紅機のトアン   作:yumui

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日常

放課後の時間、学園中央棟の一角にある小さなコンビニ。

 

 自動ドアの電子音と、照明のやわらかな光。それらが交差するこの空間は、フレームの咆哮も、企業の野望も届かない――静かな避難所のようだった。

 

 「らっしゃっせー」

 

 やや棒読み気味ながらも、トアン・ユースベルは制服の上にエプロンを羽織り、今日もレジに立っていた。

 

 

 シエルにいつまでも養われるのも気が引けて始めた学園のコンビニでのバイト。

 最初は人と関わるのが気まずかったが、今では顔なじみの客も増えてきた。

 

「よっ、新人。おにぎりコーナーは今日も俺の領土だぜ!」

 

 真っ先に駆け込んできたのはカイル。火星政府高官の息子にして、陽気な腹黒。

 

 「おにぎりより、君の笑顔の方が元気出るよな。ま、無料ならだけど」

 

 「笑顔、課金制だよ?」

 

 「えっぐ!」

 

 「ほんと、お前は軽薄なんだよ」

 

 続いて現れたのはリュシオン。傲慢で明るく、戦闘訓練でも有名な金髪の少年。

 

 「俺の顔見たら、ポイント2倍にしてもいいと思うけど?」

 

 「変なポイントカード作るな」

 

そして最後にふらりと現れたのが、銀髪の少女・エルネスティア。

 

 静かにパンを一つ持ってレジに置く。

 

 「……糖分は、必要だから」

 

 「今日はチョコパンか。珍しいね」

 

 「疲れたの。人付き合いに」

 

 

 

 トアンは笑いながら、三人分の会計をこなした。

 

 この日常のやりとりが、今は心地よかった。

 

#

 

その日の夕方、客足が引いた店内。

 

 雑誌棚の前に、小柄な少女が立っていた。

 ふわりと揺れる金髪、制服の袖を握るように縮こまり、目だけが詩集の背表紙を追っていた。

 

 「……リリアちゃん?」

 

 声をかけると、少女はぴくりと肩を震わせた。

 

 「ご、ごめんなさい……あの、また立ち読み……いえ、買う予定も……あの……」

 

 「ううん、怒ってないよ」

 

 トアンは微笑み、詩集の1冊をそっと取り、レジに置いた。

 

 「今日のおすすめ。タイトル、きれいだよ。“やさしい夜のうた”」

 

 「……やさしい、夜……」

 

 リリア・ノウエル。戦略科に所属しているが、授業ではほとんど喋らないという。

 

 

 だがその目には、詩の行間を読み解く繊細さがあった。

 

 「……じゃあ、買います……あの……ありがとう」

 

 小さな声にこめられた勇気が、トアンの胸をあたためた。

 

次の日のバイトでは、目立つ体格の女子生徒がレジに現れた。

 

 制服のボタンがきつそうな、ぽっちゃりとした体型。明るい茶髪。だが顔立ちはアイドル級で、瞳はきらきらしていた。

 

 「チョコクロワッサン10個、あと明太おにぎり5個~! 夕飯と夜食と朝食兼用!」

 

 「多っ!? お腹壊すよ」

 

 「代謝で燃やすから大丈夫です〜」

 

 にこにこと笑う彼女の名はモカ・ルシェ。戦闘技術科の生徒で、食とおしゃれに命をかける豪快女子だ。

 

 「ねぇトアンちゃん、今度一緒にスイーツバイキング行こ? “可愛い子は糖分を摂っていい”って法則あるし」

 

 「私は可愛い……のかな?」

 

 「ねぇトアンちゃん、今度一緒にスイーツバイキング行こ? “可愛い子は糖分を摂っていい”って法則あるし」

 

 「私は可愛い……のかな?」

 

 「顔面偏差値高めだよ! あと性格イケメン」

 

 その言葉に、少し照れるトアンだった。

 

ある日、バックヤードの品出し中、誰かが棚の在庫を勝手に整理していた。

 

 「これ、在庫回転率に合わせて並べ替えてみた。無断で悪い」

 

 振り返ると、無表情な白髪の少年がいた。

 

 「……誰?」

 

 「ユリウス・フェルマー。理論分析科」

 

 彼は棚を指差し、言葉を続ける。

 

 「客の購買動線を最短化すれば、購買率が上がる。こう配置すれば売上5%は伸びるはず」

 

 「売上分析……ここ、学園のコンビニだよ?」

 

 「でも、数字は正直だから」

 

 

トアンは呆れつつも、その真剣な目は嫌いじゃなかった。

 

 「じゃあ、次はおすすめお菓子ランキングも頼んでいい?」

 

 「任された」

 

 こうして気づけば、リリア、モカ、ユリウスもトアンの放課後に加わっていた。

 

 ある日、三人といつもの三人、合わせて六人が偶然同じ時間に集まった。

 

 リリアは緊張し、モカは一人で喋り続け、ユリウスは棚を見て商品の消費速度を予測していた。

 そんな彼らを見て、リュシオンが言った。

 

 「おいトアン、君の人間関係、カオス過ぎない?」

 

 「仲間にパターン化なんて、要らないでしょ?」

 

 「ふふ……そうね」

 

 エルネスティアが微笑み、カイルは飴を口に入れながら肩をすくめた。

 

店内には笑い声が響く。

 戦場では交わらないはずの命が、レジカウンターの前では繋がっていた。

 

 

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