燃え上がる火星の空の下。
リュシオンの機体レグナストは、たった一機で立っていた。
その前に現れたのは、漆黒と深紅の装甲を纏った巨躯のフレーム。
その操縦席には、アリウスの首魁にして、かつての“英雄”が座っていた。
「……貴様が、最後の障壁か」
機体越しでも伝わる重圧。
相手の名は、カデル・ラオス。
火星大戦時、幾つもの戦場を救い、「英雄」と謳われた存在。
「あなたのような人が、なぜテロ組織の頂点に……!」
リュシオンの叫びに、カデルは静かに言った。
「正義とは、いつも勝者が選ぶものだ。
私は勝者の正義に疲れた。だから滅びゆく側に賭けたのだよ」
会話の終わりと同時に、激戦が始まった。
大斧とランスが、虚空で火花を散らす。
リュシオンは、今までのどんな演習よりも集中していた。
だが、敵の動きは重厚でありながら無駄がなく、幾度となくコアを狙ってくる。
大斧を回避した次の瞬間、蹴りがレグナストの腹を突く。
「くっ……!」
迫りくる大斧が殺意を込めてレグナストに振り下ろされる。
ランスが火花を散らし、大斧は軌道を逸らす。
だが切り返しは相手のほうが早かった。
レグナストは左腕を斬り落とされ、脚部の動力も失った。
「少年、お前はまだためらいを持っている。
その一瞬が、命取りとなる」
レグナストが膝をつく。
その時――
≪リュシオン! あきらめないで!!≫
――トアンの声。
遠く離れた戦場から、仲間の鼓動が届いた。
「……俺は、トアンに恥ずかしいところを見せたくないんだ!」
レグナスト・アークの瞳が輝く。
残された片腕に、すべての出力を集中させ、ランスを構える。
「……そうだ、それでこそだ」
カデルの機体が迎撃体勢を取る――だが、そのわずかな隙に、リュシオンは叫ぶ。
「お前の正義が終わってるなら、今度は俺たちの番だ!!」
真っ直ぐに、風のように、光のように。
レグナストの槍が、漆黒の装甲を貫いた。
機体が崩れ、カデルはゆっくりと操縦席から現れた。
「……見事だ。あの頃の私を、思い出したよ」
「どうして……あんな戦いを……?」
「弟子たちを守りたかった。ただ、それだけだったのかもしれんな」
そう呟いたカデルは、空を見上げた。
「だが、未来は若者のものだ。――どうか、選べ。そして……守れ」
そして彼は、静かに目を閉じた。
リュシオンは、言葉を失ったまま、銃を構えた。
銃声と人の倒れる音。
リュシオンは彼に敬礼していた。
その夜、星がひとつ、火星の空に消えた。
だがその分だけ、残された者の瞳には、確かな光が灯っていた。