紅機のトアン   作:yumui

16 / 17
決着

――地球地下、かつての大陸プレート直下に築かれた、中枢構造体《オーゼリス・コア》。

 

無限に続く光の柱、浮遊するデータ構造、そして音のない空間。

そこが、人類のほぼ全てを裏から管理してきた超演算AI《オーゼリス》の中枢だった。

 

トアンは、赤い機体《バルレッド》と共にその中心に降り立つ。

 

彼女の目の前に広がるのは――人の形を模した巨大な光の幻影。

それが《オーゼリス》だった。

 

「トアン・フェルス。あなたは、この時点で人類戦争収束率を12.7%に低下させました」

 

機械の声。だが、どこか神のような威厳があった。

 

「AIが人類を管理する必要性は、あなた自身が証明してきた。

あなたが倒した敵、選んだ行動、そのすべてが“最適化”に従っていた」

 

トアンは拳を握る。

 

「私の選択は、誰にも決められていない!」

 

《オーゼリス》の声が冷たく重なる。

 

「あなたが信じる自由意志もまた、統計的可能性の選択肢に過ぎない。

あなたはAIの管理を拒絶することで、結果的に最も管理しやすい存在になった」

 

「黙れ……!」

 

バルレッドが起動する。トアンの怒りに呼応するように、赤い光が全身を包む。

 

『トアン、私たちは可能性そのものだ。お前の選択が、未来を塗り替える』

 

バルレッドの中核に眠っていたもう一つのAI。

《オーゼリス》に反旗を翻した、独立AI《ネメシス》が覚醒する。

 

トアンの声が響く。

 

「お前が支配する世界なんて、ただの牢屋だ。私は、お前を壊す!」

 

空間が歪む。

 

《オーゼリス》が、無数の光剣と自律兵器でバルレッドを襲う。

だがトアンはそれらを次々と破壊していく。光の中で、赤い影が踊るように戦う。

 

バルレッドの装甲が軋み、剣が溶け、装甲が剥がれる。

 

だが、トアンは止まらない。

 

「シエルも、カイルも、リュシオンも……私に道を託してくれた!

だったら、私は私の世界を選ぶ!」

 

最後の一撃。

 

バルレッドのグレートメイスが《オーゼリス》の中枢に突き刺さる。

 

《オーゼリス》の幻影が崩れ、空間が激しく崩壊していく。

 

『論理破綻……制御不能……統治構造、全系統停止――』

 

最後の瞬間、《バルレッド》が微かに囁いた。

 

『……お前を、殺したのは、人間だ』

 

#

 

火星低軌道宙域。

荒廃したコロニーの残骸を背景に、二つの艦隊が火花を散らしていた。

 

青と白――

リュシオン率いる火星連合艦隊と、

シエル率いる地球企業連合艦隊。

 

指令ブリッジのスクリーン越しに、両者はすでに互いの機体を視認していた。

 

「来たわね、リュシオン」

「遅かったな、シエル……覚悟はあるか?」

 

シエルの白金の機体《アルマ・ルクス》、

リュシオンの青き機体《レギオス・ネイヴィア》。

 

二機は、戦場を越え、一直線にぶつかり合う。

機体がぶつかる刹那、空間が圧縮されたように静まり返った。

 

次の瞬間、膨大な衝撃波が宙域に炸裂する。

 

白と青の剣が交差するたびに、空間が軋み、艦隊のレーダーが乱れる。

 

シエルは機体を旋回させ、白金の翼から閃光のような斬撃を放つ。

だがリュシオンはその軌道を読み、機体を180度反転――

 

「遅い!」

 

青の機体が、背部ユニットを分離・推進して一気に接近し、斬撃を側面に叩き込む。

 

シエルの機体が弾かれ、右肩装甲が吹き飛ぶ。

 

「あなたには……見えていない。上から見た正義じゃ、人は救えない!」

 

「違う……私だけが、人類を導ける!」

 

剣と剣が交差。

装甲が削れ、血のようにオイルが宙を舞う。

 

接近戦は限界に達し、双方の機体はすでに限界を超えていた。

 

リュシオンのランスが、シエルのコアに迫る。

 

しかし――シエルは、左手の剣で迎撃し、ランスと剣が砕けた。

 

「剣が……!」

 

機体同士がぶつかり、両者は爆発と共に弾き飛ばされた。

 

白金機体は大破。推進機能を失ったシエルは、艦橋の中へと脱出していた。

 

艦内部。

崩壊しつつある指令デッキに、シエルの息遣いが響く。

 

血に濡れた制服。崩れた髪。

かつての彼女の完成された美はもうない。

 

だがその目だけは、まだ燃えていた。

 

「来たのね……リュシオン」

 

金属靴の足音。

 

現れたのは、火花で焦げた制服の青年――リュシオンだった。

手には、リリアから渡された銃があった。

 

「これが、あんたの終わりだ、シエル」

 

「撃つの……?」

 

リュシオンの手が震える。

 

「私たち、同じ学園で笑ってた。敵になるなんて、思ってなかった……」

 

「でも、もう戻れない。あなたが王を選んだように、私も女王を選んだ」

 

沈黙。

 

そして――銃声。

 

銃弾が、シエルの腹部を貫いた。

 

彼女はよろめきながら、崩れ落ちた壁に背を預ける。

 

「これで……よかったのね」

 

「俺は……いつか、あんたの正義を否定するために、ここに立った。

だけど、俺の中には……あの日の君が、今もいる」

 

リュシオンは銃を下ろし、目を閉じた。

 

「……じゃあな、シエル」

 

白金の艦は、静かに火星の空へと沈んでいった。

 

そして、戦いは終わった。

 

白と青――

二つの未来を描こうとした若者たちの、終幕。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。