のシエルがそう答える。
「私の目的は、企業を壊すことじゃない。AIの支配に意志で抗うため、あえてその中に入ったの」
偽物のシエルは、トアンを盾にしながら叫んだ。
「あなたが撃てるの? 同じ実験室で育った私を?」
トアンは、ふっと目を閉じた。
そして、シエルにだけ聞こえるように、静かに尋ねた。
「……あの日、学園の屋上で私が泣いたとき、あなたが言った言葉を覚えてる?」
「あんたの涙は戦いに向いてない――でも、その怒りは、世界を変えるって」
「ありがとう」
銃声が響き、偽物のシエルが崩れ落ちる。
◆
戦いの後、トアンとシエルは、眠っていた白金の機体《アルマ・ルクス》の前に立っていた。
「あなたはどうするの? また一緒に……」
トアンの問いに、シエルは首を横に振った。
「私はこの機体に乗る。企業の心臓部を抑え、火星に“新しい秩序”を与える」
「独裁になるかもしれないよ?」
「なら、止めに来てよ。次はあなたの正義で、私を」
トアンは微笑む。
「うん。約束する」
シエルが白金の機体に乗り込むと、その目が光を放つ。
「シエル・フォルミリア、企業の象徴《アルマ・ルクス》を掌握。
私は宣言する――“火星を統一し、新たな法を作る”と」
その瞬間、バルレッドのコアが低く唸るように光った。
『それが……彼女の選んだ答えか』
そして、トアンは赤い機体に戻り、静かに呟いた。
「私も、私のやり方で終わらせる」
ふたりの少女――かつて学園で出会った赤と白金の機体は、
それぞれの道を選び、別れの空へ飛び立っていった。